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その8 ドラゴンは敵だ……!

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「ケチ臭い親父だ」
「聞こえてんぞ!」
「ぴぃー」

 おっと、いい耳をしているな。さっさと離れるとするか。
 ケチ臭いとは言ったものの、親父の言うことはその通りなので仕方あるまい。
 
 ……稀にしか姿を見せないドラゴン。
 だが、ひとたび現れると町に災厄を振りまいていく。この町も例外ではなく一度攻撃を受けたことがある。
 その時はたまたま俺が町に居たので被害を抑えることができた。

 だからこの町の人間は俺を知っているし、拠点として使っているのである。
 
「だが、こいつが居るとここも出ていくべきかもしれないな」
「ぴゅい?」
「ぶるん」

 暢気な動物二頭が適当に鳴いていた。厩舎にチビを置いておけばあるいは――

「いや、いいか。ジョーもまだ慣れていないし、一緒はストレスが溜まりそうだ。修行中を考えれば別に野宿でも構わないか」
「ぴゅーいぴゅー」

 よく分からない鳴き声を発しながらもぞもぞと俺の腕の中で動くチビは、自分が落ち着くポジションを探しているようだ。
 とりあえずそうと決まれば食料を買って町を出よう。そう思い再び歩き出した。

「あっれー? ラッヘさんじゃん! 戻ってきてたの?」
「ん? なんだセリカか」
「なんだとはなによう!」

 通りで俺に声をかけてきたのはこの町に住むセリカという冒険者の女の子だった。
 数年前にこの町が襲われた際、この子を間一髪助けたことが縁で顔見知りとなった。
 そして俺に憧れ、自分で強くなると冒険者の道を選んだ強い娘である。

「仕事は順調か?」
「うん! ラッヘさんに教えてもらったことはちゃんとやっているわ! それよりまたどこかへ行くの?」
「それが――」

 と、俺が事情を説明しようとしたところで俺の懐がもぞもぞと動きチビが顔を出した。

「ぴゅーい!」
「ありゃ!? なにこの子? ……って、その角……ま、まさか……ドラ――」
「声が大きい。ちょっとこっちへ来い」
「もがー」
「ぴゅー」

 セリカの口を塞いでから俺はもがる彼女を担いで家屋の裏へと連れて行く。胸元で顔を出しているチビが手を上げて鳴いていた。

「ふう……」
「ぶは!? 『ふう……』じゃないわよ! いきなり路地裏に連れ込んで! 宿にしてよね」
「なにを言っているんだ? ともかく、大きな声を出すな」
「まるっきり盗賊みたいなセリフだけど大丈夫? それよりさっきの子……」
「ぴゅーい♪」

 セリカが俺の胸元を指さすとチビが嬉しそうに声を上げた。宿の親父には見せているしまあいいかとチビを取り出して胸元で抱く。

「……お前の勘の通り、こいつはドラゴンだ。ほら、挨拶をしろ」
「ぴゅー」
「あ、これはご丁寧に……って、どうしたのホントに。滅竜士《ドラゴンバスター》のラッヘさんがドラゴンの子供を連れて。子供でいいんだよね?」
「ああ。実は――」

 俺はセリカにチビを連れている理由を語った。喋るドラゴン、竜鬱症というドラゴンにのみ流行っているらしい病。
 そして町を襲うドラゴンはそれにかかって正気を失っている暴走状態であることを。

「はえー……。喋るドラゴンなんて居たんだ!?」
「俺も驚いている。この十年ドラゴンを倒して来たが初めて見た」
「で、その倒しちゃったドラゴンの子供が君なのね」
「ぴゅー♪」
「あは、可愛いわね。抱っこしていい?」
「ぴゅい!」

 愛想のいいチビを気に入ったのかセリカはこいつを抱っこすると言い、チビも満更でもなさそうであっさりと俺の手から離れた。

「ぴゅーい♪ ぴゅーい♪」
「ご機嫌だな」
「よくわからないけど、ドラゴンの子供って大人しいのね。前に見た時は物凄いヤツだったもん。この子も大きくなったらあんな感じになるのかしら」

 少しだけ困った笑みを見せるセリカ。この町が襲われた時のことを思い出しているのだろう。小さいとはいえドラゴンには変わりないのだ。

「母親はでかかった。多分、ここを襲った個体よりもな。だからこいつもきっとそうなる」
「そっか」
「ぴゅーい!」

 でかくなるとでもいいたげに手を広げてアピールするチビ。そこでセリカが俺に聞いてくる。

「ドラゴンはこの国だけじゃなく、他の国も討伐対象でしょ? 大丈夫なの?」
「さっき宿の親父に追い出されたところだ」
「ダメじゃない!? これからどうするつもり? この町は特にドラゴンに厳しい……けど、小さいし可愛いから説得すればなんとかなるかも」

 セリカがチビの鼻先を指で突きながらそんなことを言う。チビも遊んでもらっていると思っているのかさっと顔を避けて指を舐めていた。
 その光景を眺めながら俺は今後のことを口にする。

「可愛いと言ってもドラゴンはドラゴンで敵だ。連れているが、それは利用するためだ」
「ほうほう」
「ドラゴンは喋ることがわかった。となるといずれ俺と意思疎通ができる。そしてドラゴン同士でも会話が可能……俺の仇を探すにはちょうどいいと思わないか?」
「あー、そういうことか。それなら確かに納得がいくわ。ふふーん、君は利用される道具なのねえ」
「ぴゅーい?」
「ドラゴンは俺達の敵だ当然だろう? お前だってあのドラゴンが残っていたら同じ手を取るはずだ」

 俺がそういうとチビと目を合わせていたセリカがこちらを向いてニヤリと笑う。

「まあ、そうよね。滅竜士《ドラゴンバスター》はドラゴンを倒すのが仕事だもんね」
「ああ。一応、ギルドに話をしてテイム扱いにしてもらおうかと思っているんだ。それができたら次だ。功績はそこそこあるし、直接陛下に釣れていることに謁見を申し出る予定だ」
「え!?」
「こいつはまだ小さいし、食い物もなにを食べるか分からない。まったく面倒をかける」

 俺がため息を吐きながらチビに目を向けると、セリカが目を丸くし、チビを掲げてから言う。

「いやいやいや!? ドラゴンは敵って言ったよね今!? 手厚い手厚い! この子が敵なら檻に入れて食事は最低限とか、ドラゴン質にして他のドラゴンをおびき寄せて殺すとかでしょ!?」
「うわぁ……怖いなお前……返してくれ」
「ぴゅ」

 物騒なことを言うセリカからチビを取り返し、俺は話を続ける。

「まだ小さいし、悪さをしていないからそこまでする必要はないだろう。拾って間もないし、なにが好みかもわからない。なあ?」
「ぴゅーい」
「もう完全にお父さんじゃない……! まあ、ラッヘさんが優しいのは知ってるからそう言われても納得しちゃうんだけどさ」
「まあ、なんとかやってみるよ。囮じゃないが、こいつを連れていたらドラゴンたちに変化があるのかも気になる」
「確かに……」

 決して可愛いからではない。きちんと理由があるのだと説明したらセリカは顎に手を当てて小さく頷いた。
 
「それじゃ俺は行くぞ。ギルドへ行かないと」
「あ、待って待って! 私も行くわ、ちょっとやることができた」
「ギルドでか? まあ俺はいいがドラゴンと一緒だと知られたら面倒じゃないか?」
「まあまあいいからいいから」

 俺は少し不安を覚えながらチビを懐に入れ、セリカと共にギルドへ歩き出した。
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