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第五部:終わりの始まり

その93 出発と謎

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 フレーレ達は血だらけ、泥だらけという姿で校舎へと足を運ぶ。
 一度お風呂で洗い流そうとフォルサが提案したのだ。

 歩きながらフレーレは一つ気になる事があったので、ジャンナに訪ねた。

 「そういえばジャンナは不死鳥なのに、串で刺されて死にかけましたけど……」

 <ぴー。あたしも万能じゃないわ、自分に対して血は効果が無いのよ。だからあたしの血をあたしに使っても回復しないわ。だからリザレクションは正解よ。主にそう調整されているからね>

 「自分には効かないんですね、良かった間違えなくて……」

 フレーレがジャンナを抱きかかえて目を瞑る。フレーレがジャンナの蘇生の力をアテにしていたら今ごろジャンナもフォルサも死んでいただろうと推測されるだけに、フレーレの判断は良かったと言える。


 <(でも、今のあたしの血はすでに蘇生できるほどの力は多分無い。あの時アルモニアに『持っていかれた』感じがあった……主が居れば戻せるだろうけど、今は誰も死なないことを祈るいかないわね……)>

 「はあ……生き残っちゃったし、ミナルーシュも居なくなったし私はこれからどうすればいいのかしら……」

 「えー……いい大人なんですから自分で生き方を探してくださいよ……」

 「冷たいなあ君は……」

 少し気安くなった二人はお風呂へと向かうのだった。


 ---------------------------------------------------

 
 「で、これからどうするの?」

 お風呂をあがり、夕飯のステーキを食べながらフレーレに今後の行動を聞くフォルサ。
 
 「はい、ビューリックへ向かいます。ルーナが居る所までは分かりませんが、エリックという人は騎士の方でしたので城下町に行けば何か分かるかもしれません。そこで情報を集めようと思います」

 「なるほどね。入国はできそうなの?」

 「そこなんですよね……とりあえず行ってみて考えるしかなさそうです」

 ゼタの町から直接馬車で行けるルートはあるが、入国できるとは限らない。商人は職業柄行き来できているようだが、ファロス達の言い分だと冒険者はお断りされる可能性が高い。

 <ぴ。今からレイドを追っても逆方向だしね>

 ひよこ豆をついばみながらジャンナが言う。

 「山脈から入国ね、荒っぽいけど悪くない手だと思うわ。うーん、ちょっと心当たりをあたってみるわ」

 「ホントですか!? 何から何まで……死にかけましたけどありがとうございます!」

 「ちょっと引っかかるけど、出発までには調べておくわ!」

 「お願いします!」

 
 ---------------------------------------------------


 そして翌朝

 「もう行っちまうのかい? でも久しぶりに会って元気な姿を見られて良かったよ」

 食堂のおばさんが最後の朝食をフレーレに出しながら名残惜しそうに言う。
 しかし朝食の場にフォルサはいなかった。

 「ありがとうございます。この学院、嫌な思い出の方が多いですけどおばさんや学院長のように気にかけてくれた人がいたことは忘れません。また、遊びにきますよ! 今度は友達を連れて!」

 「そうかい、それは楽しみだね……また、おいでよ」

 「もちろんです!」

 食堂のおばさんに挨拶したフレーレは外に出ると、今度は入り口のおばさんに声をかけられる。
 フォルサは昨晩、ここで待っているように言っていた。

 「おや、お帰りかい?」

 「はい、短い間でしたが用事は終わりましたので……」

 「ふふ、良い顔になったじゃないか? 来たときとは多い違いだよ」
 おばさんが目を細めてフレーレの顔をみてそんな事を言う。

 「そ、そうですか?」

 顔を赤くして自分の顔を撫でてみるが、変化があったと思えなかった。
 そうこうしている内にフォルサが歩いてくるのが見えた。

 「あ、学院長! 寝坊ですか?」

 「そんなわけないでしょ? ほら忘れ物だ」
 フォルサが長いトランクのようなものをフレーレに手渡した。

 「あわわ……なんですかこれ?」

 「まあ、それは後で。色々考えたんだけど、良い手が無かったから私も着いて行くわ」

 「……」
 
 「……」

 「え!?」

 少し言っている意味が分からなかったので、考え込んでしまった。
 それを気にした様子もなくフォルサは話を続ける。

 「こんなこともあろうかと、ビューリックは私の出身国よ! そして私はこの学院の学院長。生徒の見聞を広げるために来ました! これで国境を通る名目は完璧じゃない?」

 こんなこともあろうかとの使い方が違う、と思いながらフレーレは言葉を返していた。

 「い、いえ、逆に学院長が居なくなって大丈夫なんですか!?」

 「少し居なくても大丈夫よ、ここに居ても退屈だし死ねなかったし、君のせいだから反論はダメよ?」

 正直冤罪だと思いながら、フレーレは腕を組んでどう諦めてもらうか考えたが、いきなりの事でいい案が浮かばない。

 「う、うーん……大丈夫かしら……」

 <ぴー……これは何を言っても着いてくるわよ? ほらあの荷物……>

 ジャンナに言われて見れば背中に大きなリュックがあった。

 「さ、行くわよ! まずはゼタの町で馬車を調達しないとね」

 「あ、待ってくださいよ! どうして学院長がノリノリなんですか!」

 さっさと前を歩き出したフォルサを追ってフレーレが走る。それを入り口のおばさんが目を細めて見ていた。
 その時、入り口へに人影が現れる。

 「行ったのかい?」

 「ああ、行っちまったよ」
 食堂のおばさんと言葉を交わす。

 「戻ってくるかねえ……」

 「ま、戻って来ない方がいいんじゃないかね? ……生徒たちの為にも」

 「はっはっは違いねぇや!」

 こうしてフレーレの修行は終わり、フォルサという冗談みたいな性能を誇る学院長と共にビューリックを目指し始めた。
 
 そしてレイド達へと舞台は移る……



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 <魔王城>


 「そうか、女神の封印を全て解いて女神の水晶に力を集めないと復活には至らないんだな」

 「私達はあくまでも封印を守るだけだからにゃ。ちにゃみに装備すれば力は手に入るけど、アルモニアに支配される可能性が高いにゃ。これを話したことがエクソリア様にバレたら怒られるけど……」

 バステトはディクラインに女神の封印について知っていることを話していた。
 話によると「女神の水晶」が復活には必要らしい。たとえバステトやチェイシャなどの封印を守るアイテムを全部集めても意味が無いという。

 「女神の水晶、か……因果なもんだ」

 「どうしたんだディクライン?」

 「いや、つくづく女神様ってのは俺達の邪魔しかしないって思っただけさ」

 「しかしお前達の女神の復活とは思わなかったぞ? というか女神が封印されているのも知らなかったくらいだ」

 カルエラートは装備を外しながらディクラインへと話していた。
 それにバステトが答える。

 「エクソリア様が人知れずアルモニアを危険と判断して全力で封印したからにゃあ……恩恵はエクソリア様が眠りながら与える事が出来るから影響は無かったしにゃ」

 「ま、その恩恵ってヤツが曲者なんだけどな」

 「……その口ぶりだと気付いているようだにゃ。エクソリア様とアルモニアが仲たがいしたのも恩恵が原因だからにゃ」

 「どうやらエクソリアとは仲良くやれそうだな? ベルダーに攻撃された後一体どこにいったんだか……アイディールが帰ってきたらベルダーが見たダンジョンに一度行ってみるか……」

 ディクラインとバステトが納得している中、カルエラートだけが終始分からない顔をしていたのだった。

 人々に能力を与える『恩恵』。

 これが曲者だというディクラインだが、能力を引き上げてくれるこの祝福ともいえるべき恩恵を嫌う理由とは?
 
 その謎が明かされる日はそう遠くないのかもしれない。
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