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第二百三十六話 魔物は怖いよというもの

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「あら、侯爵様達が馬車に乗って……ってフェリオ様が魔物の背中に!?」
「ギルドに連絡を……!!」

 町へ出て数分と持たずに場は騒然となった。
 キールソン侯爵様の馬車は見た目じゃ変わったところが分からないけど、カトブレパスのフォルテに乗っているフェリオ様はそりゃあもう目立つからね。

「みんな、大丈夫だよー! この子は大人しいんだ」
「おお、フェリオ様が笑顔で……!?」
「クルルル♪」
「こけー」

 一応、なにかあった時のためにこっそりジェニファーをフェリオ様の後ろに乗せている。不死鳥のあいつなら例え強盗に襲われてもなんとかなる。そもそもフォルテが接近を許さないだろう。
 まあ一つ目の魔物が闊歩しているのはどっきりするよ。

「わふわふ」
「ゆっくりでいいよシルヴァ」

 僕はというとシルヴァに乗ってフェリオ様とキールソン侯爵の間を進んでいた。どっちにも対応できるようにするには馬車よりもシルヴァだ。
 ひとまずフェリオ様からは陽気な感じが伝わってくるので、今のうちにキールソン侯爵に話を聞いてみよう。

「どうですか? 新しい馬車は」
「……」
「……」

 開いている窓から尋ねてみると、キールソンさんとリオーネさん夫妻は目を閉じて黙っていた。あんまり面白味がないから考えているのかな?
 そう思っていると、突然キールソンさんが目をカッと見開いた。

「……素晴らしい!! なんというものを作ったのだウルカ君は!」
「おや!?」
「わふ!?」

 そして僕に顔を向けると大きな声でそう言い放ち、僕とシルヴァはひっくり返るかと思った。続けてリオーネさんが微笑みながら言う。

「普通の馬車ならもっと揺れるのですけど、これはあまり揺れを感じませんね。なにか仕掛けがあると思いますが凄いですわ」
「ありがとうございます!」

 どうやら感触を確かめていたらしい。いい評価を貰えたので僕としては満足だ。

「仕掛けが気になるところだよ。これは売りに出すのかな?」
「ええ、この馬車が量産の暁には僕の領地があっという間に拡大することになるかと思います」
「なに……!? 量産体制があるのかね!?」
「今後ですけどね」
「後で詳しく聞きたいな。もちろん泊っていくのだろう?」
「はい!」
「ウルカお兄ちゃん泊るの? やったー!」
「こけー」
「あれ!? 君はいつの間に!? ニワトリさん前に来ていいよ」

 嬉しそうな顔でキールソンが背もたれに寄りかかる。
 そこでフォルテに乗ったフェリオ君が振り返って顔を輝かせていた。その時、あくびをしていたジェニファーに気づいた。

「お、キールソン様だ! こんにちは!」
「ははは、いつもありがとう」
「ごきげんよう」
「奥様もいらっしゃるとは珍しいですね!」

 そんな調子で一瞬、フォルテ騒動があったけど町を1周することができた。道中、サスペンション馬車は凄くいいと絶賛だった。
 そのまま屋敷に戻ると、フェリオ君が伏せをしたフォルテから降りてリオーネさんのところへ駆けて行く。

「フォルテ凄いよ、馬よりも揺れないから乗りやすいって思ったんだ!」
「クルル♪」
「良かったですねフェリオ。ではお屋敷に戻りましょう」
「うん! 行こうフォルテ」
「クルル?」

 フェリオ君が屋敷に連れて行こうとしたが、フォルテは立ち止まって首を傾げた。
 ああ、懐きすぎちゃったかな。

「フォルテやシルヴァはお庭で待っていてもらうんだ。僕の家だといつもそうだし」
「え、そうなの!? 父上、母上お屋敷に入れたらダメですか?」
「お、そんなに気に入ったのかね? まあ、あの毛は確かに魅力的だ。だけど、やはり屋敷には入れられないかな。汚れてしまうし、通路は彼等には狭い。猫とニワトリなら小さい。そちらはどうかな?」
「うう……可愛いけど……じゃあ、お庭でフォルテと遊ぶのはいい?」
「もちろんさ」

 キールソンさんは笑顔で頭を撫でて肯定する。我儘をきちんと諭す感じでやはり嫌な貴族とは無縁な人だなと思う。

「バスレさんは屋敷の中かな? では僕はフェリオ君と一緒にいます」
「む、そうかい?」
「ウチの子達は大丈夫ですけど、やっぱり一人にはしておけませんから」
「それならよろしくお願いいたしますねウルカさん」
「なにかあれば待ってくれているバスレさんに言づけてもらえると!」

 僕がそう言うと夫妻は笑顔で僕に礼をした後に屋敷へ足を運ぶ。馬車は丁重に扱うように指示しているのがらしいなって思う。

「ウルカお兄ちゃんはどうしてこんなに魔物とお友達なの?」
「ん? ああ、色々あってね。シルヴァはこれくらい小さい頃に拾ったし、猫のタイガもそうかな? ジェニファーは僕のお友達のところに居たニワトリなんだけど、最近魔物になっちゃったんだ」
「こけー!」
「ええ!? そんなことあるんだ……でも、仲良くなれるんだね!」

 ジェニファーを抱えて満面の笑みを見せてくれる。だけど、勘違いしてはいけないので僕はフォルテの背中を撫でながら真面目な顔になる。

「仲良くなれるんだけど、これは特殊な能力が必要なんだ。もしフェリオ君がシルバーウルフの前に出たら多分食べられちゃうんだ」
「え……」
「魔物はそれくらい怖いんだ。このフォルテも敵を石にすることができるしね。僕のところに居る魔物以外は怖いんだ、いいかな?」
「う、うん……」

 僕の言葉にちょっと怖がったので、僕はシルヴァを近くに寄せてみる。

「シルヴァ、あーん」
「ばう」
「わあ、凄い……」
「これに噛まれたら痛いからね。魔物を飼うみたいなのは考えないでね?」
「うん……! でも、勉強はしてみる! ウルカお兄ちゃんありがとう!」

 おお……やる気だ。
 でもちゃんとわかってくれたようでなによりだ。フォルテの首に抱き着くフェリオ君を見てそう思う。
 さて、目的は終わったけどとりあえず食事で話があるらしいし、聞いてみよう。
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