上 下
49 / 253
第二章:異世界人は流される編

第四十三話 レリクス王子

しおりを挟む


 
 「いきます! ≪光刺≫」

 開始直後に仕掛けたのはソシアさんだった。連戦の疲れもあり、早く勝負を決めたいところなのは理解できる。それを見たレリクス王子が不敵に笑う……!

 「フフフ、気が早いね。ではこちらからも行かせてもらうよ!」

 「何の防御もせず正面から行っただと!?」

 いや、何か策があるのかもしれない。さっきの戦いは『しょぼい』と見せかけていただけの可能性も……。 

 プスプスプス!

 「ああ!? 痛いっ!?」

 「……」

 「≪光の矢≫!」

 「おお!?」

 特に何も考えていなかったらしく、あっさりと光刺があちこちに刺さり、光の矢を撃たれたが驚きながら寸前で回避をした。俺の驚きを返せ。

 「ソシア様、そのまま畳み掛けましょう!」

 「ええ!」

 グランツの声援でさらに光の矢を生成し連続で放つが、王子もまだ頑張るつもりのようで魔法を使ってきた!

 「≪輝きの一閃≫!」

 「光の矢を……!?」

 「かき消しながら攻撃をしてくるなんてアリ!?」

 光の矢を飲みこみながらレイピアから発した光の波を見てソシアさんとエリンが叫ぶ。そして光の波はそのままソシアさん目がけて飛んでくる!

 「≪輝きの盾≫……!」

 咄嗟に使った盾の魔法で、何とか防ぐものの、盾は女生徒の戦いの時よりも強度が下がっているようで、綻びができ、ソシアさんの制服がわずかに斬り裂かれた。

 「やりますね……!」

 「ああ、伊達に次期国王ではないということだな」

 恐らく戦いたいのであろう、グランツの声に熱が入る。これで迂闊に手が出せなくなった……と、思っていたのだが……。

 「僕の最大技を防ぐとは、フフフ、流石はソシア君」

 「ぶっ倒れているー!?」

 「王子、多分魔力切れ」

 カッコいいセリフだが、レリクス(もう呼び捨てでいいわ!)は、うつぶせ状態で顔だけを前に向け、さらにドヤ顔で喋っていた。

 「あの……レリクス王子……?」

 ソシアさんが恐る恐る声をかけると、レリクスは大げさに頭を振りながら叫びだした。

 「ああ! 何という事だろう、これでは戦うことができない! ……しかし、これで良かったのかもしれない、やはり僕には婚約者を傷つけることなんてできないのだから!」

 いや、お前今大技を使ったよな……?

 「レリクス王子……!」

 その言葉に感動して口に手を当てながら瞳を潤ませるソシアさん。

 「騙されてるよ! 王子は魔力が切れて動けなくなっただけだ! 美談にならないから!」

 「君は黙っていたまえ」

 「いや、その恰好でキリっとされても困るが……とりあえず王子の負けってことでいいのか?」

 「……そうだね、僕はもう動けそうにない。先生、合図を」

 ぼけーっと一部始終を見ていたネーレ先生がハッとし、慌てて手をあげて宣言をする。

 「しょ、勝者~ソシアさん~!」

 その瞬間、ワッ! と歓声が上がり、拍手やレリクスを称える黄色い声が響き渡った。壇上を降りながら横目で見ると、レリクスはネーレ先生に魔力回復のポーションをもらいすぐに立ち上がっているのを確認できた。

 「流石はソシア様だ! おい、お前等決勝で足を引っ張るんじゃねぇぞ!」

 「えっと……モブ男君、だっけ?」

 「グネンだよ!? 昨日戦ったろうが!?」

 「ト、トレーネちゃん! 決勝進出おめでてとう!」

 「ありがとう。噛んでるけど……ところで誰?」

 クラスメイトに歓迎されながらソシアさんもニコニコと笑いながら後ろからついてくる。

 「それでは決勝の前に一時間の休憩です~! 出場する人は魔力回復などに努めてくださいね~!」

 お、連戦じゃないのか。それはソシアさんにとってはかなり助かると思っていたら、クラスメイトが魔力回復ポーションをソシアさんに差し出していた。

 「はい、ソシア様」

 「ありがとう! ……んくんく……リンゴ味なのね、美味しい」

 「ええ、カルモの町でまたリンゴがたくさん取れるようになるからって、大盤振る舞いをしてたんですって。それをポーションに混ぜてみました」

 横で聞き耳を立てながら俺は少し喜ばしい気持ちで聞いていた。どうやら、リンゴ園は問題なく運営できているようだ。

 「アンリエッタ、頑張ってるな……」

 「あ、またアンリエッタって言った。誰? 昔の彼女?」

 「今も昔彼女は居ないぞ。少し前に世話になったんだよ。もう会うこともないだろうけど」

 「なら安心」

 ふふん、と鼻を鳴らすトレーネにやれやれと肩を竦めていると、後ろからレリクス王子に声をかけられた。

 「やあ、カケル君、だったかな?」

 「レリクス王子……」

 目当ては俺か? 一体何の用だ? と俺が訝しんでいると、きらりと白い歯を見せながら尚も話を続けてくる。

 「食堂でも言ったけど、君と少し話をしたいと思ってね? ソシア君、借りてもいいかな?」

 「……ええ、構いませんよ。私も少しお友達とお話したいので!」

 「ではあそこの日陰に行こう。ペリッティ、ティーセットを頼むよ」

 「承知しました」

 「うわ!? どっから出てきたの!?」

 俺達の間を割って歩くレリクスが声を出すと、いつの間にか俺達の横にメイドさんが立ってコクリと頷いき、エリンがビクッと後ずさった。ん? この人、訓練場でレリクスと居た人じゃないか? 確か。

 そのまま流されるように校舎の近くにある木の下で、ペリッティさんがスカートからテーブルセットを取り出し俺達を座らせてくれた。

 「……どうなってるのそれ?」

 「見ますか?」

 「いえ、いいです……」

 ヒラヒラとスカートを揺らしながら真顔でエリンに答えると、エリンは俯いて諦めた。

 「では俺が……」

 「どうぞ」

 「カケルはダメ! 兄貴ならいい」

 俺がスカートの中へ頭を突っ込もうとすると、トレーネが思い切り引っ張って抗議してきた。グランツは「い、いや俺は……」と顔を真っ赤にしてキョドっているのをエリンにジト目で見られていた。

 「クソ……そのスカート、予約しておくぞ」

 「いつでも」

 「ははは、君は面白いね。王族のメイドにからかわれて尚前に出るとはさ。僕付きのメイドに手を出したら、僕の一存で極刑もあり得るんだけどね」

 などと笑顔で恐ろしいことを言いながらズズ……と、茶をすするレリクス。

 「……で、俺達に何のよう、ですか?」

 「フフフ、律儀だね。別にここでは畏まらなくていいよ、僕もその方がやりやすい」

 「やりやすい?」

 グランツが聞き返すと、頷くレリクスが口を微笑ませながら、グランツを見ながら口を開く

 「君達は……ソシア君に雇われた冒険者、だろう?」

 「……!」

 見事、ふいうちを受けたグランツは眉をひそませながら、目に見えて驚愕していた。むう、馬鹿正直が裏目に出たか。冷や汗が凄いな……。

 「ああ、気にしなくていいよ。婚約者候補にはそれとなく僕達の密偵をつけているからそれくらいは分かるのさ。もっとも本人たちは知らないだろうけど」

 「えへん」

 「何であんたがご満悦なんだ……?」

 ペリッティをあしらいながらレリクスを見ると、俺達に話しかけながらも目はソシアさんを追っているようで、俺もそちらを見ると、クラスメイトではない女の子達と楽しげに笑っているのが見えた。

 再びレリクスへと向き直り、お決まりの訪ね文句を口から出した。

 「なんでまたそんなことを……?」

 「そうだね――」


 ――レリクス曰く、婚約者候補には本当にそれとなく護衛に近い者をつけているのだそうだ。もちろん女性の手練れを。理由は簡単で『悪事を働いたり、世間に顔向けできないようなことをしていないか』という、将来スキャンダルになりそうな人を選別する為でもあるらしい。
 
 まあ地球で言う興信所みたいな感じだと思えば分かりやすいか。で、パーティが始まる一か月前近くからつけているのだそうだ。

 ……え? 俺はあることに気づき、思わず席から立ち上がって叫ぶ。そしてレリクスの言葉で二重に驚かされることになった。

 「一ヶ月前からだって……なら!?」

 「やはり察しがいいね。そう、ソシア君の誘拐騒ぎの正体を僕は知っているよ? ……異界からの来訪者君」

 「な!?」

 しまった!? つい!?

 くそ、グランツのことも大きく言えないな……俺の反応に満足気な顔でレリクスはニコリと笑っていた。
しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢は、どうやら世界を救うために立ち上がるようです

戸影絵麻
ファンタジー
高校1年生の私、相良葵は、ある日、異世界に転生した。待っていたのは、婚約破棄という厳しい現実。ところが、王宮を追放されかけた私に、世界を救えという極秘任務が与えられ…。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

剣の極地に至る者〜山で二十年修行したアラフォー剣士は、魔法世界で無双する〜

三乃
ファンタジー
二十年もの間、山にこもって剣の修行をし続けた剣士・シナイ。 全ては剣術の到達点、『剣の極地』に至るため。 長年の修行でやっと自身が納得のいく剣を振れるようになり、満足して山を下りたら、この二十年の間に魔法が中心の世界に変貌していた。 剣の修行ばかりしていたシナイは当然魔法なんて使えず困惑する。 職も金もなく、おまけにアラフォー。 完全に詰んだ……と思われたが、冒険者のライカを魔物から助けたことでシナイの人生は大きく変わっていく。 魔法を使えないと『無能』と烙印を押される世界で、シナイは山で磨き続けた剣術を使って無双する。

処理中です...