上 下
238 / 245

第二百四十七話 正体不明の存在というもの

しおりを挟む
「――カ」
「ん……」
「――ルカ」
「ふあ……今の声……ステラ……?」
「うん。そう」
「うおわ!?」

 誰かに声をかけられていた僕はゆっくり目を開ける。どうも声の主はステラのようで、揺すられていた上半身を起こすと目の前にステラの顔があった。

「うおん!?」
「あ、ごめんシルヴァ」

 慌てて転がった先にシルヴァが居て、盛大に尻尾を押さえてしまった。ト〇とジ〇リーみたいなリアクションで飛び上がってからキレイに着地した。

「ここは……池だ。戻って来たのか」

「……? そうだ、ゼオラは?」

 ぼんやりした頭を回転させ、ゼオラを探す。すると、池の淵に立っているのが見えた。

「ゼオラ」
【……ウルカか】
「ゼオラは『視ていた』の?」

 僕はあえてそう尋ねてみた。先ほどまでの出来事にゼオラが居たのかどうか。
 一緒に転移に失敗したのであれば――

【ああ。居た……というより思い出した。全部な】
「……」

 あの場にいたゼオラは本人だったようだ。記憶に関しては当時のことみたいだけど、最終的にここへ帰結したらしい。
 ゼオラは振り返って僕と隣に来たステラを見る。表情は泣き笑いのような感じで、いつものうるさい師匠はなりをひそめていた。

【お前も視ていたあの光景は、紛れもない五百年前のあたし達だ。あのフレイムドラゴン……ボルカノは参戦しなかったが、近くを通ったのは間違いない】
「ならやっぱり史実とは違うんだ」
【ああ。あくまでも記憶の世界。もし完全に倒していてもこちら側に影響はなかっただろうな】
「……」
「転移魔法の影響なのかなやっぱり。そもそも、僕の領地ではなく、池に辿り着いたのが奇妙だ」

 僕がそういうとゼオラはしっかりと頷いた。大魔法使いとしての威厳みたいなものが感じられる。そんな顔に変わっていた。

【間違いない。しかし、今はそこが問題じゃねえ。ここからが本題だ。一旦、屋敷に戻るぞ。クラウディアさんと国王陛下に伝えねばならないことができた】
「え、う、うん」
【……ステラ、お前の件は後だ。ウルカにはちゃんと自分から言えよ】
「……わかってる」
「え?」
「くうん?」

 なぜかステラと謎の問答を繰り広げるゼオラ。なんのことかわからないけど、珍しくステラが無表情ではなく、苦しそうな顔になっていた。

「大丈夫かいステラ?」
「……!? ええ……行きましょう。シルヴァ、乗せてね」
「うぉふ♪」

 なんだかよくわからないけど、ステラが僕になにかを伝えないといけないらしい。
 だけど今は話せない、ということかな?
 それなら今はゼオラの方を優先しよう。そう考えて僕もシルヴァの背中に乗ると、屋敷まで駆け抜ける。
 ……そういえばどうしてステラはここに居たんだ?

「ただいまー!」
「おや、ウルカ坊ちゃんではありませんか!? どうなされたのです? 今、奥様を呼びますね」
「うん!」

 屋敷に戻り、メイドさんがびっくりしながらもすぐに母さんを呼んでくれた。
 リビングに移動すると、程なくして母さんがやってきた。

「ウルカちゃん! どうしたの? まだ戻ってくることはないと思っていたけれど」
「実は――」

 僕を抱っこして不思議そうな顔をする母さんにここまでの経緯を説明する。
 記憶の世界について話したあたりで、神妙な顔になり僕とステラをソファに座らせた。

「……ゼオラは五百年前の人間と聞いてはいたけれど、封竜《シールドラゴン》コトルクスと戦ったのは初耳ね」
【今まで忘れていたからねえ。それで本題だ。そこの池でウルカが倒したのは奴の一部……分けた身体だ】
「え、そうなの? あのまま封印できたんじゃないの?」
【途中まではできていた。だけど、あたしの魔力が減少して隙が出来たその時、あいつは自分の身体を切り離したんだ】
「なんだって……!?」

 あの後、そんなことがあったのか。
 そこから話を聞いてみると、本来はボルカノが居なかったため物凄く苦戦を強いられたらしい。
 地上に引きずりおろすまでにゼオラがかなりの魔力を消費してしまったため、結果は負けに近い相打ちだったそうだ。
 そしてゼオラは封じた石を湖に沈め、残りの分身体を探す旅に出た……のはカインさん達のみ。

【……あたしは封印の魔法で力を使い果たしてしまってな。封じた石と共に湖に身を投げたのさ】
「なにも飛び込まなくても……」
【いや、最後の最後まであれを復活させないようにずっと抱きしめておこうと思ったんだ。文字通り命を燃やして。だから奴が復活した際、あの大きさで済んだのさ】
「なるほどね。それでこの土地から離れられなかったのかも。でもウルカが倒したから土地に縛られることは無くなったわけね」

 母さんが顎に手を当ててまとめてくれた。となるとカインさん……スレイブさんはあそこで息絶えたのか。

「スレイブさんに会ってみよう。僕の領地付近に居たということは、あの辺にコトルクスの分身体がいるんじゃないかな? 記憶は曖昧かもしれないけど」
【そうだな……転移魔法があれば、各地へ移動もできるか。あたしは湖の後を知らない。ソリオとディーネがどうなったのか……カインに聞いてみよう】
「うん。それじゃ早速行こう」
【ああ。クラウディアさん。申し訳ないけど、国王陛下にこのことを教えてもらえるかい? 分身体は弱くなったけどまだ脅威だ。あの怪我では遠くに行っているとも思えない】
「わかったわ。その後、すぐに合流するからそれまでウルカちゃんをよろしくね」

 母さんはソファから立ち上がって頷いた。ゼオラも一言、母さんに返していた。

【もちろん】
「わたしも行く」
「え?」
【……連れて行こう。話はそこで聞け】

 よく分からないけど、ステラはあのコトルクスと関係があるのか? 僕の手をぎゅっと握ってくるステラを見ながらそんなことを考えるのだった。
しおりを挟む
感想 480

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

俺とエルフとお猫様 ~現代と異世界を行き来できる俺は、現代道具で異世界をもふもふネコと無双する!~

八神 凪
ファンタジー
義理の両親が亡くなり、財産を受け継いだ永村 住考(えいむら すみたか) 平凡な会社員だった彼は、財産を譲り受けた際にアパート経営を継ぐため会社を辞めた。 明日から自由な時間をどう過ごすか考え、犬を飼おうと考えていた矢先に、命を終えた猫と子ネコを発見する。 その日の夜、飛び起きるほどの大地震が起こるも町は平和そのものであった。 しかし、彼の家の裏庭がとんでもないことになる――

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

処理中です...