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第八章:エスペランサ動乱編
第百九十五話 復讐者
しおりを挟むまずいまずいまずい!!
『生命の終焉』で目の前にいるルルカとリファの寿命を見ると、残り時間はわずかだと告げる赤い警告が頭上に出ていた。だが、まだ間にあう……! フードの男にかけられた魔法さえ何とかなれば……!!
「う、ごけぇぇぇぇぇ……!」
「無駄だ。一度かかればそう簡単には解けん」
「くそ! 芙蓉、ティリア! どうだ!」
クスリと微笑むローブ野郎を無視して、俺は芙蓉に話しかけるが、力ない言葉が返ってくる。
「だ、ダメ……全然動けないです……」
「勇者を拘束できるほどの魔力だなんて! く……ルルカさんとリファさんが……!」
ダメか……しかし、こいつは何者だ? 先ほどの口ぶりから、国王に嘘をついたのは間違いなくこいつだろう。
「お前は何者だ? 俺を狙う刺客ってやつか?」
「ほう、そこは気付いていたのか? 私が誰か、だと? 寂しいじゃないか、私を忘れるなんて……」
そう言ってバサっとフードを取り去った男。その素顔に、俺は……俺と芙蓉は驚愕する……!
「お前は!? 月島……月島 影人!?」
「勘が悪い方向で当たったわね……やっぱりカケルさんを狙う刺客はあんただったのね」
「『あんた』だなんて、他人行儀な言い方はやめてくれよ。私達は二人きりの兄妹じゃないか」
「私をあんな目に合わせておいて兄妹だなんて、反吐が出るわね」
ニヤニヤと笑いながら芙蓉と話すその男は紛れもなく、俺が向こうの世界で殺した月島だった。芙蓉は当時の思い出が蘇ったのか、強がりを言いながらも声は震えていた。そして、空気だったギルドラが口を開いた。
「あ、あなたは、教祖カゲト……!?」
「ああ、君は確かギルドラ君だったかな? 捕まって尚生き延びているとは滑稽だ。すぐその命を絶ってあげるよ。エアモルベーゼに捧げるんだろう?」
「ひっ……!?」
ギルドラが縛られたまま短く呻く声が聞こえた。罰は必要だが、それは死んで償うものじゃない。俺は注意を逸らす為、月島に話しかける。
「どうしてここに居るのかは分からないが、狙うなら俺だけにすればいいだろ? ルルカとリファは関係ない、回復させろ」
「させろ? うーん、どうやら立場が分かっていないようだね。私にとってはこれが都合がいいんだよ。そうそう、私が君に刺されたのはこの辺だったかな?」
ゾブリ……
やつの持つ武器……恐らくは刀か? それを、リファの脇腹へと突き刺すと、ぐりぐりと手を動かす。リファの体が一瞬、ビクンと跳ねた。
「リファル!? 貴様、ただでは済まさんぞ!」
「やめろ! お前の復讐相手は俺だろうが!!」
「ふん、動くなと言ったろうに!」
カンカン! ガギン!
「がは……!?」
「ジェイグ!」
リファのピンチに激高したジェイグが月島に襲いかかるが、数度剣を受けた後、簡単に弾き返した。
「うん、いい顔だ。私はそれが見たかった。それでこそ、娘達が君に好意を抱くよう仕組んだ甲斐があったというもの」
「どういうことだ! くそぉ! 動けってんだ!!」
「はははは! 無駄だよ! ……君のスキル構成は私がアウロラ……いや、エアモルベーゼに頼んで仕込んでもらったんだ。寿命を見る力、与える力、回復の力。……そして、女性に好かれる力だ」
俺のスキル効果を知っている!? そしてやはりあのアウロラはエアモルベーゼで確定か。
「『魔王のフェロモン』が、そのスキルって訳か……」
「へえ、もう視えるようになったんだ。中々早い」
パチパチと拍手をする月島が、言葉を続ける。こうなったらナルレアを使って俺を無理やりルルカ達のところへ分投げてもらうか……?
「そう、『魔王のフェロモン』君が助けた女の子は、知らず、君に惹かれるようになっているんだ。回復や寿命を分け与える、知識を与えたりすればその分好感度は上がる。後は近くに居るだけで徐々に上がっていく、だったかな? いやはや、私は『ゲーム』などやらないので、ちょっと難しかったよ。あの眼鏡をかけた子は何て言ったかな? あの子は成功だった」
そうか、トレーネが俺にべったりだったのはそのせいか! あいつは瀕死だったから、反動が大きかったに違いない。そして師匠には寿命を、ルルカにはスマホという引き金があった。言われてみればリファが口で言うほど寄って来ないのは、あいつに何かしてあげたことがないからだろう。せいぜい料理くらいか。
「しかし、あの娘を置いて、まさか一人旅をするとは思わなかったがね。だが、おかげで殺害対象が増えたから私は満足だ!」
「てめぇぇぇ!」
「ま、大人しくそこでこの娘達が死んでいくのを見るがいい。どうです国王? この男に関わったばかりに、大切な娘は死ぬのです!」
「ぐぬう! 手を下しているのは貴様だろう! であえ! こやつを生かして返すな!」
「何とでも。ああ、騎士達を呼んでも無駄ですよ、すでに始末は済んでますよ」
「何だと……!?」
そこまで言ってから、再度俺に向き直る。
「ようやく……ようやく、君に痛い目を見せることができた。感無量だ。私が死ぬ時、教団関係者にはいつか君を始末するよう言い伝えていたが、しっかり果たしてくれたよ」
「あのダンプ事故はお前が……!?」
「君が向こうで死んだ時の手段は知らないけど、エアモルベーゼから君が死に、ここへ送られたことは聞いていたがね」
「あの野郎もグルか、ならどうして俺にチート臭い能力をつけた?」
すると、月島に捕えられているルルカが呻き、俺はハッとする。
「う……う……」
「ルルカ! 回復魔法だ! お前は使えたはずだ! それで――」
俺が言い終わらない内に、月島はルルカの首を持って軽々と持ち上げる。
「そうはいかない。この娘は君の前でむごたらしく死ななきゃいけない。カケル君、君を傷つけるよりこうした方が私としては楽しくてね。ま、手を出していないのはいささか驚いたが」
スッ……と、刀をルルカの背中に向けた。
「!? ナルレア!」
<はい……!>
「遅い」
ドシュ……
月島の凶刃がルルカの背中から刺さり、胸へと突き抜けた。
<あああああ!!>
直後、ナルレアの猛攻が繰り出される。それを躱しながら、ルルカを俺に放り投げた。
「ほら、返すよ」
「ルルカ……!?」
「ご、め……カケ――さ、ん。足手――」
【ルルカ 寿命残 45秒】
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「無駄だ! そして!」
<はっ!>
月島が自身の刀をぶん投げた! ナルレアはその鋭い攻撃を身を翻して回避する。だが、それは罠だった。
ドッ!
「きゃあああああああ!? トレーネぇぇぇ!」
「嬢ちゃん!?」
「いかん、このままでは刃を抜く前に息絶えてしまう!」
「カ、カケ、ル……やっと、見つけ――」
「喋っちゃダメ」
「~!!! ~!!!」
ドサリと倒れる音が聞こえた。
さっきの悲鳴はエリン、倒れたのは……トレーネだろう……そしていつ合流したのか分からないが、爺さんとアニスの声も聞こえてきていた。
「お前……お前ぇぇぇぇ! 殺す……! 必ず殺してやる!」
「ふ、ふはははははは! いいぞ! そうだ! 絶望しろ! 私が見たかったのはその顔だ! 死んでいなければいくらでも再生できるのに、何もできずに死んでいく彼女達に詫びつづけるんだな! そのために豊富なスキルをくれてやったんだからな!! ははははははは!」
ブチン――
本当に愉快そうに笑う月島。その笑い声を聞いて、俺の中で何かが壊れた。
そうか……俺をそんなに苦しめたいか……母を追いつめ、姉ちゃんを殺し、今度はルルカ達を……
いいだろう、お前が寄越したスキルで、オマエヲ、コロシテヤル――
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