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その24 謁見の間にて

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「ようこそ、滅竜士《ドラゴンバスター》のラッヘ」
「お久しぶりです、陛下」

 謁見の間に敷かれた絨毯の上を歩き、中央付近まで歩く。
 そこで何度か顔を合わせたことのあるエントリア・フォルゲイト陛下に声をかけられた。
 俺が膝をついて挨拶をすると、セリカも後に続く。

「おや、そちらのお嬢さんは初めて見るな」
「あ、は、はい! セリカと申します! ラッヘさんの恋人です!」
「「「!?」」」

 セリカが顔を赤くしてしどろもどろに、しかし元気よく答える。そこで周りの騎士や大臣、そして陛下と王妃までが驚愕の表情を上げていた。
 俺に彼女ができるたのがそんなに驚くことだろうか……ちょっとショックだ。

「……そこまで言わなくていい」
「そ、そっか……」
「まあ、いいけどな、困るわけでもないし」
「うん!」

 膝をついたまま視線を合わせお互い笑い合う。嘘ではないし困ることでもないので別に構わないことを言う。

「んー! コホン!」

 そこで陛下が咳ばらいをした。俺はすぐにハッとして頭を下げたまま謝罪をする。

「申し訳ありません」
「申し訳ありません」
「いや、良いけどさ……。ふう、楽にしてよいぞ……して、今日はどうしたのだ?」

 二人で謝罪をするとなぜか疲れた顔をしている陛下。気にしてはいないようなのでこのまま話を続ける。

「少しドラゴンについて判明したことがありましたので、そのご報告に参りました」
「なに? ドラゴンについて? 暴れ回っている災厄だが素材はいい、という以外になにかあるのか?」
「ええ。これは私も驚きましたが――」

 そう前置きをした上でフォルスの母と戦ったこと、ドラゴンは人語を解すること、竜鬱症という病がドラゴンをああいった災厄の化身にしていることを。

「竜鬱症……」
「初めて聞きますわね。それもその母ドラゴンから聞いたのですね」
「はい」
「それは凄いですわ……!」

 冷や汗をかく陛下が竜鬱症と呟く。
 そこでリンダ王妃様は興味津々といった感じで椅子から身を乗り出して興奮気味に尋ねてきた。
 元々、女騎士だったせいかこういう話の食いつきがいいんだよな王妃様。ドラゴン討伐の戦闘部分を聞きたがるのは彼女だけである。

「で、もう一つ手に入れたものがありまして……」
「む? なにかな?」

 正直、お腹いっぱいだという顔をした陛下が愛想笑いをしてきた。申し訳ありません、もっと疲れるかもと胸中で言いながら懐に手を入れる。

「ドラゴンの赤ちゃんを拾いました」
「ぴゅー?」

 俺はフォルスを取り出して抱っこしながら報告する。
 急に取り出されたフォルスは『どうしたの?』といった感じで俺の顎を舐めた。
 
「「「「はあ!?」」」」
「ぴぃー!?」

 そのフォルスの声で静かになる謁見の間。
 しかしすぐにその場に居た全員が驚愕の声を上げた。もちろんフォルスは飛び上がる勢いで叫び、再び俺の懐に潜り込んだ。

「ああ、やっぱり駄目よね。ごめんねフォルス」
「しかし、実物は見てもらわないといけないからなあ……すまん、フォルス」
「ぴゅー……」

 いやいやをするフォルスが珍しく抗議しながら俺の手首を噛んで来た。もちろん歯が無いので痛くはない。

「ほら、ぎゅっとしてやるから」
「ぴゅ? ……ぴひゅー……♪」
「あ、落ち着いた。申し訳ありません。この子、人見知りが凄いのであまり声を上げないでもらえると助かります」

 両手で抱きしめてやると安心してくれたようで、体をだらりとして目を細めて喜んでいた。その間にセリカが頭を下げながら説明する。

すると――

「ドラゴン、なのかそれが?」
「ええ。帽子を取ると……このように角があります」
「ぴゅ」

 おもむろに帽子を取ると。手をバタバタさせて返してと抗議する。すまないフォルス、もう少し我慢してくれ。

「むう……!? 確かにリザードにはそういった角はないな」
「ドラゴンの赤ちゃん……」

 そこで周囲がざわざわとしだした。だがセリカの言葉で気を使ってくれているようで小声だ。助かる。

「この子は先ほど話した喋るドラゴンが温めていた卵から孵った赤ちゃんです。母親は自分と同じになる可能性があるから殺せと言っておりましたが、私が拾いました」
「ふむ。しかしドラゴンは危険な存在。母ドラゴンが子を殺せというのも変な話だが、その子をどうするつもりだ?」
「育てようかと」
「ええー……」

 陛下が呆れた顔で目を細めた。

「育ててどうするというのだ? というかお前、自分の通り名を忘れてはいないだろうな?」
「もちろんです。故郷を滅ぼしたドラゴンを倒すまで討伐を止めるつもりはありません」
「ぴゅふぁ~」
「ではその腕の中であくびをしているのはなんだ?」
「ドラゴンですが?」
「殺さないのか?」
「はい」
「だから通り名……!」

 陛下は玉座の手すりをバシッと叩きながら叫んでいた。気持ちはわかるけど、可愛い以外に使い道があるからだ。それを説明する必要がある。
 そう考えているとセリカが頭を下げたあと、フォルスの顎をゴロゴロさせながら言う。

「ぴゅ~♪」
「こんなに可愛いのに殺すなんて考えられません……!」
「いや、しかし――」

 陛下が困惑して口を挟もうとしたところで、ひそひそと兵士や騎士達が話しているのが聞こえてきた。

「可愛いな……」
「ああ。とても懐いているよな。ラッヘ殿とセリカさんに安心しきっている」
「トカゲの仲間かと思っていたけど、違うもんだな。リザードだとあんな懐き方はしない」
「あくびが可愛かったよ、撫でたいわ……」

 概ねフォルスの印象はいいようで安心する。
 さて、後は陛下に有用性を話すかと、俺は話を続けることにした。
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