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第六部:救済か破滅か
その131 掃除
しおりを挟む悲劇の晩餐から少し経ち、私達はお風呂へと入っていた。
エクソリアさんはフレーレのリザレクションで回復し、いじけていたが今は適当な部屋でお酒を飲んでいるらしい。チェイシャ達はそれに巻き込まれて一緒に行ってしまった。お酒を持ってとかなんて人間臭い女神様だろうか……。
本当のところチェイシャはお風呂で尻尾を洗って欲しいと私についてこようとしたが、エクソリアさんに捕まったのは言うまでもない。
ママはカルエラートさんに説教を受けているので、私とフレーレ、フォルサさんにセイラさん、そしてチェーリカというメンバーでお風呂である。
「今日は疲れましたねー……」
「そうね、ビューリックのクーデターに参加して、ケルベロスと王様とゲルスを倒したからね……」
早朝から動いていたので、こうぽかぽかしていると眠くなってくる……あ、そうだ!
「言い忘れてた! フレーレにフォルサさん、助けに来てくれてありがとうございました! すごく嬉しかったです!」
「ふふ、バタバタしてましたからね。でもあの別れ方は無いですよ? レジナ達もすごくがっかりしてましたからね」
「う……ごめん。でもそれはベルダーに言ってよ。元凶はあの人だからね」
「ああ、それならレイド君がさっき絡んでいたわ。ディクラインさんとお風呂に行く途中にね」
そうなんだ! 必死で追いかけてくれてたらしいし、レイドさんにも後でお礼を言っておかないと。何となく顔がニヤニヤしてしまう私にチェーリカが話しかけてくる。
「ふわあ……長く眠っていたせいか体がガチガチでしたがやっとほぐれてきましたよ……それで、ルーナさんはレイドさんとどういう関係です?」
「え? えーっと……お友達? パーティはビューリックに来る前に一度解散しちゃったし……」
するとチェーリカはニヤリと笑い、ススス……と私の横にやってきた。
「ということはまだ負けたわけじゃないということですね! レイドさんは会ったときから目をつけていたんです、そう易々と渡しませんからね!」
どストレート!
何だかんだで歳を取っていないから眠った時のまま14歳の思考なのかもしれないけど、ちょっと素直に言えることが羨ましいと思ってしまった。
そこでセイラさんがにやにやしながら口を挟んできた
「そうねー。もうお兄ちゃんって28歳だけどチェーリカはいいの?」
「です! 逆に渋くなってかっこよくなった気がします!」
「ソキウス君は幼馴染じゃないんですか?」
フレーレも話に混ざってきた。女の子はこういう話が大好物なのだ。
するとチェーリカは眉を曲げて手を振っていた。
「ソキウスはお子様ですからね! わたしが冒険者になるって時にたまたま一緒になっただけですから」
「「(それはチェーリカが心配で追いかけてきたんじゃ……)」」
「ソキウス……」
私とフレーレはほぼ同じ事を思っていたが、口には出さなかった。セイラさんがソキウスの事を哀れんでいた。チェーリカは見た目がまだ幼いので背伸びしている子供に見えてしまうのも内緒だ。
そうしていると、開いた入り口からレジナ達が入ってくるのが見えた。
「あれ? どうしたの?」
「わふ!」「きゅんきゅん」
「きゅーん……」
「にゃんにゃん♪」
「あー♪ わんちゃん達!! 撫でていい? 撫でていい?」
セイラさんが興奮状態で湯船から出てシロップを抱きしめていた。シロップはセイラさんをふんふんと匂いを嗅いでいた。しばらく嗅いだ後、顔をぺろぺろと舐めていた。
何故シロップなのか?
よく見ればシルバはレジナに咥えられていたからだ。さっきの肉の後遺症がまだ残っているようだ。鳴き声が甘える感じになっていた。
無理も無い、あの料理は3口目で命を奪えると言われたら、信じるレベルの破壊力を秘めている。
「猫ちゃんまで。猫って水が嫌いじゃなかったでしたっけ」
「そうね、猫の毛は水をあまり弾かないから体力の消耗が激しいのよ。だから本能的に嫌うんだけど……」
フォルサさんが解説をしてくれていると、てくてくと歩いてきたレジナ達が……。
チャプン……。
浅いところでレジナ、シルバ、猫ちゃんが並んで首だけ出して湯に浸かっていた。
あんなに水洗いを嫌がっていたのに……村の温泉で味をしめたかしら?
シロップが暴れだしたので、セイラさんも抱っこしたまま浸かり直す。
「わふー……」
一旦汚れきっていたスカーフを外して、私とフレーレが全身を洗ってあげる。ゆっくり温まった後、脱衣所でセイラさん達と別れた。
部屋に戻ってよく乾かし、ブラッシングをしてあげると、レジナ達はそのまま眠ってしまった。そこである事に気づいた。
「……この子達、何か違わない?」
「そうですね……洗って気づきましたけど、毛づやが良くなって色が銀色に近くなってます」
フレーレも違和感があると首をかしげていると、フォルサさんが髪を拭きながら私達に言った。
「魔物だとそんなものじゃないかしら?」
「魔物!? ど、どういうことですか!?」
フォルサさんの衝撃な事実に驚かされる。ガリガリだったけど普通の狼だったわよね。
「この子達、普通の狼だったんですけど……」
「そうなの? 何か特殊な食材でも食べたのかもね。耐えられれば力を増やす事ができるから」
ま、まさか私を追いかけるために?
「ごめんね……ありがと」
謝りながらレジナ達のお腹を撫でると「わふん」と満足そうな声で鳴いた。今度はこの子達にもお礼をしなくちゃね。
そう思いながら私はベッドに入り、目を瞑るとすぐに眠気が訪れた。
---------------------------------------------------
翌日
窓から外を見るといい天気!
……という事は無く、空には暗雲が立ち込めていた。この地域は曇りが多いそうだ。
そして私達はというと引越しと大掃除のため、あちこちを駆け回っている。
私は小さい頃住んでた部屋があるんだけど、皆と離れちゃうからそこはやめたんだよね。
「お父さんはどうするの?」
「そうだな、一人で一部屋を使うようになるだろうけど、できればお前と同じ部屋がいいかな」
「ん、分かった。じゃあもう一個ベッドを運んで……ってお父さんベッド必要……?」
「わふわふ!」「わん!」「きゅきゅーん♪」
「うわ! お、お前達……!? う、うーんルーナは心配だけどこいつらが居るんじゃちょっとなあ……」
レジナ達は私の部屋がいいらしいので三匹を受け入れた。お父さんは骨をしゃぶられるのを危惧してか、私の部屋を断念した。
「ルーナは私の隣の部屋よ! ヴァイゼは怖いから地下行きなさいよ」
「ここ俺の城……後、実の親なんだけど……」
そんな感じで部屋割りを決めていく。
この魔王城、正面から真っ直ぐ歩くと玉座のある謁見の間があるんだけど、一階はそれしかなくて、二階に部屋がたくさんある作りなのだ。
謁見の間に扉の両脇に階段があって、二階から一階を見ると吹き抜けのようになっているのが分かった。私とお父さんが刺されて息絶えた場所もその二階の通路だったらしい。
「俺は階段近くの部屋がいいな。ベルダーはルーナちゃんの部屋から遠くしてくれ」
「何でだよ……」
「チェーリカはレイドさんの隣の部屋がいいです!」
「じゃ、じゃあ俺はその隣!」
そんな調子で次々と決まっていき、それぞれ荷物を引っ越していく。フォルサさんとエクソリアさんは早々に部屋を決めて二人で何やら話しているみたい。
<わらわ達も部屋一つ貰えるのかや?>
<ぴー。私達部屋の開け閉めが出来ないから主の部屋かルーナかフレーレの部屋でいいわ>
<オイラもーチェイシャだけ部屋もらいなよ!>
「にゃにゃーん♪」
<ちょ……!? この猫いつのまに背中についたにゃ!? はがして欲しいにゃ! 私は猫じゃなくて虎だにゃ!?>
<一人は寂しいのじゃ……みんなルーナの部屋に行こうぞ!>
「ベッド、もう一つ持ってきてもらおうかしら……」
結局私の部屋は騒がしくなりそうなので、一番奥の二部屋繋がっている部屋を使うことにした。ジャンナはフレーレの部屋がいいと飛んでいったけど。
そして自分の部屋、洗面台、お風呂、窓、床を全員で掃除。
夜になると真っ暗だったので魔力で点灯する照明も磨いて使えるようにした。
遅めの昼食を取り、夕方になる頃には全て片付いた。
「お、終わった……」
「みんな頑張ったな。ほら、紅茶だ」
食堂に集まった皆に、紅茶を出すカルエラートさん。掃除も一番頑張っていたのにタフだ……。
すると、エクソリアさんとフォルサさんが遅れて入ってきた。
「お、出てきたのか。お前達も掃除手伝ってくれよ……」
パパが二人に疲れた声で愚痴を言っていると、エクソリアさんが口を開く。
『すまないね。ちょっと考える事があったからね』
「とりあえず次の方針を考えてきたの。聞いてもらえるかしら?」
「方針……?」
困惑する全員に、フォルサさんがにこりと微笑む。
二人が考えた方針って一体なんだろう……。
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【後書き劇場号外】
猫の名前が思いつかない……!!
というわけで募集します!
これだ! という名前がきたら採用させていただきたいと思います!
2018年10月13日まで!
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