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第五部:終わりの始まり
その116 地下
しおりを挟むフォルサさんのおかげで私達は地下へと降りることが出来、今は長い階段を下っているところだ。明かりも無く、薄暗い階段を慎重に降りる。
「オリビアさんも向かっているから大丈夫だと思うけど……」
「隊長の剣の腕は間違いないですからねー。エリック副隊長と騎士も居るなら戦力は問題ないかと思いますー」
イリスが私の呟きに反応して、前向きな意見を言ってくれる。私よりあの二人については詳しいだろうから、信用できる。
「エレナさんという人が人質になっているのが気にかかりますね。それで身動きできない事もありそうですし……」
「そうね、そこが心配なのよ。でも、国王はひょろくてとても戦えそうにない感じだから、補助魔法をかけた誰か……それこそイリスの速さなら取り返せそうなのよね」
謁見の間とエレナを攫った時に姿を見たけど、魔法を使う感じも無かったし、そもそも戦えそうな人ではなさそうだった。
そんな話していると、階段が終わり、少し進んだ先に重々しい扉が目の前に見えてきた。
近づくと中で叫び声や怒号が聞こえてきた。
(エレナを解放しろ!)
(そんなことするわけが無かろう、ここでこやつの餌になれ!)
(エ、エリック殿ぉぉぉ!)
「行くわよ!」
「はい!」
重そうな扉は本当に重く、補助魔法がかかっていなかったら一人では無理だったと思う。
ゴゴゴ……と、響きを立てて開いた扉へ入ると中は広い空間になっていて、高い位置に何人かだけ座れる観客席のようなものがあった。
「!? ルーナか! それにウェンディにイリス、フレーレ君まで! 来てしまったのか」
アンジェリアさんが扉の音に反応して、こちらを振り向いて驚く。周りを見ると、エリックが膝をつきそれを守るかのように騎士が応戦していた。アンジェリアさんも髪がかなり乱れていて激しい戦闘だという事が伺えた。
その相手とは……
「な、何? 犬……?」
「でも首が三つありますぞ!? でかいし!?」
フレーレとウェンディがその姿を見て困惑する。無理も無い、私も思考が追いつかない。
大きさは3mほどで、ウェンディの言うように頭が三つ。それぞれ犬か狼のような頭だった。
一つの頭が、騎士を咥えて壁に叩きつける。
そして、その後ろに居る国王がこちらがやられている光景をみて興奮状態だ。
「ほおおう! 女が増えたか、これはいい! おい、男は殺しても構わんが女は生かしておけよ?」
アオオオオオオン!!
その言葉に呼応するかのように吼える魔物……魔物でいいのよね?
国王のゲスな言葉は後で清算させてもらうとして、作戦をと思っているとエリックが立ち上がってこちらへ告げる。
「げほ……こいつは危険だ、逃げるんだみんな」
「エリック! どういうこと?」
「ダメージが通らないという事はないけど、この巨体だ。どこを攻撃していいのか正直分からない。こいつが父上や他の人間を殺した魔物だ、一緒に来た騎士も生きてはいるが重傷者が多い……」
それを聞いてフレーレが最初に駆け出した。
「わたしが回復して回ります! ルーナたちは国王を!」
「え!? できるの!?」
「学院長のおかげで! <リザレクション>!」
「これは……!」
エリックを始め、倒れていた騎士達の傷が塞がっていく。
リ、リザレクションって上級魔法じゃない!
「よし、ウェンディは私とこの犬を攻撃。イリスとルーナは国王を頼む!」
「わ、分かりました! その前に……!」
私はアンジェリアさんに補助魔法をかけてイリスと共に犬魔物を迂回して国王へと迫る。
「ルーナさん~!!」
「待っててねエレナ、今助けるから!」
「ぬう、速いな……しかしいいのか? こいつを助けにきたんだろう? 少しでも動けばエレナが死ぬことになるぞ?」
手にしたナイフを首筋に突きつけ、脅迫してくる国王。さらに悪いことが重なる。
「ほっほっほ! パーティに間に合いましたかね? まさか国王の命を狙っているとは不届きな輩ですね」
「お! おお! 何をしておった! 謀反じゃ! 騎士どもが謀反を起こしおった!」
「あ、あんた……!」
私達が出てきた反対側の扉から出てきたのは……ゲルスだった! 火事の騒ぎでこちらに気づいたのね。ベルダーは何してるのかしら!
「さ、国王。その娘を連れていけば手出しは出来ますまい。早くこちらへ……」
サッ!
「おっと、動くなと言った!」
「くっ……!」
イリスがそれを見て間合いを詰めようとするが、エレナの首筋から血が流れるのを見て足を止める。
目の前に来たゲルスに蹴り飛ばされる。
ここまで来て逃がす訳には……!
歯噛みしていると、また事態が変化する!
「ガウゥゥゥ!!!」
「わひゃ!? な、なんじゃ!?」
「わん! わおおおおおん!」「きゅんきゅーん!!」
「む!? 放しなさい! この犬っころども、一体どこから!?」
何と!? さっき行方不明だと聞かされていたレジナ達だ!? ……レジナよね? 何か毛並みが違う気がするんだけど……後、今日の私って驚いてばかりなんですけど!?
「今だ!!」
ナイフを持った手に噛み付いたレジナを見ていけると判断したイリスが国王に肘打ちをしてエレナを取り返す。ナイス! 流石は補助魔法をかけた私に追いつくほどの俊足!
「ルーナさん!」
「ほいきた!」
投げるようにこっちへエレナを寄越してきたので、すばやくキャッチ。そのまま私の後ろへ。イリスはそのまま国王を殺しにかかっていた。
「お覚悟をー!」
「いけませんね!」
「わん!」「きゅきゅんー!」
「うわぁ!?」
ゲルスがシルバとシロップを振り切って胸を貫こうとしたイリスを蹴り飛ばした。
イリスは壁に叩きつけられ、国王は脇腹付近の服が切り裂かれていた。もう少し遅ければ倒せていたに違いない。
「レジナ、シルバ、シロップ!」
「ガウ♪」「わんわん!」「きゅんきゅーん♪」
三匹がすばやい動きでこちらに戻ってくる、レジナはきちんとイリスを回収してくるあたり賢い。
「あ、ありがとうーワンちゃんたちー」
イリスが立ち上がりレジナを撫でてお礼を言う。
「あんた達も来ていたのね……もう、ダメじゃない言う事聞いてくれないと……」
「ガウ」
するとレジナはそっぽを向いて耳をたたんだ。それは聞けないって事!?
「わんわん!」
「シルバは……大きくなった? 鳴き声も変わってない? 来てくれて嬉しいけど、今は……」
足元でぐるぐる回るお兄ちゃん狼が本当に嬉しそうに見える。シロップは私の靴先を甘噛みしていた。
さて、感動の再会は後……私はゲルスと国王のへと向き直る。
「ぬう、エレナを……」
「今は逃げるのが先決です。ここは私が引き受けましょう。裏口へ……」
そして私はさらに驚くことになる、国王が逃げようとした裏口が……
ドゴォォォォォン!!
爆発した!?
「何と!?」
これにはゲルスも驚いたようだ。仕込ではなかったらしい。
もうもうと煙が上がる中、人影が現れる。
「追いついたぞ……!」
「ベルダーか! 予想より早い! 国王、こちらへ!」
逃げ道を封じられた二人があの三つ首犬の元へと走り、叫んでいた。
「俺達を背に乗せろ! 急げ!」
アォォン
三つの内一つの首が二人を咥えて背中へと導く。でかいだけに攻撃するのは至難の業だ。
「この!!」
「硬い毛でありますな! お手入れがなっていないのであります!」
アンジェリアさんとウェンディが足と胸元を切りつけるが、厚い毛に阻まれて肉届かないようだ。
そしてフレーレがこちらへ合流する。
「怪我人は治療完了しました! あれが……国王ですね!」
「ひっひ……貴様等、絶対に許さんぞ……めちゃくちゃにしてくれる……! ……ん? 貴様どこかで?」
「?」
フレーレを見て国王が何か訝しげな声を上げるが、ゲルスの言葉でかき消された。
「ほっほ。国王、この魔物の上に居れば安心です。しっかり掴まっていてください」
ゲルスが魔物の背から降り、私達と対峙する。ベルダーがそれに合わせてこちらへ来ていた。
「今度は油断せんぞ……この魔物、これもお前の作品か?」
「しつこい男は嫌われますよ? ……そうだこいつぁ俺の『作品の一つ』だ。『ケルベロス』っていってな? 俺の世界じゃメジャーなんだぜぇ? 実在の魔物じゃないけどなぁ! ぎゃっはっはっは!」
聞いたこと無い魔物ね、作品……実在の魔物じゃないって言うからには作り出した……?
「さあ、本気を出していいですよコイル、アマンダ、ジルバ。ルーナ以外は始末しなさい」
「エレナ、壁際まで走って! ここは私達が!」
「は、はい~! 皆さん、すいません~ありがとうございます~」
タタタ、とゲルスやケルベロスとやらの攻撃範囲から離れるエレナ。
アォォォォォォォォォン!!!
そして吼えて猛るケルベロス! ついに国王とゲルスの喉元へ辿り着いた。
逃げ場は私達が入ってきた入り口しかない。
後はやるかやられるかしかない。
ビューリックの運命を握る最後の戦いが幕をあげた!
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