上 下
31 / 116

その31 狩り

しおりを挟む
「ぴゅふぁ~……」
「あは、大きなあくびねフォルス」
「ぴゅー♪」

 王都近くで野営をして二日ほど経過した。
 一日で出発しようかと思ったのだが、最近この辺りでフォルスの訓練もしておこうと森で生活していた。
 訓練、とは言っても赤ちゃんなので散歩くらいなものだけどな。
 赤ちゃんは抱っこするもんだと思っていたけど最近よく動くようになってきたので監視しながら遊ばせようということになった。

「それじゃちょっと行ってくるわね」
「おう。飯は作っておくから」
「ぴゅー♪」
「気を付けてな」

 昨日は俺が連れて行ったが、今日はセリカが連れて散歩だ。
 そこでフォルスは一度俺のところへ来て撫でろとせがんで来たので背中をさすってやった。

「よーし、今日も頑張るわよ」
「ぴゅーい!」

 セリカの言葉に二本足で立ってから両手を上げてよちよちと歩き出す。
 だが、すぐに四足歩行になった。
 一応、二足歩行もできるみたいだけど、そこは成長次第というところのようだ。

「ぶるひーん」

 ジョーはリリアを見送っていた。
 何かあった時に急いで戻れるように馬を連れているのである。昨日は俺がジョーを連れていった。
 最近、馬達もゆっくり休ませていなかったので野営を伸ばしたというのも少しある。

「さて、それじゃこっちは朝食の準備を進めるか」
「ブルルン!」
「お前、こういう時だけ勇ましいな」

 飯と聞いて俺の横に立ったジョーが鼻を鳴らしていた。苦笑しながら鍋を火にかける。湯が沸く間に野菜と鶏肉を切って下準備だ。
 朝はそれなりに気温が低いので温かいスープがいい。
 理由としてフォルテも寒いところは苦手なようで、夜はクッションに丸まっているのだけど朝になると俺かセリカのお腹のあたりに来ていることが多い。
 潰してしまいそうだからフォルテ用の毛布がいるかもしれないなあ。

「ミルクは別に温めるか」
「ぶるる」
「お前は生野菜でいいけど、みんなが戻ってからだぞ」

 ジョーが鳴くので鍋を見ながらそう言ってやると、俺の腕を甘噛みして引っ張って来た。

「なんだ? ……お?」

 顔を上げてみると、少し離れたところに人影が見えた。
 目を細めて見ると、二十人くらい居て、きちんとした鎧を着ている……騎士か。王都の騎士が遠征しているのか?

「さあ、魔物よ出てくるがいい!」
「あれはエリード王子じゃないか。狩りに来たのかな?」

 王族が騎士を連れて狩りに出るのは珍しいことじゃない。人間と魔物では動きも違うため、いざという時に対応できるよう戦う人も居る。
 単純に趣味で動物を狩ったりもするけど、概ね練習目的が多い。
 エリード王子が『魔物よ』と口にしているため元々、魔物と戦うために来たようだ。

「ま、あれだけ騎士が居れば問題ないだろう」

 そんな調子で俺は視線を鍋に戻し、牛のミルクを火にかけた。あの距離なら鉢合うこともないはずだ。

「さて、それじゃ沸くまで待ちか。カバンでも整理しとくかな」

 しばらくセリカも帰ってこないし、湯が沸くまで料理も進められない。なので今のうちにとリュックを持ってきて中身を一旦取り出すことにした。
 どこになにがあるのか段々わからなくなるのは避けたい。

「ポーションは一本入れとけばいいか。包帯と裁縫セットはこっちの小さいポケットに……む?」

 そこで俺は手のひらに収まる翡翠色の玉を手に取った。

「こいつは確か、母ドラゴンの頭から出てきた宝玉だ。そういえばこいつでお守りでも作ってやろうと思っていたんだっけ」

 すっかり忘れていた。
 セリカの件やブレイドタイガーの依頼と、考える暇もないくらい色々あったので仕方ない。

「王都の話し合いも微妙だったしな……」

 一人呟きながら手の中で宝玉を遊ばせる。大きさの割に重さをあまり感じない、不思議な玉だ。
 母ドラゴンやフォルスと同じく翡翠色は見ていると吸い込まれそうになる。

「戻ってきたらセリカにも話しておくか」

 俺は宝玉を手元に置いてから料理に取り掛かるのだった。

◆ ◇ ◆

「ぴゅーい!」
「おお、頑張るわねフォルス。ほら、おいでー」
「ぴゅー♪」

 私がパンパンと手を叩くと嬉しそうにハイハイをしてここまで走って来た。とても可愛い。
 赤ちゃんだから無理はさせられないなと思っていたけど、案外よく動くのよね。
 でも、昨日ラッヘさんが散歩した後、ご飯を食べながら眠りそうになっていたので体力はまだまだのようだ。
 たまに虫を追い回すけど、捕まえるまではいかない。ちなみにラッヘさん曰く虫とか食べないらしいので本当に遊んでいるようね。

「今日はこれくらいにして戻ろっか。ご飯中に寝たらまた顔にミルクがかかっちゃうもんね」
「ぴゅ」

 私の言葉が分かっているのか小さく頷いた。そして顎に頭を擦りつけてくる。
 
「甘えん坊さんなんだから。可愛いからいいけど、フォルスはどれくらいで大きくなるのかしら?」
「ぴゅー?」

 抱えて顔の前に持ってくると、フォルスは『なに?』といった感じで首を傾げていた。まだ産まれて間もないけど、歯も生えていないし爪も全然だ。
 本当なら大きくなるまでお母さんが面倒をみるのかな?

「ま、ちゃんと守るけどね!」
「ぴゅー♪」

 私が頬をくっつけるとフォルスが嬉しそうに鳴いた。それじゃそろそろ戻ろうかな。そう思った時――

「ぴゅ……!  ぴゅー」
「おっと!? どうしたの?」
「ぴゅーい?」

 私の肩に乗って遠くを見ながらなにやら鳴いていた。でもフォルスもよく分かっていないのか首を傾げている。

「なんだろう? ま、いいか。戻りましょ。帰ったらご飯よ」
「ぴゅい♪」

 ご飯と聞いてすぐに手の中に収まった。私は苦笑しながらラッヘさんのところへ戻ることにした。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ガラクタゴミしか召喚出来ないへっぽこ聖女、ゴミを糧にする大精霊達とのんびりスローライフを送る〜追放した王族なんて知らんぷりです!〜

櫛田こころ
ファンタジー
お前なんか、ガラクタ当然だ。 はじめの頃は……依頼者の望み通りのものを召喚出来た、召喚魔法を得意とする聖女・ミラジェーンは……ついに王族から追放を命じられた。 役立たずの聖女の代わりなど、いくらでもいると。 ミラジェーンの召喚魔法では、いつからか依頼の品どころか本当にガラクタもだが『ゴミ』しか召喚出来なくなってしまった。 なので、大人しく城から立ち去る時に……一匹の精霊と出会った。餌を与えようにも、相変わらずゴミしか召喚出来ずに泣いてしまうと……その精霊は、なんとゴミを『食べて』しまった。 美味しい美味しいと絶賛してくれた精霊は……ただの精霊ではなく、精霊王に次ぐ強力な大精霊だとわかり。ミラジェーンを精霊の里に来て欲しいと頼んできたのだ。 追放された聖女の召喚魔法は、実は精霊達には美味しい美味しいご飯だとわかり、のんびり楽しく過ごしていくスローライフストーリーを目指します!!

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

処理中です...