上 下
21 / 253
第一章:厳しい現実編

第一八話 事の顛末と、口に出した瞬間傍から見ると頭がおかしい人に見えるスキル

しおりを挟む

 「……ん? ここは……?」

 俺は窓から入ってくる日差しを顔に受けて目が覚める……何で寝てるんだっけ?


 そうだ、アンリエッタの家の前でぶっ倒れたんだっけ。倒れる前に色々聞こえた気がしたけど何だったのか? それはともかく、ここはどこだ? ユニオンの大部屋にしちゃ薬臭い……。 

 身を起こすと見たことの無い部屋だった。大部屋でも無ければアンリエッタの家でもない。ここはどこだ?

 マウンテンパーカーとシャツは脱がされていて、周りを見渡すと狭いながらもどうやら個室のようだった。誰か居ないものかと声を出そうとしたところでガラリと正面の扉が開いた。

 「あ! 目が覚めたのね!」

 「アンリエッタ、それにビーンか」

 「……ちっす」

 入ってきたのはアンリエッタとビーンだった。俺がベッドから降りようとするとアンリエッタに止められた。

 「まだ動かない方がいいわ。先生が血を流し過ぎているから二、三日は安静にって」

 「そ、そうか? 回復魔法を使えば多分大丈夫だと思うけど……」

 あの時すぐにかけていればこんなことにはならなかったと悔やまれる。

 「最後に倒れただろ? あの時あんた、石に頭をぶつけて相当血が出てたんだ、正直オレはちょっと引いた」

 そっち!? 剣で斬られたりダガーで刺されたりしたけどそっちぃぃ!? どこかのラノベの主人公みたいにまた死ななくて良かった……あ、死なないのか……。

 「まだ混乱してるみたいね。そういうことだからゆっくり休んで。ミルコットさんとゼルトナさんに目が覚めたことを伝えておくから」

 「オッケー、あの二人にも礼を言っておかないとなあ」

 「あ、そうそう、これ、お母さんからパンとスープよ。お母さんも来たいって言ってたんだけど、警護団に事情を聞かれてるの」

 アンリエッタに俺が気絶した後の事を聞いてみると、まずゼルトナ爺さんとビーンが俺をこの場所……病院まで運んでくれたそうだ。何でも深夜に叩き起こして即入院……ますます肩身が狭い。で、丸一日眠っていたらしく、事件からすでに二日が経過していた。

 そんな中、村長と二人組は無事(?)警護団の地下牢へ叩きこまれ、怖くて見れないというニルアナさんの代わりに、事情を知り、なおかつ被害を受けたビーンと、駆けつけたゼルトナさん、それにミルコットさんが牢に入っている所を見届けたそうだ。

 「二人組は言葉も出せないほど憔悴しきってた。村長は……終始わめいていたよ」

 村長はアンリエッタの父親を殺した件と、二人を殺そうとしたということで犯罪奴隷としてどこかの強制労働施設へ移されるそうだ。冒険者二人も同じく。奴隷、あるのかと思ったのは内緒だ。

 村長が死刑にはならないのが不思議だけど、強制労働施設はかなり過酷(鉱山とか危険な場所だとか)なので、殺すより生き地獄を味わって生涯を閉じさせた方がいいという理屈なんだそうだ。人手はいつも足りないのもあるそうだが……。

 「それじゃ、また明日ね! 治ったら色々聞かせてよね? ……本当は死ぬはずだった私の事とか」

 んぐ……!? リ、リンゴが喉に詰まった……!?

 「げほ! げほっ!?……あ、ああ、気が向いたらな。ニルアナさんによろしく言っておいてくれ。ありがとな」

 一通り喋った後、アンリエッタが無理させちゃいけないと帰り支度をしはじめると、ビーンが先に出てくれと言い、病室には俺とビーンが残った。

 「? どうした?」

 「……ありがとう、ございました」

 「ひぃ!?」

 敬語で頭を下げるビーンに、俺は戦慄した。

 「どうして驚く!? ……アンリエッタの事もそうだけど、オレの事も助けてくれただろ……? あんたの言う事を聞いて一緒に行っていればもっと早く終わったかもしれないのに……」

 「ああ、別に気にしなくていいんだ。一日、二日顔を合わせたヤツの言う事なんて信じにくいだろうしな。むしろアンリエッタの所に行ってたんだから、俺を信じたって事でもある。だから、俺は嬉しかったよ」

 「……変な人だな……また来るよ」

 「余計なお世話だ! じゃあな」

 ガラガラと引き戸が閉まり、一人取り残される。先程までの喧噪が嘘のように静まり返っていた。ふと、ポケットからスマホを取り出し時間を見る。

 「……10時か」

 昼には少し早いが丸一日眠っていたせいで腹はペコちゃんだったので、アンリエッタからもらったパンとスープを食べながら俺はオープンでステータスを見る。

 「お、レベルが5になってる! あいつら魔物じゃないけど、対人でもレベルって上がるのかね? ゼルトナ爺さんに聞いてみるか」

 パラメータを元の数値に戻してみると、相変わらずHPとMPの上り幅がおかしい。それと『魔』だな。今の所活かす方法がないからパラメータ変更用としてみておくのがいいだろう。

 「そういや、ズボンとマウンテンパーカーもボロボロだな。≪ハイヒール≫」

 とりあえず体と一緒に癒すと、傷が無くなり元に戻ってくれた。服を買いなおさなくていいから便利だな、と思っていたけど甘かった。

 「臭っ!?」

 そう、血と汗の付着と匂いまでは取れなかった! 洗濯は必須らしい……。

 「とりあえず後回しにしよう……」

 俺はパーカーとシャツを放り投げてベッドへ横たわり、再びステータスとにらめっこする。新しいスキルと、説明文が付くようになったみたいだ。

 「運命の天秤、ね。俺の寿命が減っているのはアンリエッタとニルアナさんに分けたからか?」

 多分ビーンの分も分け与えたのだろう。元々生きるであろう寿命を分け与えているので三人ってとこか。完全には返さなかったが、冒険者の寿命を吸い取っているから『減っていない方』と捉えるべきか……。

 「後は『音声説明アシスト』か。こりゃなんだろうな?」

 俺が呟くと、ピロンと音が鳴った後、どこからともなく声がした。

 <音声アシスト。知りたいスキルや魔法についてお答えします。なお、手持ちのものだけになります>

 おお、どこからともなく美人秘書っぽい声が聞こえてきた! なるほど、これが音声アシストか! 心の声でもいけるかな……? 『運命の天秤』を詳しく。
 するとまたもピロン、と音がして美人秘書の声が聞こえる。

 <死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&>

 「やっぱり最後は聞き取れないのか……寿命が減のはどのくらいの割合なんだ」

 <助けた人が本来生きるべき年数が引かれます>

 やっぱりそうか。となると、迂闊に死にそうな人と関わったら俺の寿命はゴリゴリ削られるってことね。うーん、今回はアンリエッタが助けられたからいいけど、全然知らないおっさんとか何となく助けちゃったことになって寿命が減ったら嫌だな……。

 <カケル様『が』助けようとした場合のみ適用されるスキルになりますので、近くに居るだけではスキルは発動しません>

 「お、そうなのか。ま、九千万年あるし色々試すのもアリか……ふあ……腹が膨れたら眠くなってきたな……少し寝ておくか……」

 
 

 ◆ ◇ ◆

 

 『スキルは覚醒したみたいね、期待通りに動いてくれるといいんだけど』


 アウロラは神殿のような場所にある池のような場所からカケルの動向を見ていた。するとそこにもう一つ声があがる。

 『この男? アウロラが選んだのは』

 『ノア』

 『ええ、私よ。この男で大丈夫なの?』

 ノア、と呼ばれた水色の髪をした女性が呆れた様に呟くと、アウロラは髪をかき上げながら椅子に腰かける。

 『恐らく、ね。失敗しても私は痛くもかゆくもないし、いいでしょ? 面白かったらなおいいんだけど』

 『私が口を出す事じゃないから好きにすればいいと思うけどね……回復魔王、か。適任といえばそうかも……』

 それを聞いたアウロラは口元に笑みを浮かべ、考えるノアを細い目で見つめる。

 『他の魔王と会った時にどうなるか、そこが見物よ。まだまだ先だろうけど』

 『本当に楽しんでいるんだ。なら、私も見させてもらおうかな? この世界の行く末を』

 ノアはそう言って池を覗き込みはじめた。

 

 

 
しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

異世界超能力だより!~魔法は使えませんが超能力なら使えます~

Mikura
ファンタジー
 その日、明日見 遥(あすみ はるか)は見知らぬ森の中で目を覚ました。  だが超能力者である彼女にとってそれはあり得ないことではない。眠っている間に誤って瞬間移動を使ってしまい、起きたら知らない場所にいるということはままあるからである。だから冷静に、家に戻ろうとした。しかし何故か能力を使っても家に戻ることができない。千里眼を使って見れば見慣れぬ髪色の人間だらけ、見慣れぬ文字や動植物――驚くべきことに、そこは異世界であった。  元の世界に戻る道を探すべくまずはこの世界に馴染もうとした遥だったが、重大な問題が発生する。この世界では魔力の多さこそが正義。魔法が使えない者に人権などない。異世界人たる遥にも、勿論魔法は使えない。  しかし彼女には、超能力がある。使える力は魔法と大差ない。よし、ならば超能力を使って生きていくしかないと心に決めた。  ――まずはそこの、とても根が良さそうでお人好しで困っている人間を放っておけないタイプらしいお兄さん、申し訳ないが私が生きるために巻き込まれてください。  これは超能力少女が異世界でなんやかんやと超能力を駆使してお人よしのお兄さんを巻き込みつつ、のんびり(自称)と暮らす物語である。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

あまたある産声の中で‼~『氏名・使命』を奪われた最凶の男は、過去を追い求めない~

最十 レイ
ファンタジー
「お前の『氏名・使命』を貰う」 力を得た代償に己の名前とすべき事を奪われ、転生を果たした名も無き男。 自分は誰なのか? 自分のすべき事は何だったのか? 苦悩する……なんて事はなく、忘れているのをいいことに持前のポジティブさと破天荒さと卑怯さで、時に楽しく、時に女の子にちょっかいをだしながら、思いのまま生きようとする。 そんな性格だから、ちょっと女の子に騙されたり、ちょっと監獄に送られたり、脱獄しようとしてまた捕まったり、挙句の果てに死刑にされそうになったり⁈ 身体は変形と再生を繰り返し、死さえも失った男は、生まれ持った拳でシリアスをぶっ飛ばし、己が信念のもとにキメるところはきっちりキメて突き進む。 そんな『自由』でなければ勝ち取れない、名も無き男の生き様が今始まる! ※この作品はカクヨムでも投稿中です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...