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第百六十三話 野球をするというもの

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「よし、できた!」
「わふ」
「クルルル」

 牧場からてくてくとゆっくりラースさんのところへ戻る僕達。
 手には皮と羊毛でできたボールがたった今、完成したところだ。
 これでボールとバットが完成したので、ちょっとした遊びができるぞ。

「あ、ラースさん!」
「戻って来たか。それで、どうするんだ?」
「えっと、このボールをラースさんが投げてもらっていいですか」
「そりゃ構わないけど」

 僕はフォルテから降りてラースさんにボールを渡すと、少し離れたところでバットを持って立つ。

「それじゃお願いします」
「あ、ああ。それっ」
「わ、わふ」

 軽く投げてくれたラースさん。
 ゆるく飛ぶボールに反応するシルヴァ。
 そして僕はそのボールをバットで思いっきり打ち返した。

「おー」
「凄い飛びましたねえ」
「わおーん♪」

 空を見上げるラースさんとベルナさん。それとボールを追うシルヴァ。やはりボールを追いかける習性はあるんだなあ。
 ボールを空中でキャッチしたシルヴァはすぐに僕のところへ持ってきてくれた。

「はっはっは……♪」
「よしよし、偉いぞー。という感じでこの棒がバットという名前で、ボールを打ち返して遊ぶスポーツです」
「ふむ。なにか勝ち負けとかあるのかい?」
「ええ。ただ人数は必要ですけど」

 と、野球について話をしようとしたところで他の騎士さん達が集まって来た。

「なにやってるんです?」
「変な形の棒……?」
「あ、ちょうどいいや。五人ずつでできるかな?」
「なんです?」

 丁度十数人いるので疑似的な野球は出来るかと思いついでにかくかくしかじかしてみることにした。
 
「面白そうだな。みんなやってみるか?」
「いいんですかラース様?」
「まあ、たまにはこういうのもいいだろう」

 ということでちょっと少ないけど、六人と六人の勝負を行うことになり、僕は審判として立つことに。
 ボールも柔らかいため、軍手っぽい作業用手袋でやることになった。

「えっと、これを投げりゃいいんだな?」
「そうそう。で、今回はこういうボードを立ててみたけど、この枠外の場合はボールになるから気を付けてね」
「あいよ! ストレートで速攻アウトにしてやるぜ……!」

 そして始まる即興野球。その第一球が投げられた!

「ぐあ!?」
「おや!?」

 記念すべき一球目はバッターの頬にクリーンヒットした!
 まあ、ボールを投げることなんてないしね。練習を提案したけど『いける!』っていうからぶっつけ本番だったけどやはりダメだった。

「えっと、一塁へ……」
「くそ、後で覚えてやがれ……!」
「おかしいな……」
「クロウド、交代だ」
「え!?」

 ラースさんの一声でピッチャーが交代。あっさりと第一球が終わり、続いて二球目へと移る。

「ちょっと練習したから俺は大丈夫だと思う」
「よし、来な!」

 今度の騎士さんは投げるフォームがキレイだった。
 投げられた球はストレートに飛んできてキャッチャーの手に収まる。

「お、いい球。ストライク! ……シルヴァは飛び出ちゃダメだからね?」
「わ、わふ……」

 さっきみたいにシルヴァがボールをキャッチするのを防ぐため背中に乗って審判をしている。
 

「速い……!」
「ふっふ……この俺の球、打てるかな!?」
「第三球いった!」
「ええい、ここだ!」

 ボフンという音が鳴ってバットにヒットする三球目。
 その球は大きく空へ打ちあがり、放物線を描いて落ちてくるのが見える。

「うぉふ!」
「わ!? ダメだってシルヴァ!」

 目を輝かせたシルヴァを抑え込みつつ球を目で追う。一塁側に飛んで行った球は落ちる前にキャッチされあえなくアウトとなった。

「あれでダメなのか。ふむ、これは難しいな」
「ああ。投げる球をある程度狙って人の居ないところに打たないと取られるな」
「しかしあの小さい球をミートするのが――」

 攻撃側にいる騎士達が三球目までのやり取りをみて考察を始めていた。
 僕はテレビでプロ野球を見ていただけなんだけど、球を打つのが難しと思うのはその通りだ。それを狙って人の居ないところを打つのはさらに高難度だと思う。

「さあどんどん行くぜ。三振ってやつを取りまくってやる」
「ボルカノの旦那のとこまで打てば、俺とあいつの点が入るし、やってやるぜ……!」
【我は退屈だ。楽しませるのだぞ】

 ピッチャーとバッターが不敵に笑う中、ホームランの指針であるボルカノがラスボスみたいなことを言いだしていた。安全ヘルメットをかぶって立っているだけなので暇なのはごめんというところだ。

「おや、面白そうなことをしていますね?」
「なになにー?」
「なんだろうこれ……」

 騒ぎを聞きつけて来た他の人達も集まって来た。ベルナさんが事情を説明すると、みんなが観戦モードに入ることになった。

「うおー! 今のあたりは惜しいっ!!」
「ちぇ、あれを取るのかよ……」
「あえて転がせって!」
【こりゃ面白いな。魔法を使わずに技術だけで球を打つのは難しいだろ】
「うんうん。ゼオラはこういうの好きかもね。あ!? ボルカノ、球を取ったらダメだよ!?」
【む】

 ――そして、野球は大いに盛り上がり段々とルールが浸透してきた。ピッチャーは何度か代わったけど騎士だけあってタフだなと思えるピッチングを見せてくれた。

「これが最後のバッターだよ! 暗くなってきたしちょうどいいね」
「おし! 三振だ! 次は誰だ!」
「俺だ」
「ラース様!? ……へへ、相手にとって不足はねえ。勝負――」

 そして投げた球は一瞬であくびをしているボルカノのヘルメットにぶつかり試合終了となった。

「あが……!?」
「さすがぁ♪」
「えー、ホームランが出たのでラースさんチームの勝利です!」
「うおおお!」
「強すぎるぜラース様!」
「うわ!? はは、上手くいったな」

 ラースさんが胴上げを受けて歓声が上がる。負けたチームはがっくりと膝をついていた。

「でも面白かったな! もっと人が多いんだろ?」
「9人ずつで戦うんだ。もっと硬いボールでヘルメットとかもつけたり、同じユニフォームを着たりするんだよ」
「熱いなそれ……!」

 みんなが燃えている中、ラースさんが僕のところへやってきた。

「お疲れ様。とても楽しかったよ。休みの日に集めてやるのもいいかもしれない。ところでキールソン侯爵にはバットとボールを贈るのかい?」
「あ……!」

 そういえば最初はそのつもりで相談に行ったんだった……。
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