170 / 245
第百六十九話 職人さんというもの
しおりを挟む
「え? 村に? さっきちょっと外で声が聞こえていたけど、ここよりも仕事がないかも……」
僕はあっさりとグラフさんにそう返す。
確かに色々なことをやってはいるけど、殆ど僕がやるので職人さんはあまりやることがないのは間違いない。
「そ、それでも構わない! でかい仕事を見るだけでもいいんだ。オレは包丁を研いだり鍋を作るのはもう嫌なんだ! ぐああ!?」
「うわ」
「わふ」
熱弁をふるった瞬間、ドランさんの拳骨が炸裂した。いい音がしたのであれは痛いなと思っていると、ドランさんがため息を吐く。
「お客さんになにを言っていやがるんだ、ったく。お前みたいな未熟者が役に立つかよ。すみませんな、ポンプの予備はこっちにあるのでバラしちまいましょう」
「うぐぐ……」
「ふむ」
苦しむグラフさんにラースさんが顎に手を当てて考え込む仕草を見せた。なにか思うところがあるのだろうか?
「ラースさん? なにか気になることがあるの?」
「ん? ああ、とりあえず今はいい。それではドランさん、よろしくお願いします」
「ええ。おら、グラフ。お前にこの仕事を任せるからやってみろ。バラしたポンプをきちんと戻すまでが仕事だ」
「親父……。ああ、分かったぜ」
「クルル」
「おう!? なんだお前……。え? 背中を触れって? おお……モフモフする……」
少々不満そうなグラフさんの袖を引っ張り、自分の背中を撫でるよう示唆するフォルテ。色々な人に撫でられ、褒められていたから自分の背中はいいものなのだろうと思っているらしい。
それは正しく機能し、癒されたドランさんは工房の奥へ引っ込んでいった。
「よしよし、えらいぞフォルテ」
「クルル♪」
「優しい子よねぇ」
「一つ目……ってことは魔物かい?」
フォルテを見てドランさんが眉を顰めて言う。騒動があった時、工房に引っ込んでいたら知らなそうなので説明する。
「なるほど、カトブレパスってのかそいつが」
「クルル♪」
「人を石にしたって話だが、それは他のことにも使えるのか?」
「え? うん。水路を整えたのはフォルテだからね」
僕の言葉に『ほう』と感嘆の呟きをし、工房の中をなにやらガサガサと探索し始めた。
「こいつをもう一度くっつけたいんだがどうだ?」
「これは……」
「砥石、ですね?」
バスレさんが小さく呟くとドランさんが頷く。
砥石は大きい羊羹みたいな形で、途中から変に折れているのが分かった。
ただ、上部を石にすると砥石の効果が無くなりそうだ。
「いけそうか?」
「裏返してっと……。フォルテ、どう?」
「クルル」
僕が指示をすると『み”っ』とビームみたいな擬音を出しながら目から光線が発射された。しかし破損部がくっつくことは無かった。
「うーん、フォルテの能力ってなにかを石に変えるって感じだから破損を埋めるのはできないんだな」
「クルル……」
「まあ仕方がない。石にできるならと思ったのだが」
「接着剤の方が現実的なのかも? 石の接着剤か……」
ホームセンターへ行けばある……というのは現代日本だけだ。なるほど、そういうのも需要がありそうだな。
よく考えたら僕の作った家は日本の家っぽいけど、この世界は割とレンガ造りの家が多い。レンガ造りを強固にするための接着剤は売れるかも……?
「どうしたんですかウルカ様。なにか困ったことでも?」
「いや、なんでもないよ。というか僕の魔法でなんとかできると思うから今日はそれでいこうかなって」
「なに?」
ドランさんに砥石を借りてから繋いでいるイメージを思い描く。手で魔力を塗るように破損個所を撫でると、うまいことくっついてくれた。
「おお……!? それがさっき説明のあった魔法か……。凄いもんだのう。これがあれば俺達みたいな職人はいらんだろう」
「いえ、そんなことも無いんですよ。ポンプを見せてもらうのも知識が無いからで、僕はある程度想像できるものしかできないので」
「謙遜をするねえ。便利だとは思うが、確かに手先とは関係ない部分だし、複雑なものは難しいか」
ドランさんはくっくと笑いながら僕の頭をくしゃりと撫でてくる。実際、僕が居なくなったらクリエイトでモノを作れなくなるので一過性に過ぎないと理解しているからね。
するとそこでラースさんがいいタイミングだとばかりにドランさんへ話しかけた。
「さっきグラフさんが村に来たいと言っていましたが、もし良かったら彼に移住していただけないかと思うんですが」
「なに? あいつの腕はまあまあだが、開拓地を任せられるとは思えんが……」
「我々としては一人でも職人が居るとありがたいですからね。パン工房の夫婦は息子さん夫婦に店を譲って来てくれたりなんかもあります。補助金も出ますし、修行ということでどうですか?」
「ほう……」
難しい顔をするドランさんが顎をさすりながら片目を細めた。修行をさせるというところと未熟なという部分が天秤にかけられている感じかな?
「おう、親父! もってきたぜ!」
「……その話は後でしよう。あのバカ息子が戻って来た」
「そうですね」
「なんだ?」
「なんでもない。俺は仕事をしているから、どの部品がどういう意味を担っているかきちんと説明するんだ」
「お、おう……」
鋭い目を向けて窘めるドランさんに気圧されたグラフさん。
さて、親子の話は後回しになるけど、とりあえずポンプを習得しないとね。
僕はあっさりとグラフさんにそう返す。
確かに色々なことをやってはいるけど、殆ど僕がやるので職人さんはあまりやることがないのは間違いない。
「そ、それでも構わない! でかい仕事を見るだけでもいいんだ。オレは包丁を研いだり鍋を作るのはもう嫌なんだ! ぐああ!?」
「うわ」
「わふ」
熱弁をふるった瞬間、ドランさんの拳骨が炸裂した。いい音がしたのであれは痛いなと思っていると、ドランさんがため息を吐く。
「お客さんになにを言っていやがるんだ、ったく。お前みたいな未熟者が役に立つかよ。すみませんな、ポンプの予備はこっちにあるのでバラしちまいましょう」
「うぐぐ……」
「ふむ」
苦しむグラフさんにラースさんが顎に手を当てて考え込む仕草を見せた。なにか思うところがあるのだろうか?
「ラースさん? なにか気になることがあるの?」
「ん? ああ、とりあえず今はいい。それではドランさん、よろしくお願いします」
「ええ。おら、グラフ。お前にこの仕事を任せるからやってみろ。バラしたポンプをきちんと戻すまでが仕事だ」
「親父……。ああ、分かったぜ」
「クルル」
「おう!? なんだお前……。え? 背中を触れって? おお……モフモフする……」
少々不満そうなグラフさんの袖を引っ張り、自分の背中を撫でるよう示唆するフォルテ。色々な人に撫でられ、褒められていたから自分の背中はいいものなのだろうと思っているらしい。
それは正しく機能し、癒されたドランさんは工房の奥へ引っ込んでいった。
「よしよし、えらいぞフォルテ」
「クルル♪」
「優しい子よねぇ」
「一つ目……ってことは魔物かい?」
フォルテを見てドランさんが眉を顰めて言う。騒動があった時、工房に引っ込んでいたら知らなそうなので説明する。
「なるほど、カトブレパスってのかそいつが」
「クルル♪」
「人を石にしたって話だが、それは他のことにも使えるのか?」
「え? うん。水路を整えたのはフォルテだからね」
僕の言葉に『ほう』と感嘆の呟きをし、工房の中をなにやらガサガサと探索し始めた。
「こいつをもう一度くっつけたいんだがどうだ?」
「これは……」
「砥石、ですね?」
バスレさんが小さく呟くとドランさんが頷く。
砥石は大きい羊羹みたいな形で、途中から変に折れているのが分かった。
ただ、上部を石にすると砥石の効果が無くなりそうだ。
「いけそうか?」
「裏返してっと……。フォルテ、どう?」
「クルル」
僕が指示をすると『み”っ』とビームみたいな擬音を出しながら目から光線が発射された。しかし破損部がくっつくことは無かった。
「うーん、フォルテの能力ってなにかを石に変えるって感じだから破損を埋めるのはできないんだな」
「クルル……」
「まあ仕方がない。石にできるならと思ったのだが」
「接着剤の方が現実的なのかも? 石の接着剤か……」
ホームセンターへ行けばある……というのは現代日本だけだ。なるほど、そういうのも需要がありそうだな。
よく考えたら僕の作った家は日本の家っぽいけど、この世界は割とレンガ造りの家が多い。レンガ造りを強固にするための接着剤は売れるかも……?
「どうしたんですかウルカ様。なにか困ったことでも?」
「いや、なんでもないよ。というか僕の魔法でなんとかできると思うから今日はそれでいこうかなって」
「なに?」
ドランさんに砥石を借りてから繋いでいるイメージを思い描く。手で魔力を塗るように破損個所を撫でると、うまいことくっついてくれた。
「おお……!? それがさっき説明のあった魔法か……。凄いもんだのう。これがあれば俺達みたいな職人はいらんだろう」
「いえ、そんなことも無いんですよ。ポンプを見せてもらうのも知識が無いからで、僕はある程度想像できるものしかできないので」
「謙遜をするねえ。便利だとは思うが、確かに手先とは関係ない部分だし、複雑なものは難しいか」
ドランさんはくっくと笑いながら僕の頭をくしゃりと撫でてくる。実際、僕が居なくなったらクリエイトでモノを作れなくなるので一過性に過ぎないと理解しているからね。
するとそこでラースさんがいいタイミングだとばかりにドランさんへ話しかけた。
「さっきグラフさんが村に来たいと言っていましたが、もし良かったら彼に移住していただけないかと思うんですが」
「なに? あいつの腕はまあまあだが、開拓地を任せられるとは思えんが……」
「我々としては一人でも職人が居るとありがたいですからね。パン工房の夫婦は息子さん夫婦に店を譲って来てくれたりなんかもあります。補助金も出ますし、修行ということでどうですか?」
「ほう……」
難しい顔をするドランさんが顎をさすりながら片目を細めた。修行をさせるというところと未熟なという部分が天秤にかけられている感じかな?
「おう、親父! もってきたぜ!」
「……その話は後でしよう。あのバカ息子が戻って来た」
「そうですね」
「なんだ?」
「なんでもない。俺は仕事をしているから、どの部品がどういう意味を担っているかきちんと説明するんだ」
「お、おう……」
鋭い目を向けて窘めるドランさんに気圧されたグラフさん。
さて、親子の話は後回しになるけど、とりあえずポンプを習得しないとね。
0
お気に入りに追加
999
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
俺とエルフとお猫様 ~現代と異世界を行き来できる俺は、現代道具で異世界をもふもふネコと無双する!~
八神 凪
ファンタジー
義理の両親が亡くなり、財産を受け継いだ永村 住考(えいむら すみたか)
平凡な会社員だった彼は、財産を譲り受けた際にアパート経営を継ぐため会社を辞めた。
明日から自由な時間をどう過ごすか考え、犬を飼おうと考えていた矢先に、命を終えた猫と子ネコを発見する。
その日の夜、飛び起きるほどの大地震が起こるも町は平和そのものであった。
しかし、彼の家の裏庭がとんでもないことになる――
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!
八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。
補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。
しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。
そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。
「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」
ルーナの旅は始まったばかり!
第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる