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第百七十話 移住者一名? というもの

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「ここを押すと水が上ってくる仕組みだ」
「もっと詳しくしろっつってんだろ!」
「う、うるせえよ親父!? だから――」

 と、グラフさんはポンプをバラバラにした後、部品を組み立てながら説明してくれた。
 小学校の図工とかで水鉄砲を作ったりするけど、あれに近いんだなと思った。
 ポンプを動かすことで圧をかけ、真空状態にして水を吸い上げるというものだからだ。

「パーツがたくさん必要なのですね」
「ああ。で、この弁とかパッキンは劣化するんでオレ達みたいな修理できる人間が必要ってわけなんだな」

 要所で質問を投げかけるとそれに対してきちんと返答をしてくれ、部品がどういう動きをするのか完成されたポンプと比較して説明をしてくれた。
 
「これは応用すれば蛇口もいけそうだね」
「じゃぐち?」
「うん。こうひねると水が出る仕組みのね。とりあえず下水道を作ってからだけど」
「すげえな……。アイデアだけならかなり持っているんじゃねえか? ぐあ!? ……持っているんじゃねえんですか?」
「はは、いいですよ敬語じゃなくて。まあ、アイデアはあるかなあ。複雑な中身じゃ無ければこういうのはできるし」

 そう言って僕は適当な金属を手にしてさっと包丁を作ってみた。するとドランさんが驚いた顔で貸してくれと言うので手渡した。

「……なるほど、これは凄い。だが、知識が無いと完全なものにならないというのも分かるぜ」
「やっぱりわかりますか? それ、切れ味があんまり良くないんですよね」
「ああ。だが、見た目を再現するのはほぼ完璧だ」

 ドランさんがフッと笑いながら褒めてくれる。そう、使えなくはないけど切れ味が普通なのだ。
 兄ちゃんズやフォルド達の剣はとにかく威力重視でイメージして作ったけど、包丁にそれをやると、まな板すら切れる代物ができるから抑え気味にした。
 なので切れ味が並みなのである。

「ふえー……確かにこれならオレ達みたいな鍛冶職人は要らないだろうな」
「いや、そんなことはないよ」
「ん?」

 ドランさんから包丁を受け取ってまじまじと見ながら呟いたグラフさん。そんな彼にラースさんが声をかけた。

「ウルカ君のクリエイトはそれこそ百年に一度使える人間がいるかどうかだ。だけど、逆に言えばウルカ君以外にこの力は使えないだろう? だからきちんと『技術』を継承していける職人さんは必要だと思う」
「お、おお……」

 たじろぐグラフさんへラースさんが僕が考えていたことを口にしてくれた。
 僕が居なくなれば僕が作ったものが維持ができなくなるのはその通りで、家具職人のザトゥさんみたいな職人は最終的に必要だと考えている。
 餅は餅屋じゃないけど、出来る人が技術を継承してくれると助かるんだよね。
 下水道は難しいかもしれないけど、今からヨグスさんの計画で作成するし職人さんが一緒に見てくれるといいと思う。

「グラフさん、村に来ますか? 下水道計画を進めるのを手伝って欲しい」
「ま、マジか……!?」

 喜びつつも親父さんが気になるのか冷や汗をかきながらドランさんに視線を向けた。するとドランさんは咳ばらいを一つした後でグラフさんに近づき、頭に手を置いて自分と一緒に下げさせた。

「願っても無いことだ。こんな辺境の町の人間を使ってくれるなんてあり得ないからな。不詳の息子で弟子だがよろしく頼みます」
「い、いいのか……?」
「……行ってこい。お前が言う通りここに押し込めてていても不満が募るだけで腕は上がらんだろうしな」
「お、親父ぃ……!」

 まあラースさんが言い出さなければ微妙だった感じはするけど、その時は僕が頼んでいたから結果オーライだろう。

「なら、一緒に行こうか。簡易的な工房ならすぐに作れると思うし」
「おう! おふくろに言ってくる!」
「ああ」
「ま、馬車で三日くらいの距離だし、たまには帰らせるよ」
「妻が喜ぶだろうな。申し訳ないが頼む」

 飛び出していったグラフさんに呆れた顔をしつつ、ドランさんは僕達と握手をする。仕事の方は大丈夫かという質問に対しては、

「元々一人でやっていたから問題ないぜ。後はあいつが嫁さんでももらって孫を見せてくれりゃ言うことはねえな」
「彼女はいないんです?」
「幼馴染ってやつならいるんだが、仲が悪いんだこれが」

 ドランさんが肩を竦めてポケットから煙草を取り出して火をつける。幼馴染と聞くとフォルド達を思い出す。仲が悪いパターンもあるんだなと思っていると、外からグラフさんの声が聞こえてくる。

「だからオレは開拓している村で仕事をすることになったんだよ!」
「どういうことだって聞いているのよ!」

 さらに女の子の声が聞こえてきた。両方とも怒鳴っているみたいだけど幼馴染さんかな?
 僕達も外へ出ると、困った顔をした年配の女性、多分グラフさんのお母さんに、そばかすが少し残っている赤茶色の髪をみつあみにした女の子が増えていた。

「落ち着きなさい二人とも」
「だって、おばさん! こいつ町を出ていくんでしょ? 大丈夫? 開拓地に迷惑をかけない?」
「失礼だなスピカ!?」
「ふん、あんたってガサツで片付けもできないじゃない。ご飯、作れるの?」
「や、焼き飯なら……」
「ほら! 止めときなさいって」

 スピカと呼ばれた女性はグラフさんをディスっていた。が、僕は『ほほう』と興味を持ってしまった。

 恐らく彼女は――
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