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第百八十五話 久しぶりの友人というもの

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 久しぶりに自宅へ戻った僕は少し休んでから、アニーと一緒に町へ出ることにした。本当は戻る訳にはいかないんだろうけど、今回は勘弁してほしい。
 とりあえず獣医さんは明日の朝、もう一度屋敷に来てもらえることになった。一泊することも了承してくれた。

「ひと月くらいだからあまり変わらないねえ」
「うん! えへー」
「不可抗力とはいえ、良かったわねアニー。お料理も美味しいって」
「また新しいの覚えるの!」

 繋いだ手をぶんぶん振り回しながら満面の笑みでお母さんに答えるアニー。
 いつも通りで安心する。
 もう目が届かないところに居るので、危ないことをしていたりしないか心配することもある。
 まあ、今は料理を頑張っているということなのであまり外には出ないようだ。遊ぶときはステラとフォルドが一緒らしいしね。

「それじゃあウルカ様、また。アニーをお願いします」
「はい! お散歩がてらステラ達にも会ってきます」
「いってきまーす!」

 酒場に到着し、アニーのお母さんと別れた。僕達はこのまま学校へと向かい、二人に会う予定だ。

「シルヴァ達とも遊びたかったなあ」」
「慌てていたからそこまで気が回らなかったよ。そうそう、新しい動物が増えているよ」
「ホント!? 見たいよー」
「モフモフしているからみんな気にいると思う」
【フォルテの背中はあたしも触りたいんだよなあ……】

 フォルテの話をすると嬉しい表情をする。だけどシルヴァ達も含めて会えないので不満そうな顔をしていた。
 
「明日、アニーも行くの」
「え?」
「おいしゃさんと一緒にウルカ君のおうちへ行くのー!」
「それは……」

 ダメとも言いにくい。なんせこうやって帰ってこれるわけだからだ。一日だけならお泊りするのはアリかもしれないけど――

【いいんじゃねえか? 転移して一泊して帰せば。多分、使えばお前の魔力量を上げる訓練にも繋がる】
「そっか。なら、アニー。親父さんとお母さんがいいよって言ったらね」
「分かった! 後でお家へ寄るのー」
「オッケー」
「やった。今日も明日も一緒なの」

 屋敷に泊まるのは変えないらしい。それにまだ辺境へ行けると決まったわけではない。
 まあアニーらしいなと思っていると、見慣れた学校が目に入る。オオグレさんが居た場所なので記憶に新しいよ。
 屋敷に飛んだのがお昼過ぎで、少し休んだからちょうど下校時刻。まばらだけど生徒が校舎から出て行くのが見える。

「部活には入っていなかったよな」
「あの辺にステラちゃんが居るの。こっちが兄ちゃん!」
「そうなんだ」

 一階の窓を指差しながらアニーが元気よく答えてくれた。それじゃ待っておくかと思っていると下校中の女生徒に声をかけられる。

「あれ? アニーちゃんだ」
「こんにちはー!」
「ステラちゃんとフォルド君はもうすぐ出てくるわよ。そっちの子は?」
「ああ、僕はウルカ。丘の上の屋敷に住んでいたって言えばわかるかな?」
「「「え”!?」」」
「おや?」

 僕が応えると女生徒三人がびっくりした顔で呟く。どうしたのかと首を傾げていると、女の子が一人鼻息を荒くして近づいて来た。

「じゃ、じゃあ、あなたがウルカ様なんですね……!? ステラちゃんの恋人の!」
「う、うん、そうだけど……」
「アニーもかのじょだよー!」
「うんうん、アニーちゃんは可愛いよねえ」

 手を上げて主張するアニーを別の子がによによしながら頭を撫でる。気づけば注目されているが『アニーちゃんだ』『今日も居る』といったワードが聞こえるため、どうやらアニーは生徒の間では有名らしい。
 さて、それはともかくなぜこれほど興奮しているのかわからない。
 
「僕とステラ、それとアニーは僕の彼女で合っているよ。でもそれがどうかしたのかい?」
「そりゃ! もう! これであいつも諦めると思うし……」
「あいつ?」

 顎に指を当てて不穏な顔で笑う女の子。そこでアニーが声を上げた。

「あ! ステラちゃん! 兄ちゃん! こっちー!」
「ん? あら、アニー。今日も……って、そんなまさか!?」
「なんだ? ……おお!? 嘘だろ!?」
「やあ、二人とも」
【久しぶりだな】

 校舎から出て来たステラとフォルド。それと踊り子であるファナちゃんが駆けてきた。

「な、なんでここに……」
「ウルカ君、もうお勤めが終わったの?」
「言い方!? いや、でもまあそういう感じではあるのか。ちょっとばかりかくかくしかじかでさ」
「え、ハリヤーが……?」
「それは心配」

 ひとまずここへきた経緯を話すと二人ともハリヤーを心配してくれた。明日、獣医さんと向こうへ戻ることで安心はしているようだけどね。

「とりあえず任せるしかねえよな。あいつもずっと一緒だし死んでほしくはねえな……」
「うん。だから焦ったよ」
「なら明日までは居るのね。お屋敷に遊びに行っていい?」
「もちろんだよ。色々あったから途中経過を話したいね」

 ハリヤーはひとまずできることがないと三人は遊びに行っていいか聞いて来た。
 もちろん断る理由もないので、陽が暮れるまで話をしたいなと考えていた。
 
 すると――

「なんか騒がしいな? あ、ステラにフォルド……!」
「コウ」
「おう、コウじゃねえか」
「クラスメイトかな?」
「そう。私のことが好きらしい」
「ち、違うわ! くそ……。そいつは? 学校じゃみたことないな」
「ああ、僕は――」
「コウ! この方をどなたと心得る!! 丘の上にある屋敷に住んでいたウルカ様であるぞ! そしてステラちゃんの恋人よ」

 自己紹介をしようとしたところでさっき興奮状態だった女の子が妙な口上を並べていた。ノリのいい子らしい。

「お前が……!? おもしれえ……お前、強いらしいな? オレと勝負しろ!」
「ええ?」

 そしてコウという子にいきなり挑戦された。
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