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第一章:厳しい現実編
第一話 譲歩と説明は手短に、要求は最大限に
しおりを挟むさて、状況は分かった。
信じがたいが俺は死んだ。で、異世界への切符を手にしている、と。
だが、とりあえずペンデュースとやらの状況を聞かねばなるまい。剣と魔法は分かるけど、多分この様子だと魔物、いわゆるモンスターの類も徘徊しているに違いない。
「一つ聞くがペンデュースは何か危険な事があったりしないのか?」
『……特には無いけど、魔物は町の外を歩いているわ。そうね、ゲームのような世界って言えば分かるかしら? もちろんセーブは無いから一回死んだらそこまでだけど』
「なら、お決まりの勇者や魔王何かは居るのか?」
『勇者は居ないわ。けど、魔王は居る……これも良くある話だけど、転生者っていうのは元の世界の人間より能力が高いのよ。だから場合によっては魔王を倒してもらうために送り込んだりするわ。ま、成長する前に殺されたら一緒なんだけどね』
ずず……と、ティーカップを口に運び涼しげに言うアウロラ。てことは俺もその中の一人ってことか。
『ああ、でも送られたからって別に選ばれた人間って訳じゃないから安心していいわよ。とりあえず送った後はこちらではもう関与できない。あなたの人生だから。魔王を倒そうが適当に生涯を閉じようが自由よ。だからそれも含めて黙って送り込むのよ、貴方は魔王を倒すのに選ばれました! って言われても困るでしょ? 魔王なんて誰かが倒してくれたらそれでいいし、別に転生者じゃなくても倒せない訳でもないし』
「そ、そうなのか……」
ちょっとガッカリ。
『ちなみに異世界行きは拒否してもいいけど、その時はこの場で消滅だからそれは覚悟しておいてね? 死んだ時の痛みがぶり返して文字通り死んだ方がマシだって感じになるわ』
「それは嫌だな……しかし、このままお前の言いなりになって異世界へ行くのもなあ……」
するとアウロラが目を瞑ったまま(元々糸目だが)パチンと指を鳴らすと、俺の体に異変が起きた!?
「あ!? い、痛い!? あがががががががが!?」
ガタン! と、全身を激しい痛みが襲いはじめ、椅子から転げ落ちる俺。椅子から立ち上がったアウロラが冷ややかに見降ろしてきた。
『その痛みがしばらく続くわ。消滅までだいたい二四時間かかるから、それまではその痛みをずっと味わう事になるの』
「わ、分かった……から、と、止めてくれ……!」
再びパチン、と指を鳴らすと嘘のように痛みが消えた。
「ふう……これはキツイ。嫌がらせ程度の考えでやるもんじゃないな……」
『でしょ? だ・か・ら、行きましょう! ペンデュース!』
まあ、このまま死ぬよりかはそっちの方がいいか……どうせ悲しむような身内は居ないしな。
「分かったよ、お前の言うとおりに行ってやる」
『OK! こうやって説明したのも久しぶりね、だいたい目を覚まさないから落としちゃうんだけど。ま、いいわ、これも何かの縁ってことで好きなスキルを一つ叶えてあげるわ。何がいい?』
「お、本当か! なら、やっぱりあれだ、さっき使ってたと思うけど回復魔法。魔物どころか魔王が居る世界なんだろう? ならやっぱり命を大事にしたい」
『ふんふん、なるほどね。ま、回復魔法は人を選ぶけどレアって訳でも無いし……いいわ。それじゃこのシートに記入して』
サッとテーブルに出されたのはよくある申請用紙みたいなヤツだ。住所変更とかでつかうような。そこには名前とスキルを書く欄があった。
「壽命 懸……回復魔法っと……下の空白にある欲しい物ってのは?」
『一つだけアイテムをあげるわ。容量無限のカバンとか、使っても無くならないポーションとかね』
「……複合した性能を持たせることはできるのか?」
『二つまでならいけたような気がするけど……今までそんなことをする人居なかったからわからないわ』
肩をすくめて糸目を下げて笑うアウロラ。それなら、こういうのはどうだろう?
名前:壽命 懸
スキル:回復魔法
欲しい物:容量無限で、入れたものの時間が経過せず、所有者しか使えず、盗まれても自分の所へ戻ってくるリュックサック
「これで頼む」
『あー、なるほど考えたわね。流石はラノベ中毒者ってところかしら? ……OK、問題ないみたい。向こうの世界に到着して目が覚めたら近くにあると思うわ。後、到着したら『オープン』と呟いてみて。貴方のステータスを見る事が出来るわ』
「オープンね、了解した」
『さて、それじゃそろそろ行ってもらおうかしら』
そう言って俺を玄関のような場所へと連れて行く……むう、吸い込まれそうな暗いくらーい空間が広がっている……。
「ゴクリ……」
『往生際が悪いわね! ほら! 早く……!』
「お、押すなよ!? まだ心の準備が……!」
俺が叫ぶと、アウロラがパチンと指を鳴らす。すると俺の横の空間が裂け、そこから無数の手が伸びてきた!?
「おあ!? なにこれ!? 怖い怖い怖い!? あ、ひ、引っ張られるぅ!?」
『大丈夫、とって食ったりしないから♪ それじゃ行ってらっしゃい、カケルさんー♪』
「う、うわああああ!? あ、どこ触ってんだこの……くそ……あ、靴が片方脱げた!?」
しばらく格闘していたが、段々と意識を失っていく俺。このまま目が覚めませんでしたって言っても別にいいかな、と思ったりもしたが現実は非情である。
そして死の痛みに耐えられず異世界行きを決めた俺はアホだったということを到着してから嫌という思い知る事になるが、それはまだ先の話……。
俺の名は壽命 懸。そう、アホである……。
◆ ◇ ◆
『……行ったわね。まったく手間を取らせてくれるんだから。でもアホで助かったわ、魔王を倒さなくてもいいのに何故異世界に別世界の人間を送るのかを聞いて来なかったのは僥倖だったわね』
アウロラは再び席について、ティーカップを口に運ぶ。そして、先程カケルが記入した用紙に目を落とす。
『きったない字ね』
アウロラが用紙を指でなぞりはじめた……。
回復魔『法』……回復魔『』 ……回復魔『王』……
『あらあ、あまりに汚い字だから間違えちゃったわ(棒) 法と王って似てるわあ(棒)』
そして糸目をうっすらと開けてアウロラは微笑んだ。
『頑張ってね、カケルさん……これは私にかけた迷惑料代わり……他の魔王があなたを……うふふ……』
そう呟きながら尚も申請用紙をなぞっていくアウロラ。
・能力値上昇率アップ
・全魔法適正
・全武器適性
・ステータスパラメータ移動
『これだけあれば少しは面白くなるかしら? ま、使いこなせるかはカケルさん次第。せいぜい私を楽しませなさいね? ん? 靴? カケルさんが落としていったやつみたいね……ふん!』
アウロラは靴を蹴り飛ばし祭壇の近くへと寄せた。
『捨てるのも面倒だし、放っておきましょ……しっかしダサい靴ね……センスのいい新しい靴をリュックに入れておきましょ。ふふ、感謝しなさい! ……さ、疲れたし寝るかな……』
独り言は虚しいと、さっさと就寝準備にはいるアウロラ……さて、異世界ペンデュースへと送られた我等が主人公、カケルはというと……。
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