上 下
39 / 377
第四部:ルーナの秘密

その61 野盗

しおりを挟む

 「ありがとうよ。あんた達、フジミナの麓の村へ行くのかい?」

 「ええ、ちょっと山登りへ……」

 翌日、街道で一休みしていると、行商さんが通りかかり何か買わないかと声をかけてきた。
 食料などは詰んできたのでそれほど困ることは無いが折角話しかけてきてくれたので商品を見せてもらうことに。水とちょっとしたお菓子を買った所で行商さんが聞いて来たのだ。


 「山登り……あそこは不死鳥が居ると噂になっているから、冒険者が行きたがるのは分かるけどな。でも、最近山の近くで野盗が出るそうなんだわ、お嬢ちゃん達、可愛いから気をつけなよ?」

 そんな物騒な事を言って行商さんは去って行った。ビューリック国の城下町にあるお店へと戻るのだとか。
 
 ちなみにフジミナはビューリック国境を越えた先にあるため、ガンマの町を通り過ぎ、もう少しで国境を越える。
 麓の村までは一週間ほどかかり、帰りに一週間かかると考えると、探索にあまり時間をかけられない。
 遺体は安置しているが、魂が消えてしまう可能性が高いから急いだ方がいいとファウダーが言ってたしね。
 

 「ね、ね、レイドさん、私達可愛いんですって!」

 「あ、ああ、良かったじゃないか」

 私が詰め寄るとレイドさんが後ずさりしながら、答えてくれた。
 
 「ダメですよレイドさん。女の子はきちんと口にしてくれた方が嬉しいんですから。呆れらレイドさんになっちゃいますよ?

 フレーレが何故か得意げに言う。というかもう隠す気は無いようだ……。ついにレイドさんまで……。

 「む、そ、そうなのか? 俺はこういうのには疎くてな……というか呆れらレイドって……」

 「まあ、レイドさんが女の人と歩いている所とか見た事ないですもんねー」

 アントンや侯爵さまと違い、レイドさんはレイドさんなのだ。だからこそ安心して一緒に旅ができるわけなんだけどね。

 「それにしても野盗か、気になるな。そろそろ森の中へ入るから十分注意して行こう。お前達も怪しい気配を感じたら知らせるんだぞ?」

 「わふ!」「きゅん!「きゅきゅーん!」

 <わらわは幌の上で見張りでもしようかのう>

 休憩が終わり、出発した時はレジナがブルル達と並走し、チェイシャが屋根の上で丸まっていた。
 私とフレーレ、おチビ達は後方の見張りをしながら森へと入っていく。

 嫌な予感は当たるもので……。



 ---------------------------------------------------


 

 ヒュ!! ヒュユン!!

 進行方向に矢が飛んできてレイドさんが馬車を加速させた!

 しかし馬の前に矢が刺さり、急停止するはめになった。

 矢が途絶えるまで馬車の中で身を隠していた。矢は幌には届いていない。

 静かになったので外に出ると五人の男達が馬車を囲んでいた。

 「馬は高く売れるからな、傷つけるんじゃねえぞ? ……おお、女が二人もいやがる! こりゃラッキーだな、頭に顔を覚えてもらうチャンスだ!」

 いかにも野盗、といういでたちに、無精ひげを生やした男がそんなことを喋っていた。
 他の四人もニヤニヤと私とフレーレをじっと見ていた。うう、気持ち悪い!

 「……お前達がこの辺を荒らしている野盗のようだな。俺達は先を急ぐ、このまま逃げるならよし、向かってくるなら……容赦はせんぞ?」

 いつの間にか剣を抜いてリーダーらしき無精ひげを睨みつける。
 それを見ていた男の一人がさも愉快そうに声をあげはじめる。

 「はっ! こっちは五人いるんだぜ? お前ひとりでお嬢ちゃん達を守りながら戦えるってかあ?」

 「……そうだな、俺はそれが出来るぞ? まあ、俺の手助けは要らないと思うけど?」

 む、流石レイドさんカッコいい。すでに私とフレーレには補助魔法をかけ終わっている。
 後はどう攻めるかだが……。

 「チェイシャ! お願い!」

 <任されたぞ>

 私の声で屋根に居たチェイシャがレイドさんの近くに居た男を魔法弾で攻撃し、顔面に直撃した。
 
 「ぐわ!?」

 「ふん!」

 すかさずレイドさんの剣が男の腹を薙ぎ呻き声をあげて倒れた。
 
 「えい!」
 チェイシャが声を上げた時、すでにフレーレと私もそれぞれ狙いをつけた相手へと向かっており、一瞬怯んだ隙にフレーレのメイスが男の顔へめがけてフルスイングされる。

 「くそ! ぎゃあああああ!?」
 顔を腕でガードしかばったが、補助魔法で強化されているためその程度では防げない。腕ごと横っ面をメイスで振り抜かれ男が気絶した。

 「あんたの相手は私よ!」

 次々に倒れる仲間を見て腰が引けた男へ剣を振る。相手は斧で私の剣を受けるが、二度三度と受けている内に腕が下がっていった。

 ガイン! カン! キィン!

 「う、お、重てぇ……なんだこいつは!? くらえ!」

 無理矢理に斧を振るってくるが、もうへろへろなのでかわすのはとても簡単だった。
 バックステップで回避し武器を持った腕を剣で突き刺すと、悲鳴を上げながら地面へと転がる。

 「弓だ! 弓を使え!」
 リーダーが隣に待機させていた男に指示を出し、慌てて弓に持ち替えようとするが……。

 「ガウウウウ!!」

 「う、うわ!? 狼!? どっから出て来たんだ!」
 レジナが襲撃を受けた時点で素早く森に身を隠し、機会を伺っていたみたいね。矢を持った手に噛みついて離さない。ちなみにレジナが本気で噛みつくと骨にひびが入るくらいでは済まないくらい強いというのを私は知っている。
 その昔どこで拾ってきたのか、大きなリンゴをくわえて山の宴の庭に戻ってきたことがあったんだけど、おチビ達にどうやって分けるんだろうと見ていたら、くわえたままガブリと口を閉じたんだよね。
 そしたらリンゴが粉々に……。だからあの弓を持った男の腕の骨は折れていてもおかしくない。

 「い、一瞬で四人も!? くそ……!」
 リーダーらしき男はその光景を見て森の奥へと逃げ出したのであった。

 「ガウ!!」

 レジナが追いかけようとしたが、男が煙玉のようなものを投げて逃げたのだが、それで鼻が利かなくなったレジナは追跡を諦め戻ってきた。

 「くうぅぅん……」

 「よしよし、レジナは頑張ったよ。仕方ない仕方ない」
 成果が出せなかったからか、項垂れて戻ってきたレジナ。頭をわしゃわしゃと撫でると少し元気が出たようだ。

 「きゅん!」「きゅんきゅん♪」

 母の活躍におチビ達も興奮気味だ。レジナのお腹に頭をうずめて甘えていた。相変わらずかわいい。
 いつかこの子達も大きくなるだろうなあ。


 「この人達どうしますか?」
 気絶した男をロープで縛り上げながらフレーレがレイドさんへ聞いていた。

 「俺と戦った男はすでにこと切れているから埋めていこう。生き残った奴らは村へ連れて行って後の処置を頼もうか。村がもっと遠いならここで始末するんだけどな……」

 珍しくレイドさんが鋭い目を向けて野盗を脅す。

 「「「ひ、ひいいい……」」」

 「……それじゃ布でを塞いで目隠しだ」

 テキパキとレイドさんが野盗を動けない様にして、馬車の荷台へと放り込んだ。
 こういう依頼を昔もやってたのかな?
 私が不思議そうに見ているとレイドさんが、ポツリと話し始める。

 「野盗ってのは放っておくとどんどん被害が広がるんだ、俺がセイラ達とパーティを組んでいた頃、村を占拠していた野盗の討伐を任されたことがあったよ。その時の村は酷いもんだった……」

 レイドさんが怒りを露わにするくらいだからよっぽどだと思う。
 
 「許せませんね! 真面目に働いている人を食い物にするなんて!」

 「まったくだよ、だから俺はこういった奴等には容赦しないことにしているんだ。さ、それじゃ行こうか」

 「そうですね! 私達はレイドさんが居るから安心ですよ? いつもありがとうございます」
 少し狭くなった荷台から御者台に移動し、笑いながらレイドさんへお礼を言うと、レイドさんは何故か顔を赤くして、そっぽを向いた。

 「?」


 「(ルーナは天然ですかね?)」
 「きゅん?」

 フレーレがシルバを抱っこして何やら呟いていた。

 そしてようやく麓の村へと到着した! 

 そして私達は意外な人物と出会う事になる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。