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第四部:ルーナの秘密
その72 神殿
しおりを挟む<2日目 夜>
「ぜー……ぜー……」
バタンキュー。そんな音がするくらいの勢いで私は2つめの山小屋で倒れ込む。
ペースと時間を考えると私がまともなら夕方くらいには到着していたと思われるだけに悔しい……。
「ふう、結構登りましたねー。ルーナにはちょっときつそうですけど」
「まあ、せめて体力が普通ならね。それもそうだけど、チビ達が雪をみてはしゃいでいたのも困ったよ」
そう、レジナ達が元々住んでいた北の森でも積もらない雪が途中からちらほら見られ、シルバとシロップが雪に突撃し遊び始めたのだ。
「可愛かったけど、力尽きちゃったからねえ」
「きゅん……」「きゅーん……」
<止めておけとあれほど言ったのに……>
チェイシャお姉さんの言う事を聞かず、雪まみれになってはしゃいでいたが、そこは山登りもしているので、体力はじわじわ削られる。
途中で力尽きて、シルバはレイドさん、シロップはフレーレに抱かれて登って来たのだ。
「明日はちゃんと歩くのよ? 私もだけど……」
「「きゅんっ」」
二匹がお座りをしてちゃんと返事をしたので、とりあえず一撫でして休憩する。
<ほれ>
ボフッ!
昨日採った火焔茸が今日も役に立つ。
「あ、少ししたら私がやるわよ」
「わたしの方が体力が残ってますし、これくらいいいですよ」
「だ、ダメよ! 魔物とも戦ってるんだから、それくらいさせて!」
私はフレーレを座らせて台所へ立つ。滋養強壮……滋養強壮……自称強敵……。
持っている食材を見て、私は料理をする。
「ピザと……豚汁ですね?」
「……栄養ばかり気にしてたらつい……」
チーズとサラミでタンパク質を、豚肉と野菜で栄養をと思ったらこうなった。おにぎりでよかったよねー……。
「食べ合わせはアンバランスだけど、美味しいよこれ」
レイドさんが豚汁をすすりながらそう言ってくれ、フレーレもピザを食べながら微笑んでくれた。
ピザは、パンに食材を乗せて串に刺してから炙る感じで作ったのだけど、結構いい出来だった。
「はふ……これで後はよく寝ればきっと大丈夫でふよ」
「そうね……ふふ、空気がこんなに美味しい物だったなんて……」
「大丈夫かいルーナちゃん?」
<ほっといて平気じゃろ。豚汁おかわりー>
「きゅん!?」「きゅーん♪」
みんな優しかった。
あ! サラミを取り合いしている!? いつの間に!?
「こぉら! 切ってあげるから貸しなさい!」
「きゅん♪」
取られそうになっていたからか、シルバが尻尾を振って大喜び。お兄ちゃんしっかりね? ああ、妹には頭が上がらないって言ってたし、レイドさんに懐いてるのはそのせいなのかな?
今日は早々に食事を切り上げて就寝した。
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<三日目 朝>
「よっし! 元気出てきた!」
「あまりはしゃぐと疲れますよ?」
フレーレが呆れたように言ってくるが、昨日はぐっすり眠れたのだ! 山に少し慣れてきたのかも?
「なら最初は少しペースを上げよう、昼食どきに一旦様子見だな」
そしてまた登り続ける。チェイシャは気を使って足元で歩いてくれ、チビ達もフレーレと一緒に先頭を歩いていた。
昼食を取るため一旦休憩をすると、チェイシャが鼻を鳴らして呟いた。
<……近いぞ、ジャンナの気配を感じる……>
「もう少しかかりそうだったけど、早かったわね?」
<今日の行軍は割と早かったからじゃろう。昨日の遅れは取り戻せたと思う>
良かった……杖を必死でついて登ってきたのがちゃんと意味があって……。
まあ、今日はホントに調子いいんだけどね!
「でもルーナの調子が良いの、ちょっと怪しくないですか? ウイルーナと考えても良すぎる気がするんです」
「え!? 疑われている上にまたそんな単語を!? まあ確かに迷惑をかけたくないって決意はあるけど……」
<女神の力が近いから、とは考えられんか?>
なるほど……腕輪とかリングが何らかの力を発揮しているとかかしら?
魔力は戻ってないけど、体は少し軽い気がするのよね。
「それならそれで、悪い事じゃないさ。目的地が近いなら急ごう!」
昼食を片づけて今度はチェイシャを先頭にして前へと進む。
そろそろ夕方に差しかかろうとした時、チェイシャが横道へと逸れる。
「どうしたの!」
<この先じゃ! ヤツの気配が濃い!>
草むらを分けて進むと、切り立った崖が見えてきた。
見上げるとかなり高い。
「なんだ、神殿か?」
「みたいですね。女神の力か不死鳥の力か分かりませんが、神聖な力を感じます」
<どうする? 明日突入するか?>
「中はどうなっているか分からないのかい?」
チェイシャは首を振って、そこまでは分からんと言って肩を竦めた。
「神聖な力を感じますし、中で休んでも……いいえ中で休んだ方がいいかもしれません。もし暗くても≪ライティング≫ならわたしが使えますし」
フレーレは確信を持って私達に告げる。ここは従いましょうか!
「よし、ここよりも魔物の遭遇率が減るならいいな。突入しよう」
ダンジョンみたいに祭壇があるのか……完全に迷宮なのか……いよいよ不死鳥と対面する時がきた。
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<三日目 昼>
「ライノス殿、騎士団が見えられました!」
「ありがとうございます! 出迎えに行ってきますね」
ようやく騎士団が到着し、ライノスが入り口へ駆けつける。これで後は誘拐だけ……一番重い仕事に気を揉みながら、責任者と対面し、ライノスが驚く。
「お、久しぶりだなあ、ライノス。エレナちゃんは元気かー?」
「エ、エリックか!? どうしてお前がここに!?」
「どうしてって酷いなー。俺が責任者だからに決まってるだろ? つっても副長だけどなー」
「……そうか、出世したんだな。とりあえずこっちに捕縛してある野盗達を頼む」
「そうだな、先にそっちを処理しようかー」
のんきな喋り方をするこの男はライノスと同じ士官学校の生徒だった。二人とも戦闘技術は高く、騎士団も安泰だと言われて来ていたが、ライノスはエレナが国王に目をつけられ暗部的な役割をすることになりエリックとは段々疎遠になっていったのだ。
「……こいつは、オーガ?」
「いや、元々人間だったらしい。何かの実験でこうなったと言っていたらしいが、本人は口を割らんのだ」
エリックが近づくと、ニヤニヤと笑うボスの表情が曇る。ボスの視線は鎧の左胸にある国の印にあった。
「て、てめぇその印は……!」
「まあビューリックの騎士だよねー、常識的に考えると。……実験ねえ、あのクソ野郎が噛んでるの? そうだな……『ゲルス』って名前に聞き覚えはどうだー?」
ライノスが「?」を出して会話を聞いていたが、ボスは冷や汗を垂らしながら目を泳がせた。しかしそれがエリックに確信を持たせる。
「……ビンゴー。なあライノス、もう一回聞くぞ。エレナちゃんは元気ー?」
「エレナは……城に幽閉されている……たまに会う事はあるが……」
絞り出すように答えたライノスを見て、そっかそっかとエリックは破顔し、肩をぽんぽんと叩く。
「俺に良い考えがある!」
いい笑顔でライノスとボスを見ながらエリックは叫ぶのだった。
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