上 下
119 / 377
第六部:救済か破滅か

その140 出現

しおりを挟む
 

 ユリを追ってベルダー達は通行人に話を聞きながら移動していると、やがて東の門へとやってきた。そこに立っていた門番が師範へ話しかけていた。

 「あ、サイゾウ殿! ユリが凄い勢いで外に行ったが何かあったのですか?」

 「少しな。ユリはどっちへ?」

 「このまま真っ直ぐ駆けていきましたが……」

 すると、ベルダーが門番が指差した方を見て、礼を言った。

 「……感謝する、行きましょう師範。フレーレにセイラ、すまんが俺達は先に行く。後から追いついてきてくれ。それとバステトを借りるぞ」

 <にゃんだふる!>

 ベルダーがバステトを脇に抱えて道案内をさせるようだ。緊張で凛々しい顔つきになったバステトが妙にマッチしていた。
 そして一気に駆け出し、ベルダー達の姿はどんどん小さくなっていった。

 「あ! 追いつけってどうやって探すんですかーー!」

 フレーレが叫ぶと、横に居たカイムが種明かしをしてくれる。

 「この米……食べ物なんですけど、これに色を塗っているんです。ニンジャはこの米を撒いて道しるべにしています」
 
 セイラがカイムの手の平にある米を見たあと、しゃがみこんで地面を確認する。確かにピンク色の粒が点々と続いているようだった。

 「急がないと、怪我を治せるのは私達だけだからね。……着いたら終わっている、とかあるかしら?」

 「そこまで楽観はできませんよ、行きましょう!」

 「こちらへ!」

 カイムを先頭に、フレーレ達も走り始める。ルーナの補助魔法があれば……と、フレーレは思っていた。
 しかし今はいない。できる事をやるべきだと頭を振って走っていた。




 ---------------------------------------------------




 出発して15分。東の門から飛び出したベルダーとサイゾウはバステトの導きで目的地へと近づいていた。しかし、ユリ・アネモネの姿を捉えることは出来なかった。

 <その木の所を左に曲がるにゃ! で、そのまま真っ直ぐにゃ!>

 「……よし」

 しばらく林の中を走ると、開けた場所に出た。目の前には崖があり、よく見るとぽっかり穴が開いているのが見えた。

 「どうやらアレのようじゃな?」
 
 <そうにゃ、アネモネの匂いはここで途切れているけど間違いないにゃ。ここまで近づいてやっと分かったけど、女神の封印の気配もあるにゃ>

 「……? いつもと違う、とでも言いたいのか?」

 <うーん……なんと言っていいかにゃ……私達は近くにいるとお互いの存在を感じ取れるようになっているにゃ。たとえ分身でもにゃ? けど、今のアネモネはかろうじて『匂い』が『そう』であるだけで、まるで感じ取れないのにゃ>

 バステトが小脇に抱えられたまま腕を組んでうーんと唸る。チェイシャがジャンナの気配を感じ取れた事と同じ事が全員できるはずだが、それが出来なかったとバステトは言う。

 「今はそれを討論している暇は無い、入るぞ……」

 <そうだにゃ……(私は私で警戒しておいた方がいいかもしれないにゃ? これは異常だにゃ……)>


 洞窟の中の通路には一定の間隔で蝋燭が立っており、火もついていたため前が見えないということは無かった。ただ、それが逆に不気味さを浮き立たせているようにも見える。

 「ふむ、しめ縄か……ここは特別な場所のようじゃな」

 <主がこの国に合わせて封印したからだと思うにゃ。私は良く知らないけど、私を封印した場所は聖域みたいな場所になっていたにゃ>

 「……エクソリアが何を考えていたかは分からんが……」

 「気になるのはオデの町からそれほど離れておらんのに誰も気づかなんだことじゃな」

 バステトはそれに結界で見えないようにしていたハズだと答え、バステトを先頭に先へ進んだ。



 言葉少なめに、殆ど直線の洞窟を慎重に進む。

 やがて、明るく広い、天井の高い部屋へたどり着いた。そこには蒼希の国の神社や寺にある”鳥居”が建てられていて、その奥には祭壇らしきものも見えた。


 「到着、か?」

 <その通り。女神の守護獣が居るなら追いつけるわね」

 鳥居の上で座り、頬杖をついたユリがニヤニヤと笑いながらベルダーたちを見下ろしていた。ユリとアネモネらしき声が混ざったような感じに聞こえている。

 <……お前は誰にゃ? アネモネは人を操るなんて真似はしないハズにゃ>

 バステトが質問をすると、ユリの口から白い蛇が顔を覗かせバステトをじっと見ながら喋り出す。

 <アタシはアネモネさ。100年も封印されていたら性格も変わるってもんだろう? そういうことだよ」

 「お前が誰であろうと俺には関係ない。ユリの体を返してもらおう」

 チャキ、と神殺しの短剣クリムゾン・サクリファイスを構えながらユリを見るベルダー。
 蛇の頭が喉の奥に引っ込みユリの声で喋り出した。

 <残念だけど、この娘の意識はもう消えるよ。このまま本体の器として使わせてもらうから安心するといい」

 ユリ・アネモネが鳥居の上に立ち肩を竦めてそんな事を言う。ベルダーは鳥居を駆け上がりながら叫ぶ!

 「ならばその前にお前を引きずり出すまで!」

 <子供くらいなら作らせてやるよ! アタシの子供だけどね!」

 ブン!

 ベルダーのダガーをバックステップで回避し、そのまま鳥居から落ちる。
 それを見た師範が着地狙いをするため走り、ユリに斬りかかる!

 <父上……! あたいを斬るのですか!?」

 「む!? ……ぐお!」

 一瞬躊躇った師範の動きを見逃さず、ユリは師範を蹴り、奥にある祭壇へと向かう。

 <はは! 甘いねぇ!」

 <いけないにゃ! 本体が出てくる!>

 「チィ!」

 鳥居から飛び降りながらユリに手裏剣を投げるが、大蛇の体に阻まれ落ちてしまった。

 そして、祭壇がせり上がり、その姿を現した!


 「!? 何と!」

 <え!? なんにゃ!?>

 ベルダーとバステトがその姿を見て驚きの声をあげる。そして師範が冷や汗を流しながら呟く。

 「これは……こいつはもしや、オロチ……」

 「師範、知っているのか?」

 「昔の話じゃよ、悪しき蛇の魔物がこの国を暴れまわっていた、という御伽噺がある。ただ、白い大蛇ではなかったと思うがの」

 いつしか倒され、この国の地面の土台となった。それがオロチだと、師範は言う。しかし、バステトは違う事で驚いていた。

 <(アネモネは確かに蛇の守護獣にゃ、白い大蛇……でも、頭は八つも無かったのにゃ!)>

 

 <さて、爺さんとおっさんと猫が寝起きの食事とは何とも面白くない話だがあの女達もじきに来るか? 女は美味いらしいから、メインディッシュの前にお前達を食ってくれる!>

 「う……」

 ズシン……ズシン……

 ユリの体を自らの体に埋め込み、上半身だけを体の中央に出したまま、ベルダー達の前へと歩いてくる。

 「くっ……」

 「怯むなベルダー! でかいなら狙いようはあろう!」

 <大きいからって素早くないとは限らないよ!>

 首を伸ばし、ベルダーと師範を跳ね飛ばす! 移動速度は遅いが、首が攻撃範囲を広げているのだ!

 「やるな!」

 「八本はずるじゃろ!?」


 <ベルダー! お爺ちゃん! アネモネは元々一匹の大蛇だったにゃ! だからどれか一本しか本物がないはず
……片っ端から潰していくにゃ!>

 「幻術か何かというところか? 望むところ、ユリを攫った事を後悔するくらいに殺しきってやる……」

 「ホントに変わったのう、カイムもお前と旅立たせたら変わるかのう?」

 コキコキと首を鳴らしながらベルダーの横に立つ師範。バステトも足元で爪を鳴らす。

 <この姿をみて怯まないのは褒めてやるよ、でもここまでだ!>

 八本の首がベルダー達に襲い掛かってきた!
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。