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第四部:ルーナの秘密

その79 標的

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 「こんにちはー」

 ギルドの扉をくぐると、相変わらず新聞を読みながら座っているイルズさんに出くわした。ホント、いつも同じ格好なんだけど……。

 「ん、ルーナちゃんか! 霊峰から戻って来たんだな! ちょ、ちょっと待ってくれ」

 慌てて裏へ戻り、今度はファロスさんを連れて戻ってきた。
 
 「やあ、無事に戻って来たようで何よりだ。……ここじゃアレだ。こっちに来てくれ」

 ファロスさんに案内され、奥にある会議室へと通される。冒険者にはあまり馴染の無い部屋だったりするので緊張する。

 「みんなかけてくれ。……それで、結果は?」

 レイドさんは座らず、ドアの横の壁に背を預け話を聞いていた。剣は持っているけど、私とフレーレと同じく普段着だったりする。
 ファロスさんに言われて私が説明を始める。

 「は、はい! 霊峰へ行って、不死鳥に会うことができました。それで……」
 私が合図すると、アントンがフードを取って顔を晒す。それを見てファロスさんとイルズさんが一瞬強張ったけど、すぐに元に戻り話を続ける。

 「……アントンと、メルティという子の蘇生は成功しました」

 「なるほど、成功したのなら喜ばしい事だよ。それじゃアントンに質問だ、いいかな?」

 「ああ、俺が答えられる事ならいいぜ」

 ファロスさんが満足そうに頷き、質問を始める。

 「まず、お前がここに居る理由だ。どうして鉱山から出てきている? 脱獄など到底出来そうもない」

 「……まあ、最初に聞きたいだろうな。ルーナの件と合わせて話すとしようか……」

 アントンの話を聞いて全員が驚愕する。

 まず、アントンの目的。それは私の誘拐というとんでもない物だった。
 そしてそれを依頼してきたのは……何と、エクセレティコ王国の国王だと言うのだ!
 
 顔を隠して町に潜入して私を探していたけど見つからず、しばらくメルティちゃんの家へ滞在していたが、その昔アントンを誘拐したゲルスという男がメルティちゃんを傷つけ、仇と復讐のため戦闘になったそうだ。

 「……で、俺が持たされていた黒い卵からドラゴンが現れ、その後はお前達も知っている通りってわけだな」
 
 メルティちゃんもアントンもゲルスに回復魔法を反転させられて、死んだと。

 「そんな事があったんですね……」
 
 フレーレが俯いて呟き、イルズさんがそれを遮るようにアントンへ話しかける。

 「簡単に言うが、かなりの大事だぞ。まさか国王が……」

 「予想だがゲルスにいい様に使われているだろうな? ゲルスの目的がルーナで、国王にも益があるような話をしたんだろうぜ、俺もあの野郎の言葉には何度も騙されたからな……」

 アントンが吐き捨てるように言い、顔を顰める。誘拐された時の事を思いだしていたに違いない。
 
 「ううむ、問題は三つ。まず国王がそうであると言う確証が無い。次にアントンの話が真実なら、アントンが生きている事は非常にマズイ。そして最後だが、この話を聞いた我々の身も危ないということだ」

 ファロスさんが神妙な顔で全員の顔を見ながら告げる。
 それを聞いてアントンの顔が青くなっていった。え!? それくらいは考え得ることでしょうに……。

 「一番まずいのはやっぱりルーナちゃんか」

 レイドさんが相変わらず腕を組み、気難しい顔で呟く。
 狙われている身としてはそう言ってもらえるのは嬉しい。

 「そうだな。この後、ギルド内で国王の事をどうするか考えよう。とりあえずアントン、情報をありがとう。ドラゴンも町に来る前に倒してくれたようだし、ギルドを代表して礼を言う」

 頭を下げるファロスさんを見て、ぎょっとするアントンがしどろもどろになりながら慌てて頭を上げてもらうよう頼んでいた。

 「よ、よしてくれ! 俺ぁ、俺の為にやっただけだ……褒められたもんじゃねぇよ」

 「ふむ、以前とは違うようだな。何か心変わりするきっかけがあったと見える」
 イルズさんが「少し前なら、自慢くらいはしてるだろうな」と付け加えた。

 その言葉を聞いてアントンは目を瞑って深呼吸をし、話し始める。

 「俺は誘拐されてから、何もかもが嫌になっていたんだよ。人に騙し騙されは日常茶飯事だった。その内保身ばかりが先立つようになって……あの時も命惜しさに逃げたってこった……」

 「それが、メルティちゃん達と会って何か変わったの?」
 私が聞いてみるとアントンは私の方を向いてフッと笑った。

 「そいつは今回の話とは関係ねぇから話す必要はねえな。まあ少なくとも前みたいに、見捨てて逃げたりはしねえ。レイドさんに誓ってそれは言える」

 「え? 俺!?」

 まさか名前が出てくると思っていなかったレイドさんが驚き、それを見て皆が笑っていた。

 「後、ここまで話が大きくなったので、私の秘密を聞いてもらえますか?」

 「ん? どうしたんだい?」

 「実は……」


 私は女神の封印を解いている事、そして体に女神アルモニアが内包されている事を伝えた。
 腕輪、リング、クロスを持ちこれからも解いていき、それがパパに繋がるという事まで全て。

 「驚いたな、そんな事になっているとは。ルーナちゃんのお父さんは名前を聞く限り魔王を倒した勇者だし、レイドの妹も生きているなんてな……」

 「ええ、だから俺はルーナちゃんについて行って女神の封印を解く必要があります」

 「ま、それは冒険者としての活動だからルーナちゃんがいいと言えば俺達は止められん。ではファロスさん、早速……」

 「そうだね。じゃあ悪いんだけどこれで解散だ。アントンは生きていることを悟られないよう注意して生活するんだ、王都へ移送しようかと思ったが、国王が黒幕の可能性があるのでは話にならん。処遇はもう少し待ってくれ。また何かあれば皆に話を聞くかもしれない、宜しく頼む!」

 ファロスさんが締めて、私達は会議室を後にする。
 外で待っていたレジナ達がてくてくとやってきて、合流し一旦ソフィアさんの家へ向かった。



 ---------------------------------------------------


 <アルファの町 会議室>





 「……どう思います?」

 「あの様子と、ルーナちゃん達の証言からアントンが嘘を言っているとは思いにくいが、調査は必要だな。話に出てきたゲルスと言う男が怪しいからまずはそこからか。フォルティスに依頼しよう」

 「ギルドの正式な依頼としてですか?」

 「そうだ。我らは国に属しているが、国がおかしな方向に向かおうとしている時はその限りではないからな」

 そんな日は来てほしくなかったがな、と、ファロスは呟く。
 ギルドには『特権』があり、国に必ず従う必要が無く、国や国王、その家族が悪と判断された場合は現体制の解体や、入れ替えなどを行うよう申し出を行う事ができる。

 ビューリック国にはこの制度が無いため、エリックは独自にクーデターを起こそうとしているのだが。
 

 「では早速フォルティスを呼びましょう」

 「後はレイド達にも動いてもわねばならんかもしれんな。ルーナちゃんを囮にするとか」

 「ファロスさん、それは……」

 「分かっている。最後の手段としてくらいの考えだ、職員を集めてくれ、皆にも話をして意見を聞こう」

 
 他のギルドにも協力を仰がねばと思いつつ、考えを巡らせるファロス。
 
 ルーナ達は一時休息が出来るかに見えたが……。
 
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