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第五部:終わりの始まり

その113 逃げる者、追う者

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 <国王の私室>



 時は少し遡る。

 エリックを先に行かせたライノスと騎士は、リックとガーベルを包囲。
 一斉に攻撃をかけるが、二人は異常な強さでライノス達を押し返していた。


 「うわぁ!!!?」

 パキン!

 「無理するな! ちゃんとポーションを使うんだ!」

 騎士の一人が剣ごと斬られて倒れる。幸い死んでは居ないようだが、傷は浅くない。
 そうしていると、斧を持った騎士ガーベルが下がり別の部屋へと歩いていくのが見えた。

 「エリックを追うつもりか!?」

 「……」

 ライノスはリックをかわしてガーベルへ迫ろうとするが、リックが横から攻撃を仕掛けてくる。
 前転して回避し起き上がるが追撃の手は緩まない。

 「この!」

 「我々に背を向けるとは愚かな!」

 背を向けたリックに攻撃を仕掛ける騎士達。しかし、フルプレートの鎧にいくばくかの傷をつけるだけで怯む様子は無かった。

 「……」

 「化け物か……くそ、魔剣の力が顕現すれば……」

 キィン! キン!

 こうしている間にガーベルは隠し通路へと向かい姿を消した。

 「早く……早く倒さないと……!」

 焦るライノスをあざ笑うかのごとくリックの剣がライノスを吹き飛ばす。
 しかし、同時にフルフェイスの兜にヒビを入れていた。

 「……」

 ヒビの入った箇所に手を当て、損壊具合を確かめるリック。

 「……! ダメージは通っているか! みんな! 兜を狙え! 傷を狙うんだ!」

 ライノスがつけたヒビを見て騎士達も奮起する。
 四方からの攻撃にリックも狙いを定めにくそうにしていた。

 だが、リックが暴れると騎士達が傷つき倒れていく。ライノスも立ち上がり、攻撃を仕掛けようと動いた。

 そしてさらに転機が訪れる!



 「す、すいませんライノス殿! 牢の見張りに手間取ってしまいました!」

 「お前んとこの騎士、動きが鈍いぞ? ……とりあえずそいつをやりゃあいいんだな?」

 野盗のボス、ラトムスが現れた!

 「いや、丁度いい! ラトムス、頭を狙ってくれ!」

 エリックが一時的に奴隷の処理を施し、ラトムスを手駒として使ったのだ。
 当日、エリックたちがわざわざ牢に行って開放するのは手間なので別の仲間に任せていた。

 それが今、追いついたのだった。


 「ゲルスと国王はいねぇのか……まあいい、さっさと倒して奴等を見つけるかぁ! ぬうううんん……」

 気合をいれ、オーガへと変貌を遂げるラトムス。
 そして手にしたハルバートを振り下ろす!

 「……!」

 その時、初めてリックに動揺が見られた。
 今まで攻撃を受けながら攻めてきていたが、ラトムスの攻撃はかわしたのだ。

 「なるほど、致命傷と判断できる攻撃には敏感ということか」

 「おい、どうするんだ大将?」

 「オレが動きを止める、その間に決めてくれ」

 「間違えて一緒にやっちまうかもなぁ?」

 ひはは、と笑うラトムスに、ライノスは言う。

 「それでこの化け物が止まるなら甘んじて受けるさ! 逃げた騎士を倒さねばならんから死んではやれんがな!」

 カン! ギギギギギギ……

 「(何だ……? 腐臭……?)」

 足止めのため、リックに斬りかかり鍔迫り合いの状態に持ち込んだ!
 ラトムスは呆れながら突撃を始める。

 「騎士ってのはどうも頭がおかしい奴が多くていけねぇなぁ、へいへい奴隷は大人しく指示に従いますよってな!」

 その瞬間ライノスがしゃがみ、若干前のめりになったリックの頭にラトムスが放ったハルバートが炸裂する!

 「浅い!?」

 インパクトの瞬間、身をよじったのか兜の上部分にヒットし、兜が宙を舞う。
 刺し貫くつもりだったが点を外されたのだ。

 「いや、これで弱点が……。 なに!?」

 「おいおい……俺も大概だがよぅ、こいつはそれを上回るな……」
 
 ライノス達が驚愕し、騎士達がリックの素顔を見て悲鳴を上げる。

 「ひ!?」

 「何だ……腐っている、のか……?」

 リックのその顔は……

 「み、たな」

 酷く掠れた声でリックが初めて言葉を発していた。
 顔の半分が腐りかけ、もう半分は白骨化している。

 「どおりで攻撃しても止まらない訳だ……アンデッドだったとはな」

 「まぁでもやることはかわんねぇよなぁ?」

 「そういうことだ!」

 「生きて帰れると、おもう、な! お前も仲間に入れてやル!」
 
 先程までと違い、猛るリック。
 素顔を見られたのがよほど腹に据えかねたのか。

 「おおおおおおお!!」

 「えやあああ!」

 ライノスとラトムスが斬りかかり、リックを追い立てる!
 リックも負けじと二人を相手に奮闘を見せた。

 徐々に生傷が増えていく二人に対し、傷はあるものの痛みを感じないリック。
 出血を伴う怪我は徐々に体力を奪っていった。

 「こいつ!」

 「グあ!?」

 鎧の隙間を縫って、リックの左腕を第二間接から断ち、ボトリと落ちた。
 
 「ひゅー……大将やるなぁ! 今度はこっちだ!」

 「ナめるナ!」

 左肩に攻撃を受けながらも前進し、ラトムスの胸元を十字に斬りつけるリック。
 意識のあるアンデッドはこういった作戦を取ってくるのでタチが悪い。

 さらに、落ちた腕を傷口にもっていくリック。ぐじゅぐじゅと気味の悪い音ともに再生を始めた。

 「ふう……傷は再生できるが血と体力はもどってこねぇ……だがヤツはあのとおり……」

 「これほどとは……」

 肩で息をする二人。

 打つ手が無い……そう思った時、ライノスの魔剣が熱を帯びだした。

 「な、何だ?」

 「それハ……!」

 「これは……むん!」

 ライノスが奮起すると刀身が炎に包まれた!
 熱で部屋の温度が一気に上がる。

 「ソレは……マズい……!」

 そう叫ぶとリックが背を向けて逃げ出そうとした。アンデッドのため、体を燃やし尽くされては再生ができないからだ。

 「逃がすか!」

 「チッ! 手伝ってやるよ!」

 ラトムスがハルバートを投げ、足をもつれさせてリックを転倒させた。
 慌てて立ち上がろうとするリックの頭に炎の剣が突き刺さる!

 「ア!? アアアあアアあ!!!!!」

 「燃え尽きろぉ!!!!!」

 「く、クそ!? まだ完全ではなかったというのか!? げ、ゲルすぁぁぁァァァ!?」

 ライノスの叫びに呼応するかのように、剣から炎が噴出し鎧の隙間からも溢れ出ていた。
 徐々に黒くなっていき、ついにリックは炭のようなものになり動かなくなった。


 「はあ……はあ……はあ……」

 「すげぇなぁその剣。とりあえず何とかなったかぁ……」

 ラトムスがハルバートを回収しながら呟いた。

 「無我夢中だった……なんで発動したのかわからんが……」

 「ライノス殿! ポーションです!」

 騎士の一人がポーションを手渡し、ライノスが回復。そしてラトムスも。

 「……よし! ガーベルを追おう! 時間をかけすぎた、エリックも心配だ」

 「やれやれ……人使いが荒いぜぇ……盗賊よりひでぇや……」

 
 休む暇無く走り出すライノス達。
 
 時間は午前5時42分を回っていた。
 
 

 


 ---------------------------------------------------





  <西の塔・最上階>

 

 「つおぉぉりゃぁぁぁ!」

 「ほっ! ほっ!」

 足を引っ張られ、倒れこんだゲルスがベルダーの猛攻を回避する!
 頬を掠るが、クリーンヒットが無く、苛立たしげにするベルダーを蹴ってゲルスが立ち上がる。

 「む!」

 くるりと宙返りをし着地をするベルダーを睨み、ポンポンと埃を払いながらゲルスが話し始める。

 「ほっほっほ。相変わらず気が短いですねぇ? そんなことだからニンジャマスターに成れないんですよ」

 「……」

 「答えませんか。そこまで私を殺したいですかねぇ、私たちの目的は殆ど同じようなものでしょうに」

 「ならば何故あの時、お前は……いや、もはや今更か。すでにお前はこちらの目的を脅かす存在だ、そしてあの時の恨みを晴らさせてもらおう」


 ベルダーは再度クリムゾン・サクリファイスを握りなおし構えを取る。それなりに戦えるとは言え、ゲルスは賢者、すばやく攻め立てれば確実に殺せると睨んでいた。

 「……ほっほ、そういうのなら早く攻撃するべきですね! 私に時間を与えるとは! 《シャドウ・インヴァート》」

 「させるか……!」

 ゲルスの指が黒く染まり、ドリル上の魔法が生成され放たれる。
 ベルダーがさせまいとそれを回避し、一瞬でゲルスの目の前に飛び、心臓にダガーを突き刺す。

 「手ごたえが無い……!?」

 直後ぐにゃりとゲルスの体が縮んだ。まるでぷしゅうと音を立てる。
 ベルダーが見渡すと、窓から飛び去る人影が見え、慌てて駆け寄るベルダー。

 「待て! ゲルス!」

 「ほっほ! だからそんな事を言っている間に追いかけるべきなのですよ! 学習しませんねぇあなたは! ……ぎゃはははは! ガタガタ言う前に行動するんだよ! 物語の登場人物じゃあるまいし、テンプレな台詞を言って相手に時間を与えてるんじゃねぇ、だからてめぇはアホなんだよ!」

 「チッ! 言わせておけば!」

 ビュビュ!

 「ぬぐ!? 悪あがきを!」

 ベルダーの投げたシュリケンと呼ばれる投擲武器がゲルスの足にヒットし、血が噴き出る。
 それでもスピードを下げず、城の影に消えていった。

 「ようやく見つけたんだ、ここまできて逃がすか……!」

 塔の外壁を。鉤爪がついたロープを使って下りながら、ベルダーは一人呟くのだった。


 時間は午前5時57分……

 入り口ではルーナがフレーレと合流していた。
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