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その74 一件落着?

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「う、ぐううう……」
「あがが……」
【他愛ないな。まったく、度し難い】

 地面に倒れた二人を見下ろしながら、フラメが頭上で鼻を鳴らす。
 遭遇した瞬間、籠に入っていたフォルスを見てカッとなり、二人をボコボコにしてやった。後悔はしていない。
 逃げられないようまず足を貫き、その後顔は元の形が分からないくらいぶん殴った。もちろん止める者などいないため、動かなくなったところで終了したのだ。

「フォルス!」
「ぴぃー♪」

 それはともかくフォルスを救出する。
 籠を壊すと鼻水とおしっこまみれのフォルスが俺の胸に飛び込んで来た。

「よしよし、怖かったな。すまない油断してしまった」
「ぴぃ! ぴぃー♪」
【大丈夫そうだな】
「ああ。すぐに見つかって良かった」

 俺はフォルスを抱きしめながらそう吐露した。ドラゴンを憎む俺だが、なにも知らない赤ちゃんであるフォルスが酷い目に遭うのはやっぱり違う。

「ぴゅい! ぱぁぱ♪」
「……! お、おい、フォルス今パパって……」
「ぴゅい♪」
「フラメ、今フォルスがパパって言ったよな!?」
【ん? いや、すまないこいつらを捕まえていて聞いていなかった】
「ええー……」

 絶対喋ったと思うんだけどな……。
 とりあえず盗賊の頭は抑えられたので、良しとしよう気絶した二人をフラメが掴み、俺はフォルスを抱えて頭に登る。

「すまないな」
【気にすることはない。オレの頭に乗って移動した方が早いし、安全だ】
「ドラゴンは言うことが違うな」
「ぴゅーい♪」

 さて、それはそれとしてセリカ達も心配だ。数に押されたら飲まれてしまう可能性が十分にある。

 ……と、思っていたんだが――

「あ、帰って来た! ラッヘさんフォルスは!」
「ぴゅいー♪」
「良かったぁ……」
「フォルスちゃん良かったわ!」

 セリカは元気よく鳴くフォルスを見て安堵の息を漏らす。アイラも近くに居て、手を振ってくれていた。

「盗賊達は?」
「半分くらい倒して転がっているけど、フラメが巨大化した時点でかなり逃げたわ」
「そうだったか。すまない、フォルスを優先してしまった」
「ううん、私もフォルスが心配だしそれで問題ないよ!」
「そうね。フォルスちゃんはまだ小さいから守ってあげないとだし」

 女性二人に謝罪するとそんな答えが返って来た。ありがたいことだと思う。

「でもびっくりラッヘさんがあんな顔で行くとは思わなかったらびっくりしたよ!」
「そうか……? よく分からないが怒っていたのは確かだな」
「ぴゅ♪」
「もう滅竜士《ドラゴンバスター》じゃなくて竜操士《ドラゴンマスター》の方がいいんじゃないかしら」
「頭に乗っているラッヘさんかっこいいよね」

 アイラが笑いながら俺に言う。セリカも優しいからできるなら殺すより生かす方が似合っているなどと言っていた。
 どうかな、俺はそんなにいい人間じゃないんだが。

「おっと、そろそろ粗相を拭いてやらないとな」

 それはともかくということで俺は二人の下へ移動した。目下やらなければいけないことは盗賊達の処理だな。

◆ ◇ ◆

「――再び捕縛、しかもゴリアートを捕まえるとは……」
「一応、頭だと言っていたから間違いないと思う。とりあえず他の人に迷惑がかからないように処分してくれ」
「くそ……」
「うああ、アニキィ……!」

 そんなこんなで町まで連れてきて引き渡すことができた。
 主犯であるゴリアートはフラメがずっと握ったままで逃げられないようにし、他の盗賊は載せられるだけ一台の荷台に載せてからフラメの尻尾にくくりつけて引っ張ってもらった形だ。
 全部で六十七名を捕縛し、門兵が驚いていた。

「顔がボコボコになっていてわからないかもしれないが……」
「いえ、実際ゴリアートの素顔を知っている者はいませんから問題ありません。極刑にするか北の方にある雪原の永久鉱山送りになるかと思います」
「ま、殺人までしているなら妥当か」

 セリカがため息を吐いてからゴリアートだと思われる人物を睨んでいた。誘拐に強盗も日常茶飯事の盗賊団はこれでほぼ壊滅したと言える。
 ……どうやら元々、俺達のところへ来る予定だった人達は殺されたみたいだ。極刑でいいと思う。

「それじゃあ王都へ行く?」
「いや、カルバーキンに挨拶をしていくよ。ドタバタで疲れたろ、少し休んでいこう」
「あ、賛成! デザート食べたいわ!」
「朝食べたのに……」
「デザートは別腹よ!」

 セリカが喜びながら馬の首を撫でていた。こいつらも買った馬なのでその内、俺かアイラが名前をつけてやらねばなるまい。
 そんなことを考えながら町へ入っていき、ギルドの酒場兼食堂で少し休憩をすることにした――

「本当だって、パパって言ったんだ! なあフラメ」
【オレは聞いていなかったからな】
「喋れるようになったのかな? フォルス、ママって言ってごらん?」
「ぴゅーい♪」
「ふふ、ダメみたいね」
「パパはどうだ?」
「ぴゅーい♪」

 尻を拭いてキレイになったフォルスはテーブルの上で俺達のところを嬉しそうに動き回っていた。
 よほど怖かったのか甘噛みするわ腕に抱き着いて離れないわで甘えん坊が加速した気がする。
 しかし、その後フォルスがパパと呼んでくれることはなかった。残念だ。
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