上 下
155 / 253
第六章:ヴァント王国の戦い編

第百四十七話 魔王と破壊神(の力の一部)

しおりを挟む
 

 「ってぇ……野郎、絶対ゆるさねぇ!」

 「……あんまり叫ぶと頭に響くから」

 「一本道だけど長いわね、さっきの揺れ……急がないと」


 神殿へ向かって懸命に走っているのは、アルとサンにコトハ、そしてペリッティだ。

 
 そして――


 「この先は女神と破壊神の封印がある。恐らく解けちまったみたいだな」

 さらにフェルゼンが合流していた。

 サンとアンリエッタがと共に子供達を馬車に乗せていたが、フェルゼンの怪力で即座に終了。サンと共に洞窟内へと侵入したのだ。

 「まさか、土刻の魔王が来るなんて思わなかったわ」

 「嫌な予感がしたからな。昨日、フエーゴから帰って来たんだけど、徹夜で走ってきたぜ!」

 「……港町から一日では普通の人は無理……」

 「流石は魔王ってことかしら? カケルさんも規格外だったし、魔王ってそういうものなのかもね」

 ペリッティが呆れたように言うと、フェルゼンが驚いた様に言う。

 「なんだ、お前等もカケルを知ってんのか? フエーゴであいつが来るのを待ってたんだが来なかったんだよな。この国にはもういねぇみたいだし、知ってるか?」

 「魔王同士、知り合いだったのかよ……えっと――」

 アルはエリアランドで出会ったカケルの話をかいつまんで話す。

 「はっはっはぁ! あいつ面白いことになってるじゃねぇか! いいぜ、もっと強くなって貰わないとな」

 「強く……ってどうするんですか?」

 コトハが眉をひそめて尋ねると、フェルゼンは当然と言わんばかりに答えた。

 「そりゃ俺と戦ってもらうためだ。最近腕の立つやつがいねぇからな……魔王連中はまあまあだが、それぞれの属性で戦ってくるからもう手の内は分かってんだよな。でもカケルは全武器適性持ちだ。成長すれば相当厄介になるだろうぜ! 楽しみで仕方ねぇ!」

 「……バトルジャンキー……」

 「あ、馬鹿!? なんてこと言うんだサン!?」

 サンがボソッと呟いたのをアルが咎めると、フェルゼンは笑いながら口を開く。

 「かまわねぇよ、その通りだしな! ……ま、その前に面白い相手と戦えそうだがな」

 フェルゼンが笑うのを止め前を見据えると、神殿の入り口の前でオロオロしているエリンを発見し、ペリッティが声をかける。

 「エリン!」

 「あ! ペリッティさん! た、大変です! 封印が解かれて、グランツとニドさん達が向こうに取り残されました!」

 「なんですって……! この崩れ方……これじゃ助けに行けないじゃない……」

 最高の暗殺者と言えど、即座に瓦礫を撤去する技術は無い。それでも何とか穴を掘ろうとダガーをがつがつと当てていると、フェルゼンが肩に手を置いた。

 「まあ慌てるな。俺が何とかしてやるよ」

 「フェルゼン様、この瓦礫をどうにかできるんですか……?」

 コトハが尋ねると、無言で頷き瓦礫に手をやり、呟いた。

 「俺は”土刻の魔王”だ、土や石を扱うのはお手の物ってこったな≪アースメルティング≫」

 「ああ! い、岩が融けていく……」

 コトハが手を口に当てて驚き、目の前でどんどん岩が融解していくのを見届ける。やがて一人分が通れるだけの穴を確保でき、そこから中を覗き込むと――


 ◆ ◇ ◆


 「ぐう……!? 強い……!」

 「さっきまでと同じ男とは思えん! ぐはぁ!?」

 「ニド! 野郎!」

 【ふっふっふ……そろそろ限界のようだな、お前達のレベルは斧を持った男が一番高そうだ。みつくろって36といったところか? 次に貴様か】

 「チッ……」

 ドアールの剣を受けながら余裕の笑みを見せるシュラム。言うとおり、グランツもれべるは上がっていたが、20程度なので、ニド達と比べれば見劣りする。現に攻撃を与えられているのはニドが一番高い。

 【私はこの状態で95はある。4人がかりでやっとだろう。潔く養分になれ人間】

 「がっ……!?」

 「兄貴! ≪業火≫!」

 【もう尻は焼かせんぞ!】

 「うう……」

 土の剣と格闘でグランツ達4人を相手に立ち回るシュラム。そしてついにトレーネが捕まってしまう!

 【私好みではないが、まずはお前から吸収してやろう】

 「や、やめろ……!」

 【いい顔だ、その恐怖も力の増加に役立つ。お前はこいつの兄だったか? そこで大人しく見ていろ≪グランドネイル≫】

 「ぐあ!」

 地面から突き出た土に貫かれ地面を転がる。

 トレーネを掴む首に力が入ったその時、入り口に異変が起こった!

 ドロリ……ぐしゃ……

 「な、なんだ……?」

 剣を杖に立ちあがるドアールが入り口に目を向けると、塞いでいた岩がみるみる解けて舞い散った!

 【なに……!?】

 シュラムもそちらを顔だけ向けて驚くと、入り口からシャ! と、何かが飛んでくる!

 ドス! ドス!

 【ぐあ!? ああ!? 尻ぃ!?】

 「トレーネに何するつもりよ、この変態!」

 憤慨して出てきたのはエリンだった! 尻丸出しの男がトレーネを捕まえていたのだ、気が気でなく、エリンは『ダブルショット』で、トレーネを捕まえていた腕と尻に一撃ずつ攻撃を仕掛けた。

 【ぐぬう……女ぁ……! 貴様から縊り殺してやる!】

 「!」

 グランツとニド、ドアールは動けずエリンに迫るシュラムを止めることができない。あわや、というところでシュラムの腕を掴む者がいた。

 「よう、お前が破壊神の力とやらか? 期待外れじゃないことを祈るぜ? よっと!」

 【ぐふう!?】

 腕を掴んだのは当然ながらフェルゼンである。腕を掴んだまま、開いた手でシュラムへとボディブローをぶち込むフェルゼン。それと同時に手を放すと、シュラムは物凄い勢いで石碑に激突した。

 バガン!

 「ひ、ひい!? ぶべら!?」

 石碑が粉々に砕け散り、破片がパンドスにヒット。鼻血を出しながらもぞもぞと隅へと逃げていた。

 【ぬう……! な、何者……!】

 「聞くのは昔から聞いているが、会うのは初めてだな。俺はフェルゼン。剣神フェルゼン。またの名を土刻の魔王フェルゼンだ」

 腰の大剣を抜きながら口上を言うと、石碑をガラガラのけつつ立ち上がる。

 【魔王……? 土刻の英雄ではないのか? まあいい、みんなまとめて片づけて養分にしてやる】

 それでも危険な相手だと感じ、シュラムはマナを集中させ力を高める。

 「こいつは俺がやる、仲間の手当てをしてやれ」

 「……は、はい! ニド達はこっちへ!」

 サンが近くにいたドアールを治療しながら叫ぶと、それが合図になったかのようにフェルゼンから仕掛けた!

 「ゆっくり楽しませてもらうぜ! まずは心臓!」

 【いきなり心臓狙い!? 楽しむ気があるのか貴様ぁ!】

 アースブレイドで剣を生成し、大剣を受けながら叫ぶシュラム。


 「……バトルジャンキーじゃなかった。危ない人だった」

 「私もそう思う」

 サンとトレーネがガシッと握手をしていると、アルが慌てて言う。

 「しー! サン、しー! トレーネちゃんもそれ以上はダメだからな!?」

 「?」

 サンとトレーネは首を傾げて、フェルゼンの戦いを見るのだった。
しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

処理中です...