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第二章:異世界人は流される編

第二十七話 再会と厄介事の依頼

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 「中でお待ちになっております」

 「ありがとう、さて何の用事なんだろな……」

 「……」

 扉の前で職員さんが待っており、ひと声かけた後に扉を開けてくれた。中へ入るとソファに座る女の子、その後ろにピシッとした格好で男が立っていた。あの時と違いきちんとした服を着ているせいか、ソシアさんは別人のように見えた。

 「お待たせして申し訳ない、ユニオンマスターのトーベンです」

 「ブレンネン領、領主の娘ソシアです。お忙しい所呼びつけてしまい、申し訳ありません、それに……」

 「よっ」

 俺は片手で適当に挨拶をすると、横に居た男が威圧的な態度で俺につっかかってきた。

 「貴様、お嬢様に対してその態度はなんだ! 無礼であるぞ!」

 「おお、怖い怖い。なら俺は出て行っても大丈夫かね?」

 「行けませんセバス。呼びつけたのは私です、下がりなさい」

 「……は」

 「惜しい……痛っ!?」

 「(あんまり無茶するな、何かあっても俺じゃ庇いきれんかもしれんからな)」

 トーベンさんに尻を叩かれ飛び上がる俺にぼそぼそと耳打ちしてくる。領主の娘って事は結構な権力ありそうだしな、トーベンさんに迷惑をかけてもアレだし大人しく座っておこう。

 「それで、本日いらした用件をお伺いできますか?」

 「……はい、依頼をしに来たのです」

 「依頼、ですか? でしたら、受付でも……」

 トーベンさんの言葉をソシアさんが遮って話を続ける。

 「そうなのですが、指名依頼となるとこちらの方が早いかと思いまして……端的に申しましょう、カケルさんに私の護衛依頼をお願いしたいのです」

 へえ、指名依頼ねえ……指名!?

 「……訳をお聞かせ願えますか?」

 「今度、国王の生誕祭があるのはご存じでしょうか? 私はそのパーティに出席することになっているのですが、その時王子の婚約者候補も探すらしいのです。自分で言うのは憚れるのですが、第一候補として私と、もう一人の公爵令嬢の名が挙がっているのです。もちろん他にもお眼鏡に叶う方が来る可能性もあるので、確定ではありません」

 公爵令嬢、だと? 俺は黙って聞いていたが、このシチュエーションで相手が公爵令嬢となれば……。

 「話が逸れましたね、そしてその噂が広がり始めた頃、私は学院で嫌がらせを受けるようになりました。些細なモノでしたから相手にしなければいつか止めてくれるだろうと思っていましたが……」

 「もしかして……」

 俺が呟くと、ソシアさんが俺に目を向けて答えた。

 「はい、学院からの帰りに何者かに追われ気付いた時には……」

 「申し訳ありません! あの日、私めが迎えに行ければこんなことには……!」

 セバスと呼ばれた男がおいおいと泣き始め、それをソシアさんが宥めていた。

 「しかし、お父上から捜索の依頼は出ませんでしたが……」

 「根回しがあったのです。家には私をパーティに出すな、という手紙が届いていました。ユニオンや警護団に言えば私の命は無いと。ただ、帰ってくるのを待てと書かれていました」

 これを、と差し出してきた手紙をトーベンさんが読むのを横から覗き見ると、チラシの文字を切り抜いてはったようなテンプレな脅迫状だと分かる。

 「なるほど。話は分かりました、脅迫はあるけどもパーティに出席しなければお父上の顔が立たない、かと言って引きこもる訳にもいかないと?」

 「ええ、学院を休むようには言われましたが、それをすると相手が何をしてくるか分からないということで普段通り生活する事にしました。そのための護衛です」

 「カケルを選んだのは?」

 「……実は山で迷っていた所助けてくれたのはカケルさんなんです。誰とも分からない私を助けてくれて食事までいただき、私を襲うような事もなく送り届けてくれました」

 「お前……」

 「ひゅー♪ ぷひゅー」

 聞いてないぞと睨んでくるトーベンさんから目を逸らし、冷や汗をかきながらへったくそな口笛で誤魔化そうとしたがダメだった。

 「(後で詳しく聞くからな)」

 「あい……」


 「信頼できる方だと思い、是非にと」

 「私は反対です。冒険者などという野蛮な者に依頼するなど……」

 「ああん?」

 「ひっ!?」

 セバスの不遜なセリフを聞いてトーベンさんが威嚇していた。そこで俺は口を開く。

 「あー、でもあの時は領主の娘だって知らなかったからで、今だと分からないじゃないか? もしかしたらお宝を持って逃げるかもしれないし、襲っちゃうかもしれないぞ?」

 「ふふ、それを本人を前にして言ってしまう事自体信頼できると思います。本当にそんな事を考えているなら何も言わずに依頼を受けて実行しますよ?」

 ころころと笑うソシアさんの言う事は一理ある。が、……。

 「……俺はあまり目立ちたくないんだよ。護衛、それも領主の娘ともなると、確実に目立つだろ? だから悪いがお断りさせてもらいたい」

 「貴様、お嬢様の依頼を断ると言うのか!?」

 「セバス。そう、ですか……報酬は十分に用意するつもりですが」

 「そうだ! 五十万セラだぞ!」

 「金の問題じゃないんだ、悪いな」

 とはいえ、事情が事情なだけに嫌な予感がするな……嫌がらせだけなら大丈夫だとは思うが一応『生命の終焉』を使って見てみるか……。


 『ソシア=ブレンネン

 寿命残:二十七日』


 
 「やっぱりか!?」

 「うお!? どうしたんだお前いきなり!」

 「あ、いや……」

 やはり、というか一ヶ月経たないくらいでソシアは死んでしまうらしい。文字は黄色、ギリギリってとこか。

 「あまり無理を言っても困るでしょうし、これで失礼致しますね」

 「あ、ちょっと待って!」

 「? 何か?」

 しまった、勢いで引きとめたものの俺は何て言うつもりだ? あなたはもうすぐ、具体的には一ヶ月後に死にます、とでも? それをやったからカルモの町を追い出されたんだろうに。

 「お嬢様、行きましょう」

 セバスがソシアさんを連れて行こうとしていたその後ろ姿に俺は声をかける。

 「……いや、何でも無い。気を付けてな」

 「……? 今日の事は他言無用でお願いしますね、それでは」

 ……少し胸が痛いがこれも平穏に過ごすためには仕方がない……通りすがりのお嬢さん、ただそれだけだしな。

 「……」

 何とも言えない気持ちで俺はソシアさんと見送った。

 
 ◆ ◇ ◆


 
 「あ、帰ってきたよ」

 「二人とも暗い顔」

 「カケルさん、マスター! こっちですよー!」

 エリンは的に、トレーネは人型の人形に魔法を放ちながらこっちに気付いて手を止める。剣を磨いていたグランツが大きく手を振って俺達を呼んでいたので向かう。

 「お帰り、カケル」

 「おう……」
 
 「暗いわね、何かあったんですか?」

 「気にするな、お前達には関係ない、と言うより話せないからな」

 「そうですか……では、稽古をつけて頂けもらってもいいでしょうか」

 トーベンさんが言うと、あっさり引き下がる三人。ユニオンマスターの言う事は聞くべきなんだろうな。

 「いいぞ。というかお前達の依頼、まだ期限は大丈夫なのか?」

 「うん。ジャイアントビー討伐は明後日まであるから大丈夫」

 ブイの字に指をしてトーベンさんに言うトレーネだが、俺は気になる事を聞いてみた。

 「……死にかけたのに、また挑むのか?」

 「そうね、カケルさんには感謝してる。ちょーっと強いけど実入りがいいからね、動きとかも覚えたからあたしを軸に戦うつもりよ」

 「どれくらい入るんだ?」

 すると、グランツが笑いながら手を突きだしてきた。

 「何と三万セラです! 近くの村からの依頼なんですけど、村人じゃ手におえないということで受けましたね」

 「まあ確かにお前達ならギリギリ倒せるかもしれんな」

 「前は私が毒にやられて動けなくなったから……」

 シュンとするトレーネにグランツが頭を撫でながら大丈夫、生き残れたから次は倒せばいいと言っていた。

 「でもお前達お金に困って無さそうじゃないか?」

 「えっと……」

 トレーネが何かを言いだそうとして、エリンが慌ててその口を塞ぎ早口でまくしたてる。

 「あああ、いや、結構困ってるのよ? グランツは大食いだし? そういうことよ! さ、さあ向こうで訓練しましょ!」

 「あ、おいエリン!?」

 「んー!?」

 ずるずるとトレーネを引きずりながらエリン去っていく。

 「何だってんだ?」

 俺が困惑して頭を掻いていると、トーベンさんが腕を組んだままポツリと呟くように言う。
 
 「あいつら……いや、エリンのお母さんな、病気で倒れてるんだよ。治療に金がいるからって無理矢理冒険者になった口だ」

 「病気?」

 「ああ、難病でな。手術も必要らしい」

 「(ふむ、ハイヒールで治せないものか? TIPSには無いからアシストを……)」

 <……ハイヒールでは病気に対して効果はありません。もっとレベルの高い回復魔法が必要です>

 答えてくれたか、だけど歯切れが悪いあたり、まだむくれているみたいだな。

 「(病気を治す魔法はすぐ覚えられるか?)」

 <否定します。回復魔法は属性魔法と違い、経験で習得するため、いつか、とだけお答えします>

 そうか……もし覚えられたら使っても良かったんだがな。そういえば回復魔法についてはみんな教えてくれなかったな、なんでだろ? それは後で聞けばいいか、今はエリンのお母さんの事だ。

 「治療費っていくらくらいなんだ?」

 「……言いたくない」

 「なんでだよ!? 聞くだけならタダだろ、俺も全財産は十万あるかどうかだし、払えないよ」

 「うーむ……そこまで言うならいいが、後悔するなよ?」

 「なんで後悔するんだよ」

 「治療費は……五十万セラだ」

 「高っ!? え、マジでか!? 今回ジャイアントビーを倒して三万……半分貯めたとして……いつになったら貯まるんだよ……」

 「だから焦ってるんだろうな」

 だが、母親の事なら焦っても仕方がないと思う。もしかしたらグランツとエリンはいつか結婚するかもしれない、だからエリンを手伝っているのかもな。そう考えるとやはりあいつらはイイヤツらである。

 ここで俺はふと思い出す。五十万セラ? それって確か……。


 (セバス。そう、ですか……報酬は十分に用意するつもりですが)

 (そうだ! 五十万セラだぞ!)

 ピコーンと俺の頭にに電球が光った! ……気がした。

 ……なるほど、トーベンさんの言葉の意味はこれだったのか……。


 「さ、それじゃお前の『全武器適性』を見せて……どうした?」

 「トーベンさん、ソシアさんに連絡は取れるのか?」

 「何? ……おまえ、まさか……」

 「あの依頼を受ける。ちょっと気になる事があってな」

 「はあ……言うと思った……貴族の集まりは危険だぞ、それこそ毒殺なんてのもあり得る。それでもいいのか?」

 俺はニヤリと笑ってからトーベンさんに告げる。

 「大丈夫、俺は死なないんだ」

 さて、まずはジャイアントビーから片づけるとしよう。その後、ソシアさんの周りに何が起こっているか、を調べる事になりそうだな。

 我ながらよく厄介事に出くわすなと思いながら、三人の元へ向かうのだった。
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