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第五部:終わりの始まり
その92 あの日言えなかった事
しおりを挟む<ぴー!>
ジャンナの合図で戦いは始まった!
回復魔法ありだが、フレーレにとってはあまり有利になるものではなく、聖魔光も覚えたてなのでフォルサが一方的に攻めてくる。
そもそもレベル差もあるので、フレーレが勝つことは無理の二文字。
「流石に……!」
「(さて、この戦いで気付いてくれるといいけど?)」
防戦一方のフレーレを容赦なく攻撃するフォルサ。まだ5分も経っていないがすでにフレーレはボロボロだった。
「<ヒ、ヒール> ぐっ!」
「……前よりマシになったわね。でもリザレクションを使えるようにならないと」
何とか回復魔法を使って傷を癒し再度構える。何とか使えているようだが、精神のダメージは軽くなかった。
「(マシに……確かにそうです。でも何か違和感が……)」
「そら、考えていても攻撃は休まないわよ!」
「危ない!?」
フレーレは回復魔法のことは一旦置き、聖魔光を維持することに全力を注ぐことにした。
まずはダメージを与えないと意味が無いと判断したからだ。
「とお!」
「おっと、危ないわね」
何度か攻撃するが当たる気配はない。それにしても動きが早い気がする……。
攻撃するフリをして、フォルサの動きを観察する。
「(そう、それでいい。君はそうやって学院で生き残ってきたはずだ)」
「(……攻撃する時だけ光っていますね……。 ! そうだ、学院長はさっき『攻撃にも守りにも転じれる』と言っていました。もしかして……)」
フレーレは試しに足に聖魔光を使う事を試す。
「む?」
「(やっぱり! これなら!)」
フレーレが何かを掴んだその時! フォルサの顔にフレーレの拳が突き刺さっていた!
「!?」
慌ててバックステップで回避するフォルサ。一瞬のことだが、理解できたようだ。
「分かってきたようね? 偉いわ」
「恐らくですけど……この技は身体強化に近いものなんでしょう? 部分的にですけど、手に破壊の力、体に使えば魔力のバリアを生成できる……そしてわたしが使ったのはルーナの補助魔法の真似事ですけど、足の速さを上げました」
フレーレが言うには魔力を放出するのではなく体内で操作するという感じだった。
「そうね、だいたい合ってるわ。魔力で発動、神聖の力で制御ってところかしら? それを均等にしたりどちらかに偏らせることで『思っている効果』を発揮することができるの。これなら私相手でも一瞬なら捉える事ができるし、いざという時の逃げる手段としても有効よ。そこまで分かったならこれはもういいでしょう。ちなみに拳みたいに直接は無理だけど、武器を使った時も有効だからね」
<ぴー。まだ17分しか経ってないけどいいの?>
「いいわ。後は実戦で覚えた方がためになるから」
武器でも効果はある……腕力強化だろうか? そんなことをフレーレは考えていたが、フォルサの次の言葉で思考は停止させられた。
「それじゃ、メインイベントのリザレクションを覚えましょうか?」
フォルサが自分の腕を傷つけ、模範を見せる。シルキーが使うので詠唱やイメージは出来ている。
「や、やってみます!」
手渡されたナイフで腕を切り、傷をつける。
流れた血を見てくらくらしつつ、フレーレは魔法を唱える。
「<リ、リザレクション>!」
しかし魔法は発動せず、傷もそのままだった。
「ダメね。今ので分かったけど、君は回復魔法が使えない理由は恐らく『血』が引き金になっているのよ、さっき傷を治した時も出血がそれほど無かったし、ミナルーシュと戦った時も目に見えて血が出ていないから、あまり苦しまずに使えたのよ」
「そうか、それでさっきは違和感が……!」
言われてみればレジナの時も大出血だった。あの時の気分の悪さを思い出しフレーレは顔をしかめる。
「どうするかな。回復魔法はケガと共にある。深くない傷ならいいだろうが……」
フォルサは腕を組んで考え、そしてチラリとジャンナを見てポンと手を打つ。しかしその顔は良からぬことを企んでいる顔だとフレーレは知っている。すぐにジャンナを保護しようとしたが間に合わなかった!
「ふふ、似たような思考をしているからかな? 中々いい動きだったけど……ジャンナ、すまないね」
<ぴー? ……ぴ!?>
何と! どこから取り出したのか、長い串のようなものでジャンナを一刺ししたではないか!
「ジャ、ジャンナぁぁぁぁ! 学院長、な、何を!」
「ん? いや君の手助けだよ? まあ結果死んだとしても大丈夫よ、新しい手を考えるから。なあに友達を助けるためだ、鳥の一羽や二羽の犠牲は仕方ないよ」
うんうんと頷くフォルサの手の中には大量の出血をしているジャンナが居た。ぴくぴくとして今にも息絶えそうだ。
「ジャンナを放して!」
フレーレは飛び掛かるが、フォルサはそれをあっさりと回避する。
「ふふ、早くしないと死んでしまうよ?」
挑発するように逃げるフォルサを……フレーレは泣きながら追いかける。
「止めて……返してください……!」
「なら私を捕まえればいいだけだよ、何なら私を殺してもいいじゃないか?」
それを聞いてフレーレの中で何かが弾けた。
「……」
「!」
まばたきをした瞬間、すでにフレーレはフォルサの目の前に居てジャンナを取り返そうとしていた。
手には聖魔光を纏っており、ガードしたフォルサの手が弾かれ骨の砕ける音がした。
「(驚いたわね! ほとんど完璧じゃない!)」
冷や汗をかいて逃げるフォルサだが、フレーレはそれを逃がすことは無かった。
「うぐ! ぐあ!?」
「ジャンナを返してもらいます!」
「見事だ! では反撃をさせてもらうぞ!」
フォルサも負けてはいなかった、ジャンナを砕けた手で包み、残った右手でフレーレに一撃を与えてくる!
「くっ! 早く、早く取り返さないと……一撃で無力化するには……!」
今できる最大威力の聖魔光なら、と集中して魔力を蓄え、フレーレはそれを放った!
「え!? 威力が強すぎる! こんなはずじゃ! 学院長! 避けてください!」
直感でこれはマズイと思ったフレーレが叫ぶ! しかしフォルサはその場を動かない。
「それでいい、それでいいんだ。怒りのエネルギーは時に冷静な判断を無くしてしまうけど、感情を押し殺して我慢するより、時には発散する方がはるかにいい。だから君は卒業するはずだったあの日、ずっと君に纏わりついていたあの子の振る舞いに我慢が出来ず暴走した」
そこまで言った後、フレーレの聖魔光がフォルサの胸を貫いた。
「学院長ーーー!!」
---------------------------------------------------
フォルサが倒れ、ジャンナがその手から転がり出てくる。
一瞬呆然としたフレーレだったがすぐにハッとなり、ジャンナに駆け寄っていた。
「ジャンナ!」
<ぴ、ぴー……>
出血が酷く、もう限界のジャンナ。だがフレーレは一瞬動きが止まってしまう。
「……何をしているの? 早く回復しないとジャンナが死んでしまうわ……ごほ……い、いい? 失敗を恐れては何も出来ないのよ? そして克服も……。別にできないならそれでもいいわ……ジャンナの死体ができるだけだし、ね……それが嫌なら……勇気を持って己と……向き合いなさい……君は何の為に……この道を選んだのかしら……」
フォルサも虫の息だったが、フレーレに叱咤していた。そこで思い至ったこととは……。
「わ、わたしは……わたしは強くなりたかった! わたしだけが誰からも貰われず、学院に来ても嫉妬されて友達一人できなかった! ……だから持っている恩恵を……回復魔法で自分の存在を確かめたかったの! 必要な人間なんだって!」
そして泣きながらフレーレは気付く。
「そうか……わたしは怖かったんだ……もし回復魔法が使えなくなっていたら……要らない人間なんじゃないかって……だから無意識に使わない様に……可哀相な自分を演出していた……?」
「そう、それが本当の答え……君の仄暗い感情……でもそんなのは誰でも持っているものよ……でも君は気づけた……じゃあ、後は分かるわね……」
中途半端に使えるようになったのはフレーレの罪悪感の揺れ動き、そして『自分自身』には使う事ができるのだとフォルサは考えていた。
しかし適度に使い、周りの同情を得ようという考えがあったかは分からない。どちらにせよ良い影響ではないと思っていた。
ならば、どうしようもない状況に陥ったら目を覚ますのではないか? そのためにジャンナを傷つける方法をとったのである。
フォルサは知る由もないが、レジナが大怪我を負った時も同じ状況だった。だが、無意識にストッパーをかけていたため完全に使えるようにはならなかった。
しかし自覚のできた今なら……。
フレーレは決意した目でジャンナを見ると、迷いなく言葉を放つ!
「<リザレクション>!!」
フレーレの魔法でジャンナの体が光り輝き、見る見るうちに傷が塞がっていく。
派手に血を流しているように見えたが、元々身体がやや赤いのでそう見えただけだったようだ。
<ぴー……やったわね……>
「ええ……。 !? 学院長!」
ジャンナが助かったのを見て微笑むフレーレ。しかし、フォルサはまだ傷を癒していなかった。
「自分で回復できるでしょうに! どうして!」
「いいんだ、私は少しばかり長く生きすぎたしね。生徒に看取ってもらえるなら……満足よ。私はミナルーシュをドラゴンゾンビにしてしまった事をずっと……ごほ……悔やんでいてね。手を下せなかったのも本当……もう、君は大丈夫よ、頑張ってね……」
スッと目を閉じるフォルサ。
しかし、その時だった。
「……わたしを誰だと思ってるんですか? 学院長……アークビショップ、フォルサの生徒ですよ?
嫌がらせも、お手の物ですからね! <リザレクション>!!!!」
「お、おい!」
フレーレが魔法を使うと、フォルサは完全に回復した。血は流れていたが何とか一命を取り留めたのだ!
「まだ教えてもらいたい事は山ほどありますからね? 後、わたしの目の前で死んで……またわたしがトラウマを抱えたらどうするんですか?」
フレーレが起き上がったフォルサに食って掛かる。
「……まさか私に使うとはね。ジャンナを傷つけた時点で憎まれていると思ったからそのまま死ねると思ったんだけど」
「昔のわたしなら見捨てたかもしれませんけどね! そんな学院長は、フォル災禍……」
「ふ、ふふ、言うわね! ……ふう、君は変わったわね。君が助けたいと言うルーナという友達のおかげかしら?」
「そう、かもしれませんね。あの子はわたしと違ってめげませんから。隻眼ベアに狙われても、お父さんが居なくなっても……いつも笑顔でしたから」
「……そう、じゃあ必ず助けないとね!」
「もちろんそのつもりですよ!」
ジャンナを肩に乗せながらハッキリとした声で返事をする。そして真面目な顔になったフォルサがフレーレに告げる。
「それじゃ、訓練はこれで終了よ。そしてあの日言えなかったけどようやく言えるわね……卒業おめでとう、フレーレ」
最後は微笑みながら、フレーレの肩に手をそっと置いていた。
「……!? はい!」
フォルサの言葉に対し、泣き笑いの顔でフレーレは元気よく返事をしたのであった。
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