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その73 本気と書いてマジと読む

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「ぴぃ」
「また蝶が寄って来たな。お前、好かれてるなあ」
「あの、その小さいのはなんですかね?」

 下りなのでゆっくりと馬車を進ませる俺に、馬車を持って来た男の一人が尋ねてきた。もう国王様の許可は出ているし、フラメも隠しようがないため話すことにする。

「こいつはドラゴンの赤ちゃんでしてね。多分、そろそろデルモンザの町にもお触れが行くと思いますけど陛下がこいつを連れ歩くことを許可してくれたんで」
「陛……国王が!? ぐはっ!?」
「お!?」
「ぴぃ!?」

 もう一人の男が驚いたところで殴られたのでびっくりした。すると咳ばらいをひとつして、殴った男が尋ねてきた。

「国王様お墨付きとは凄いですね。ドラゴンはこの世界で破壊の限りを尽くしている存在なのに殺さなかったと」
「ああ、こいつはちょっと特殊な経緯で拾ったんだ。もしかしたらドラゴンが暴れている原因を調べられるかもと考えている。なあ?」
「ぴゅーい♪」
「おお、可愛い……」

 差し出した俺の指を甘嚙みするフォルスを見て、殴られた男は目を細めてなごんでいた。

「では前に居る赤い生き物は?」
「あれもドラゴンだな。種類は違うけど。今からあいつを陛下に見せに行くところなんだよ」
「……王都へ行くのですか?」
「そうだ。アイラも王都に住まわせるからそのための引っ越しだな」
「ま、まずいですよあに……きっ!?」
「お!?」
「ぴゅ!?」

 またなにかを言おうとした男が殴られて俺とフォルスはびっくりした。

「大丈夫ですか……?」
「ええ。馬車酔いをするからこうやって刺激を与えるんですよ」
「それはこの仕事に向いていないのでは……?」

 よく持って来れたなと思う。
 まあ方便だろう、あんまり仕事ができないタイプとかだろうか?
 そんなことを考えていると――

◆ ◇ ◆

「(こちらは無警戒、か。馬鹿が危うくくだらないことを口にしようとしたが……まあ、そりゃそうだろうな。ならそろそろ行動を開始するとしようか)」

 ゴリアートは部下のあほさ加減に辟易しながらラッヘの話を聞いていた。こちらには気づかれていないことを確信した彼は、周囲を確認した後にラッヘに告げる。

「ああ、すみません小便へ行きたいのですが……」
「ん? 構いませんよ。おーい二人とも少し待ってくれ」
「えー? なにー?」

 先頭を進むセリカが止まって声をかけてきたところ、ラッヘは用件を返していた。
 ゴリアートは口元を歪めながら部下と近くの木陰へと歩いて行く。

「アニキ、国はまずいですよ。本格的に指名手配されたらただじゃすまねえ」
「ふん、びびってんじゃないぜ。ドラゴン二匹、最悪一匹でも捕まえられればもう盗賊稼業も終わりにできるかもしれないぞ」
「足を洗う……」
「ってことだ。……いいな、野郎ども!」

 ゴリアートは指を鳴らして叫んだ。
 すると、木々の間からギラリと光る刃が――

◆ ◇ ◆

「うおおおお!」
「覚悟しろ……!!」
「なんだ……!」

 小便に行っていた二人を待っていたその時、森から武器を持った男達が飛び出して来た。

「セリカ、アイラ!」
「大丈夫!」
【むう、何者だ……!】
「獲物がいたぜ!」
「こっちはなんとかなるわ」

 頼もしい言葉が聞こえて来て俺は安堵する。すぐに武器がぶつかる金属音が響き、俺も御者台から降りて現れた賊を蹴散らす態勢に入る。

「この前の盗賊団か?」
「なんのことだかな? そのチビを渡せば命だけは助けてやるが」
「なんだと?」

 狙いはフォルスだと? 
 この前の感じだとアイラを再度狙ってきたのかと思っていたのだが。まあ、ここで倒しておくことで平和になると考えれば無駄という訳でもないか。

「狙った相手が悪かったな」
「けっ、かっこつけてんじゃねえぞ!」
「うおおおお!!」

 盗賊どもは一斉に襲い掛かって来た。ジョーとリリアが攻撃されると厄介だが、どうやらそこまで頭が回る連中ではなさそうだ。
 セリカとアイラ、それと小便に行った二人を助けないとな。

「人間相手に後れをとる俺ではない……!」
「ぴゅー!」
「ぐあ!?」

 ダガーで突いてきた男を大剣の縁でぶん殴り斬撃を繰り出す。それだけで地面に伏せて行動不能になる。

「殺しはしない。みねうちだ」
「その剣は両刃じゃねえか!?」
「そうだった」
「くそ、舐めやがって! 囲め!!」
「無駄だと言っている!」

 俺は囲んで来た盗賊達を大剣を振り回して叩き伏せる。
 ダガーやショートソードで俺を止められるわけもなく、刃は届かない。
 
「こいつやっぱりつえぇ!?」

 やっぱり? アイラの小屋を襲撃していた時にどこかで見ていたのか? 
 ゴリアート盗賊団の規模はどの程度か確認されていないらしいからあり得る話だ。

「ということはこの襲撃もあらかじめ決めていたか?」
「……!」
「なるほど、ひとまず蹴散らしてから話を聞くとしよう」
「ぴゅーい!」

 俺は目を細めて大剣を握り直すと突撃をする。そのまま五人、十人と倒していく。
 そこで思ったより数が多いと思った。
 俺のことを知らないような感じではあるが、確実にフォルスを……あわよくばアイラを手に入れるつもりってところか。

「ぐあああ!?」
「俺ぁ逃げるぜ!?」

 そんなことを考えながら盗賊達を倒していき、逃げていく者も出てきた。
 やがて茂みから小便に行っていた二人が現れる。

「なんの騒ぎですかい!?」
「……」

 殴られていた男がそう言って駆けてくる。もう一人は? 

 そう思った瞬間、なんとなく左腕を真横に振るう。

「勘がいい旦那だ、まさか気づかれるとは」
「……!? お前は!」

 振り抜いた俺の左腕を回避しながら殴っていた方の男が口を開く。嫌な気配を感じた俺は腰をかがめた奴に蹴りを放つ。
 だがそれは空を斬り、男は俺とすれ違うように移動した。

「よく気が付いたな?」
「人質にも取られないでノコノコと出てきたあいつはおかしいだろう。それにお前達が居なくなってから現れた。おかしいと思うのは当然だ」
「なるほど、強いはずだ。だが、出し抜くって意味では俺の勝ちだ」
「なに……!?」
「ぴぃーー!?」

 いつの間に……!?
 俺のポケットからフォルスが奪われていた。男はにやりと笑みを浮かべるとどこからか隠し持っていた籠にフォルスを入れた。

「ぴぃー!」
「フォルス……! 貴様!」
「ずらかるぞ。足止めをしろ」
「「「へい!」」」

 馬を持って来た男二人が盗賊団だったとは……!
 なら元々運んでくる予定だったものは? いや、そんなことを考えている暇は無い!

「どけ……!」
「頭に足止めを頼まれたんだ、行かせる――」
「なら死ぬだけだ……!」
「ひっ……!?」

 瞬間、俺は容赦なく剣を振るう。
 フォルスになにかあったらタダじゃおかん……!

「ラッヘ!」
【ラッヘ! 大丈夫か】
「アイラにフラメか! そっちは!」
「後はセリカちゃんが倒したら終わり!」
「そうか! フォルスが攫われた、こっちを任せていいか?」
「……!? もちろんよ!」
【なんだと……! おのれ……許せんな……オレに任せろ】
「なに?」

◆ ◇ ◆

「ぴぃー……!」
「やりましたねお頭!」
「くく、近づきさえすればこれくらい容易だ。後は逃げてこいつを売るだけ」

 ゴリアートは籠を掲げながらそんなことを口走る。

「ぴー……ぴぃー!!」

 そんな中、フォルスは混乱していた。いきなり知らない人間に連れ去られたので無理はない。
 籠の中をウロウロしでようとするがどうやっても抜けられなかった。

「ぴぃ! ぴぃぃぃ!」
「うるさいぞ。大人しくしろ」
「か、頭、可哀想ですぜ……!」
「売りもんだぞ?」
「で、でも売れますかね……」
「売れなかったらから揚げにでもして食っちまえばいいだろ」
「え!? か、飼うんじゃないんですかい!?」
「馬鹿が。ドラゴンなんか連れていたら国が本気で俺達を殺しに来るぞ? 証拠は消した方がいい」
「ぴぃー!?」

 獰猛な笑みをフォルスに向けてそう口にした。フォルスは泣き叫びながら籠を動き、檻を掴んで揺さぶっていた。

「ぴぃ……!」
「こいつ漏らしやがった! くそ、さっさと町に行くぞ」
「ぴぃ……」

 もうラッヘやセリカに会えないのかとフォルスはお漏らしをし、小さく鳴く。
 ぐるぐると檻の中でぴぃぴぃと泣くしかできない。
 そこでフォルスはフラメがやっていた『口から火を吐く』技を思い出していた。

「……! ぴぃ!」
「お? なんだ?」
「口を開けてますぜ?」
「ぴぃぃ!」

 口からはなにもでない。
 だけどこのままラッヘに会えないのは嫌だと力を振り絞って口から火を吐こうと奮闘する。

「ぴ!」

 すると一瞬、フォルスの口から赤い火がポッと出た。

「ぴぃ~♪」

 これならここから出られるかもしれない。そうフォルスが眼を輝かせたところでそれは起きた。

「ん? なんか暗くなってきましたぜ……?」
「夕方にはまだ早い――」
【見つけたぞ……!!】
「よくやったフラメ! はぁぁぁぁ!!」
「な……!? ドラゴ――」

 そこには巨大化したフラメとその頭に乗っているラッヘがいた。
 ラッヘの表情は今までに見たことも無いほどに怒っており、ゴリアートは言葉を発する間もなく――
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