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第五部:終わりの始まり

その97 ゲルスとの戦いと怪しい吹雪

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 <会談場>


 戦いはファロス、クラウス、アントンの三人が囲む形でゲルスと戦闘を行っていた。
 イルズはギルドマスター二人とシルキーの護衛に徹している。
 というよりも、イルズが入れる間が無い程の攻防が繰り広げられているので、そうせざるを得なかったのだ。


 「クラウス、右からいけ! 俺が左からだ!」

 ファロスの槍がゲルスの足元を狙い、それを回避しようとしたところにクラウスの大剣がブオン! と振るわれる!
 「ほっほ! これくらい……!」

 難なく躱したように見えたが、クラウスの後ろからアントンがさらに追撃をかけていた。

 「貰ったぁぁ!」

 「チッ、役立たずの分際で!」
 
 体勢を崩しながらも何かを仕込んでいる腕で防御しながら魔法を放ってくるゲルス!
 
 「<シャドウ・インヴァート>」

 5本の指先からドリルのように先端が鋭く、真っ黒いものがアントン達を襲う。しかし全員かすった程度で済んでいた。

 「あれをまともに貰うと、回復魔法が効かなくなるから気をつけろ!」

 アントンは死ぬ間際に受けた魔法だと認識していたので全員へ声をかけた。シルキーがそれを見て何か呟いているようだ。

 「ほっほ、あなたに学習能力があったとは驚きですね!」

 「ぬかせ! うお!?」

 尚も斬りかかるアントンを殴りつけ、地面に転がし指先から例の魔法を放とうとするが、それはクラウスによって阻まれ、ゲルスは一旦間合いを放す。

 「こっちにも居るんだよ! おい、大丈夫か!」

 「ああ、助かった……! クラウス気をつけろ!」

 「ふん!」

 「ぐあ!?」
 一瞬で間合いを詰めてきたゲルスの一撃が鳩尾に突き刺さり、クラウスが嗚咽をあげる。それを見逃さず、ファロスが槍で突きかかると、肩口へヒットすることに成功した!

 「喰らえ!」

 「ぬう!? 三対一では分が悪いですが……」
 そう言いながら、槍の猛攻を受け流すゲルス。その内に体を覆っていたローブがボロボロになっていった。
 
 その腕には……。

 「それが俺達の剣を受け止める事ができる理由って訳か」

 「ほっほっほ、そうですよ。いくら私でも素手で剣を受け止めるのは無理ですねぇ」

 ゲルスの腕には金属の棒のようなものが付いていた。ローブで隠れて分からなかったが、結びつけてある部分とは別に突起物もあった。

 「右手だけでいいでしょう……左手は魔法を使いますから……ね!」

 言うが早いか魔法を繰り出すが、ファロスはそれを槍で弾いていた。

 「……お前は一体何者なんだ? その体捌きに魔法……タダ者ではないのは違いないが……」

 「ほっほ……私は元魔王討伐をした勇者ディクラインのパーティに属していた者ですよ。ジョブは『魔賢者』とでも言っておきましょうか」

 「何だと……? だから国王と結びついていたのか……」

 魔王討伐は国からの命令で行われる。
 その時のメンバーは勇者自身で選ぶことが可能である。
 勇者が魔王を倒し、城に凱旋した際グラオベンと謁見していたのだとファロスは思っていた。

 「まあ、いい線ですが勇者殿と国王はまた別でコンタクトを取っていたのですよ……ですがそれを説明する必要はありませんね。ここで全員物言わぬ屍となるのですから」

 ゲルスは右手の奇妙な武器を構えたかと思うとアントンへ一足飛びで襲いかかっていた!

 「まず俺を殺したいみてぇだな!」

 「ええ、私の失態ですからね。今度はキレイに殺して私自ら埋葬してあげますよ」
 棒状のもので殴りかかってくるのを剣で受け止めようとしたその時である!

 「ぐあ!?」

 「当たっただと?」

 拳で殴ると構えていたが、持ち手の部分を回転させ、下からアッパーカットのようにアントンの顎にヒットさせていた。

 「これは『トンファー』という武器でしてね。防御にも攻撃にも使えて、こうして回せばリーチも伸びる……結構便利なんですよ! ほっほっほ! ……しかし、そろそろ飽きてきましたね。奥の手を使いましょうか」

 倒れたアントンに手を翳し、なにやら呪文を唱え始めるゲルス。

 「『体に宿りし邪悪な因子よ、今ここに目覚めん』!」

 「?」

 しゃがみ込んだまま腕をクロスさせて防御の体勢を取るアントン。だが……


 「!? 何故起動しない!?」

 ゲルスが焦り、声を張り上げる。何かアントンにかけていたようだが不発に終わったようだった。
 そこへクラウスが斬りかかると、動揺していたゲルスはあっさりと斬られていた。

 「ぐう!? ……しかし、まだ奥の手は残っていますよ……」

 そしてゲルスは逃げ出したグラオベンの元へと駆け出した!


 ---------------------------------------------------


 <山小屋>

 
 「……ん? 寝てたか……」

 <よう寝ておったぞ、久しぶりに熟睡したのではないか?>

 目を覚ますと相変わらずパチパチと囲炉裏の火は燃えつづけていた。
 チェイシャに言われて最近寝つけていなかったことを思いだす。

 「そう……だな。気が焦っていたからか分からないけど、寝つきは悪かったな……。今はかなりスッキリしてる」

 <ふむ、ここは何気に居心地がいい……というより心が落ち着く気がするわい>

 チェイシャは囲炉裏の前を占拠し丸まったままレイドと話していた。
 レイドは再び部屋を見回すが、ファウダーの姿を見つける事は出来ず、チェイシャに訪ねる。

 「ファウダーは居ないのか?」

 <うむ……もしかしたら外に居るのかもしれん。まあコールドドラゴンだから死ぬことはあるまい>

 レイドが窓を見ると、まだまだ吹雪は続いているようだった。時折「ひゅーひゅー」と呻き声のようにも聞こえる風の音が気持ち悪い。

 その時だ。

 ドン!

 <今、音がしなかったか?>

 「玄関からだったな……」

 二人で入り口を見ると、音はまた聞こえてきた。

 ドン! ドンドン!

 「……開けてみよう」

 <わらわがバックアップしよう……>

 ドアに近づくと、ドンドンと叩く音がさらに激しくなる。
 
 「……今、思い出したんだが」

 <なんじゃ?>

 「雪山には『イエティ』と呼ばれる魔物が居るとか。餌である獣を求めて山を彷徨っていると聞いたことがある……」

 <何で今それを言うのじゃ!? 獣ってわらわじゃし!? ドアを叩いているのがイエティじゃったらどうするのじゃ!!>

 「開けるぞ」

 <ねえ聞いてる!?>

 レイドがごくりと喉を鳴らしドアに手をかけ、一気に開け放つ!
 チェイシャが反対側まで後退し、固唾をのんで見守る中それは現れた!

 <うへえ……ただいまー……>

 「ファウダーか! やっぱり外に居たのか! 何をやってたんだ?」

 ファウダーに積もっている雪を払いながら、レイドはファウダーに聞いてみると……。

 <レイドが助け出された時、オイラは隠れて様子を見ていたんだよ。あの女の人、何か怪しいな
と思って。だってレイドを片手で引きずって小屋まで連れて行ったんだよ?>

 「俺は引きずられていたのか……」

 <いや、そこはどうでもいいんだけどね。小屋まで着いて行った後、オイラはこの辺りを見回ってきたんだ。でも吹雪で何も見えなかったから戻って来たんだ……あんなに晴れていたのにいきなりこの吹雪はやっぱりおかしいよ>

 <わらわ達は罠にかかったという事か……でもギルドはこんな手の込んだことはできまい>

 「となると怪しいのは……」

 レイドが奥の部屋へ目を向けたその時……

 シャーコ……

 シャーコ……

 何か金属を削る音が聞こえてきた。

 <……>

 <……>

 「……」

 顔を見合わせて首を傾げていると、さらに音は聞こえてきた。

 シャーコ……

 シャーコ……

 「何をやってるんだろう……」

 レイドが奥の部屋へ歩き、ドアに手をかけたところでチェイシャに手を噛まれた。

 「痛っ!? 何をするんだ!」

 <(シーっ! 静かにせんかい! 覗かないでくださいって言われてたじゃろうが!)>

 「(ああ、そう言えば……となるとやはり怪しいな……どうするか……)」

 <(もう少し様子を見る? オイラはレイドを引きずっていく所しか見ていないけど……)>

 奥の部屋へ続くドアの前でひそひそと話していると、ふいに金属音が止まる。
 そして、ヒタヒタとこちらへ歩いてくる音が聞こえてきた。

 <(まずい! 気づかれたか!? 早く寝たふりをするのじゃ!)>

 チェイシャの言葉で慌てて移動し、囲炉裏の近くでゴロリと寝転がる。ファウダーはまだ見られていないので、ふところへと隠した。

 ガチャ……

 「あら、眠っているんですね……夜も遅いし、仕方ないか。毛布をかけて……私も寝ましょうか……明日また話を……」

 パタン……

 女性はレイドとチェイシャに毛布をかけて戻って行った。

 レイド達はドキドキしながら毛布にくるまっていたが、女性が戻ってくる気配は無かった。
 先程スッキリするまで寝たはずなのにまた眠気が襲い、レイドは再び意識を手放すのであった。
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