上 下
127 / 377
第六部:救済か破滅か

その148 酷似

しおりを挟む
 

 フードを被った女の子に案内された先は、本当に町外れと呼ぶにふさわしい場所で、町を囲っている外壁ギリギリの場所にひっそりと建っている家だった。

 「こんな端っこにも家があるのねー」

 「……そっちの人はこの国に来た事があるの?」

 アイディールの言葉を聞いて女の子が振り返って尋ねる。うんうんとアイディールとカルエラートが頷いていた。

 「ディクラインの装備を求めてあちこちに行っていた時にここにも寄ったわ。ただ、観光目的じゃないからゆっくり見て回ってないのよね(転移陣が設置されているのもそのせいだし)」

 「そう。昔のほうがこの国は良かったらしいけど」

 最後は小声でレイドにしか聞こえなかったが、女の子は少し満足そうに再び歩き出した。

 「ここよ。ただいま。お客さんを連れてきたわ」

 <邪魔するぞ>

 チェイシャが女の子に続いて家へ入り、アイディール、カルエラートと続き、レイドが一番最後に入った。

 フードを取った女の子がレイド達を座らせた後に奥の部屋へ行き、話を知っているという祖父を呼んできた。眼光の鋭いその祖父は、チェイシャを見て少し驚いた様子があったが、すぐに平静を取り戻していた。

 「……お前さんが、100年前の出来事を知りたいという変わったお嬢さんかい?」

 <うむ。100年前、王女が水を独り占めしていたのを冒険者が解放した、という話は知っておるのじゃが、その後どうなったか知らぬのでな。知っておれば……>

 チェイシャが言い終わらない内に爺さんが激怒して語り始めた。
 
 「解放したじゃと? 違う! あれは乗っ取りじゃ!」

 <ふむ、では当時の事を教えてくれるかのう>

 激怒してテーブルを叩く祖父に対し、チェイシャは顔の布を外し、涼しい顔をして続きを頼むと微笑む。その笑顔に毒気を抜かれ、ため息をついて乱暴に腰掛けて話し始める。

 「わしも父から聞いた話だから本当かどうかは分からん。が、冒険者が王女を殺したのは事実だ。時の王女は干ばつや侵略に備えて水を蓄えていたんだ。そして100年ほど前に大干ばつがこの国を襲った」

 「備えていた水が持たなかったのか?」

 レイドが腕組をしながら祖父に質問を投げかける。一瞬、チェイシャを見て話を続けた。

 「水はまだ残っていたが、配られる水は最低限だったそうだ。王女はいつか必ず雨は降るから、今は我慢して欲しいと懇願していたが……もうみんな限界だったんだろう、よその国の冒険者が扇動し、王族を糾弾すると城をせめた」

 <そこまでは知っておる。言い争いの後に王女は冒険者に殺されたのじゃろう? 冒険者は英雄になりそうなものじゃが……>

 「……王女が殺された後、豪雨が降り出してな。当時の民は王女の言うとおりだった、大変な事をしてしまったと騒いでいたが、殺した張本人の冒険者が王女を殺した直後に雨が降り出したからこいつは悪魔だと言い出した。それに反論した民もいたんだが、その冒険者に殺されたのじゃ。恐怖で誰も逆らえなくなり冒険者の男……ダラードは仲間と共にこの国の王座についた」

 <(国を乗っ取ったか……まあ、大体予想通りじゃな)>

 「その後はどうなったのだ? まさかそのまま言いなりに?」

 カルエラートが怒りを露にしながら祖父に向かって聞く。どうやら王女が理不尽に殺されたのが気に入らないようだ。

 「もちろん何とかしようとしたさ。だが、ダラードは腕の立つ冒険者で、さらにこの国の冒険者も味方につけておった。結局覆す事はできず、今に至る」

 <と言う事は、ヤツの息子か孫が城におるのか? 警戒心が強いというのも気になるが知っておるか?>

 「……よ、よく知ってるのう? うむ、わしと同じくらいの歳の息子が今の王じゃ。警戒しているのは当然じゃろう。国を乗っ取っておるから、いつ誰に復讐されるかわからんし、当時、王女の側近にシャールという男が居ての。その男が王女が殺された時にどこにも見当たらなかったとか。その男がいつか復讐に来ると、ダラードはいつも怯えて暮らしていたと聞いたことがある」

 「(シャールって人知ってる?)」

 アイディールがチェイシャに耳打ちをすると、小声で返事をした。

 <(うむ、あやつは忠実な部下じゃった。わらわは殺されると悟っておったから、あやつは直前で逃がしたのじゃ)>

 「(そ、ありがと)」

 カマをかけたら見事にひっかかったとアイディールはほくそ笑む。やはりこの国の王女だったかと、次に別の思考をめぐらせ始めた。

 「結局、そのシャールって人は帰ってこなかったのだな」

 「……うむ、父は待ち望んで追ったようじゃが、もしかしたらどこかで見つかって殺されたのかもしれんし、逃げてしまったのかもしれん。行方は分からずじまいじゃ」

 <無事を確認できぬのも辛いのう……>

 「話はこれくらいじゃ。役に立てたか?」

 チェイシャが悲しそうな顔で目を伏せると、祖父が気を使って声をかけてくれた。チェイシャはニコリと微笑んで、ありがとうと一言だけ言った。

 すると女の子が祖父の肩を叩いて眉をひそめる。
 
 「……おじい、囲まれてる」

 「なんじゃと……?」

 すると、レイドとアイディール、カルエラートが立ち上がり、レイドが呟く。

 「ここからは俺達の出番かな? じいさんと君は連中が何者か知っているか?」

 「……わたしはミト。おじいはモルトっていう。外の連中は知らない」

 レイドはそれを聞いた剣を抜いて入り口に立つ。

 「果実屋のおばさんが言ってた誘拐犯かしらね?」

 「どうかな、ギルドからついてきていたしな。俺が先に出る、俺が囲まれたら後ろから迎撃してくれ」

 「分かった。気をつけろよ」

 カルエラートも槍と大盾を背中から降ろし、備える。コクリと頷いたレイドはそのまま扉を蹴り開けて外に躍り出た。

 「そこだ!」

 「うお!? ぶえ!?」

 扉の横に張り付いていた男の顔を裏拳で殴り昏倒させる。ガントレット付きの裏拳の効果は絶大だった。そのまま少し走ると、家の影に隠れていた男達が数人、レイドを囲んできた。

 「気づいていたか。やはり腕は立ちそうだな?」

 褐色の肌をして頭に布を巻いた男がレイドへ声をかける。どうやらこの男がリーダー格のようだ。

 「腕が立つかは知らんが、そんなに気配を出していたら気づかないはずが無いだろ?」

 レイドが睨みつけると、リーダー格の男は手を上げてレイドと取り巻きに告げる。

 「……なるほど、そんなに気配を出しているつもりは無かったんだがな。まあいい……おい、帰るぞ」

 「良いのですか?」

 「逃げるのか? 潔いな」

 「俺は敵対するつもりはない。後をつけたのは悪かった、家の横に居るやつは回収させてもらうぞ?」

 警戒を解かず、レイドは家の入り口まで下がり道を開ける。取り巻きの若い男が気絶した男を背負い、リーダー格の男の下へ戻った。

 「邪魔したな。連れの女だが、注意するんだな」

 ぞろぞろと去っていく男達の背中を見送り、見えなくなった所で剣をおさめた。目的が不明だが、チェイシャに気をつけろと言っているのだろうか?

 再び家に入るとアイディール達が緊張した面持ちで喋り始めた。


 「何だったのかしら」

 「聞いていたか?」

 <うむ。連れの女に、という辺りは聞いておった。ミト、心当たりはあるか?>

 「ない。というかそっちの男の連れならあなた達の事だと思うけど」

 <おお、そうか>

 ポンと手を打つチェイシャに不安を覚える三人。そしてチェイシャが話を切り上げ始めていた。

 <モルトとやら、世話になったな。おかげで気になっていた事が分かって良かった。雨は降ったが血の雨が降らなかったのが良かった……>

 町が残っていたので滅亡はしていなかったのは分かっていたが、乗っ取られてこの国の人間が奴隷にされたり、虐げられているのではとチェイシャは思っていた。また、自分が死んだ後、シャールや他のものが敵討ちだと戦争をしていなかったのも僥倖だった。

 <(死人に引っ張られて道を違えてはならんからの)では、わらわ達はこれで失礼する。レイド、ダンジョンへは明日から向かうか?>

 「あ、ああ。そうだな。今日はまだ日が高いし、買い物をしておこう。到着まで日数を要するみたいだからな」

 「そうね。おじいさん、貴重なお話ありがとう!」

 「では失礼する」

 四人はそれぞれ礼を言い外に出て行った。




 ---------------------------------------------------



 残されたモルトとミトは四人を見送った後、息を吐く。

 「おじい……」

 「ふう……緊張したわい……父がシャールだとバレておらんじゃろうな……」

 そう言って懐から一枚の紙を取り出し、ミトと話す。

 「親父の持っていた肖像画そのままだった。こんな事があると思うか?」

 「わからない。でも、ギルドであの人を見た時、絵でしか見たことない王女が、絵から出てきたのかと思った。これはおじいに会わせないとと思ったの」

 「……運命、なのかのう……我が父シャールが仕えていた王女と瓜二つの女がこの家に来るとは……」


 「あの人達はダンジョンに行くと言っていた。どうしよう、あそこはすごく危険」

 「こっそり後をつけてくれるか? お前の腕ならついていけるだろう?」

 「分かった。あの人が王女様ならこの国をまた治めてくれるかな?」

 「この国を、あの者達から取り返してくれるじゃろうか……未練があればあるいは……親父の悲願を……」

 家に来た女が100年前の王女な訳がない。そもそもその時死んでいるのを多くのものが見ていたと聞いている。だが、頭ではそう思っていても、先程の女はあまりにも似すぎている。しかし、正体を調べようとすれば煙のように消えてしまうかも知れない……モルトの心は少しばかり興奮していたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者の転生実験

東国不動
ファンタジー
※書籍の第二巻が書店で好評発売中です! 是非お読みください。  不遇の高校生桐生レオはある日、謎の声に導かれて異世界に転生する。彼を転生させたのは、異界の知識で新たな魔法を生み出さんとする大賢者。  大賢者の息子として剣と魔法の世界に転生したレオは、父の魔法を教わる代わりに自分の持つ現代科学の知識を提供することに承諾する。ツンデレ妹に元王女の母、さらには猫型獣人の少女らに囲まれて幸せな第二の人生を満喫するレオ。一方、大賢者はレオから得た現代兵器の知識によって密かに全く新たな魔法群を開発していた。強大な力を求める大賢者の真意は一体?   先制発見、先制攻撃、先制撃破―現代兵器の戦術理論を応用した反撃不能の「兵器魔法(ウェポン・マジック)」が起動する時、少年の運命が動き出す!

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

森蘭丸の弟、異世界に渡る<本能寺から異世界へ。文化も人体も違うところで色々巻き込まれ、恋も知る?>

天知 カナイ
BL
【三章完結しました】本能寺の夜、信長と兄乱法師(森蘭丸はこちらの名を使っています)の痴態を見てしまう、森力丸長氏。美しい兄の乱れた姿に驚きながらも、情愛がのる閨事とはどういうものか、考えながら眠りにつく。だがその後本能寺の変が起こり、力丸(リキ)も戦うのだがその途中で異世界に飛ばされる。 【三章開始時点でこちらの内容を変更しました】 飛ばされた先でアヤラセという若者に出会い愛し合うようになるが、リキが性交(セックス)することによってどんどん色々な事が変化することになり戸惑いを感じてしまう。 アヤラセに執着する兄ライセン、アヤラセの親であるランムイとヤルルア、そして異様な過程で生まれた新生物ユウビなど、様々な人々と関わり時に運命に翻弄されながら、飛ばされた世界で必死に生きていく。 セックスありきで話が展開する部分がありますので、今見てみると結構エロ展開があります(三章1話現在)。独自設定があります。この世界の人たちは雌雄同体です。全員陰茎ありですし主人公は男なのでBLにしています。また、女の人同志的に読める展開もありますし、進行上残酷、凌辱シーンもあります。 最終的にはハッピーエンドになる予定です!

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?! 

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。