10 / 116
その10 フェイスキーパーというパーティ
しおりを挟む
「いや、セリカが言い出したことだから別にそのつもりはないぞ?」
「ラッヘさん……!? つもりある! あるから!」
「こう言っているぜ?」
「あんたは黙ってなさいよデュレ!」
「なんだよ!?」
一瞬でギルド内が喧騒に包まれた。
セリカの所属するパーティである【フェイスキーパー】のリーダーであるデュレとセリカが喧嘩を始めてしまったからだ。
デュレは赤い髪でツリ目の三白眼をした野性味あふれる男で、剣の腕も立つ頼りになる男である。
「ま、まあまあ、落ち着こうよデュレ。セリカの話も聞いてみないと。ちゃんと説明してくれるんだろう?」
そう言って間に入ったのは同じくパーティメンバーで魔法使いのグラースだ。水色の髪が映える割とイケメンである。
「もちろんよ! 私はラッヘさんと旅に出るの!」
バァァァン! という音が背後に見えるくらい堂々とした口調で胸に手を当ててドヤ顔というやつをするセリカ。
そこへ眼鏡をかけた少しキツイ感じの女の子が口を開く。名前はミント。目つきはきついが可愛い顔立ちをしている。
「そういう理由で抜けていいわけがないでしょう、セリカ。あなたが抜けたら前衛がデュレだけになるわ。そうなるとわたしとグラースが危ないことになるのよ」
「また誰か入れればいいじゃない?」
「「「軽い!?」」」
俺もそう思うと腕組みをして頷く。パーティは人間関係が一番大事と言っても過言ではない。だからサッと抜けてサッと入るというのは難しい。
新しい人間があまり馴染めなかったら結局変わらないからな。
そこで腕組みをして圧迫されて苦しかったのかチビが顔を出した。
「ぴゅ」
「セリカ、俺は別に一人で構わない。気持ちだけ受け取っておくよ」
「ほら、ラッヘさんもああ言っているじゃねえか」
「ダメよ! ストロンゲストを育てるにはラッヘさんだけじゃ無理だもん」
「なんて?」
「ストロンゲスト! ほら、あの子よ」
そう言ってチビを指さすセリカ。
というか勝手に名前をつけているだと……!?
「違う。そんな名前じゃない」
「かっこいいじゃないストロンゲスト! ねー?」
「ぴゅー?」
首を傾げて笑うセリカに同じく首を傾げるチビ。まったく理解していないようで安心した。
すると目を丸くしたフェイスキーパーの三人がそれぞれ口を開く。
「な、なんだ!?」
「トカゲ……じゃないですよね……? その角……まさか――」
「きゃああああ! 可愛いぃぃぃ! ラッヘさんラッヘさん! ちょっと抱っこさせて!!」
「おう!?」
驚く男二人に対し、ミントは俺に一気に詰め寄ってきてチビと目線を合わせていた。
「ハッ……! こほん。抱っこ、させてください」
「……ちょっと待ってくれ。チビ、いいか?」
「ぴゅー」
いいらしい。
ずるりと胸元から取り出してミントに渡すと、頬を膨らませたセリカが言う。
「あ、ミント抜け駆け!」
「ほら」
「わあ、小さいわ……というかこの子、ドラゴンですか?」
「ああ」
俺が頷くとデュレが頬を掻きながら俺に話しかけてきた。
「や、やっぱりか……というか滅竜士《ドラゴンバスター》のラッヘさんがどうしてドラゴンを連れてんだよ」
「まあ、どうせ町を出ていくし話すのは構わないが――」
前置きをしてちょっと離れたテーブルへ移動し、経緯を話す。するとグラースがミントの抱っこしているチビの鼻先に恐る恐る人差し指を当てながら言う。
「……大人しい、ですね。ドラゴンの幼体を見た人間は僕達くらいなものなのでは? さすがラッヘさん……と言いたいところですがドラゴンは……」
「分かっている。だから基本的に野営して暮らすつもりだ。一応、王都に行って陛下には伝えておく」
「あー……俺達もドラゴンには散々な目に遭わされたから印象は良くねえ。それにしても喋るドラゴンか……ラッヘさんの仇も見つかるかもしれねえな」
デュレが難しい顔でそんなことを言ってくれる。この三人もこの町出身で、その昔に俺が助けたから心情的にはこっち寄りのようだ。
「元々、俺の生業はドラゴン討伐で危険なんだ。だからセリカを連れて行くつもりはないんだよ」
「だよなあ。ラッヘさんがそんなこと言うわけねえ」
「ですね」
「なら……わたしが行きます」
「話を聞いていたかな!?」
「ダメに決まってんでしょ!」
「お前もな!?」
キリっとした顔でとんでもないことを言いだすミントと、それを嗜めるセリカ。
とりあえず説明はしたし、そろそろ出発するかとミントからチビを取り返す。
「ああ……!?」
「ああ、じゃない。では俺は行く。……っと、ウェイクは?」
「居るぞ。ほら、書状だ」
「おお、助かる。仕事が早くて助かるよ」
「これくらいしかできんがな? 気を付けていけよ」
ウェイクの言葉に頷いてから俺はギルドを出るため入口へ向かう。
「ぴゅー?」
「お別れだ。手を振っておけ」
「ぴゅー」
「うう……可愛い……」
「待ってよラッヘさん……!」
セリカがなにか言いたそうだったが、俺はそのまま振り返らずにギルドを後にした。
「……名前、考えないとな」
「ぴゅーい」
セリカには悪いがこれで良かったのだ。ドラゴン討伐はチビの母親を倒した時のように過酷で、慣れている俺でも死にかけることがある。
ドラゴン以外は殆ど倒さないので金も稼げない。さらに町に入ることもないのでゆっくり休めない。
ついてきてもいいことはなにも無いのである。
「それじゃ王都を目指すか」
「ぴゅー!」
馬のジョーを回収するため、俺は厩舎へと向かった――
「ラッヘさん……!? つもりある! あるから!」
「こう言っているぜ?」
「あんたは黙ってなさいよデュレ!」
「なんだよ!?」
一瞬でギルド内が喧騒に包まれた。
セリカの所属するパーティである【フェイスキーパー】のリーダーであるデュレとセリカが喧嘩を始めてしまったからだ。
デュレは赤い髪でツリ目の三白眼をした野性味あふれる男で、剣の腕も立つ頼りになる男である。
「ま、まあまあ、落ち着こうよデュレ。セリカの話も聞いてみないと。ちゃんと説明してくれるんだろう?」
そう言って間に入ったのは同じくパーティメンバーで魔法使いのグラースだ。水色の髪が映える割とイケメンである。
「もちろんよ! 私はラッヘさんと旅に出るの!」
バァァァン! という音が背後に見えるくらい堂々とした口調で胸に手を当ててドヤ顔というやつをするセリカ。
そこへ眼鏡をかけた少しキツイ感じの女の子が口を開く。名前はミント。目つきはきついが可愛い顔立ちをしている。
「そういう理由で抜けていいわけがないでしょう、セリカ。あなたが抜けたら前衛がデュレだけになるわ。そうなるとわたしとグラースが危ないことになるのよ」
「また誰か入れればいいじゃない?」
「「「軽い!?」」」
俺もそう思うと腕組みをして頷く。パーティは人間関係が一番大事と言っても過言ではない。だからサッと抜けてサッと入るというのは難しい。
新しい人間があまり馴染めなかったら結局変わらないからな。
そこで腕組みをして圧迫されて苦しかったのかチビが顔を出した。
「ぴゅ」
「セリカ、俺は別に一人で構わない。気持ちだけ受け取っておくよ」
「ほら、ラッヘさんもああ言っているじゃねえか」
「ダメよ! ストロンゲストを育てるにはラッヘさんだけじゃ無理だもん」
「なんて?」
「ストロンゲスト! ほら、あの子よ」
そう言ってチビを指さすセリカ。
というか勝手に名前をつけているだと……!?
「違う。そんな名前じゃない」
「かっこいいじゃないストロンゲスト! ねー?」
「ぴゅー?」
首を傾げて笑うセリカに同じく首を傾げるチビ。まったく理解していないようで安心した。
すると目を丸くしたフェイスキーパーの三人がそれぞれ口を開く。
「な、なんだ!?」
「トカゲ……じゃないですよね……? その角……まさか――」
「きゃああああ! 可愛いぃぃぃ! ラッヘさんラッヘさん! ちょっと抱っこさせて!!」
「おう!?」
驚く男二人に対し、ミントは俺に一気に詰め寄ってきてチビと目線を合わせていた。
「ハッ……! こほん。抱っこ、させてください」
「……ちょっと待ってくれ。チビ、いいか?」
「ぴゅー」
いいらしい。
ずるりと胸元から取り出してミントに渡すと、頬を膨らませたセリカが言う。
「あ、ミント抜け駆け!」
「ほら」
「わあ、小さいわ……というかこの子、ドラゴンですか?」
「ああ」
俺が頷くとデュレが頬を掻きながら俺に話しかけてきた。
「や、やっぱりか……というか滅竜士《ドラゴンバスター》のラッヘさんがどうしてドラゴンを連れてんだよ」
「まあ、どうせ町を出ていくし話すのは構わないが――」
前置きをしてちょっと離れたテーブルへ移動し、経緯を話す。するとグラースがミントの抱っこしているチビの鼻先に恐る恐る人差し指を当てながら言う。
「……大人しい、ですね。ドラゴンの幼体を見た人間は僕達くらいなものなのでは? さすがラッヘさん……と言いたいところですがドラゴンは……」
「分かっている。だから基本的に野営して暮らすつもりだ。一応、王都に行って陛下には伝えておく」
「あー……俺達もドラゴンには散々な目に遭わされたから印象は良くねえ。それにしても喋るドラゴンか……ラッヘさんの仇も見つかるかもしれねえな」
デュレが難しい顔でそんなことを言ってくれる。この三人もこの町出身で、その昔に俺が助けたから心情的にはこっち寄りのようだ。
「元々、俺の生業はドラゴン討伐で危険なんだ。だからセリカを連れて行くつもりはないんだよ」
「だよなあ。ラッヘさんがそんなこと言うわけねえ」
「ですね」
「なら……わたしが行きます」
「話を聞いていたかな!?」
「ダメに決まってんでしょ!」
「お前もな!?」
キリっとした顔でとんでもないことを言いだすミントと、それを嗜めるセリカ。
とりあえず説明はしたし、そろそろ出発するかとミントからチビを取り返す。
「ああ……!?」
「ああ、じゃない。では俺は行く。……っと、ウェイクは?」
「居るぞ。ほら、書状だ」
「おお、助かる。仕事が早くて助かるよ」
「これくらいしかできんがな? 気を付けていけよ」
ウェイクの言葉に頷いてから俺はギルドを出るため入口へ向かう。
「ぴゅー?」
「お別れだ。手を振っておけ」
「ぴゅー」
「うう……可愛い……」
「待ってよラッヘさん……!」
セリカがなにか言いたそうだったが、俺はそのまま振り返らずにギルドを後にした。
「……名前、考えないとな」
「ぴゅーい」
セリカには悪いがこれで良かったのだ。ドラゴン討伐はチビの母親を倒した時のように過酷で、慣れている俺でも死にかけることがある。
ドラゴン以外は殆ど倒さないので金も稼げない。さらに町に入ることもないのでゆっくり休めない。
ついてきてもいいことはなにも無いのである。
「それじゃ王都を目指すか」
「ぴゅー!」
馬のジョーを回収するため、俺は厩舎へと向かった――
11
お気に入りに追加
307
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる