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その18 考えるべきことは

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 ――ブレイドタイガーを倒した後、俺達は遺体を持って町まで戻った。門でひどく驚かれたが、俺とセリカを見て『この二人なら倒すか』みたいな話をされていた。

「抱えて持って帰るとはなあ……」
「ドラゴンに比べたら軽いもんだ」
「そりゃそうだけどよ。そこに荷車があるから使いなよ」

 門番の男が呆れながらそんなことを口にする。俺はありがたく借り受けてブレイドタイガーの胴体を乗せて引き始める。

「これで依頼は達成ね!」
「ああ。こいつをもって帰るだけだな」
「ぴゅー……」
「ん? どうした?」

 町中に入るとセリカが意気揚々と嬉しそうに声を上げた。しかしフォルスはセリカをチラチラと見ながら細い声を出す。なにがあったのかと思っていると――

「うわあああん! あのお姉ちゃん怖い魔物の頭を持ってるよう!」
「血だらけで怖い……」
「シッ、見ちゃいけません!」

 ――周囲の人達がそんな話をしていた。

「……」
「……」
「ぴゅーい……」

 ……改めてセリカの持っている首を見ると、ものすごい形相で血まみれのブレイドタイガーの顔が目に入る。これは確かに怖い。

「荷台に置いてなにか被せておこう」
「そうね……」
「ぴゅ」

 荷台に乗せると、フォルスは俺の懐から身を乗り出してきた。あれは怖かったか。
 そのままギルドへと足を運ぶと、ワイズを呼んでくるようセリカに頼む。
 それに帽子を被せているとはいえ、ドラゴンを連れているので目立たないようにすべきだろう。

「お父さん頑張ってるわねー♪」
「誰がお父さんだ」
「ぴゅー!」

 フォルスはセリカに任せていて、大人しく抱っこされている。借りた荷台を引いている俺に声援らしきものを送ってくれているようだが父親じゃあない。

「っと、ギルドに着いたか」
「お疲れ様!」
「戦闘はお前がずっとやってたんだからこれくらいはな?」
「えへへー」

 俺の隣で満面の笑みを見せるセリカに苦笑していると、ギルドから慌てたワイズが出てきた。

「お、ちょうど良かった」
「いやはや、早かったね……君たちを見た冒険者が呆れながら報告してくれたよ」
「なぜ呆れてたのかしら……」
「そりゃ、ここの冒険者達が苦戦をしていた手負いのブレイドタイガーを討伐して来たんだから。それに今日中とは……」
「まったくですね。ギルドマスターから話を聞いて数時間しか経ってませんよ。あ、ブレイドタイガーを預かりましょう」

 ワイズも呆れていた。
 その後ろに居た査定するギルドの人間も苦笑しながらギルドから出てきた。
 俺の荷台を二人とはまた別の人が交代してくれて軽くなる。

「首を落としているのか、凄い……」
「目に傷がある。間違いなくこいつだ」
「さすがはAランクと滅竜士《ドラゴンバスター》だな」
「いや、俺は戦っていない。セリカ一人で倒したぞ」
「「「え!?」」」

 俺がそう言うとその場に居た全員が驚いていた。
 まあ、冒険者『パーティ』で苦戦していたところなのにセリカが一人で倒したと聞けばそうもなるか。

「いくらなんでも……」
「本当だぞ?」
「この子が危険を教えてくれたのもあるけどね! ね?」
「ぴゅー♪」
「嘘を吐く理由もないか……というかその生き物はいったい?」

 毛糸の帽子を被ったフォルスが両手を上げて喜んでいた。ギルドの人間が眉をひそめて眼鏡を直しながら疑問を口にする。

「気にするな。ワイズ、査定を頼む」
「分かったよ。珍しいトカゲらしいから触ったりするんじゃあないぞ」
「トカゲ……ふむエメラルドグリーンが鮮やかですね。調べてみたい……」
 
 眼鏡の男が興味を持っていたがワイズに首根っこを掴まれて査定へと戻されていた。

「中で待っていてください」
「ああ、こいつが居るからいい。近くにあるテラスタイプのカフェにでも行く」
「そうですか?」

 俺が手を上げて断るとギルドの人間は遠慮するなと言ってくれるが、事情を知るワイズが声をかけてくれる。

「そうしてもらってくれ。しばらくしてから戻ってきてくれるかい?」
「オッケー! 喉乾いたし飲み物を買いに行きましょ」
「セリカは頑張ったからな」

 素材だけでも十分な金額になるだろう。
 それに合わせて報酬も入る。パーティで苦戦していた相手を倒したのだから結構多いのではないかと推測しているがどうだろうな。

「あ、ここにしましょ」
「ぴー♪」
「こういう場所の飲み物はよく分からない。フォルスを預かるから適当に買ってきてくれ」
「あはは、ラッヘさんはドラゴン退治ばっかりだもんね」

 そう言いながら少しだけ寂しそうな顔を見せて、セリカは店の中へ入っていった。

「ドラゴン退治ばかり、か」
「ぴゅいー?」
「こら、顔を舐めるんじゃない。これからどうなるのか」

 セリカの実力は本物なのでドラゴン討伐参加は問題ないだろう。
 しかし装備は変えるべきだと思う。
 今の剣では鱗に傷をつけることはできないとハッキリ言えるし、牙や爪に耐えうる防具と盾でもない。

「ふむ」
「ぴゅー~♪」

 フォルスの身体を撫でると背中の毛以外は硬い鱗に覆われている。成体よりは柔らかいものの、赤ちゃんの時点でもキラーホーネットやヘルビートルと同じくらいの硬度があると思う。

「装備か」

 王都に行った後はそっちになるだろうなと俺は晴れた空を見上げながら呟く。次のドラゴンが出るまでには……そう考えているとセリカが飲み物を持って帰って来た。

「お待たせー」
「ぴゅー♪」
「お、撫でてもらってるの? いいわねー。はい、アイスカウヒーで良かった?」
「ああ、助かるよ」

 カウヒー豆という小さな豆があるのだがそれを挽いて粉にし、目の細かい布に入れてお湯を注ぐと苦い汁が出る。それを飲むのがカウヒーである。
 ホットでもアイスでもいけるがとても苦い。塩よりも少し安価である砂糖を入れるか、ミルクでマイルドにするのだ。

「ふう……苦味は脳を刺激するな」
「私はアイスティーにしたわ。いい茶葉が入ったって。んー、おいしー」
「ぴゅー」
「ん? フォルスはミルクを上げたじゃない」

 両手でコップを持っているフォルスが俺達の飲み物を見て声を上げていた。

「カウヒーはお前には無理だと思うぞ……?」
「紅茶なら飲めるかしら?」
「ぴゅーい! ぴゅーい!」

 俺の膝に乗るフォルスがコップを丁寧にテーブルに置くと、手をバタバタさせてねだる仕草をする。

「……飲ませてみるか」
「大丈夫かな……?」

 これも生態調査だと思えばと俺は少しアイスカウヒーを口に流し込んでやる。
 すると口に含んだ瞬間――

「ぴげー……」
「あは、苦かったみたいね」
「そらみろ」
「ぴゅー」

 一応、零さずに飲み込んだのは偉いと思った。
 その後、すぐにミルクを飲んで口直しをするフォルスを見て俺達は微笑むのだった。

 
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