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第六部:救済か破滅か
その137 不吉
しおりを挟む街道を歩く事、半日。
朝早く魔王城を出発したが、すでに陽は傾き、夕暮れ時になっていた。道中、ユリの言うとおりベルダーも知らない店などが街道に出来ており、昼ごはんは途中にあったお食事処で食べた。
再びまた歩き出す一行だが……。
「あまり強くないけど、チラホラ魔物が出るわね」
セイラがトカゲ型の魔物をアイシクルソードで倒しながら呟いた。もう少し早く宿に到着予定だったが、魔物による攻撃で歩みが遅くなっていたのだ。
「おかしいねぇ、普段街道は人通りがそれなりにあるから今みたいに下級な魔物は近寄ってこないんだけどね?」
「もう二十体以上は倒していますよ?」
<(にゃんだか、オデの町に近づくにつれて増えている気がしないかにゃ?)>
フレーレの言葉にひそひそとバステトが話しかけてくる。一応ユリの前なので二足歩行はしていない。
「にゃーん」
「……む、またか……」
フレーレが『鈴(リン)』と名づけた猫が鳴く方を見ると、蛇っぽい魔物がぞろぞろと現れていた。
「キリがありませんね、ここは逃げましょう」
「それがいい、宿の近くなら冒険者も多いしね。素材欲しさに狩ってくれるだろうさ!」
ベルダーが手裏剣を、ユリが苦内を投げつけると、二匹の脳天にグサリと刺さり絶命させる。一瞬残りの蛇が怯んだ隙に、四人と二匹は一気に駆け出した。
---------------------------------------------------
「四人と猫が二匹……ね。猫と旅とは、珍しいこって」
宿の支配人が部屋へ案内している時にそんな事を言う。
<猫じゃな……もごもが……!>
「(ダメよバスちゃん、喋ったら!)」
あの後、逃げている途中で目論見どおり他の冒険者が蛇達をバシバシ狩ってくれたので、無事宿へ到着。ベルダーと猫が同室で女性陣が同じ部屋だった。
「……何かあったら呼んでくれ、鍵は開けておくから寝ていたら起こしてくれて構わない」
「あんた、まだ……」
「寝起きが悪いですもんね。カルエラートさんが困ってましたし」
「あ! セイラ、それは……」
ユリが言葉を発しようとした所で、セイラに阻まれてしまう。思わず口をつぐむユリ。
そして察したフレーレがセイラの口を塞ぐ。
「……あれはカルエラートが勝手に起こしに来るだけだ、放っておいて構わないと何度も言っている」
「……カルエラートって誰よ」
少し面白く無さそうにユリがベルダーの腕を掴んで、口を尖らせていた。
「俺の所属している勇者パーティのメンバーだ。あのパーティにはかなり世話になっている……今回の仕事も、その恩返しみたいなものだ」
「ふうん……」
それを聞いてもやはり面白くなさそうに、フラフラと部屋へ入っていった。
ベルダーが不思議そうな顔をしてそれを見送りながら呟いた。
「どうしたんだ? 具合でも悪いのか……?」
「まあ、あながち間違ってはいないですけど……セイラ、気をつけないと」
「ごめんごめん! でもやっぱり、まだベルダーさんの事好きなんだねー」
「……どうかな」
<あ! は、放すにゃ!?>「にゃおお~ん♪」
ベルダーは猫たちを連れてさっさと部屋へ入ってしまった。
フレーレとセイラはうーんと腕組みをしながら話し合う。
「お互い離れていた期間が長かったからギクシャクしてるのかしらね」
「ですね。師範さんとの面会と対応次第によってはユリさんを応援する必要がありますね!」
ふんす、と鼻息を荒くするフレーレにセイラが呆れて腰に手を当てる。
「何でフレーレが張り切ってるのよ……」
「わたしはルーナとレイドさんを見ていてやきもきしているんですよ! ここは一つ、成就したカップルというものを見たいじゃないですか!」
「あ、そういう……。てか、お兄ちゃんにそれを期待するのは……」
「セイラには悪いですけど朴念仁ですからね……」
二人は再び、うーんと腕を組んで唸るのであった。
---------------------------------------------------
「(10年……長いようであっという間だった気がするね……無事で帰ってきたのは本当に良かったけど、あたいが一緒に居なかった時間が長すぎたのかな? あまり喜んでくれて無い気がするし、父上のせいだと思いたいけど……カルエラートって人も気になるし……)」
部屋に敷かれた布団の上でうつぶせになり、もやもやとした気持ちが治まらないユリ。
「(あの二人も可愛いし、もしかしたらどっちかはベルダーの事が好きなのかも……)」
カルエラートも含め、まったくもってそんなことは無いのだが一度考えがドツボに嵌ると、どんどん嫌な気持ちが湧き上がってくる。
現在、フレーレとセイラはお風呂へ行っているためユリ一人でゴロゴロしていた。誘われたのだが、もやもやしたまま話せないと断ったのである。
「ベルダーは……あたいのことどう思ってるのかな……?」
<(うふふ、いいわね貴女……)>
「……!? だ、誰だい!」
突然どこからか声がし、短刀を構えて壁を背にして身構える。
<(だぁいじょーぶよ……取って食べたりしないわ……それより、あの男の気持ちを知りたいんでしょ? 手伝ってあげましょうかぁ?)>
「な、何を……ハッ!?」
気づけば目の前には目が真っ赤な白い蛇がとぐろを巻いてユリを見ていた。
<(うふふ……)>
「あ……」
その目を見たユリは、即座に意識を失ってしまった。
---------------------------------------------------
<! 今、お仲間の気配がしたにゃ!>
「……どういうことだ? 女神の封印はオデの町の東だろう? ここに守護者が出てきているとでも言うのか」
バステトが部屋をウロウロしてその気配を掴もうとするが、すぐに立ち止まって首を振る。
<むう、消えたにゃ……お仲間なら声をかけてくれるはずだからやっぱり違うのかにゃ……?>
部屋の窓から顔を出してキョロキョロするも何も掴む事ができなかったようだ。バステトが戻ってきてベルダーの前にチョコンと座る。
<それはそれとして、あんたユリさんになるべく近づかないようにしてにゃい? いくら気まずいからってあれはあんまりだと思うにゃ>
「……余計なお世話だ……俺も複雑なんだよ……むしろ結婚していてくれた方がすっぱり諦めもついたかもしれん……」
窓の横にあるイスに腰掛け、頭の後ろで手を組んで目を瞑るベルダー。あの時何も言わず出て行ったのは、失敗だったか、俺を待っていてくれたのか。そんな両極端な想いが胸中に沸き起こる。
「いずれにせよ、師範に会った後は女神の封印を解いて帰るだけだ……」
<……本当にそれでいいのかにゃ……好きなら一緒に連れて逃げれば良かったんだにゃ>
「……追っ手が来て捕まって終わりだ。だから……」
<そうじゃないにゃ! 私も元はにんげ……い、いや女の子だからわかるにゃ! たとえ失敗したとしても、連れって行って欲しかったと思うのにゃ……二人ともまだ好きなのに……>
シュンと頭を下げて最後の方はあまり言葉にならなかった。どうやら泣いているらしい。
変わったやつだなと思いながら、ベルダーはバステトに言う。
「……終わった事だ……だが、そうかもしれない、な」
バステトの頭を撫でながら、困った顔で少しだけ口元を緩ませていた。
そして翌日、一向はオデの町へと到着する。
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