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第五部:終わりの始まり
その96 謎の女性と荒れる会談
しおりを挟むパチパチパチ……
火の爆ぜる音を聞いてレイドは目を覚ます。
「う……こ、ここは!」
ガバッと起きて体を確かめると、鎧は脱がされ、上半身は何も来ていなかった。
しかし、外はあれだけの吹雪だったにも関わらず部屋の中は暖かく、少し暑いくらいだ。
「目が覚めましたか! 良かったです、ちょっと待って下さい。暖かいスープを作りますから……」
声のする方向を見ると、くすんだ感じの金髪をした女性がいた。
囲炉裏の向こうに、丁度レイドと逆に座っており、上半身を起こしたレイドを見て歓喜の声を上げていた。
そしてスープを作ると台所へ向かうのを目で追うと……。
「チェイシャァァァ!?」
まな板の上にチェイシャが乗っていた。慌ててレイドが台所へ走り、チェイシャを確保した!
「お、おい。い、生きてるか……」
<……レ、レイドか……何か夢を見ておった……父上が呼んでいたからそっちへ歩いていたら、大嫌いじゃった母上が現れての……逃げたらレイドの声が聞こえてきて気づいたらここじゃ……>
むにゃむにゃと寝言のように呟いていたが、やがて寝息を立て始めたのでレイドはホッとして囲炉裏の前へ戻る。
「あら、ごめんなさい! その子、ペットだったのね。首に巻いていたから獲物だと思ったわ」
小さい声だったので幸い女性には聞こえていなかったようだ。レイドはチェイシャを抱えて女性に言った。
「ああ、いや……変な事をしていた俺が悪かったんだ、大丈夫です」
山なら人に会うことはあるまいとチェイシャを襟巻代わりにしたが、今度から気を付けようとレイドは思った。後、チェイシャに優しくしてやろうとも。
すると女性は鍋を持って囲炉裏へと戻ってきて、レイドに質問をする。
「それで、どうしてまたこんな所へ? 狩りをするには厳しい環境ですよ? 失礼ですがあなたの装備では……」
と、そこまで女性が言ったところでレイドが口を挟む。
「俺はビューリックへ行きたいんだ、正攻法じゃ入れない状況で……。山側からなら入れるかと……」
「ビューリックへ……確かに行けなくはないですけど……何か事情がありそうね? 良かったらおばさんに話してくれないかしら?」
女性にそう言われ、一瞬悩んだがレイドは今の状況を話していた。何はともあれ、仲間を救出したい事を。
するとこんな返答が返ってきた。
「気持ちは分かりますけど、そこまでする必要はありますでしょうか? ギルドだって馬鹿じゃない。何か対策を考えているのでは? ここから先は本当に危ないからその仲間を助ける前にあなたが死んでしまうかもしれないですよ?」
「……」
「幸い……と言ってはおかしいですが、外は吹雪ですし、今は動けないでしょうからゆっくりされてください……はい、野菜たっぷりのスープですよ。お肉は残念ながら入っていないけど」
チラリとチェイシャを見ながら言うので、レイドは慌てて後ろに隠しスープを受け取る。
「……ありがとう、ございます……」
「それじゃ、私は隣の部屋に居るから何かあったら声をかけてくださいね……覗いちゃダメですよ?」
そう言って女性は立ち去り、レイドとチェイシャだけが残される。そういえばファウダーはと思い小声で呼んでみる。
「ファウダー? どこかに隠れているのか?」
しかし返事は無く、外か? と思い何気にドアを開けてみると、外は猛吹雪で一歩前すらも見えない状態であった。コールドドラゴンなので外に居ても問題は無いかとドアを閉める。
「……まいったな……」
女性の言うとおりしばらくここで待つしかなさそうだと思い、再び囲炉裏の前へ行く。
「ルーナちゃん……無事だといいが……」
焦りが募るレイドはとりあえずスープを口にし、先程女性に言われた事を考えるのであった。
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<会談場>
「生きた証人の登場だ! これで言い訳できねぇだろ! 国王、あんたは確かに俺をあの鉱山から出した。その首に下げているメダリオン……覚えているぜ?」
アントンがフードを取り、周りの人間へ当時の事を話す。するとゲルスが歯ぎしりをしながら呻いていた。
「馬鹿な……あの傷で生きている訳が……回復魔法も使えない様にしたはず……」
「おう、てめぇのその顔を見れただけでもここに来た意味があったな!」
生き返った事は聞かれるまで口にするなとみんなに散々言われていたので、アントンはとりあえずゲルスに対して軽口を叩く。
ゲルスと国王にとっても蘇生したのか生き延びたのかが重要ではなく、この場にアントンが居る事がマズイのでそこは問題ではなかった。
「ぐ、ぬう……ゲルス……貴様話が違うではないか……」
「ほう、ということはアントンを連れ出し、誘拐を指示したということでいいですかな?」
ファロスは確実に追い詰めるため国王たちが発言したことは全て書類にまとめていた。
この時点ですでに勝ちは見えているが、もう少し言質が欲しいと思っていた。
「ほっほ……確かに殺し損ねたのは私のミスですかね? アントン、あなたが生きている時点でこちらのやったことは暴露されているので、言い訳が聞きませんね。ほっほっほ……国王、これは我々の負けですな」
あっさり負けを認めるゲルスに顔を歪めるグラオベン。
「ば、馬鹿な……!? 切り捨てるつもりか貴様ぁ!」
「……では、国王……いえ、グラオベン殿。職権乱用と誘拐未遂、そしてドラゴンを使ってアルファの町の破壊容疑もあります。大人しく捕まっていただけますね」
フォルティスが罪を告げると、グラオベンは独り言のように呟く。
「……仕方あるまい……だが俺はそこに居るゲルスに唆されたのだ! 女神の力を使って、国をより強固にすれば他国からの攻撃も防げ、国民も守れるとな! 実際、最近のビューリックはキナ臭い……ビューリックはまだ同盟国だから何とかなるが、他の国はエクセレティコの資源を狙っていないとも限らん。そういう事を見越して……」
グラオベンは国の為をと思いやったのだと言う。だが……
「そのお気持ちは大変結構ですが、やり方がまずかったですな……」
ハダスが首を振って反論し、レイラが続ける。
「そうさ、何かあるなら国全体で協力すべきなんだ。そのためにあたしらギルドや冒険者も居るんだろうが? 国民だって、自分たちの暮らしが脅かされるってんなら動くさ」
「そういうことです。……そしてゲルス殿、あなたにも色々と聞きたい事があるので、同行願えますかな?」
ファロスが目つぶってずっと黙っていたゲルスに声をかけると、目を開けて椅子から立ち上がる。
同行の意思があると判断したが、それは違っていた。
「ほっほっほ。結構、確かに私が国王を唆し、アントンの復讐心を煽り、ルーナの誘拐をするように指示しました」
自分が主犯だと発言をするゲルス。観念してグラオベンの罪を軽くしようと言うつもりだろうか? と一同は聞いていた。
しかし、次の言葉を聞いて全員が身構える。
「……ここに私と国王しか居ない理由、分かりますかね? 証人がいるなら……消してしまえばいい。そしてここに居る連中はそれなりに地位を持った人間だ! 全員始末すればいいだけじゃねぇか! 罪状は……そうだな、国王に無実の罪を着せようとしたとかでどうだぁ? どうやって生き返ったか知らないが、また死ぬことになるとは不憫だなアントンよ!」
直後、ゲルスがアントンに向けて魔法を放った!
「チッ! そのやっぱそのつもりかよゲルス! 今度は確実に殺してやる!」
アントンがドラゴンスレイヤーを抜き、魔法を弾く。それを合図に全員が武器を手に構えた!
「グラオベン殿は下がってください! 元凶を叩きます!」
フォルティスがグラオベンを連れてその場から離れ、アントンがゲルスへと斬りかかり金属音が響く。
「子供の頃からの借り、今返させてもらうぜ……!」
「無駄な事を……! お前はここでもう一度死ぬんですよ!」
「まだ殺すなよ? こいつには聞きたい事が山ほどある!」
ファロスが叫び、ゲルスへと攻撃を仕掛ける。それを笑いながら弾いていた。
「うっとおしいですねぇ……では少し本気で行きましょうか!」
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