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第四部:ルーナの秘密

その61 野盗

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 「ありがとうよ。あんた達、フジミナの麓の村へ行くのかい?」

 「ええ、ちょっと山登りへ……」

 翌日、街道で一休みしていると、行商さんが通りかかり何か買わないかと声をかけてきた。
 食料などは詰んできたのでそれほど困ることは無いが折角話しかけてきてくれたので商品を見せてもらうことに。水とちょっとしたお菓子を買った所で行商さんが聞いて来たのだ。


 「山登り……あそこは不死鳥が居ると噂になっているから、冒険者が行きたがるのは分かるけどな。でも、最近山の近くで野盗が出るそうなんだわ、お嬢ちゃん達、可愛いから気をつけなよ?」

 そんな物騒な事を言って行商さんは去って行った。ビューリック国の城下町にあるお店へと戻るのだとか。
 
 ちなみにフジミナはビューリック国境を越えた先にあるため、ガンマの町を通り過ぎ、もう少しで国境を越える。
 麓の村までは一週間ほどかかり、帰りに一週間かかると考えると、探索にあまり時間をかけられない。
 遺体は安置しているが、魂が消えてしまう可能性が高いから急いだ方がいいとファウダーが言ってたしね。
 

 「ね、ね、レイドさん、私達可愛いんですって!」

 「あ、ああ、良かったじゃないか」

 私が詰め寄るとレイドさんが後ずさりしながら、答えてくれた。
 
 「ダメですよレイドさん。女の子はきちんと口にしてくれた方が嬉しいんですから。呆れらレイドさんになっちゃいますよ?

 フレーレが何故か得意げに言う。というかもう隠す気は無いようだ……。ついにレイドさんまで……。

 「む、そ、そうなのか? 俺はこういうのには疎くてな……というか呆れらレイドって……」

 「まあ、レイドさんが女の人と歩いている所とか見た事ないですもんねー」

 アントンや侯爵さまと違い、レイドさんはレイドさんなのだ。だからこそ安心して一緒に旅ができるわけなんだけどね。

 「それにしても野盗か、気になるな。そろそろ森の中へ入るから十分注意して行こう。お前達も怪しい気配を感じたら知らせるんだぞ?」

 「わふ!」「きゅん!「きゅきゅーん!」

 <わらわは幌の上で見張りでもしようかのう>

 休憩が終わり、出発した時はレジナがブルル達と並走し、チェイシャが屋根の上で丸まっていた。
 私とフレーレ、おチビ達は後方の見張りをしながら森へと入っていく。

 嫌な予感は当たるもので……。



 ---------------------------------------------------


 

 ヒュ!! ヒュユン!!

 進行方向に矢が飛んできてレイドさんが馬車を加速させた!

 しかし馬の前に矢が刺さり、急停止するはめになった。

 矢が途絶えるまで馬車の中で身を隠していた。矢は幌には届いていない。

 静かになったので外に出ると五人の男達が馬車を囲んでいた。

 「馬は高く売れるからな、傷つけるんじゃねえぞ? ……おお、女が二人もいやがる! こりゃラッキーだな、頭に顔を覚えてもらうチャンスだ!」

 いかにも野盗、といういでたちに、無精ひげを生やした男がそんなことを喋っていた。
 他の四人もニヤニヤと私とフレーレをじっと見ていた。うう、気持ち悪い!

 「……お前達がこの辺を荒らしている野盗のようだな。俺達は先を急ぐ、このまま逃げるならよし、向かってくるなら……容赦はせんぞ?」

 いつの間にか剣を抜いてリーダーらしき無精ひげを睨みつける。
 それを見ていた男の一人がさも愉快そうに声をあげはじめる。

 「はっ! こっちは五人いるんだぜ? お前ひとりでお嬢ちゃん達を守りながら戦えるってかあ?」

 「……そうだな、俺はそれが出来るぞ? まあ、俺の手助けは要らないと思うけど?」

 む、流石レイドさんカッコいい。すでに私とフレーレには補助魔法をかけ終わっている。
 後はどう攻めるかだが……。

 「チェイシャ! お願い!」

 <任されたぞ>

 私の声で屋根に居たチェイシャがレイドさんの近くに居た男を魔法弾で攻撃し、顔面に直撃した。
 
 「ぐわ!?」

 「ふん!」

 すかさずレイドさんの剣が男の腹を薙ぎ呻き声をあげて倒れた。
 
 「えい!」
 チェイシャが声を上げた時、すでにフレーレと私もそれぞれ狙いをつけた相手へと向かっており、一瞬怯んだ隙にフレーレのメイスが男の顔へめがけてフルスイングされる。

 「くそ! ぎゃあああああ!?」
 顔を腕でガードしかばったが、補助魔法で強化されているためその程度では防げない。腕ごと横っ面をメイスで振り抜かれ男が気絶した。

 「あんたの相手は私よ!」

 次々に倒れる仲間を見て腰が引けた男へ剣を振る。相手は斧で私の剣を受けるが、二度三度と受けている内に腕が下がっていった。

 ガイン! カン! キィン!

 「う、お、重てぇ……なんだこいつは!? くらえ!」

 無理矢理に斧を振るってくるが、もうへろへろなのでかわすのはとても簡単だった。
 バックステップで回避し武器を持った腕を剣で突き刺すと、悲鳴を上げながら地面へと転がる。

 「弓だ! 弓を使え!」
 リーダーが隣に待機させていた男に指示を出し、慌てて弓に持ち替えようとするが……。

 「ガウウウウ!!」

 「う、うわ!? 狼!? どっから出て来たんだ!」
 レジナが襲撃を受けた時点で素早く森に身を隠し、機会を伺っていたみたいね。矢を持った手に噛みついて離さない。ちなみにレジナが本気で噛みつくと骨にひびが入るくらいでは済まないくらい強いというのを私は知っている。
 その昔どこで拾ってきたのか、大きなリンゴをくわえて山の宴の庭に戻ってきたことがあったんだけど、おチビ達にどうやって分けるんだろうと見ていたら、くわえたままガブリと口を閉じたんだよね。
 そしたらリンゴが粉々に……。だからあの弓を持った男の腕の骨は折れていてもおかしくない。

 「い、一瞬で四人も!? くそ……!」
 リーダーらしき男はその光景を見て森の奥へと逃げ出したのであった。

 「ガウ!!」

 レジナが追いかけようとしたが、男が煙玉のようなものを投げて逃げたのだが、それで鼻が利かなくなったレジナは追跡を諦め戻ってきた。

 「くうぅぅん……」

 「よしよし、レジナは頑張ったよ。仕方ない仕方ない」
 成果が出せなかったからか、項垂れて戻ってきたレジナ。頭をわしゃわしゃと撫でると少し元気が出たようだ。

 「きゅん!」「きゅんきゅん♪」

 母の活躍におチビ達も興奮気味だ。レジナのお腹に頭をうずめて甘えていた。相変わらずかわいい。
 いつかこの子達も大きくなるだろうなあ。


 「この人達どうしますか?」
 気絶した男をロープで縛り上げながらフレーレがレイドさんへ聞いていた。

 「俺と戦った男はすでにこと切れているから埋めていこう。生き残った奴らは村へ連れて行って後の処置を頼もうか。村がもっと遠いならここで始末するんだけどな……」

 珍しくレイドさんが鋭い目を向けて野盗を脅す。

 「「「ひ、ひいいい……」」」

 「……それじゃ布でを塞いで目隠しだ」

 テキパキとレイドさんが野盗を動けない様にして、馬車の荷台へと放り込んだ。
 こういう依頼を昔もやってたのかな?
 私が不思議そうに見ているとレイドさんが、ポツリと話し始める。

 「野盗ってのは放っておくとどんどん被害が広がるんだ、俺がセイラ達とパーティを組んでいた頃、村を占拠していた野盗の討伐を任されたことがあったよ。その時の村は酷いもんだった……」

 レイドさんが怒りを露わにするくらいだからよっぽどだと思う。
 
 「許せませんね! 真面目に働いている人を食い物にするなんて!」

 「まったくだよ、だから俺はこういった奴等には容赦しないことにしているんだ。さ、それじゃ行こうか」

 「そうですね! 私達はレイドさんが居るから安心ですよ? いつもありがとうございます」
 少し狭くなった荷台から御者台に移動し、笑いながらレイドさんへお礼を言うと、レイドさんは何故か顔を赤くして、そっぽを向いた。

 「?」


 「(ルーナは天然ですかね?)」
 「きゅん?」

 フレーレがシルバを抱っこして何やら呟いていた。

 そしてようやく麓の村へと到着した! 

 そして私達は意外な人物と出会う事になる。
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