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第三章:出会ってしまった二人編

第七十話 デリカシーのない男、次の目的地を決める

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 さて、二人を置いてたこ焼き屋台へ戻ってきた俺(達)は、ユーキを手伝って売り捌くことに。リファとルルカは『何で自分たちがしなければいけないのか?』と、尤もなことを言ってきたので『手伝ってくれたら後でティリアやお前達の分は無償で渡す』と言ったら手伝ってくれた。

 「注文の二パックだ、気を付けて食べるんだぞ」

 「こっちは三パック、よろしく~」

 ノーラさんは薄幸そうだが美人だし、リファもルルカも見た目が良いので、男性客中心にさらに人が増え始めた。胸の大きいリファには剣に憧れる少年が。清楚系に(みえる)ルルカには明らかにエロそうなおっさんが声をかけており、世の中分からないものだなと思っていると、ようやくといっていい時間にティリアとレムルが帰ってきた。

 「置いていくなんて酷いですわね!」

 「まったくです!」

 お互いボロボロだが、ティリアは衣服だけなのでレムルが一方的にやられた感があるな。傷だらけなのは痛々しいので手早く回復魔法をかけてやることにした。

 「≪ハイヒール≫」

 「これは……!」

 「ええ!? ふ、服が元通りになりましたわよ……」

 「で、戦いはどうなったんだ?」

 するとレムルがバツの悪い顔をして目を泳がせながら答えた。

 「わ、わたくしの完敗でしたわ……流石は魔王様、というところでした……」

 「人間にしては中々の魔力でしたが、私を倒すにはまだまだでしたね」

 などと、魔王っぽい発言をするティリア。下剋上をするには相当強くないといけないみたいだな。

 「……魔王同士、仕方ありません。わたくしはお二人を祝福しますわ」

 「え? 何だって?」

 レムルがポツリと何かを呟いたが、たこ焼きを用意していた俺には聞こえなかった。遠い目をしているレムルに言及する必要も無さそうなのでとりあえずたこ焼きをティリアに渡す。

 「ほら、お前の分だ。ルルカとリファが働いたから無償だ」

 「タコ焼き! ……いい心がけです、許しましょう」

 一芝居打ってくれた分も含まれているが、調子に乗りそうなのでそこは言わないでおこう。すると、レムルがハッと気づき声をあげた。

 「それでいいんですの!? わたくしにもあるんでしょうね?」

 「うーむ、ルルカやリファみたいに仕事をしていないが仕方ない、どうぞ」

 「これがたこ焼き……もぐ……あふいでふわ!?」

 「ゆっくりな……で、これからどうす……」

 「次、お願いします」

 レムルにたこ焼きを渡してティリアに向き直ると、口の周りにソースをつけたティリアが真顔でパックを差し出してきた。

 「早いな!? 焼きたてクソ熱いのに……」

 そのまま昼過ぎまで販売を続けていると、タコが切れたのでお開きとなった。結構な量を獲ってきていたみたいだけど、それよりも売れ行きの方が上回ったと言う訳だ。地味にタコのから揚げの売れ行きも悪くなかったのも要因だろう。売り尽くした後は屋台を引いて工房へと戻り、売上金の清算をしていた。

 「それじゃあこれ、鉄板とのお金!」

 「おう、それじゃこれでもう一セット鉄板を作ってくれ」

 「え? どうしてだ?」

 酒を飲みながらたこ足を齧っていたおっさんがきょとんとした顔で俺に聞いてくる。

 「旅先で俺がたこ焼きを食べたくなったら作るためだよ。こっちはユーキ達に売ったからな、俺の分ってやつだ」

 「……旅に出るのかい……俺はてっきりこのまま屋台を続けていくのかと思ってたぜ」

 「まあ、目的の一つは終わったからそれも面白そうだけど、この国に居るのは色々面倒でさ」

 するとレムルが真面目な顔で聞いて来た。

 「……本当に出て行ってしまうんですの? グランツさんやエリンさん、トレーネさんには挨拶無しで?」

 「そうだな。薄情かもしれないが、一緒にいるとトラブルが多そうだし、例えばトレーネが人質にされたり、なんてことがあったら俺は後悔すると思う」

 「……強くなければダメ、そういうことですわね」

 「いや、そういう物でもないんだが……」

 「分かりました。あの三人にはわたくしから言っておきましょう」

 頼む、と俺は頷き、もう一つ気になっていることを聞いた。

 「そういや、レリクスの婚約者の件はどうなったんだ?」

 「あなた達のせいでまだ決まっていませんわ。でもレリクス王子はソシアさんを欲しがっていらっしゃるので、恐らく無理矢理にでもソシアさんになるのでは、と思っていますわ」

 妙に吹っ切れた様に言うレムル。

 「お前はそれでいいのか?」

 「こればかりはどうしようもないですから。あの時は勝ちましたが、ソシアさんは手加減をしてあれですから魔力も劣っているでしょう。ま、ダメならダメで、いいですわ。お父様への義理は果たせましたし」

 「そうか、何か色々悪かったな。それでも学院での生活は楽しかった。ソシアさんやあいつらにもそう伝えてくれ」

 「……分かりました。それではわたくしはそろそろ行きますわ」

 そう言って席を立ち、入り口へと向かうレムル。

 「じゃあな、もう会うこともないだろう。元気で!」

 「(それはどうかしら)」

 何か呟いていたが聞き取れず、俺を一瞥した後、無言で出て行った。すると今度はそれまで黙って聞いていたユーキが俺のところへきて口を開く。

 「兄ちゃん、行っちゃうんだ」

 「ああ、でももう母ちゃんが宗教に行こうとするのは止められるよな? 今後は売り上げも今みたいにはならないと思うけど、タコ焼きができるという点で、他に真似ができないからタコを安く仕入れられるアドバンテージはあるし、何より美味しい。頑張れよ」

 「……うん」

 「よし、男と男の約束だ」

 「え?」

 俺がそう言って頭をくしゃっと撫でると、大きく目を見開いて俺を見上げてくる。

 「え?」

 「あ、カケルさんその子……」

 と、ティリアが焦ったように俺に声をかけてきたので、振り返ろうとしたところで腹に衝撃が走る。

 「グァバジュース!? ……ぐふう……」

 「兄ちゃんの馬鹿! 俺は女だよ!! うわーん!!」

 「……あ、ユーキ……! す、すいません皆さん……待ちなさい」

 ユーキが飛び出して行ったのをノーラさんが追い掛るのを俺は倒れたまま見送った。

 「……世界が狙えるパンチだ……」

 「何、馬鹿なことを言ってるの? 確かに『俺』って言ってたけど、体つきから分かりそうなものだけど……」

 と、ルルカが倒れた俺の顔ををつんつんしながら言い放ってくる。日焼けした元気な少年にしか見えなかったんだが……何となく言われっぱなしで悔しいので俺は目線だけルルカの顔へ向け、呟いた。

 「……世界が狙えるパンツだ……イチゴとは……」

 「何を言って……!?」

 みるみるうちに顔を赤くするルルカが、バッと立ち上がった。流石は賢者、気付くのが早っ……!?

 「ぎゃああああ!?」

 「この、この!」

 「そんな短いスカートで座るのいけないんじゃないか!?」

 「知ってても口にするのが悪い!」

 げしげしとルルカに蹴られていると、おっさんが酒をくいっと飲みながら呆れた様に言ってきた。

 「まあ、全体的にお前が悪いな。で、鉄板は今から作ってたら明日になるがそれでいいのか?」

 「そうだな、急ぐ必要も無くなったし、それでいい。ティリア達はもう行くのか?」

 回復魔法をかけながら立ち上がり、聞いてみる。

 「ハイヒールの無駄遣いを……! はあ……お嬢様、どうするんです?」

 「そうですね……今日の便はもう無いですし、一週間後まで待ちですね。カケルさんは次、どちらへ行かれるのです?」

 「俺か? 師匠が言ってたフエーゴか、魔法の師匠が行ったアウグゼスト、どっちかに行こうと思っている」

 「アウグゼスト、ですか? あそこは完全な島ですから、ここからではいけませんね。獣人の国『ジェイドス』か、私達が出発した港からしか船は出ていませんよ」

 そうなのか……ティリアに会いに行ったなら経由してメリーヌ師匠の所に行けたのか。

 なら……

 「フエーゴに行くかな」

 「フエーゴ……」

 ティリアは何か考える仕草をした後、俺に告げた。

 「せっかくなので私もフエーゴに行きます」

 「え!?」

 そこで今まで黙って(寝そうだった)リファが声をあげた。

 「フエーゴは炎烈の魔王様がいらっしゃるところではありませんか!? しつこく求婚されて行きたくない国ナンバーワンにあげられるあの国へどうして!?」

 説明ありがとうリファ。しかし、何でまたそんな所に行きたいんだろうな……そんなことを思っていると、ティリアがリファへ話しだす。

 「いずれは協力してもらう必要がある人物です。好意的な人物から話をして協力を仰げば他の魔王も耳を傾けてくれる、そう思ったのです。カケルさんとは目的が一緒ですが、フエーゴに着いたらそれぞれ別れましょう。それでいいですよね?」

 「……そうだな、俺に協力を仰がないのであれば一緒にいるのは構わない」

 みんな可愛いしな。

 「それではフエーゴ行きの船がいつ出発するのか調べに行きましょう」

 「っと、その前に……ユーキの所へ行かないと……」

 俺達はおっさんを残して工房を後にした。




 ◆ ◇ ◆


 ――現在より少し先の話


 「戻りましたわ」

 「おかえりなさい、レムルさん! 港町に居ました?」

 レムルが港町から戻ってきたのはあれから三日後のことだった。そのまま自分の屋敷へ戻らず、向かった先は……ソシアの屋敷だった。

 「性悪、どう?」

 「そんなことを言う子には教えてあげませんわ」

 「ごめんなさい」

 「よろしい」

 「あはは、仲良しになったわね、二人とも」

 エリンがレムルとトレーネのやりとりを笑いながら見ていると、グランツも口を開いた。

 「ウチの妹が申し訳ありません……それで?」

 「大丈夫ですわ。結論から言いますと、彼は居ました」

 「!?」

 ガタっとイスから立ち上がるトレーネをレムルが制する。

 「落ち着きなさいな。話をしましたが、もうあなた達と会うことはしないと言っておりましたわ。自分といると迷惑がかかる、と」

 「そんな……俺達はカケルさんに世話になったが迷惑をかけられたことなんてないのに……」

 「今後のこと、というのもあるのでしょう。光翼の魔王様に会いに行くと言っておりましたが、向こうもカケルさんを探していたようで、ウェスティリア様がカケルさんと接触されましたの」

 「……まさか……」

 「そのまさかで、一緒に旅をするそうです。お供の女性も可愛らしかったですわね」

 「兄貴、すぐ追いかけよう」

 「ダメです」

 「どうして……!」

 「彼は人を巻き込むことを良しとしない、そう言っていました。ですが、ウェスティリア様は一緒に行く、その意味が分かりますか?」

 トレーネはフルフルと首を振って困惑する。それを見て頷いたレムルは言葉を続けていた。

 「強いからですわ。そう、カケルさんがわたくし達を遠ざけるのは弱いからです! わたくしも魔王様と戦って痛感しました。壁は厚い、と」

 「……戦ったんだ……」

 エリンが呆れた様に呟くが、ヒートアップしたレムルは尚も続ける!

 「だから強くなってカケルさんが信頼するレベルにまで達すればいいのです! そう、魔王様を倒せるくらいにまで……!」

 「確かに!」

 謎の熱意により、トレーネが感化され、拍手をする始末。

 「いや、流石に魔王様を倒すのは……」

 ソシアが冷静に、とレムルへ言うが、レムルの目はあの悪役令嬢のものに戻っていることに気付く。

 「フフフ……待っているといいですわ……次は必ず倒して差し上げます……二人……いや、三人でかかれば……」

 「特訓、特訓!」

 「(何かまずいことになってきた気がするぞ……)」

 「(妹なんだからちゃんと止めなさいよ!)」

 グランツとエリンの予感は的中するが、彼らがカケルの前に再び現れるのはまだ、かなり、先の話……。

 
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