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第四部:ルーナの秘密

その63 歓迎

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 「あれが村長の家か」

 「さっきの人の話だとそうみたいですね、早い所引き渡してしまいましょうか」

 レイドさんとライノスさんが野盗達を引っ張り、先を歩く。私達は一番後ろに着いて挟む形で追従していた。
 
 「すいません、村長さんはいらっしゃいますか?」
 玄関先で声をかけると、少し陰気なおじさんが出てきた。ジロリと私達を見渡すように目を動かす。

 「……何の用かね? わしが村長のダラムだが」

 「ああ、村長さんでしたか。実は村へ来る途中に野盗を捕まえましてね、処遇をどうしようかと……。それと俺達は霊峰へ登りたいんですけど、どうすればいですかね?」

 村長……ダラムさんがレイドさんの後ろにいた野盗を見て目を見開く。すると突然態度を変えてレイドさんへ話しかける。

 「おお! 最近この辺りを荒らしまわっている者どもですな! ありがたい事です! ここではなんですからささ、中へ……」

 「(急にどうしたんだろうね?)」

 「(さあ、野盗に本気で困っていたのかもしれませんよ?)」

 それにしても変わりすぎな気がするけど、ね?

 
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 「野盗どもは若いものに詰所へと連れて行かせました。ささ、お座りください」

 「ありがとうございます! やっぱり野盗に困ってるんですか?」
 村には似つかわしくないなと思える高級そうなソファへ座り、私は村長さんへ聞いてみる。

 「そうですな、この村は不死鳥と特産品を求めてくる冒険者が来てお金や食料を得ていたのですが、ここ2ヶ月くらい前から野盗が蔓延るようになりましてな……。噂が噂を呼び、人があまり寄り付かなくなってしまったのです」

 「酷いですね……。救援要請は?」
 フレーレが聞くと、村長の代わりにライノスさんが答えた。

 「ビューリック国……城下町にギルドがあるんだけど、そこで討伐依頼は出ているんだ。ただ、何人か出向いたみたいだけど返り討ちにあったみたいでね。オレがとりあえず様子見をしにきたって訳なんだ国も腰を上げたから騎士団が来ることになっていてね。2,3日後にはオレと合流予定なんだ。だから村長さん、もう少し我慢ですよ」

 ニコっとダラムさんに笑いかけたライノスさんだが、それとはうらはらにダラムさんはビクッとして苦笑いを浮かべていた。

 「い、いやあ……はは、頼もしい限りですな……! そ、そうだ! 野盗を捕えてくれたのも何かの縁。是非ウチで歓迎会を行いたいですな!」

 「いえ、俺達はたまたま出くわしただけなので……それで霊峰へも道なんですが……」
 
 「オレも、そういう気分では……ダラムさん、野盗のアジトに心当たりはありませんか?」

 私達はアントンとメルティちゃんの蘇生、ライノスさんは野盗の撲滅と割と急ぎの案件を抱えているので、あまり緊張感を和らげたくないと思う。

 「ええ、ええ存じておりますとも。その話も含めて食事の席を設けたいと思うのです」

 「そういうことなら……出発は明日だしな……ルーナちゃん、フレーレちゃんどうする?」

 「うーん、霊峰のお話を聞けるならいいかな? ねえフレーレ?」
 何となくダラムさんは食事をしながら話したそうなので、急いではいるけどここで乗らずに拗ねられても困ると判断したのだ。

 「そうですね、夜の山は危ないと言いますし、すぐに出発しないこともありますし、わたしはいいと思います」
 
 「ありがとうございます。そちらの方は?」
 
 「……なら俺も参加させてもらおうかな、野盗の事知っていることは何でもいい、教えてくれ」

 「分かっておりますとも。話は聞いていたな、みな頼むぞ」
 横に居たお手伝いさん達がおじぎをしてそれぞれ散っていく。今から準備をするんだろう。

 「それでは二時間ほどしたら準備できると思います。それまで村でも見てやってください」
 
 ダラムさんも引っ込んでしまったので、私達は外に出る事にした。家主が不在の家って居辛いよね?
 外で待っていたおチビやレジナが待ってましたとばかりに足元へまとわりつく。

 「はいはい、大人しくしてた? 私達、村長さんの家で歓迎を受ける事になったから、先にあなた達にご飯をあげないとねー」

 「そうですね、いつ終わるか分からないですし」

 「宿へ戻るかい? 俺は少し村を見て回ろうと思うんだけど……」
 
 「今までは無事みたいですが、野盗がいつ村を襲わないとも限らないですし、オレも着いて行っていいですか?」
 レイドさんとライノスさんは村をぐるりと回ってくるそうだ。

 「じゃあ私達はその辺の広場でレジナ達にご飯を上げてますね!」

 「分かった、何かあったら大声で叫んでくれ」
 片手をあげてライノスさんと移動するレイドさん。さて、それじゃあ食事を用意してあげますか。

 「ん? みんな何見てるの?」

 焼いた肉を温めなおすために、串にさして火の魔法で炙っていたところ、珍しくこっちを見ていないことに気付いた。視線の先には……。


 「「コケーコッコッコ……」」
 「「ぴよぴよ……」」

 ニワトリ小屋があった。

 小屋の中にはニワトリがたくさん飼われており、さらにひよこもいっぱい居た。
 親鳥の後を着いて行く姿がとても可愛い。

 「ずいぶん熱心に見てるわねー。あ、そうだニワトリ飼ったらどうかな?」

 「急にどうしたんです?」

 「雌なら卵を産むじゃない? タダで朝の食事が潤うかもと思うといいかなーって」

 「……卵は確実に産むわけじゃありませんし、餌代もかかりますよ? それと、おチビ達が熱心に見ているのは、多分……餌として見ているんじゃないかと……」

 フレーレが気まずそうに言うのでレジナ達を見てみると、確かに少し涎が出ていた。焼いた肉も好物だが、動く獲物を捕らえるのが好きなのでニワトリは絶好の獲物に違いない。

 「コ、コケー!?」「ぴよ?」

 視線に気づいた母鶏が慌ててひよこをお腹の下へ隠す。こっちは狼と狐だもんね、天敵と言えばそうだね。

 「そっかあ……ウチには肉食獣が居るから無理ね」

 「冒険者がニワトリと一緒に冒険するのは難しいですし、どちらにせよ無理だと思いますよ」
 フレーレが苦笑しながらそんな事を言う。確かに、ニワトリを守りながら戦うのは難しいか。

 <わらわは生肉より料理されたものが食べたいぞ>

 「涎を拭いてから言いなさいよ……」

 「きゅん♪」「きゅんきゅん♪」

 ニワトリは小屋の中なので、興味を失くした二匹が焼けてきた肉へ群がってきたのだった。
 しばらくニワトリを眺めていたり、ボール遊びをしていたが時間になったのでダラムさんの家へ戻ることにした。


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 「ささ、大したものはありませんが、召し上がってください! お酒もご用意しておりますぞ」

 「あ、いえ。明日から登山になるのでお酒は……」
 私がやんわり断ると、残念そうに酒瓶を引っ込めた。

 「左様ですか……ま、まあ食事をどうぞ召し上がってください」

 村の特産品だと言う「マツタケ」を使った料理がずらりと並んでいた。
 何でも霊峰側の山肌でしか採れない貴重品で、良い物だと銀貨五枚から金貨一枚くらいする代物だそうだ。

 「ひええ……一本金貨一枚……」

 焼いたマツタケを食べながら何となく恐れ多い気持ちになる。
 その他、マツタケのパスタや東方料理の茶わん蒸しやマツタケご飯などを頂いた。どれも美味しくてつい手が伸びる……その内レイドさんが本題を切り出していた。

 「それでダラムさん、霊峰へはどうやって行けばいい? さっき村を回ってきたが、大仰な門があった。そこからか?」

 「そうですな、あなた方が来た入り口から真っ直ぐ進むとそこへ到着するのですが、そこで間違いありません。明日、出発する時に声をかけていただければ開けますのでよろしくお願いします。それと野盗ですが、アジトなどの情報は分かりません。先ほど捕えた者を尋問していますが吐きそうにありませんな」

 顎に手を当てて、二人が聞きたかったことをあっさりと話す。
 
 「そうか、助かる。ライノスはどうするんだ?」

 「オレはここで騎士団が来るのを待ちます。帰りはまた村に寄るんですよね?」

 「そうだな、ブルル達は村に置いてもらうつもりだから帰りは一度寄ることになるだろう。俺達が戦った奴等はそう強くなかったが、油断するなよ?」

 ライノスさんは着いて来てくれないかあ。居たら助かるんだけど、危険な所だし報酬も無いから来てほしいとは言えないよね。

 「ふう、いっぱい食べましたね……何だか眠くなってきちゃいました……」
 フレーレがお腹をさすりながらそんな事を言いだした。目的は達成したし、そろそろ戻ろうかな?

 「はは、気持ちのいい食べっぷりでしたな。湯を沸かしてありますので、お風呂は如何ですか? 霊峰は火山でしてな、その地熱を利用したお風呂が温泉みたいだと評判なんですよ。マツタケと合わせて村の名物です」

 「お、温泉、ですか! う、うーん……眠いけど……」

 「私も一緒に入れば眠っても起こせるわよ、行きたいんでしょ?」

 「え、ええ。いいですか?」

 「結構馬車で長旅だったしね、私も少し浸かりたいなって」
 
 「それではご案内しましょう、こちらへ」

 ダラムさんが部屋の奥へと案内してくれる。レイドさん達に一言声をかけ後を着いていく。

 「ゆっくり入っておいで。俺はここで待ってるから」


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 「いい湯ね……」

 「ゆっくり眠れそうです……」

 すでに夢心地のフレーレが、お風呂のへり頭を置いてにへらっと笑う。
 
 「フレーレを見ていたら私も眠くなっちゃったわね……おチビ達大人しくしてるかしら」

 「チェイシャちゃんが一緒ですからねえー大丈夫れすよー」

 いよいよ呂律が怪しいフレーレに苦笑したが、違和感に気付く。

 「……ずいぶんと甘い匂いがする?」

 いつの間にか甘ったるい匂いがお風呂場の中に充満していた。
 それに気付いた私も急激な眠気に襲われる。

 「これは、何? フレーレ、フレーレ!」

 「……」

 「し、しっかりして……」

 お風呂の縁でぐったりとして動かなくなったフレーレの肩を抱いて湯船から出るが、動けたのはそこまでだった。
 私も意識を手放したのだった。




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 「……こりゃ上玉じゃねぇか、でかしたぞ村長」

 「代わりの女はこれで良かろう……さ、娘を返してくれ……」

 ダラムが手引きし、ルーナとフレーレが倒れる風呂場へと野盗達が現れる。
 村はすでに野盗の手に落ち、支配されていたのだ。


 「兄貴、こっちの女は背中に傷がありますぜ、こっちの黒髪の娘は胸に傷が」

 「おっと、そりゃ商品価値が下がっちまうな? 残念だ村長、お前の娘は返せないなあ」

 「な、何!? 話が違うじゃないか! げふ!?」
 ダラムが反論しようとしたところで腹を殴られ、悶絶する。

 「これからもよろしく頼むぜ? 強い冒険者は村へ引き入れてから黙らせりゃあいい。女を連れて行け」

 へい、と部下たちが返事をし、ルーナとフレーレが担いで姿を消す。


 「あ、ああ……すまん、すまんお嬢さん方……」

 風呂場にはうずくまって涙を流すダラム一人が残されたのだった。

 







 





 『うふふ』
 

 
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