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第五部:終わりの始まり

その120 生き方

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 ルーナ達がケルベロスと戦っている頃、ガーベルを止めるため一人残ったフォルサ。
 そして今、謁見の間で立っているのはフォルサだけであった。

 

 「……み、見事……戦慄の魔女と呼ばれていただけの事は……ある……祖父から貴女の事は、聞いたことが……あったからな……」

 「その通り名を持つものはもう居ないわ。私はオブリヴィオン学院の学院長、フォルサよ」

 一瞬で終わらせる……その言葉通りガーベルの胸には大きな穴が開いていた。手足は千切れ飛び、天井を仰ぎながらフォルサに話しかけていた。

 するとフォルサが少しだけ、と昔話を始める。

 「もう100年は経つかしら? 貴方のお祖父さんであるパトリオットが先々代国王に付いていたのは。私はその頃、この城に仕えていたから知っているのよ。まだピチピチだった……」

 「……」

 「そして先代。今の国王の父親が王になった時に私はこの国を出たの。知っていると思うけど、先々代はまともだったのに、先代と現国王は親子揃ってクズだったから愛想が尽きて出て行った、そんな所ね」

 「だからお互い知って……しかし姿が……変わっていないのだな……」

 「まあ『魔女』だしね? でも一つだけ後悔していることがあってね。私にも当時一人だけ友達ってのが居たんだけど、私が去った後に死んでしまったの」

 「……それは……」

 ガーベルが言葉を濁す。

 「もちろんゲスな国王に、ね。当時はメイドで騎士の一人と結婚もしていた、けど……」

 「国王に目をつけられたのか」

 「あの子、可愛かったからねえ。王になったとたん権力でどうにかしようと。そして夫は謎の事故で死亡、友達も生まれたばかりの赤ちゃんを連れて逃げようとしたけど、捕まって処刑……その時私が居ればと思ったわね。友達とは手紙でやりとりしていたんだけど、最後の返事は別のメイドが事の顛末が書いて私に送ったものだったわ」

 「……赤ん坊共々か、それはあまりに不憫な……」
 
 するとフォルサは首を振って答えた。

 「赤ちゃんは……助かったのよ。追っ手から逃げる時隠したのか、そもそも誰かに託していたのか。それは分からないけど、子供は生きていたの」

 「何故それが……分かったのだ……?」

 「そうね。その赤ちゃんが成長した姿はとてもあの子に似ていたの。一目見て分かったわ。違ったのは仏頂面をしてたくらいかしらね? 友達はよく笑っていたから。ま、それはどうでもいいわね、私の昔話はこれでおしまい……。遺言くらいは聞いてあげるけど?」

 フォルサが告げるとガーベルは胸中を語り始めた。

 「……先代と現国王がおかしいのは……分かっていた……だが、それでも王は王。そこに自分の感情を入れるべきではないと、従ってきた……しかしクーデターを起こした若者達のように、私は止めるべきだったのだろうな……」

 「それが正解かどうかは誰にも分からないわ。騎士としての務めを果たすという意味では考えるなら、別に間違っていないし」

 「……」

 「人は何かと何かを選ぶ場合、片方を選んだ瞬間、向こうの方が良かったのかも? と必ず後悔する生き物なのよ。当時それで良かったのなら、そういうものなのよ、きっと」

 するとそこにリックを倒したライノスとラトムスが隠し通路から出てきた。
 
 「フォルサさん! お一人だけですか?」

 「……姉ちゃんがこいつを倒したのか?」

 「回答1 私一人よ。 そして回答2、倒したのは私」

 「上で倒した奴の片割れならかなり腕が立つはずだ……それをこんなに……」
 
 ラトムスが冷や汗をかきながらフォルサとガーベルを見比べていた。
 
 「あなたたちも行きなさい。私もすぐに追うわ」

 「わ、分かりました……!」

 「ま、待て……お前はこの国の騎士だな……?」

 ライノスが走り出そうとするのを、ガーベルが引き止める。
 振り向いたライノスがガーベルへ答えた。

 「オレは……騎士のなり損ないだ……自分と妹の命惜しさに悪事に加担するような……」

 「しかしこの戦いに参加しているということは、自分を……国を変えようと思ったのだろう? きっとその心が大事……私にはそれが出来なかった……お前は、お前達は私のようになるなよ……」

 「? それはどういう……」

 「……」

 ライノスが真意を確認するため、ガーベルに聞き返すが、すでにガーベルは物言わぬただの死体に戻っていた。
 
 「《ディスペル》」

 フォルサが魔法を使うと、ガーベルの体が塵となって消え、後には穴の開いた鎧と斧だけが残されていた。
 ライノスは何となく斧を拾い上げて背負った。

 「……何がなんだか分からないけど、アンデッドになってまで王を守ろうとしたその心も、オレは大事だと思う……先に行きます!」

 「お、おい!」

 ライノスが何か呟いていたかと思うと、階段へと駆け出していった。慌ててラトムスがそれを追いかけ、フォルサがそれを見送っていた。そして残された鎧へと向き直る。

 「(……私もあなたのことを悪く言えないわ。嫌気がさしてこの国から逃げたんだもの。あの時逃げなければ友達が死ぬ事も、国がここまでおかしくなってしまう事も無かったかもしれないしね。友達のために復讐すらせず……あの子と私がここへ来たのは本当に偶然……?)」

 そしてフォルサは階段へと歩き出す。

 「もう終わってるかもしれないけど、決着を見にいかないと、ね」





 ---------------------------------------------------





 「ぎゃぁぁぁぁぁ!? う……ごぶ……!?」

 「ぐっ……!? しつこいんだよ! おい、しっかりしろ国王、死ぬんじゃねぇ!」

 レイドとベルダーが神裂を抑え、エリックが国王ゴナティソの頭を槍で貫いた!
 ジタバタと暴れるゴナティソ。槍を地面に縫い付けられその場でもがき続けていたが、やがて目から光が消えた。
 足を怪我した国王は、取り囲まれたまま逃げる事は適わず。
 エリックはついに国王を討つ事に成功したのだった。



 「……倒した……! ぐっ……」

 そこにルーナやアンジェリア達が駆け寄ってくる。

 「やったな……! これでこの国は……父様、母様……」

 思わず涙ぐむアンジェリア。イリスがその肩に手を置いていた。

 「良かったですね……」

 「あ、フレーレ。ウェンディは?」

 「怪我は治しましたけど、意識が戻らないので寝かせてあります!」

 「残るはゲルスだけね」


 
 「国王は死んだ! 次は貴様だ……!」

 「(クソ! 死にやがったか! 国王に因子は組み込んであるが『覚醒』は死んじまったら発動できねぇ……アンデッドにするしかないがそんな暇は無ぇ……! 創造クリエイトを使うには材料が無い……こいつぁマズイ!)」

 考え事をした神裂の隙を、レイドは見逃さなかった。

 「これで!」

 「ぐあ!?」

 レイドの一撃で左腕の肘から下が地面に落ちる。

 「ちくしょぉぉぉ! 猛虎硬爬山もうここうはざん!」

 「まだそんな力が!」

 残った右手で渾身の一撃を繰り出してくる神裂。しかし痛みのせいか、スピードもパワーもかなり落ちており、簡単にガードできた。

 「(はあ……はあ……じ、時間を……時間を稼いで活路を……)」

 「トドメだ……!」

 先程ゲルスに、色々言う前に攻撃したらどうだと言われていた事を思い出し、ベルダーは即殺しに行った。しかし神裂はそのダガーを掴んで止める。

 「そ、そういえばさっき俺の目的を聞いていたなぁ? い、いいだろう……俺はもうダメだ、計画を教えてやる……」

 「いらん、今ここで死ね!」

 ベルダーが攻撃しようとするのをレイドが制止した。

 「待ってくれ、俺はこいつがルーナちゃんを狙った理由を知りたい。女神の力とやらをどう使うつもりだったのかもな」

 「(よし、これでいい。腕もくっつけるには時間がかかる……後は隙を見て……)そうだな、まずはルーナの事から話そうか。俺は女神の力をルーナに集めて……子を産ませるつもりだったんだよ」

 「な!?」

 「ひっ!?」

 ルーナがレイドの後ろへサッと隠れる。神裂はニヤリと笑い話を続ける。

 「そうして出来た子共は一体どんな能力を持っているのか? 恩恵は? 実験材料にしたらさぞ面白いだろうと思ってなあ?」

 ベルダーの顔を見ながら大声で笑う。そして次の言葉を放つ。

 「この世界は実にいい、実験をするには最適だ! 向こうの世界じゃ窮屈すぎていけなかったからなあ! 後は女神姉妹の狂いっぷりも最高だ! 恩恵だと? はははは! 異世界人の俺から見ればこんなに歪んだものもねぇよ、生き方を決められているようなもんだ。お前達は女神達のおもちゃなんだよ!」


 神裂の言葉はさらにエスカレートしていく。

 「だから女神の力……いや、すべて集めると完全復活して女神そのものになるんだっけか? なあベルダー? で、女神をルーナの体に入れたままにして飼い殺す。それで俺のおもちゃにすればみんなが面白おかしく好きな事ができるようになるってもんだ。むしろ感謝して欲しいね?」


 「……なんで」

 「ん?」

 レイドの背中からルーナが声を出す。

 「何で私なの? 腕輪で力を手に入れたから? でもあの時あんたは居なかったわよね……? ベルダーなら分かるけど……」

 ルーナの問いかけを聞きながら、別の事を考える神裂。

 「(腕は回収した、少し思考もクリアになってきた……人質を取るか一気に抜けるか……これだけ集まっていたら逆に追いづらいだろう……)そうだな、お前を選んだのは偶然じゃない。俺はもっと前からお前を知っている。10年前……」


 ぞぶり……

 神裂が続きを話し出した瞬間、胸から手が生えてきた。

 「あ?」

 『ご高説ありがとう。そしてやっと捕まえる事ができた。女神の力、返してもらうよ』

 その手には小さい短剣のようなものが握られていた。

 <あ、あれは愛の剣か!? ……そしてその声……主殿か!?>

 『久しぶりだねチェイシャ……ボクだよ♪』

 返り血を浴びながらにこやかに笑うその人物は……女神の片割れエクソリアだった。
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