上 下
51 / 253
第二章:異世界人は流される編

第四十五話 ひとまずの決着

しおりを挟む
 「ソシア~」

 レリクスとの会話を終わらせて生徒達の喧噪の中ソシアさんの所へ歩いていく。

 少しよそよそしくなったけど、グランツもエリンもそこは割り切ってくれたようで話ができないという事は無かった。そこで、とりあえず屋敷に戻るまで狂言誘拐の件は黙っておくことにしようと口裏を合わせた。

 そして今、エリンが声をかけるとビクッと身を震わせて驚いた様にこちらを振り向いた。

 「あ……エ、エリン! お話はもう終わり?」

 「あ、うん。ごめんなさい、驚かせちゃった?」

 エリンが申し訳なさそうにソシアさんへ言うと、その後ろに居た女生徒がそそくさとその場を立ち去って行った。

 「……では……これで」

 「……え、ええ……」

 「?」

 今のが誘拐の実行犯役か。とりあえず顔は覚えておこう。可愛かったし。そして、ソシアさんの様子がおかしいことに気づき俺は声をかけた。

 「ソシアさん、顔色が悪いけどどうしたんだ?」

 「え!? そ、そう、かしら? 今日は暑いからかしらね……」

 「そう?」

 「そ、そうよ! それよりもついにレムルさんとの戦いよ! 恐らく最初に出てくるはず……だから私が最初に出るわ」

 少し青い顔をしながら、大声をあげてずんずんと前へと進む。明らかに空元気なのだが、とりあえずついていくしかないのでそのまま壇上へと向かった。

 しかし、この後どうするかだな。レリクスに異世界人とばれているのは面白くない。けど、依頼を放棄するわけにはいかないし……。

 どん!

 「きゃ!? ちょっとあなた、ちゃんと起きているんですの!」

 そんなことを考えていると、いつの間にやらレムルが目の前にいて、どうやらぶつかったらしい。

 「おっと、悪い悪い。ほら」

 と、手を貸すとレムルが顔を耳元に近づけてきて耳打ちしてきた。

 「……っ! ん……まったく仕方のない人ですわね……(襲撃の件はツォレに辺りを調べさせましたが手がかりは無しでしたわ)」

 「(お!? そういや忘れてたな! ……すまない、助かる)」

 「(忘れてた!? あなたという人は……!!)」

 「カケル、近い」

 「お、おお……」

 「あ、あら……」

 トレーネに引きはがされて、元の位置に戻る。何気に向こう側のクラスまで歩いてしまっていたようだ。ネーレ先生が順番を聞いてくるが、お互いすでにここに来る前に決めていたようだ。

 ちなみにソシアさん、グランツ、トレーネ、エリン、俺の順番だが……。


 「こちらのオーダーは決まっておりますわ」

 「こっちも大丈夫です」

 「では~、先鋒前へ~!」

 ザッ……

 ソシアさんが、レムルが前へ出て火花を散らす中、ネーレ先生の間延びした声が決戦の火ぶたを切って落とした!

 「はじ……くしゅん!」

 
 「≪光刺≫!」

 「≪氷鏡≫」

 くっ……ネーレ先生に対するツッコミは無いまま戦闘が開始された! ほぼ同時に魔法が繰り出された。ソシアさんはお得意の光刺、レムルは氷の鏡を目の間に展開した。

 カカカカカ

 「弾かれる……!」

 「オーッホッホ! 光魔法であれば弾くのは容易ですわ。≪氷傷≫!」

 「≪輝きの盾≫」

 すかさず反撃をしてきたレムルの魔法を輝きの盾で防ぐと、盾の影から光の矢を放った!

 「無駄だと……え!?」

 パン! と、小気味よい音を立てて展開していた鏡が割れ、顔のすれすれを通っていくのを見てソシアさんがニヤリと笑う。うーむ、実はソシアさんの方が悪役令嬢に向いているのでは……?

 「ならば≪冷厳の……≫ うぐ!?」

 お返しをしようと魔法を使おうとした瞬間、レムルは体に衝撃を受けて体がよろけていた。ソシアさんがロッドで直接攻撃を仕掛けたからである。

 「この距離なら避けられないでしょう! ≪光刺≫!」

 「何の……ですわぁぁぁ!」

 驚いたことによろけながらも側転しながら光刺を避けた!

 「すごい根性だわ!」

 エリンが思わず声を上げると、周りの歓声も盛り上がった。尚も攻撃を繰り返すが、レムルの氷鏡に阻まれてしまう。

 「くぅ、やはり相性が悪いわ……」

 「これも運命……相手が悪かったですわね! これで終わりですわ≪氷破刃≫」

 手に氷の剣を生成して(かっこいい)ソシアさんに斬りかかっていくレムルの狙いは肩口か。しかしヒットする瞬間、ソシアさんの口がニヤリと歪み、そして……。

 ザクッ!

 ソシアさんの左頬が大きく、深く斬り裂かれた……!

 「きゃああああ!」

 叫んだのはソシアさん……ではなく、観客の生徒だった。無理も無い、顔半分が抉れたようになっていて、出血も酷い。それもそのはず、ソシアさんはのだから。

 「どうして避けなかったんですの!? あのタイミングなら反撃も……」

 「静かに~! 救護班~! 急いで!」

 レムルが動揺しながらソシアさんに声をかけるが、うまく口を動かせないのだろう、言葉になっていなかった。ネーレ先生が中断させ、慌てて救護班を呼ぶ。

 「これは……私どもの回復魔法では顔に跡が残ります……そんなことになれば……」

 あの傷では確かにただのヒールでは無理だろうな。仕方ない、依頼主を助けるのは仕事の内だ。

 「俺がやろう」

 「カケル君~!? だ、ダメよ素人が……」

 「大丈夫だ≪ハイヒール≫」

 ほわっと柔らかい光がソシアさんを包むと、あっという間にソシアさんの頬の傷は全快し出血が止まった。パチっと目を覚まして頬に触れながらパチパチとまばたきをする。

 「あ、あの、私……」

 と、ソシアさんが話しかけようとしたところでレムルが抱きついてきた!

 「良かったですわぁぁぁぁぁ! 顔は命と同じくらい大事ですもの! わ、わたくしこのままだったらどうしようかと……」

 「おう、良かったな」

 「もうもう! あなたは一体何者なんですのぉぉ! でも良かったですわぁぁぁ!」

 「レムルさん……」

 しかし周りからはどよめきが……

 お、おい、何だあいつ……

 ハイヒールなんて高レベルな魔法を使えるなんて……

 そうなるよな! でもいいの! この事件が終わったら町を出るから今日は勘弁して!

 心の中で叫んでいると、トレーネがポツリと呟いた。

 「性悪、いいやつ」

 「はは、そうだな」


 「……相変わらずすごいですねカケルさんの回復魔法は……やっぱり魔王、なんですね?」

 小声で俺に話しかけてくるグランツの顔は少し高揚しているように見えた。

 「ん? ああ、そうらしい。実感は無いんだけどなあ」

 「それってこっちの世界に来たせいでですか?」

 「そんなところだけど、俺の話に興味があるのか?」

 「うん。私は聞きたい」

 「そうか、ならその件は夜にでも話そう。今は……」

 「……良かったですぅ~! そ、それではソシアさんは負傷のため負けになります~! だ、大丈夫ですか? 保健室……い、いえ病院へ行きますか?」

 「……分かりました。いえ、カケルさんの回復魔法でまったく痛くないので問題ありません」

 ……今は対抗戦を終わらせないとな。一瞬、ソシアさんが俺を暗い目でみたような……?

 「負けちゃいました! 後はお願いしますね!」

 気のせいか? 

 とりあえず今の勝負はソシアさんの負けとなるが、勝負はまだ終わってはいない。続けてグランツが前へと出ていた。

 「任せてください!」

 「わたくしはソシアさんに勝ったので満足しましたの。ですから、この勝負は棄権させていただきますわ」

 ちょっと目を赤くしたレムルがホーッホッホと、壇上を降りてグランツの勝利が確定した。Aクラスは若干ざわざわしていたけど、概ねそうなるだろうと思っていたらしく次の相手である女生徒が壇上へと上がってきていた。

 「よ、宜しくお願いします」

 「ああ!」

 グランツの相手は魔術士のようで、グランツの声にビクッと身を縮ませるような、おどおどした感じの子だった。きっとこの子も選ばれるだけあって強いに違いない。

 「グランツ油断するなよ!」

 「兄貴、負けても私がいる」

 「大丈夫だ、ここは俺一人で……!」

 「いや、そこまで無理しなくてもいいから!? ねえ! 無理しないでよ!」

 「はじめ~!」

 「うおおお!」

 エリンに驚かれながらグランツが女の子に突っ込んで行った!




 そして……


 「――勝者、グランツ君!」

 「よっし!」

 「対抗戦、優勝はBクラスになります~! おめでとうございます~!!」

 「やったぁあ!」

 「グランツ君凄い! エリンちゃん羨ましいなあ」

 「ソシア様もお疲れ様でした」

 俺達が壇上を降りると、クラスメイトが口々にグランツと、付き添っているエリンに群がっていく。

 そう、なんとグランツは残りAクラスを全員宣言通り一人で倒したのだ!

 「優勝したBクラスには食堂が一ヶ月無料の権利が与えられます~! 好きなものを食べて精進しましょうね~♪」

 「やったぜ!」

 「くそう……! 今年のチャンスが無くなった……! アテにしてたのに……!」

 ウチのクラスはご満悦で、他のクラスからは怨叉の声が聞こえてきた。グランツの活躍のおかげで庶民の財布は守られたのだった!

 しかしここで俺はあることに気付く。


 「……あれ? 俺、対抗戦で戦ってない?」

 「私も」

 おかしい……こういうのは俺が無双するものではないのか……?

 腑に落ちない何かを抱えながら、俺はボーデンさんへどう報告するかを考えていた。
しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸
ファンタジー
異世界に転生した葉菜花には前世の料理を再現するチートなスキルがあった! 食いしん坊の王国ラトニーで俺様王子様と残念聖女様を餌付けしながら、可愛い使い魔ラケル(モフモフわんこ)と一緒に頑張るよ♪ ※基本のんびりスローライフ? で、たまに事件に関わります。 ※本編は葉菜花の一人称、ときどき別視点の三人称です。 ※ひとつの話の中で視点が変わるときは★、同じ視点で場面や時間が変わるときは☆で区切っています。 ※20210114、11話内の神殿からもらったお金がおかしかったので訂正しました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

処理中です...