上 下
173 / 245

第百七十二話 久しぶりのお買い物というもの

しおりを挟む
「いつから行けばいいんだ?」
「そ、そうね、それは聞いておかないと荷物はまとめないといけないし」
「できれば帰る時に一緒に来てくれるといいかも? ラースさん、どう?」

 とりあえずグラフさんとスピカさんの二人は移住するにあたって荷物の整理をしたいとのこと。ラースさんの手間がかかるので直接聞いてみると、

「今から俺達は買い物に行くからそれまでに準備できれば転移魔法で一緒に向こうへ行こう。無理そうなら明日の朝、迎えに来るよ」
「俺はそれほど持って行くものは……いてぇ!?」
「道具をもっていかねえつもりかグラフ? 来い、まとめるぞ。皆さんが帰る時に一緒に行くんだ」
「わ、わかったよ」

 ドランさんに連れられて工房へ消えるグラフさん。残されたスピカさんと両親も話を始める。

「お前は荷物が多いのか?」
「まあ……服とかくらいかな? ベッドとかはあるのかしら?」
「それは作るから大丈夫だよ」
「作る……!? なら身の回りのものと服、道具くらいね。すぐまとめられそうだから皆さんが帰る時ご一緒させてください」
「よろしくねぇスピカさん」
「よろしく!」
「い、いいのかしらねホント……。そこ、ニヤニヤしないの!」

 僕達が握手をすると、まだ顔の赤いスピカさんが困ったように笑う。
 両親はそんな彼女を見てニヤニヤしていた。まあ分かっているといったところだろう。

「それじゃあ荷物をまとめてきます! お友達にも挨拶をしないと――」
「ではワシらも一度帰るか。見送りには行きますので」
「うん!」

 そういってスピカさん一家もここを立ち去り、グラフさんのお母さんだけが残った。

「ごめんなさいねえ騒がしくて。あの二人、ずっとあの調子でケンカばっかりするのよ。お互いが好きなはずなんだけど」
「まあ、見ていたらわかりますね」

 バスレさんが眼鏡の位置を直しながらそういうとお母さんも微笑みながら頷いた。

「だからいい機会だと思って二人きりで生活させてみようかと思ったのよ。だいたいの事情はグラフから聞いていたし。スピカちゃんと会ったのは偶然だけど、呼ぶつもりだったわ」

 ほとんどお母さんの手の内だったらしい。
 小さいころから一緒で、お互い学校でも喧嘩をしていたとか。スピカさんは可愛い系の顔立ちなのでモテていたそうだけど二十歳になる今もまだ彼氏を作ったことがないとのこと。一途というか拗れているというか……。

「ま、これで結婚したら嬉しいけどね。一番早そうだから盛大に結婚式をしたいかも」
「いいわねぇ♪」
「それじゃ私もグラフの荷物をまとめてきますからこれで」
「はい。それじゃ僕達もお買い物へ行こうか」

 そういって僕達は歩き出す。

 そして――

「わふ」
「クルル」

 ということで、一旦町長さんの屋敷へ戻り、大人しく待っていた二頭が久しぶりに口を開いた。ちなみにどっちが僕を載せるか、お互い頭をこすり付けて争っていた。

「健康のため歩くよ。ほら、行こう」
「ふふ、しょんぼりしていますね」
「体力もつけないといけないしね」

 両脇に二頭を招いて挟まれるように歩くことにした。たまに背中を撫でて上げれば機嫌が良くなるので特に問題は無いのだ。

「まずは食料?」
「そうですね、もう少ししたらお野菜などは収穫できると思いますけどまだ買っておいた方がいいでしょう」
「わかった。ベルナさんは?」
「わたしも食料だけど、騎士達の分だから多くなるかも? バスレさんの言う通り収穫できるまでにはいっていないし。後は体力仕事だからお肉もたくさん欲しいかしら?」

 魚は川から池に流れて来たのが釣れるから今はいいんだそうだ。そういえば小型のブラックサーモンが池から飛び跳ねているのを見た気がする。
 ということでまずは食料をば!

「いらっしゃい、仕入れはボチボチだけど見てってくれ」

 と、肉屋さんなのにガリっと細いマスターが笑いながら案内してくれる。お肉は牛・鶏・豚と魔物の肉があるので満遍なく購入。
 冒険者が狩ってきた魔物を卸して売っているようだ。珍しい『グレイブロック』というサイに似た魔物の肉が売っていたので買ってみた。高かったけど、あまり肉がとれない個体なのでそれは仕方がないみたい。和牛の霜降りみたいなものだと思えば。

「こら、涎を飲みこみなよシルヴァ。みっともないよ」
「ハッ!? わふ……」
「これだけ肉が並んでたらフォレストウルフにはご馳走だもんな。……あれ? フォルテが居ないぞ」

 笑いながらシルヴァの頭を撫でていたラースさんがそんなことを言う。確かにそこにいたはずなのにと思っていると、少し離れたところでびっくりした声があがる。

「うわあ!? 魔物がいるぞ!?」
「クルル……」
「あ!? 居た! フォルテ、どうしたんだ? ごめんなさい、こいつは僕の家で飼っている魔物なんです」
「お、おお……マジか? 確かに大人しいけど」

 フォルテが動かないのでじっと見ている方へ目を向けると――

「桃だ」

 そういえば果樹園で桃ができると聞いて大喜びしていたっけ。目の前には大きくてきれいな桃が籠に入っていた。三つで銀貨七枚……七百円。結構お高い。
 
「なんだい桃が好きなのか? 変わった魔物だな。そろそろ寒くなってくるから今のうちに食っておいたらどうだ? なんてな」
「クルル」
「こっちも涎がすごい。水路で頑張ってくれたし、買ってあげるよ。おじさん、三つちょうだい」
「クルルルル……!」
「おう! 良かったなお前。そのまま籠ごともっていってくんな」
「ありがとう! はい、お代」
「毎度!」

 僕はお金を払うと籠を持って一歩下がる。ねだらないフォルテはいい子だなと思う。

「お昼ご飯の時に食べようね」
「クルルル♪」
「うわ、くすぐったいよ」
「他にも買っていくかい坊主」
「そうだねえ――」

 と、ショッピングは始まったばかりだけど、久しぶりなので色々と買ってしまいそうだ。ハリヤーやジェニファー、タイガにもお土産は必要だよね。
ポンプも一度組んでみたいから素材もいるかな?
しおりを挟む
感想 480

あなたにおすすめの小説

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

処理中です...