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第百六十九話 職人さんというもの

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「え? 村に? さっきちょっと外で声が聞こえていたけど、ここよりも仕事がないかも……」

 僕はあっさりとグラフさんにそう返す。
 確かに色々なことをやってはいるけど、殆ど僕がやるので職人さんはあまりやることがないのは間違いない。

「そ、それでも構わない! でかい仕事を見るだけでもいいんだ。オレは包丁を研いだり鍋を作るのはもう嫌なんだ! ぐああ!?」
「うわ」
「わふ」

 熱弁をふるった瞬間、ドランさんの拳骨が炸裂した。いい音がしたのであれは痛いなと思っていると、ドランさんがため息を吐く。

「お客さんになにを言っていやがるんだ、ったく。お前みたいな未熟者が役に立つかよ。すみませんな、ポンプの予備はこっちにあるのでバラしちまいましょう」
「うぐぐ……」
「ふむ」

 苦しむグラフさんにラースさんが顎に手を当てて考え込む仕草を見せた。なにか思うところがあるのだろうか?

「ラースさん? なにか気になることがあるの?」
「ん? ああ、とりあえず今はいい。それではドランさん、よろしくお願いします」
「ええ。おら、グラフ。お前にこの仕事を任せるからやってみろ。バラしたポンプをきちんと戻すまでが仕事だ」
「親父……。ああ、分かったぜ」
「クルル」
「おう!? なんだお前……。え? 背中を触れって? おお……モフモフする……」

 少々不満そうなグラフさんの袖を引っ張り、自分の背中を撫でるよう示唆するフォルテ。色々な人に撫でられ、褒められていたから自分の背中はいいものなのだろうと思っているらしい。
 それは正しく機能し、癒されたドランさんは工房の奥へ引っ込んでいった。

「よしよし、えらいぞフォルテ」
「クルル♪」
「優しい子よねぇ」
「一つ目……ってことは魔物かい?」

 フォルテを見てドランさんが眉を顰めて言う。騒動があった時、工房に引っ込んでいたら知らなそうなので説明する。

「なるほど、カトブレパスってのかそいつが」
「クルル♪」
「人を石にしたって話だが、それは他のことにも使えるのか?」
「え? うん。水路を整えたのはフォルテだからね」

 僕の言葉に『ほう』と感嘆の呟きをし、工房の中をなにやらガサガサと探索し始めた。

「こいつをもう一度くっつけたいんだがどうだ?」
「これは……」
「砥石、ですね?」

 バスレさんが小さく呟くとドランさんが頷く。
 砥石は大きい羊羹みたいな形で、途中から変に折れているのが分かった。
 ただ、上部を石にすると砥石の効果が無くなりそうだ。

「いけそうか?」
「裏返してっと……。フォルテ、どう?」
「クルル」

 僕が指示をすると『み”っ』とビームみたいな擬音を出しながら目から光線が発射された。しかし破損部がくっつくことは無かった。

「うーん、フォルテの能力ってなにかを石に変えるって感じだから破損を埋めるのはできないんだな」
「クルル……」
「まあ仕方がない。石にできるならと思ったのだが」
「接着剤の方が現実的なのかも? 石の接着剤か……」

 ホームセンターへ行けばある……というのは現代日本だけだ。なるほど、そういうのも需要がありそうだな。
 よく考えたら僕の作った家は日本の家っぽいけど、この世界は割とレンガ造りの家が多い。レンガ造りを強固にするための接着剤は売れるかも……?

「どうしたんですかウルカ様。なにか困ったことでも?」
「いや、なんでもないよ。というか僕の魔法でなんとかできると思うから今日はそれでいこうかなって」
「なに?」

 ドランさんに砥石を借りてから繋いでいるイメージを思い描く。手で魔力を塗るように破損個所を撫でると、うまいことくっついてくれた。

「おお……!? それがさっき説明のあった魔法か……。凄いもんだのう。これがあれば俺達みたいな職人はいらんだろう」
「いえ、そんなことも無いんですよ。ポンプを見せてもらうのも知識が無いからで、僕はある程度想像できるものしかできないので」
「謙遜をするねえ。便利だとは思うが、確かに手先とは関係ない部分だし、複雑なものは難しいか」

 ドランさんはくっくと笑いながら僕の頭をくしゃりと撫でてくる。実際、僕が居なくなったらクリエイトでモノを作れなくなるので一過性に過ぎないと理解しているからね。
 するとそこでラースさんがいいタイミングだとばかりにドランさんへ話しかけた。

「さっきグラフさんが村に来たいと言っていましたが、もし良かったら彼に移住していただけないかと思うんですが」
「なに? あいつの腕はまあまあだが、開拓地を任せられるとは思えんが……」
「我々としては一人でも職人が居るとありがたいですからね。パン工房の夫婦は息子さん夫婦に店を譲って来てくれたりなんかもあります。補助金も出ますし、修行ということでどうですか?」
「ほう……」

 難しい顔をするドランさんが顎をさすりながら片目を細めた。修行をさせるというところと未熟なという部分が天秤にかけられている感じかな?

「おう、親父! もってきたぜ!」
「……その話は後でしよう。あのバカ息子が戻って来た」
「そうですね」
「なんだ?」
「なんでもない。俺は仕事をしているから、どの部品がどういう意味を担っているかきちんと説明するんだ」
「お、おう……」

 鋭い目を向けて窘めるドランさんに気圧されたグラフさん。
 さて、親子の話は後回しになるけど、とりあえずポンプを習得しないとね。
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