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第六章:ヴァント王国の戦い編
第百四十七話 魔王と破壊神(の力の一部)
しおりを挟む「ってぇ……野郎、絶対ゆるさねぇ!」
「……あんまり叫ぶと頭に響くから」
「一本道だけど長いわね、さっきの揺れ……急がないと」
神殿へ向かって懸命に走っているのは、アルとサンにコトハ、そしてペリッティだ。
そして――
「この先は女神と破壊神の封印がある。恐らく解けちまったみたいだな」
さらにフェルゼンが合流していた。
サンとアンリエッタがと共に子供達を馬車に乗せていたが、フェルゼンの怪力で即座に終了。サンと共に洞窟内へと侵入したのだ。
「まさか、土刻の魔王が来るなんて思わなかったわ」
「嫌な予感がしたからな。昨日、フエーゴから帰って来たんだけど、徹夜で走ってきたぜ!」
「……港町から一日では普通の人は無理……」
「流石は魔王ってことかしら? カケルさんも規格外だったし、魔王ってそういうものなのかもね」
ペリッティが呆れたように言うと、フェルゼンが驚いた様に言う。
「なんだ、お前等もカケルを知ってんのか? フエーゴであいつが来るのを待ってたんだが来なかったんだよな。この国にはもういねぇみたいだし、知ってるか?」
「魔王同士、知り合いだったのかよ……えっと――」
アルはエリアランドで出会ったカケルの話をかいつまんで話す。
「はっはっはぁ! あいつ面白いことになってるじゃねぇか! いいぜ、もっと強くなって貰わないとな」
「強く……ってどうするんですか?」
コトハが眉をひそめて尋ねると、フェルゼンは当然と言わんばかりに答えた。
「そりゃ俺と戦ってもらうためだ。最近腕の立つやつがいねぇからな……魔王連中はまあまあだが、それぞれの属性で戦ってくるからもう手の内は分かってんだよな。でもカケルは全武器適性持ちだ。成長すれば相当厄介になるだろうぜ! 楽しみで仕方ねぇ!」
「……バトルジャンキー……」
「あ、馬鹿!? なんてこと言うんだサン!?」
サンがボソッと呟いたのをアルが咎めると、フェルゼンは笑いながら口を開く。
「かまわねぇよ、その通りだしな! ……ま、その前に面白い相手と戦えそうだがな」
フェルゼンが笑うのを止め前を見据えると、神殿の入り口の前でオロオロしているエリンを発見し、ペリッティが声をかける。
「エリン!」
「あ! ペリッティさん! た、大変です! 封印が解かれて、グランツとニドさん達が向こうに取り残されました!」
「なんですって……! この崩れ方……これじゃ助けに行けないじゃない……」
最高の暗殺者と言えど、即座に瓦礫を撤去する技術は無い。それでも何とか穴を掘ろうとダガーをがつがつと当てていると、フェルゼンが肩に手を置いた。
「まあ慌てるな。俺が何とかしてやるよ」
「フェルゼン様、この瓦礫をどうにかできるんですか……?」
コトハが尋ねると、無言で頷き瓦礫に手をやり、呟いた。
「俺は”土刻の魔王”だ、土や石を扱うのはお手の物ってこったな≪アースメルティング≫」
「ああ! い、岩が融けていく……」
コトハが手を口に当てて驚き、目の前でどんどん岩が融解していくのを見届ける。やがて一人分が通れるだけの穴を確保でき、そこから中を覗き込むと――
◆ ◇ ◆
「ぐう……!? 強い……!」
「さっきまでと同じ男とは思えん! ぐはぁ!?」
「ニド! 野郎!」
【ふっふっふ……そろそろ限界のようだな、お前達のレベルは斧を持った男が一番高そうだ。みつくろって36といったところか? 次に貴様か】
「チッ……」
ドアールの剣を受けながら余裕の笑みを見せるシュラム。言うとおり、グランツもれべるは上がっていたが、20程度なので、ニド達と比べれば見劣りする。現に攻撃を与えられているのはニドが一番高い。
【私はこの状態で95はある。4人がかりでやっとだろう。潔く養分になれ人間】
「がっ……!?」
「兄貴! ≪業火≫!」
【もう尻は焼かせんぞ!】
「うう……」
土の剣と格闘でグランツ達4人を相手に立ち回るシュラム。そしてついにトレーネが捕まってしまう!
【私好みではないが、まずはお前から吸収してやろう】
「や、やめろ……!」
【いい顔だ、その恐怖も力の増加に役立つ。お前はこいつの兄だったか? そこで大人しく見ていろ≪グランドネイル≫】
「ぐあ!」
地面から突き出た土に貫かれ地面を転がる。
トレーネを掴む首に力が入ったその時、入り口に異変が起こった!
ドロリ……ぐしゃ……
「な、なんだ……?」
剣を杖に立ちあがるドアールが入り口に目を向けると、塞いでいた岩がみるみる解けて舞い散った!
【なに……!?】
シュラムもそちらを顔だけ向けて驚くと、入り口からシャ! と、何かが飛んでくる!
ドス! ドス!
【ぐあ!? ああ!? 尻ぃ!?】
「トレーネに何するつもりよ、この変態!」
憤慨して出てきたのはエリンだった! 尻丸出しの男がトレーネを捕まえていたのだ、気が気でなく、エリンは『ダブルショット』で、トレーネを捕まえていた腕と尻に一撃ずつ攻撃を仕掛けた。
【ぐぬう……女ぁ……! 貴様から縊り殺してやる!】
「!」
グランツとニド、ドアールは動けずエリンに迫るシュラムを止めることができない。あわや、というところでシュラムの腕を掴む者がいた。
「よう、お前が破壊神の力とやらか? 期待外れじゃないことを祈るぜ? よっと!」
【ぐふう!?】
腕を掴んだのは当然ながらフェルゼンである。腕を掴んだまま、開いた手でシュラムへとボディブローをぶち込むフェルゼン。それと同時に手を放すと、シュラムは物凄い勢いで石碑に激突した。
バガン!
「ひ、ひい!? ぶべら!?」
石碑が粉々に砕け散り、破片がパンドスにヒット。鼻血を出しながらもぞもぞと隅へと逃げていた。
【ぬう……! な、何者……!】
「聞くのは昔から聞いているが、会うのは初めてだな。俺はフェルゼン。剣神フェルゼン。またの名を土刻の魔王フェルゼンだ」
腰の大剣を抜きながら口上を言うと、石碑をガラガラのけつつ立ち上がる。
【魔王……? 土刻の英雄ではないのか? まあいい、みんなまとめて片づけて養分にしてやる】
それでも危険な相手だと感じ、シュラムはマナを集中させ力を高める。
「こいつは俺がやる、仲間の手当てをしてやれ」
「……は、はい! ニド達はこっちへ!」
サンが近くにいたドアールを治療しながら叫ぶと、それが合図になったかのようにフェルゼンから仕掛けた!
「ゆっくり楽しませてもらうぜ! まずは心臓!」
【いきなり心臓狙い!? 楽しむ気があるのか貴様ぁ!】
アースブレイドで剣を生成し、大剣を受けながら叫ぶシュラム。
「……バトルジャンキーじゃなかった。危ない人だった」
「私もそう思う」
サンとトレーネがガシッと握手をしていると、アルが慌てて言う。
「しー! サン、しー! トレーネちゃんもそれ以上はダメだからな!?」
「?」
サンとトレーネは首を傾げて、フェルゼンの戦いを見るのだった。
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