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第五章:疑惑の女神と破壊神編
第百十七話 聖華の都アウグゼスト
しおりを挟む「気を付けてのう、頭領!」
「ああ、行ってくるよ。留守は任せたからね」
ボートでまずは俺、ティリア、ルルカ、リファの四人を。次に往復でデヴァイン教のメンバーとレヴナントを岸まで運び、ロウベの爺さんは船へと戻って行った。
乗りこむ際に見つからないようにと思っていたが、幸い霧が深く、先の見通しが悪いためその条件はクリアできたようだ。
「さて、霧が濃いがおかげで助かった。クロウ、ここからどれくらいで到着できる?」
「アウグゼストの町までならそれほどかからないよ。三時間ってところかな。こっちだよ、行こう」
クロウが指さし、デヴァイン教徒たちがクロウの横について歩き始め、俺達もその後を着いていく。しばらく歩くと霧が晴れ、穏やかな気候の草原に足を踏み入れた。
「島だって聞いていたけど広いなぁ。でもあの聖堂のおかげで道に迷わなくて済むね」
ルルカが遠くに見える聖堂を眺めながらそんなことを言う。ちょっと気になったことがあったので、クロウへ聞いてみる。
「他にも町はあるのか?」
「ちらほらと村はあるけど、町はアウグゼストと、船着き場のある町がある。ここの生まれでもデヴァイン教から遠ざかって暮らす人もいないわけじゃないってことさ」
村か……師匠がそっちに潜伏している可能性もあるな……道を急ぐ俺達だったが、久しぶりに冒険者としての仕事をすることになった。
キェェェィ!
ガルルッゥ!
そう、魔物退治だ。草原に足を踏み入れた途端、でかい鳥や、狼に襲われた。
「意外と魔物は多いんだな!」
「俺達もあまり町の外にでることぁないが、たまに来る冒険者は稼げるっていってたぜ」
大男が素手で狼を叩きながら俺に言う。封印のあった山へいけたのもうなずける強さだった。
「特に強くも無いが、うっとおしいな」
「≪大地の牙≫! これは早く移動した方がいいね。馬車を置いて来たのは失敗だったかも?」
「仕方ありません。ボートに馬車を乗せるのは無理ですから。 ≪光の槍≫よ!」
ブルモォォォ!
「≪漆黒の刃≫! あ! こいつは……デリシャスリッチボア!」
「何だそりゃ?」
ドサリと首を切り落とされたフォレストボアを少し小さくみたいな魔物を見てクロウが呟く。こいつが最後の一匹だったようで、他の魔物は仲間がやられてたのを見てそそくさと逃げて行った。
「この島にしか出ないレアモンスターだよ! その肉はとても稀少で、これを狙いにわざわざ来る冒険者もいるくらいだ! ……とても美味しいらしい」
クロウがチラリを俺とデリシャスリッチボアを交互に見ながら口を開く。
「……食べたいのか?」
「カケルなら普通と違う料理を作ってくれそうだし……」
すると横でうんうんとティリアが頷いていた。美味しいと聞いて涎を出し過ぎである。
「なら持っていくか……解体できなくはないけど、美味いならちゃんとした人にやってもらうか……ホイコーローとかいいかもな……いや、豚バラ串もシンプルでいいか……?」
「ホイコーロー!」
「豚バラ串!」
俺がメニューを考えていると、バンザーイ! と、ティリアとハイタッチをするクロウがそこにいた。から揚げの件ですっかり料理にはまってしまったようだ。豚バラ串はともかく、ホイコーローは知らないのにお祭り騒ぎだった。
リファ曰く、ティリアも上品な食事ばかりだったそうで、味付けの濃い料理やジャンクフードはとにかく興味深いらしい。
俺のカバンにD.R.B(デリシャスリッチボア)を血抜きもせず突っ込んでおき、後でユニオンあたりに解体してもらおうと先を急ぐ。ちらほら魔物は出るが、遠巻きに見ているだけで襲ってくることはもう無かった。
――そしてついに町へと到着した。
「ここは入り口に衛兵とかいないんだな」
「それは本来降りるはずの船着き場で確認するからここはフリーね。といってもお金払って乗る定期便だから身分まで確認はしないけど」
俺の問いにレオッタが答えてくれた。さっきクロウも言っていたけど船着き場は別にあるんだもんな。
「とりあえずどうする? ユニオンに行くかい?」
レヴナントが手を頭の後ろに組みながら聞いてきたが、俺は首を振って答える。
「いや、まずは拠点となる宿を取ろう。レオッタ達は?」
「リーダーをあなた達に預けるから、私達は一旦戻るわ。宿の場所まで分かっていたら何かあった時に報告するわね」
「オッケーだ」
で、一軒くらいしかないだろうと思っていたが、意外にも宿は複数あり、聖堂を訪れる信者のために建てられているらしい。
とりあえず俺達はそれなりにお値段のする宿を取った。ちなみに俺とルルカ、レヴナントにクロウが同じ部屋で、リファとティリアは俺達とは他人のふりをして部屋を取る算段である。
「おや、神官様もお泊りに?」
「ええ、こちらは旅先で知り合ったご夫婦で、是非入信したいとおっしゃるので連れてきました。よくよくはこの土地に骨を埋めたいと……こちらの方もそのつもりだそうです」
とは、クロウのセリフ。神官モードだと口調が変わるらしい。すると、宿屋のおっちゃん、目に見えて嬉しそうに
「そうですか! ではこちらにサインを……お代はチェックアウトの時で大丈夫ですよ!」
「ありがとう。それじゃ行こうか」
「はい♪」
と、町に入る前に眼鏡を装備をして、賢者服を脱いだルルカが答える。その後ろからティリア達がチェックインしようとしているのが耳に入った。
「いらっしゃいませ」
「二人、同じ部屋で頼む」
「はいはい、もちろ空いていますよ! ……あなた方もデヴァイン教へ?」
「いえ、私達は冒険者なので稼ぎに……」
と、ティリアが笑顔で答えると、おっちゃんの顔が真顔になった。
「あ、そうですか。ではこちらにサインを。何泊くらいで?」
「あ、あれ? さっきの人達は後払いと……」
「ははは、嫌ですねお客さん! あちらは神官様がいて、なおかつ信者候補ですよ? だけどあなた達は冒険者だ、いつ逃げられるか分かったもんじゃありませんからね」
口では笑っていたが目は笑っていなかった。
「そ、それもそうだな。ではとりあえず三日ほどで……」
「三日ですねー。ではお二人で6万セラになります」
「ちょ!? 高すぎませんか!?」
「はい? 嫌なら余所の宿へ行ってください。ああー忙しい忙しい……」
「くっ……」
信者以外にはあくどいのか……これはちょっと言っておかないと、と思っていた所でクロウが前に出た。
「いけませんよ。信者ではないからと無下にしては。アウロラ様がそのような行為を許すと思いますか?」
「し、神官様!? まだいらっしゃったので……ああ、いえ……へへ……」
おっちゃん、バツが悪そうに頭を掻きながら冷や汗を出しつつ、目を泳がせるという高度な技を披露し、言い訳も出ない。
「適性価格で、いいですね?」
「は、はい! ……三日で24000セラになります」
一人一日4000セラなら妥当だろう。安宿はこの半分くらいだし。二人が支払い、部屋の鍵を受け取ってから俺達のところへ来る。
「神官様、ありがとうございます」
「助かりました。さすがは神官殿ですね」
「……行きましょう。そしてできれば入信していただきたいものですね」
「良かったな、二人とも」
「ええ、ありがとうございます見知らぬ人!」
神官モードのクロウが顔を赤くしてスタスタと歩いていく。これで俺達とティリアは『顔見知り』になったので、たまに一緒に行動してもおかしくはなくなった。
クロウはこの宿の主人はこういうことをするのを知っていたので、利用させてもらったと言う訳だ。
しかし『見知らぬ人』と宣言するのは怪しいぞティリアよ……。
とはいえ、拠点は確保できた。
今はまだ昼だし、この後は町へ出てみるとするか。
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