上 下
116 / 377
第六部:救済か破滅か

その137 不吉

しおりを挟む
 

 街道を歩く事、半日。

 朝早く魔王城を出発したが、すでに陽は傾き、夕暮れ時になっていた。道中、ユリの言うとおりベルダーも知らない店などが街道に出来ており、昼ごはんは途中にあったお食事処で食べた。

 再びまた歩き出す一行だが……。


 「あまり強くないけど、チラホラ魔物が出るわね」

 セイラがトカゲ型の魔物をアイシクルソードで倒しながら呟いた。もう少し早く宿に到着予定だったが、魔物による攻撃で歩みが遅くなっていたのだ。

 「おかしいねぇ、普段街道は人通りがそれなりにあるから今みたいに下級な魔物は近寄ってこないんだけどね?」

 「もう二十体以上は倒していますよ?」

 <(にゃんだか、オデの町に近づくにつれて増えている気がしないかにゃ?)>

 フレーレの言葉にひそひそとバステトが話しかけてくる。一応ユリの前なので二足歩行はしていない。

 「にゃーん」

 「……む、またか……」

 フレーレが『鈴(リン)』と名づけた猫が鳴く方を見ると、蛇っぽい魔物がぞろぞろと現れていた。

 「キリがありませんね、ここは逃げましょう」

 「それがいい、宿の近くなら冒険者も多いしね。素材欲しさに狩ってくれるだろうさ!」

 ベルダーが手裏剣を、ユリが苦内を投げつけると、二匹の脳天にグサリと刺さり絶命させる。一瞬残りの蛇が怯んだ隙に、四人と二匹は一気に駆け出した。


 ---------------------------------------------------


 
 「四人と猫が二匹……ね。猫と旅とは、珍しいこって」

 宿の支配人が部屋へ案内している時にそんな事を言う。

 <猫じゃな……もごもが……!>

 「(ダメよバスちゃん、喋ったら!)」

 あの後、逃げている途中で目論見どおり他の冒険者が蛇達をバシバシ狩ってくれたので、無事宿へ到着。ベルダーと猫が同室で女性陣が同じ部屋だった。

 「……何かあったら呼んでくれ、鍵は開けておくから寝ていたら起こしてくれて構わない」

 「あんた、まだ……」

 「寝起きが悪いですもんね。カルエラートさんが困ってましたし」

 「あ! セイラ、それは……」

 ユリが言葉を発しようとした所で、セイラに阻まれてしまう。思わず口をつぐむユリ。
 そして察したフレーレがセイラの口を塞ぐ。

 「……あれはカルエラートが勝手に起こしに来るだけだ、放っておいて構わないと何度も言っている」

 「……カルエラートって誰よ」

 少し面白く無さそうにユリがベルダーの腕を掴んで、口を尖らせていた。

 「俺の所属している勇者パーティのメンバーだ。あのパーティにはかなり世話になっている……今回の仕事も、その恩返しみたいなものだ」

 「ふうん……」

 それを聞いてもやはり面白くなさそうに、フラフラと部屋へ入っていった。
 ベルダーが不思議そうな顔をしてそれを見送りながら呟いた。

 「どうしたんだ? 具合でも悪いのか……?」

 「まあ、あながち間違ってはいないですけど……セイラ、気をつけないと」

 「ごめんごめん! でもやっぱり、まだベルダーさんの事好きなんだねー」

 「……どうかな」

 <あ! は、放すにゃ!?>「にゃおお~ん♪」

 ベルダーは猫たちを連れてさっさと部屋へ入ってしまった。
 フレーレとセイラはうーんと腕組みをしながら話し合う。

 「お互い離れていた期間が長かったからギクシャクしてるのかしらね」

 「ですね。師範さんとの面会と対応次第によってはユリさんを応援する必要がありますね!」

 ふんす、と鼻息を荒くするフレーレにセイラが呆れて腰に手を当てる。

 「何でフレーレが張り切ってるのよ……」

 「わたしはルーナとレイドさんを見ていてやきもきしているんですよ! ここは一つ、成就したカップルというものを見たいじゃないですか!」

 「あ、そういう……。てか、お兄ちゃんにそれを期待するのは……」

 「セイラには悪いですけど朴念仁ですからね……」

 二人は再び、うーんと腕を組んで唸るのであった。


 ---------------------------------------------------



 「(10年……長いようであっという間だった気がするね……無事で帰ってきたのは本当に良かったけど、あたいが一緒に居なかった時間が長すぎたのかな? あまり喜んでくれて無い気がするし、父上のせいだと思いたいけど……カルエラートって人も気になるし……)」

 部屋に敷かれた布団の上でうつぶせになり、もやもやとした気持ちが治まらないユリ。

 「(あの二人も可愛いし、もしかしたらどっちかはベルダーの事が好きなのかも……)」

 カルエラートも含め、まったくもってそんなことは無いのだが一度考えがドツボに嵌ると、どんどん嫌な気持ちが湧き上がってくる。

 現在、フレーレとセイラはお風呂へ行っているためユリ一人でゴロゴロしていた。誘われたのだが、もやもやしたまま話せないと断ったのである。

 「ベルダーは……あたいのことどう思ってるのかな……?」

 <(うふふ、いいわね貴女……)>

 「……!? だ、誰だい!」

 突然どこからか声がし、短刀を構えて壁を背にして身構える。

 <(だぁいじょーぶよ……取って食べたりしないわ……それより、あの男の気持ちを知りたいんでしょ? 手伝ってあげましょうかぁ?)>

 「な、何を……ハッ!?」

 気づけば目の前には目が真っ赤な白い蛇がとぐろを巻いてユリを見ていた。

 <(うふふ……)>

 「あ……」

 その目を見たユリは、即座に意識を失ってしまった。


 ---------------------------------------------------


 <! 今、お仲間の気配がしたにゃ!> 

 「……どういうことだ? 女神の封印はオデの町の東だろう? ここに守護者が出てきているとでも言うのか」

 バステトが部屋をウロウロしてその気配を掴もうとするが、すぐに立ち止まって首を振る。

 <むう、消えたにゃ……お仲間なら声をかけてくれるはずだからやっぱり違うのかにゃ……?>

 部屋の窓から顔を出してキョロキョロするも何も掴む事ができなかったようだ。バステトが戻ってきてベルダーの前にチョコンと座る。

 <それはそれとして、あんたユリさんになるべく近づかないようにしてにゃい? いくら気まずいからってあれはあんまりだと思うにゃ>

 「……余計なお世話だ……俺も複雑なんだよ……むしろ結婚していてくれた方がすっぱり諦めもついたかもしれん……」

 窓の横にあるイスに腰掛け、頭の後ろで手を組んで目を瞑るベルダー。あの時何も言わず出て行ったのは、失敗だったか、俺を待っていてくれたのか。そんな両極端な想いが胸中に沸き起こる。

 「いずれにせよ、師範に会った後は女神の封印を解いて帰るだけだ……」

 <……本当にそれでいいのかにゃ……好きなら一緒に連れて逃げれば良かったんだにゃ>

 「……追っ手が来て捕まって終わりだ。だから……」

 <そうじゃないにゃ! 私も元はにんげ……い、いや女の子だからわかるにゃ! たとえ失敗したとしても、連れって行って欲しかったと思うのにゃ……二人ともまだ好きなのに……>

 シュンと頭を下げて最後の方はあまり言葉にならなかった。どうやら泣いているらしい。
 変わったやつだなと思いながら、ベルダーはバステトに言う。

 「……終わった事だ……だが、そうかもしれない、な」

 バステトの頭を撫でながら、困った顔で少しだけ口元を緩ませていた。



 そして翌日、一向はオデの町へと到着する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者の転生実験

東国不動
ファンタジー
※書籍の第二巻が書店で好評発売中です! 是非お読みください。  不遇の高校生桐生レオはある日、謎の声に導かれて異世界に転生する。彼を転生させたのは、異界の知識で新たな魔法を生み出さんとする大賢者。  大賢者の息子として剣と魔法の世界に転生したレオは、父の魔法を教わる代わりに自分の持つ現代科学の知識を提供することに承諾する。ツンデレ妹に元王女の母、さらには猫型獣人の少女らに囲まれて幸せな第二の人生を満喫するレオ。一方、大賢者はレオから得た現代兵器の知識によって密かに全く新たな魔法群を開発していた。強大な力を求める大賢者の真意は一体?   先制発見、先制攻撃、先制撃破―現代兵器の戦術理論を応用した反撃不能の「兵器魔法(ウェポン・マジック)」が起動する時、少年の運命が動き出す!

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

森蘭丸の弟、異世界に渡る<本能寺から異世界へ。文化も人体も違うところで色々巻き込まれ、恋も知る?>

天知 カナイ
BL
【三章完結しました】本能寺の夜、信長と兄乱法師(森蘭丸はこちらの名を使っています)の痴態を見てしまう、森力丸長氏。美しい兄の乱れた姿に驚きながらも、情愛がのる閨事とはどういうものか、考えながら眠りにつく。だがその後本能寺の変が起こり、力丸(リキ)も戦うのだがその途中で異世界に飛ばされる。 【三章開始時点でこちらの内容を変更しました】 飛ばされた先でアヤラセという若者に出会い愛し合うようになるが、リキが性交(セックス)することによってどんどん色々な事が変化することになり戸惑いを感じてしまう。 アヤラセに執着する兄ライセン、アヤラセの親であるランムイとヤルルア、そして異様な過程で生まれた新生物ユウビなど、様々な人々と関わり時に運命に翻弄されながら、飛ばされた世界で必死に生きていく。 セックスありきで話が展開する部分がありますので、今見てみると結構エロ展開があります(三章1話現在)。独自設定があります。この世界の人たちは雌雄同体です。全員陰茎ありですし主人公は男なのでBLにしています。また、女の人同志的に読める展開もありますし、進行上残酷、凌辱シーンもあります。 最終的にはハッピーエンドになる予定です!

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?! 

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。