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第五部:終わりの始まり
その85 レイドが望む未来
しおりを挟むフレーレが旅立ちを決意した日の朝の事。
レイドは宿をチェックアウトし、ブルルとアップルの居る馬小屋へ向かっていた。
「……」
ブルル! ヒヒーン!
主人を前に喜ぶ二頭。そこに……
<どこへ行くのじゃ?>
「うわ!?」
突然どこからともなく声がかかり、レイドはびっくりする。姿がどこにもないとキョロキョロし、足元でその正体が判明する。
「……なんだチェイシャか……脅かさないでくれよ」
声をかけてきたのは魔神のチェイシャ。そしてその横にはファウダーとジャンナも居る。
「どうしたんだ? みんな揃って」
<お主は今後どうするのかを聞きたいと思ってな。どうもルーナを助けに行くのはしんどいようじゃからのう>
「……まあな。とりあえず俺はこいつらを村へ連れて帰るんだ、いつまでもここに置いていたらかわいそうだしな」
それを聞いてチェイシャがカクっと崩れる。
<その馬で助けに行くとかじゃないんかい!>
「いや、そんな事一言も言ってないけど……」
<そうだね、今のはチェイシャが悪いね>
<嘘!?>
<ぴー。で、実際はどうなの?>
ジャンナがレイドの肩に止まり、耳元でさえずる。腕を組んでから今からの動きを告げる。
「俺は村へ一度戻った後、山を迂回してビューリックを目指す事にする。山側から遭難した風を装って、入国してやろうかと思ってね」
途中まで言いかけていたレイドの良い案とはこの事だった。冒険者というのを逆手に取り、道に迷ったフリをして同情を買おうと言うのだ。
<勇者とは思えない作戦じゃのう……>
「なりふり構っていられないからな、失敗してもリスクは少ない。待つよりかはいいだろう」
<ぴー。でも、どうしてそこまでするのかしらー? 別にいいじゃない、恋人でもないんでしょ?>
「……」
<ぴー。女なんて他にも居るしさ、いいじゃない。あたし達と女神の力を集めて妹さんとやらを探しに行きましょうよ、ね?>
「ファロスさんやイルズさんに言われて色々考えた。確かにセイラの事や、お父さんに頼まれたってのが最初に頭に浮かんできた。だからあの時は言い返せなかった……でも、そうじゃないんだ。最近の冒険が楽しかったのはルーナちゃんが居たからだったんだよ。もちろんお前達もだし、フレーレちゃんもそうだ。俺は人を好きになったことが無いから、この楽しいと思うことが恋愛感情かどうかは分からん。けど、また楽しく冒険をするならルーナちゃんと一緒だと思っている。いままでと同じように旅や冒険をしたい。だからそのために助けに行く……ま、犯罪者になったら、遠くへ逃げてもいいかもなあ、ははは」
レイドが迷いを振り切った顔で、封印を守る獣たちを見渡すとジャンナが笑いながらチェイシャの頭に乗る。
<ぴー! あはは! 聞いた? それが恋じゃなきゃなんだっていうのよねぇ?>
<ううむ……あの朴念仁が……>
「ぼ、朴念仁……」
この中ではチェイシャが一番付き合いが長い。そのチェイシャに朴念仁の烙印を押されちょっと肩を落としていた。
<今のもチェイシャが悪いね>
<嘘!? ……というか、ルーナの態度を見てればお主が好きなのは分かると思うが、それでノーリアクションじゃったからのう……>
「え!? そうだったのか!?」
<やっぱり、朴念仁かもしれないね……>
結局ファウダーにも朴念仁の烙印を押された。レイドは咳払いをして、今後の予定を語る。
「ん、んん! とりあえずこれから俺は村へ帰ってブルル達を置いていく。村からビューリックは南東の方角になるんだが、さっきも言ったように山から下りたいから、北東の山を目指す」
<フレーレは連れて行かんのか?>
「ああ、霊峰みたいに整備された山じゃないから険しいし、万が一があるかもしれない。まして犯罪者になるかもしれないような事に女の子を連れて行くわけにはいかないよ」
<一言くらいは……いや、そうすると無理矢理ついてきちゃうか……>
「そういうことだ。お前達はどうする?」
<わらわはお主についていこう>
<オイラも。レイドはリングを持っているしね>
<……ぴー。あたしは、あの子の所に行くわ>
ジャンナだけがそれを拒否した。
<そうなのかいジャンナ?>
<ぴー。そうね、何だか昔のあたしを見てるみたいでさ。あまり長い付き合いじゃないけど、危なっかしい感じがする。それにあたしのクロスを持っているしね>
ファウダーとジャンナには思う所があるらしい。ジャンナはいつもの気怠そうな言い方ではなく真剣だった。
<監視の意味でも、フレーレには着いていた方がいいとわらわも思う。わらわ達の事は内密にな>
<ぴー。そうね、それじゃそっちは気を付けてね! ファウダーちゃん頑張って!>
<うん、ジャンナも気を付けて! 見つかったら解剖されるからね!>
<まだ信じておったの!?>
ジャンナは急上昇し、馬小屋の天窓から飛び去って行った。
「さて、監視と言えば俺達にもついているようだが……」
レイドがチラリと入り口を見るとサっと動く影が見えた。ギルドの監視員というところだとレイドはあたりをつけていた。
<どうするのじゃ?>
「別ににどうも。この国で動いている限りは咎められることは無いからな、むしろ山まで着いて来てくれる方がありがたい」
<?>
頭に「?」を浮かべているチェイシャとファウダーを荷台に乗せ、レイドの村へ移動を始める。
レイドが山まで着いて来てほしいと言う意図は一体どういうことなのだろうか?
<さて、種は蒔かれたか。レジナ達もどこかへ行ってしまったし、これからどうなることやら……>
チェイシャは居なくなってしまった狼達を思いつつ、荷台で丸くなるのであった。
---------------------------------------------------
レイドとフレーレがそれぞれ旅立った後、ギルドでは……。
「そうか、二人とも旅立ったか。国内なら別に構わんだろう、監視は続けてくれ」
「はい」
ハンターの二人が一応の報告をして、再度二人の足跡を追う。ファロスは大人しくしているとは思っていなかったので監視をつけていたのだ。
「まあ、こっちに関わらないでくれるのはありがたいですし、囮になるかもしれませんしね」
イルズが言うと、アントンがそれに対して不満を述べる。
「でも大丈夫なのかよ? レイドさんはともかくフレーレ一人は危ない気がするんだけどな」
「そのための監視でもあるからな。報告によれば学院へ行くような事を言っていたからビューリックに行かなければさほど脅威はあるまい」
「こっちが片付いたら助けに行くって言えば良かったんじゃねぇか」
「いつ終わるか分からないからね。君の証言を考えると、危険度はこっちの方が上だから。ああいったけど、ビューリック全体がクーデターを知っている訳じゃないから例えば僕やイルズ、君がビューリックに行っても国境は通れると思うよ。僕が心配していたのは『ルーナちゃんの関係者』が狙われたり阻害される可能性があると睨んでいる。僕とイルズがいけばルーナちゃんの奪還はすぐだと思うけど、エクセレティコの問題を放置できないからね」
前門の狼、後門の虎状態ではどこで寝首をかかれるか分からないとファロスは言う。だからこそこの会談は早い所終わらせて、ルーナ奪還のためにはエクセレティコの王を味方にする。味方に出来なければ沈黙させるくらいのことはしなければならないのだ。
「となると問題はゲルスか。野郎は俺が殺してやりたいが……」
「この会談でそいつが出てくれば糾弾してやろう。尻尾を出せば攻撃だ。感づかれて逃げられなければいいが」
イルズは自身の武器を磨きながらアントンに言う。会談の場所は城でもギルドでも無い所で行うつもりだから不振がって逃げられる可能性も高い。
すると会議室へ一人のギルド職員が入ってくる。
「ギルドマスター! 返事がありました! 国王は会談に応じるそうです!」
「そうか、ありがとう。ベタの町とガンマの町のギルドマスターから連絡は?」
「ハダス殿には連絡済で、すぐ来られるとのことです。レイラ殿は……どわ!?」
「あたしゃもう居るよ。久しぶりだね、ファロス」
連絡係を押しのけて会議室へと入って来たのは、藍色のセミロングの髪をした30代半ばの美人だった。
ベタの町のギルドマスターレイラである。
「やあ、早いね相変わらず」
「面白そうな事には首を突っ込まないとね! 国王相手の交渉なんてわくわくするじゃないか、ええ?」
「遊びじゃないから、ほどほどにね?」
分かっているよとレイラは言い、どかっと椅子に座り世間話を始める。
「(チッ、まどろっこしいが順番ってやつか……死ぬんじゃねぇぞルーナ)」
蘇生を行ってくれた恩人なので、レイドとフレーレ並に救出をしたいと考えていたアントン。
会談で自分の証言が役に立つならと飛び出す気持ちを抑えて会談に臨むのだった。
その日はすぐに訪れた。
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