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その76 王都再び

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「おお、ラッヘ殿! お戻りになられましたか!」
「また、少しだけ世話になるよ」
「ははは、屋敷があるのですからそんな遠慮するようなことではありますまい。ささ、お通りください」

 また数日かけて俺達は再び王都へと凱旋してきた。
 なんだかんだでアイラのところで過ごしフラメの件で町の往復もあったので二十日ぶりくらいだ。門兵は戻ってきたことを歓迎してくれ、ギルドカードを確認するとサッと通してくれた。

「ほぼ顔パスね」
「まあラッヘさんだし」
「俺は一体どういう目で見られているんだ?」

 並走する馬車でアイラがとセリカが笑いながらそんなことを話していた。
 名前の覚えはいいが、特別にこの国のためになにかをやっているわけじゃないからそういわれても首を傾げてしまう。

「ぴゅーい♪」
「ぶるる」

 久しぶりの町並みを覚えているのかフォルスはポケットから首を出して興奮していた。それに呼応するようにジョーが鼻を鳴らす。

「屋敷でいいわよね?」
「荷物を下ろすのが先だな。アイラ、ついてきてくれ」
「わかったわ」

 ジョーとリリアの手綱を動かして先頭に立つと、そのままゆっくり通りを進んでいく。そういえばフラメが大人しいと思い後ろを振り返ると――

【ぐおー】

 ――フラメは寝ていた。巾着にくるまれ帽子を被ったままアイラの膝に乗っかっていた。気持ちよく寝ていて起こすのも可哀想だ。
 ここに帰ってくるまでの道中、夜はあいつが周囲の警戒をしてくれていたからな。
 まあ、ドラゴンの気配があるのでその辺の魔物はまったく寄ってこなかったけど。

「戻ったよ」
「む? おお、これはこれは! お早いお帰りでしたね」
「またすぐに出るんだ」
「お忙しいですな。馬車が増えましたかな?」
「ここに住んでくれる人を連れて来たんだ」
「よろしくお願いします」

 開けてくれた門の中へ入っていく俺。続いてアイラ、セリカと移動したがその時アイラを見て『美人だ』といった声が聞こえて来た。
 確かにその通りなのでなんとなく鼻が高い気がする。

「さて、それじゃ荷下ろしをしてから謁見を頼もうか」
「王様と? どうして?」
「ここに工房を作ってもらえると助かるだろ。金もあるし、町に作るよりはいいかなって」
「でも、他の鍛冶師さんに睨まれない?」

 俺の提案にセリカが少し難色を示す。言われてみれば商売敵もいるのかと俺は納得した。まあ、俺達の装備を修復するだけでも―― 

「問題ないぞ」
「大丈夫なら話は早……って陛下!?」
「フォルスちゃんおかえりなさい……!」
「ぴゅーい!」

 馬車から降りて背伸びしながら話をしていたのだが、不意に背後から声をかけられた。振り返ると陛下と王妃様が馬車から降りてくるのが見えた。

「どうしたんですか? というか城を出て大丈夫なのでしょうか……」
「それに私達が戻ってきたことがよく分かりましたね?」

 俺とセリカが驚いて二人に尋ねると、陛下がフッと笑いながら口を開いた。

「外壁で監視をしている兵がお主達の馬車を見つけて報告してくれたのだ。すぐに馬車を出したのだ丁度良かったな」
「兵士さんすごいな……」

 それでもほいほい城から出てくるのはどうなのだろう……俺が訝しんでいると王妃様が前へ出てくる。

「またフォルスちゃんを抱っこさせて……あら、それはなにかしら?」
「え?」

 うっとりとした顔でポケットのフォルスを見ていた王妃様が、アイラの持っている巾着袋に視線を移す。それはもちろんフラメで、まだお眠である。

【Zzz……】
「呑気ねえ」

 鼻から泡を出して寝ている彼を見てセリカが苦笑する。すると王妃様がくわっと目を見開いて言う。

「あらあらあら! 生き物でしたのね、袋にすっぽり包まれていて可愛いですわ」
「またなにか拾ったのか?」
「俺がいつも拾っているみたいな……いや、そんなことより、陛下にお話があって戻ってきました」
「ふむ、その生き物のことか?」

 陛下が眉をひそめてフラメを見て尋ねて来た。俺はアイラの横に行き説明を始めた。

「こっちの鍛冶師アイラと、その巾着に収まっている生き物……巾着ドラゴンのフラメについて」
「ラッヘさんフレイムドラゴンよ」
「ああ、そうだった……おさまりが良すぎるんだよな……本人も気に入ってるし」
【んあ……?】
「そうかドラゴンか。……ドラゴン……!?」

◆ ◇ ◆

「――というわけでして」
「なんと、アースドラゴンが現れてからそれほど時間が経っておらんのに別のドラゴンが……異常事態だな」

 庭に設置されているテーブルセットに集まり事情を説明した。陛下は短期間で現れたドラゴンに不安を覚えているようだった。

「ええ。なんとか殺さずに連れ帰ったのがこいつです」
【フラメと名付けてもらった。人間の王よ、よろしく頼む】
「うむ」
「可愛いですわ」
「ぴゅい♪」

 俺がテーブルの上にいる巾着フラメを指すと、フラメはぺこりと頭を下げた。
 陛下と王妃様もつられて頭を下げ、奇妙な光景である。
 フォルスは巾着フラメがお気に入りなのか頭にのっかっている。

「で、この屋敷には今後アイラが常駐して暮らすことになります」
「アイラと申します。鍛冶師を営んでおりましたがこの度、セリカと共にラッヘの妻として生きていくことになりました」
「なんと……!」
「いいですわね、いいですわね!」

 何故か嬉しそうな王妃様に訝しむ俺。それはともかく、本題を言おう。

「さっき問題ないとおっしゃっていましたが、ここに工房を作りたいのです。ただ、他の鍛冶師との兼ね合いがあるので商売まではしなくてもいいと考えています」
「なるほど。確かに不満は出るかもしれないな。しかし腕のいい鍛冶師だと名前は知っている。少し考えさせてくれ」
「わかりました」
「工房の着手は構わない。あの辺を切り開くか」

 作成はもう始めてくれるらしい。ひとまず王都はこれでいいか。
 次は隣国への旅だな――
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