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第百六十二話 見当違いの方向へいってしまうというもの

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 ――というわけで翌日。

 家の建設が順当に終わると、僕はラースさんのところへ向かっていた。
 彼はボルカノと領地……というより、今は町の規模をどの程度にするかの確認を毎日しているのでそちらへ赴く方が早い。

「家を作る手伝いの後でそっちに行くんだからボルカノは偉いよね」
「わふ」
「クルル」

 今日はシルヴァとフォルテの二頭がついてきていた。ジェニファーは小屋で寝ているしタイガはだいたい縁側で日向ぼっこをしている。
 護衛としてニワトリと猫よりもフォレストウルフとカトブレパスが強いので任せたといったところである。

 それはともかくキールソン侯爵へのお土産の件だ。
 確かラースさんは貴族って言ってたから交流はあるかもしれない。好きなものとか無難なものの方がいいと思うし。

「ばうわう」
「あ、居たね」

 ボルカノは目立つなあ。立っているだけで盗賊や魔物避けになるのは分かる気がする……。
 そしてその足元にラースさんとベルナさん。それと数十人の騎士達が測量をしている様子が伺える。まあ土の状態とか距離を測っているだけみたいだけど僕にはそう見えるって感じだ。

「ラースさーん」
「ん? ああ、ウルカ君。どうしたんだい?」
「あらぁ、シルヴァとフォルテちゃんも」
【む?】

 ラースさんがそこで少し待っていてくれと言い、騎士達と打ち合わせをする。今日の仕事の割り振りが終わると、僕のところへ来てくれた。

「お待たせ。なにかあったのか?」
「ううん。聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」

 かくかくしかじかすると、ラースさんとベルナさんがふんふんと聞いてくれた。
 フォルテもよく分かっていないけどふんふんと鼻を鳴らし頭を動かす。楽しそうだ。

「キールソン侯爵かあ。あんまり話したことはないんだよな」
「ゲーミングチェアをお披露目した時に何人か呼ばれた時にはぁ?」
「行ってないんだ。悪い人じゃないけど、あれは長くなりそうだったし」

 と、そんな答えが返って来た。
 自分が良いと思った品はすぐに買い、なにが素晴らしいのかを語るそうだなんだけどそれが長いそうな。

「なら、お子さんが居るとか好きなものとかは?」
「子供ってほど小さくないけど学校を卒業したばかりの息子さんが居るかな」
「兄ちゃんズと一緒くらいだね」
「好きなものは新しいものってところだ。だからゲーミングチェアにすぐ手を出したし。やっぱりなにか目新しいものを作っていくのがいいんじゃないかな?」

 ふうむ、やっぱりか。
 こうなるとあまり考えても仕方がない。面白いもの……面白いもの……。

「スポーツとかはしないかな」
「そうだな……。例えば?」
「こういうのなんだけど」

 僕はその辺にあった木をバットに変えて、軽い石を誰も居ないところへ打つ。
 そう、野球だ。
 あまり詳しくはないけど、グローブとセットならキャッチボールなどができるため子供が居ればそれもアリかと思ったんだよね。

「石を打つのかい?」
「本当はちゃんとしたボールがあるといいんだけど、それはブラッディリーチの表皮次第かな」
「……ふむ」
「ラース?」

 ベルナさんがバットを見て唸る。ちょっと楽しそうな顔なのでもしかしたら思いっきり球を打ってみたいのかもしれない。

「ちょっと待ってて」
「ん? どこへ?」
「牧場までー」
「ばうわう」
「クルルルル」

 僕は二人を残して牧場へと走る。確か羊が居たはずなので目的の素材はそこで揃うはず。

「こんにちはー」
「おや、ウルカ様じゃないですか。どうしたんです?」

 柵ごしで近くにいた騎士さんへ声をかけると、笑顔で寄ってきてくれた。
 とりあえず粗悪なものでいいので素材が欲しいと告げてみる。

「羊毛はもう加工するのに使ってしまったなあ。皮は持ってきたやつがあるけど」
「なら皮だけでも」
「クルルル」

 羊毛はすでに布団やクッションにするらしい。とりあえず皮があれば中になんか詰めてボールができると思っていた。しかしその時フォルテが牧場に向かって鳴いた。

「どうしたんだ? おや!?」
「うお!?」

 僕と騎士さんが驚いたのも無理はない。
 さっきまで遠目に見えて草を食べていた羊がわらわらと近寄って来たからだ。
 その内の一頭が騎士さんにお尻を向けてメェーと鳴く。

「なんだ?」
「あ、もしかしてお尻の毛を刈っていいって言っているのかも。騎士さんの握りこぶしくらいあれば……」
「お、おお……そういうことか……。いや、全然わかんないけど」

 騎士さんが困惑しながら毛を刈り取るとおしりの一部分だけすっかり無くなった。

「クルル!」
「メェー」

 そしてフォルテの鳴き声に呼応し、羊たちは満足気にまた散っていった。

「フォルテが声をかけてくれたのか」
「クルルルル♪」
「わふ」

 よくわからないけどフォルテも牛や羊の足で偶蹄類っぽいから通じるのかなあ?

「これでいいのかい?」
「うん。ありがとう」
「まあ俺は刈っただけだけどよ」

 肩を竦めながら笑う騎士さんに手を振って別れると、フォルテにラース三のところへ戻るよう示唆。その間に皮と羊毛でボールを作ることにした。

「……あれ? なんで僕はボールを作っているんだっけ?」
【いや、わからねえけど……】

 ゼオラも困った顔で僕に告げた。おかしいな、キールソン侯爵様へのお土産を考えていたはずだったような……?
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