上 下
55 / 377
第四部:ルーナの秘密

その77 到着

しおりを挟む

 不眠不休で走りつづけ、国境を難なく通過した私達。

 五日はかかる道中をわずか三日で戻ってきたのはブルルとアップルのおかげと言える。この子達にも何かご褒美をあげないとね!
 
  時間は惜しいけど、二頭も休まない訳にはいかないので休憩を挟みながらご飯を食べ、ついにアルファの町への帰還を果たしたのだ。

 「おい、そこの馬車!」

 南側の門番さんが猛スピードで突っ込んでくる私達の馬車を止めようとするが、勢いがついているので門の前で止まれなかった。

 「すまん! ブルル、アップル、どう! どう!」

 門から少し進んだところで止まり、門番さんが慌てて走ってくるのが見えた。
 
 「な、なんだレイドか……どこの賊が攻めて来たのかと思ったぞ。確認した、もう行っていいぞ。ってお前等ボロボロだな、大丈夫か?」

 門番さんが訝しげな顔をして、頭を掻きがら持ち場へと戻って行く。
 いやあ、この三日は追手を警戒しながらほとんど寝てないから目にはクマ、髪はぼさぼさで私とフレーレは女の子としてはちょっとヤバイ感じになってるなとは思っていた。

 「俺は馬車を置いてくる! ルーナちゃん達はアントン達の所へ!」

 「はい!」
 
 <まだ時間はあるはずじゃが急ぐぞ!>

 一旦レイドさんと別れ、その足でソフィアさんの家へと向かう。馬車を乗り付けられる場所ではないのでこれは仕方ない。
 まだレジナは目を覚ましていないので、私が背負って走る。フレーレの顔も疲労が濃いので、そろそろ限界のハズだ。そんなことを考えていると、フレーレの足がもつれた。

 「だ、大丈夫です早く行きましょう!」

 「きゅーん……」

 早く到着することが休むのに一番早い近道だ。そう言い聞かせて無言で住居区へと向かった。


 ---------------------------------------------------



 バタン!!

 「戻りました!」

 「ルーナさん! それにフレーレさん!」

 ソフィアさんが乱暴にドアを開けた私達を見て驚きの声をあげる。
 横に居たメアリちゃんがびっくりしてソフィアさんの足にしがみついていた。


 「あ、あらあら、そんなにくたびれて……。はい、お水ですよ」

 「あ、ありがとうございます……んぐ、んぐ……」

 「そういえば昨日から何も飲んでいませんでしたね」

 一気に水を飲みほして、一息ついた。

 「早かったですね? もっとかかるとファウダーさんが言ってましたのに」

 「色々ありましたけどね……。でもちゃんと不死鳥の血は持って帰りましたから!」

 <ぴー。そうよ、あたしに感謝してよね?>

 「あら、可愛い小鳥さんね? 感謝ってことは……不死鳥さん?」

 あまり驚かないのね、ソフィアさん。ジャンナさんを撫でながら、うふふと笑っていた。
 
 「さ、それじゃあアントン達の部屋へ行きましょう」

 <ファウダー、戻ったぞ>

 <あら、ファウダーちゃんも居るのね!>

 すると凍結されていたドアが元に戻り、ギィっと開いた。
 中へ入ると机の上でファウダーがちょこんと座っており、静かに話し始めた。

 <や、早かったね。二人はこの通り、出発した時のままだ……ジャンナもいるようだし、ひとまず蘇生ができそうだね?>

 <久しぶりね、ファウダーちゃん! 元気だった!>
 ジャンナさんは私の肩からパタパタとファウダーの元へ飛んで行き、ファウダーにすりすりと頬を寄せていた。

 <はあ、相変わらずだね、ジャンナ……まあ久しぶりだしいいけど……それじゃあやるかい?>

 「ええ、二人の凍結を解いてもらっていいかしら?」

 <あいよ……これでOKだよ>

 パァっと二人の体が光り、霜が取り払われた。傷口もそのままなのでフレーレが顔をこわばらせていた。
 それでも目は逸らさないところがフレーレらしい。

 いよいよ蘇生開始だ。


 <それじゃあ、レジナの時と同じでまずは飲ませて。二人とも死亡しているから、みたいなもので流し込めばいいわ>
 
 レジナは息があったが、二人はすでに死んでいるので喉の奥までは飲み込めない。
 ソフィアさんが持ってきてくれたので、まずはアントンに飲ませる。


 <次に血を傷口に。血で傷を覆うような感じで塗るのよ>

 私は頷いて、二人の傷へジャンナさんの血を塗りこむ。するとすぐに血が硬化を始めていた。
 そこでレイドさんが部屋へと駆けつけて来た。

 「はあ、はあ……始めていたか……。どうだい……?」

 「今、治療を終えたところです。レジナはこれで呼吸が落ち着きましたけど二人はまだ変化が……」
 フレーレが説明していると、段々二人の顔に血色が戻って行く様子が伺えた!
 
 「心臓は……!」

 私がメルティちゃんの胸に耳を当てると少しずつ鼓動が聞こえてきた。ついでにアントンの心臓も鼓動が聞こえてくる事を確認した。
 良かった……! これで目を覚ませば!

 「ああ……メルティ!」
 いよいよ息を吹き返し、呼吸始めた娘を抱きかかえ泣いていた。

 <後は目を覚ますのを待つだけじゃな。いつになるか分からんから今日の所はわらわ達も休もう>

 「ああ、そうだな。しかし、不死鳥の血はすごいな……」

 <もっと褒めていいわよ?>

 <すぐ調子に乗るんだから……>
 ファウダーがジャンナさんを引き離そうとしてながらそんな事を言っていた。
 
 「それじゃ今日は宿で休みましょうか……つ、疲れたー!!」
 
 「今回はホントに危なかったですしね……」

 「レジナも起きてくれないかな……まだ起きないし……」

 「そうですね、でも息はありますしもう少し待ちましょう」

 チェイシャ達はソフィアさんの家で待つと言うので、私、フレーレ、レイドさんとレジナ達で宿へと向かった。

 

 ---------------------------------------------------










 -????-




 「わふ」

 「わ! 犬さん?」

 「もぐもぐ……狼だそりゃ。というかでけぇな、どっから出て来たんだ? ん? その首にあるスカーフ見たことあるな……」

 「ガウ!」

 「うわ!? なんだよ! 引っ張るなって!?」


 <ああ、ここに居ましたか。突然走り出すからびっくりしましたよ? 丁度いい、あなた達は蘇生されたようです。おめでとうございます!>


 「は? マジか?」

 「そせいって何? お兄ちゃん?」

 「ああ……俺達は生き返れるらしい……一体誰が……? おい、俺達二人ともか?」

 <正確に言えばその狼さんもですね。もう生き返れる手はずは整っていたのですが、中々帰ってくれなくて……はい。それじゃ、お食事中申し訳ありませんが、こちらへ>





 「ここから……?」

 「わふ……」

 「真っ暗だよ?」

 <真っ暗です。さて、本題ですがこの穴を通ってもらうと目を覚ますことができます。通っている間は後ろを振り返ってはいけませんよ? くれぐれもご注意を。はい、それじゃ次は寿命で会えるといいですねー>


 二人と一匹は暗闇の中へと突き飛ばされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者の転生実験

東国不動
ファンタジー
※書籍の第二巻が書店で好評発売中です! 是非お読みください。  不遇の高校生桐生レオはある日、謎の声に導かれて異世界に転生する。彼を転生させたのは、異界の知識で新たな魔法を生み出さんとする大賢者。  大賢者の息子として剣と魔法の世界に転生したレオは、父の魔法を教わる代わりに自分の持つ現代科学の知識を提供することに承諾する。ツンデレ妹に元王女の母、さらには猫型獣人の少女らに囲まれて幸せな第二の人生を満喫するレオ。一方、大賢者はレオから得た現代兵器の知識によって密かに全く新たな魔法群を開発していた。強大な力を求める大賢者の真意は一体?   先制発見、先制攻撃、先制撃破―現代兵器の戦術理論を応用した反撃不能の「兵器魔法(ウェポン・マジック)」が起動する時、少年の運命が動き出す!

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

森蘭丸の弟、異世界に渡る<本能寺から異世界へ。文化も人体も違うところで色々巻き込まれ、恋も知る?>

天知 カナイ
BL
【三章完結しました】本能寺の夜、信長と兄乱法師(森蘭丸はこちらの名を使っています)の痴態を見てしまう、森力丸長氏。美しい兄の乱れた姿に驚きながらも、情愛がのる閨事とはどういうものか、考えながら眠りにつく。だがその後本能寺の変が起こり、力丸(リキ)も戦うのだがその途中で異世界に飛ばされる。 【三章開始時点でこちらの内容を変更しました】 飛ばされた先でアヤラセという若者に出会い愛し合うようになるが、リキが性交(セックス)することによってどんどん色々な事が変化することになり戸惑いを感じてしまう。 アヤラセに執着する兄ライセン、アヤラセの親であるランムイとヤルルア、そして異様な過程で生まれた新生物ユウビなど、様々な人々と関わり時に運命に翻弄されながら、飛ばされた世界で必死に生きていく。 セックスありきで話が展開する部分がありますので、今見てみると結構エロ展開があります(三章1話現在)。独自設定があります。この世界の人たちは雌雄同体です。全員陰茎ありですし主人公は男なのでBLにしています。また、女の人同志的に読める展開もありますし、進行上残酷、凌辱シーンもあります。 最終的にはハッピーエンドになる予定です!

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?! 

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。