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第五部:終わりの始まり

その83 今後の事を

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 <アルファの町 冒険者ギルド>


 「それで、どういう状況なんだ?」

 腕組みをして会議室に集まったファロスやイルズらを見ながらフォルティスは呼び出された理由を尋ねる。
 ギルド職員に大急ぎで集合と言われたが特に内容は知らされていなかったからだ。

 「お前を呼んだ理由は二つ。一つは国王のスキャンダルについて。もう一つはビューリック国がクーデターを起こしそうになっている事だ」

 「……二つ目は置いとこう、一つ目について詳しく頼む」

 組んだ腕を解いてテーブルへ投げ出す。

 「アントンという犯罪奴隷になった男が居るんだが、その男を使ってルーナちゃんを誘拐しようとしたんだ。それに付随して町をドラゴンに襲わせようとしていた節も見られるんだよ」

 ファロスはドラゴンを見ていないが、話を聞く限り手段を問わず誘拐するつもりだったのだろうと推測していた。
 だがこれには前提がある。

 そしてルーナの名が出てフォルティスは一瞬眉を動かすが、まずは話を聞くことにしたようだ。

 「国王の近くに『ゲルス』という男が近づき、その誘拐を唆した可能性がある。とりあえずはそんなところだ」

 「ではこちらからいいか? まず俺に何をさせたい? 次に確証はあるのか? そしてルーナさんは無事なんだろうな?」

 聞きたい事を一気に捲し立て、ファロスとイルズの様子を伺う。顔は冷静だが、少し怒りが混じっている声色のように思え、他の職員はハラハラしながら見守っている。

 「お前には国王への牽制を頼みたい。証人は確保しているから問題ないだろう、だけど口封じは気をつけないといけないから謁見の時には連れて行かない。恐らく全ての罪をゲルスに擦り付けるだろうから、誘拐とアントンを職権乱用で鉱山から出したことについて糾弾してくれればいい。世間に公表するのは確実としてな」

 「ふう……相変わらず重い仕事を持ってくる。護衛は?」

 「私とイルズ、できればクラウスもだな」

 「結構。アントンとやらと一度話をさせてくれ、整理しておきたい。で、ルーナさんだが……」

 ようやく自分にとっての本題に入れると、フォルティスは姿勢を直し、再度質問を投げかけるが、空気は重かった。

 「それなんだが……ビューリックへと連れて行かれてしまった」

 イルズが沈痛な面持ちで口を開くと、フォルティスは立ち上がって驚いていた。

 「な、何!? 今しがたクーデターが起こるかもしれないと……!」

 「どうもルーナちゃんをダシに使って何かをしようという感じなんだけど逃げ去られた後でどうしようも無かった。レイドが追ったが……」

 「目的があるなら、向こうは隠し通すだろうな。仮に入国しても手がかりが見つかるとは思えん……」
 
 「さっきフォルティスも言っていたが、ビューリックには手が出せん。ルーナちゃんの事も含めて一旦保留だな。彼女も冒険者だ、何とかすると思うし、まずはこっちを……」


 イルズがそこまで話したところでドアの向こうで走り去る足音が聞こえていた。




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 <少し前 フレーレ>



 「レイドさんの治療、お願いしますね」

 「ええ、分かったわ。……それにしても難儀ね、早く使えるようになるといいわね」

 「は、はい……すいません」

 ギルドに出向いたフレーレはシルキーに遭遇し、レイドの事を伝えた。
 二つ返事で承諾してくれ、病院へ向かってくれたのを見送りホッとしていた。それと同時に回復魔法のつかえない今を嘆いている自分も居たのだが。

 「レイドさんのこと、ギルドマスターにも報告したいんですけど……」

 「ああ、今は会議室だよ。さっき始まったばかりだから、出てくるまでまだかかると思うけど待つかい?」

 もしかしてルーナの事を話しあっているのか? フレーレは会議室へと向かいノックをしようとしたその時、イルズの声がぼそぼそと聞こえてきた。

 「……ビューリックには手が出せん、ルーナちゃんの事も含めて一旦保留だな。彼女も冒険者だ、何とかすると思う……」

 「!?」

 イルズの話を推測すれば、ルーナは放っておくということになるとフレーレは思った。保留、それはいつ解除になるのか? その時には手遅れではないかと感じ、慌ててその場を離れた。

 とぼとぼと病院へ戻ろうとするフレーレ。考えてもいい案は浮かんでこない。
 
 「(レイドさんでも大怪我を負わされるような相手……わたしが言ったところで捕まって殺されるのは分かっています。けど……)」

 山の宴を通りかかり、レジナ達の事を思いだしたフレーレは寄り道をすることにした。
 チェイシャにも意見を聞いてみようと、裏にある小屋へ向かった。


 ---------------------------------------------------


 「……まいったな、飯を食べない……」

 マスターが肉の乗った皿を下げながら頭を掻く。小屋の奥に引っ込んでしまった三匹は丸まってふさぎ込んでいた。

 「こんにちは。どうしたんですか?」

 「ああ、君か。狼の親子がご飯を食べないんだ」

 マスターの手にある皿には大きなお肉が乗っており、特にシルバが好んで食べていたものだが、まるで手が付けられていなかった。

 「レジナ、シルバ、シロップ。ちゃんと食べないとルーナを助けに行けませんよ」
 ルーナの次に懐いているフレーレが話しかけると、シロップがよろよろと小屋から出てきて、続いてレジナとシルバも出てくる。

 フレーレが切り分けると、もそもそと肉を噛み始めた。

 「……食べてくれたか。じゃあ君に任せて俺は店に戻るよ」

 マスターが店へ戻ると、チェイシャ達が姿を現し話しかけてくる。人が居なくなるのを待っていたようだ。

 <フレーレか。その分じゃとレイドはダメじゃったか……>

 「はい。今は病院で治療中ですけど、すぐに回復すると思います」

 <ぴー、こうなったら追うのは難しいわね。無事逃げてくるのを待つしかないわ>

 ジャンナが厳しい意見を言い、フレーレは落ち込む。
 レジナ達も食事を止めてその場で寝ころんでしまった。

 「ほら、まだあるわよ?」
 フレーレがお肉を差しだしても首を振るばかりで、口をつけない。ケージで暴れていたせいもあり、毛もボロボロになってしまっていた。

 「……どうしてこんなことに……ルーナばっかり……」

 <ルーナを狙うゲルスと言う男も怪しいが、それと同様にパパ上もじゃ。そもそも女神の力を集めさせる理由をわらわ達は知らんからの。女神の力を集めればおのずとルーナに辿りつくかもしれんが、ゲルスは何か知っておるのかもしれんのう>

 「でもまたルーナが危険な目に合う可能性が高いですよね?」

 <無論じゃ。すでに遅しという気もするが、あえて火中の栗を拾うというのも一つの手じゃ>

 「くぅーん……」「きゅーん……」「きゅんきゅん……」

 ルーナという言葉を聞いて寂しそうに小屋へと戻って行く三匹。
 どうすることもできない状況の中、黙り込むフレーレ達。

 そしてそれに追い打ちをかけるようにおかみさんが庭へ出てきて、フレーレ達に告げた。


 「これ、あんたとレイドさん宛の手紙とお金みたいよ。部屋に置いてあったわ、レイドさんにはあんたから渡してあげて?」

 おかみさんが戻った後、手紙を開けて読むと……


 ”レイドさんかフレーレ、どっちが読んでるか分からないけどルーナです。こっちは事務的な手紙だから部屋に残したんだけど、読んでいるってことは無事手に渡ってるってことで!

 本題だけど、組んでいたパーティについては解散しましょう。後、追ってこなくていいからね?
 私自身死ぬつもりは無いけど、何が起こるか分からないし、ベルダーの話だと私を国境へ入れた後はビューリックを封鎖するつもりらしいから追ってこれないと思うけど……。

 パパの事とか女神の力とか色々あったけど、一緒に居て楽しかったわ!
 レイドさんの妹さんはパパが知っているみたいだから、残りの女神のアイテムを集めれば会ってくれると思う。
 私の腕輪は外れないけど、まだ四つあるし、チェイシャ達と頑張ってね。

 強制解散だから、賠償金は置いていきます。私との契約書をギルドに出しておいてくれたら助かります。

 それじゃ元気で!”

 
 <生きて帰れると思っておらんようじゃな……>

 「そんな……わたしレイドさんに話してきます!」

 レイドへこのことを話にフレーレは再び病院へ向かう。
 手紙を読んだレイドはフレーレと再びギルドへ赴き、対策が無いか話し合うつもりだった。

 だが、ギルドの対応は……。
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