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その21 道中での確認

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 ――ということで新しい馬車に乗って俺達は一路王都へ。

 基本的に旅というのは町から町へ。
 冒険者というのはセリカ達みたいに町で育ってその町の専属になる者が多い。
 今の俺みたいに転々としながら討伐依頼を受けるタイプはよほど旅が好きか、その町に討伐依頼が少ないなどの理由が挙げられる。

 どっちがいいかというのは難しいが、流れの冒険者がいい依頼をかっさらうと恨まれたりすることもある。そこはコミュニケーションが大事だな。
 セリカは王都に行ったことが無いそうだ。しかし俺はこの国なら一通り顔を出しているため融通が利く。

 ま、ひとまず金はあるし、ドラゴンの情報が無いためのんびり行こうと思う。
 
「天気がいいと楽でいいわね」
「だな。ちょっと屋根のギミックは気になるけど」

 セリカの言う通り快晴なので、ジョーとリリアの足取りも軽い。

「まあ楽しみにしておこうよ。そういえばあのおじいさん箱になにか入れているって言ってなかったっけ?」
「言っていたな。……セリカ、見てくれるか?」
「うん。フォルス、ちょっとそっち行ってくれる?」
「ぴゅー!」

 お気に入りになったクッションの上で仰向けになっていたフォルスが元気よく鳴いていた。
 御者台から荷台へ移動したセリカが開錠用の鍵を使ってボックスを開けた。

「わ」
「どうした?」

 セリカがなんとも言えない声をあげたので尋ねてみると、箱からプレゼントとやらを取り出してから俺に言う。

「お布団っぽいけど……妙に柔らかいわ」
「柔らかい布団?」
「あ、手紙もあった」

 首だけ振り返ると確かにプルプルとしている感じがする。そこで手紙を見つけたようで開封して読み上げてくれる。

「えっと、『ムフフなことをする際の布団をやる。彼女を大事にするんじゃぞ』だって」
「エロジジイが」
「でも、すごくいいわ。普通に寝るにも使えると思う」
「そうなのか? まあありがたく受け取っておくか」

 中身がなんなのか気になるが、それはその内調べよう。そんなことを考えていると背後からフォルスの声が聞こえてくる。

「ぴゅー♪」
「あら、どうしたの?」
「ぴゅ!」
「こっちがいいの?」
「ぴゅーい♪」

 なにやら問答をしているので振り返ってみると、柔らかい布団とやらの上でフォルスが飛び跳ねていた。弾力があるのか、ポンポンと浮いているのが見える。

「あはは、すごいすごい! ならフォルスのためにここに敷いておくわね」
「ぴゅ~」

 セリカがそう言ってフォルスをひと撫でしてからまた御者台に戻って来た。
 
「ボックスの容量はそれなりにあったわ。素材とかポーションを入れるのに使えるかな? 私達の荷物は寝るときに入れるくらいでいいだろうし」
「そうだな。よし、そろそろ昼飯にするか――」

 と、王都に向かう道中はそんな感じで穏やかに進んでいた。
 街道で商人や冒険者とすれ違うことはあっても、魔物が出てくることがなかったため比較的楽な旅になったのは良かったと思う。

 そして特になにもないまま、俺達はフォルゲイト国の王都へと到着した。

「わー! 王都ってあんな感じなのね。外壁も高いけど、お城も大きいわ」
「あれは少し丘の上に建っているからなんだ」

 セリカがまだ遠くに見える城を見て興奮ぎみに口を開く。王都の仕組みを話してみるとふんふんと頷きながら言う。

「さすが、詳しい。でもあれだとドラゴンの攻撃に耐えられなくない?」
「と、思うだろ? そこは王都だけあって宮廷魔法使いが防御魔法でガードするんだ。圧巻だぞ」
「へえ、カッコイイ良さそう!」
「ぴゅひゅー……」

 とはいえドラゴンの攻撃は苛烈なので本気で防御をするなら数十人は必要だ。
 町全体となれば百人単位でいかないと確実に犠牲が出る。
 ちなみに俺が陛下に顔が利くのは、王都に一度ドラゴンが襲来したその時に討伐をしたからである。
 
「――って考えるとラッヘさんが一人で討伐に行くけど、ドラゴンの攻撃を受けたらかなり危ないんじゃない?」
「もちろんだ。だが身に着けている防具がダメージを抑えてくれるんだ」
「強そうだもんね」
「見た目もそうだけど、そもそもドラゴンの素材で作っているし、鎧自体に自動で防御魔法がかかるようになっている」

 そう話すとセリカが目を丸くして『いいなー』と感心し、俺の鎧を撫でていた。
 いわゆる『殺気』みたいなものに反応して発動し、効果は俺の魔力が尽きるまで。
 フォルスの母親と戦った時にダメージを負っていたのは記憶に新しいが、もしこの鎧が無ければ恐らく二、三撃で致命傷だったろう。

「そこまでなんだ……」
「怖くなったか?」
「うん。でも、装備を整えるんだよね」
「だな。素材はいくつかある。後は職人のところへ行くだけだ」

 セリカは虚勢を張らずにハッキリと『怖い』と口にした。弱気になりすぎるのも良くないが、未知の相手に勢いだけで突っ込むよりははるかにいい。
 
「凄いわねえ。フォルスもいつか大きくなったらかっこよくなるかしら?」
「ぴゅひゅー……」
「うーん、どうかな。甘えん坊だし、戦うって感じはしないなあ」
「あはは、そうね! フォルスはジョーにやっと慣れたところだもん」

 王都を襲うといったイメージが沸かないと、俺とセリカはお気に入りになった柔らかい布団で眠るフォルスを見る。
 あの黒いドラゴンみたいにならないで欲しいものだと思う。

 そのまま装備についてセリカと話しながらのんびりと進み、いよいよ王都の門へと到着するのだった。
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