163 / 245
第百六十二話 見当違いの方向へいってしまうというもの
しおりを挟む――というわけで翌日。
家の建設が順当に終わると、僕はラースさんのところへ向かっていた。
彼はボルカノと領地……というより、今は町の規模をどの程度にするかの確認を毎日しているのでそちらへ赴く方が早い。
「家を作る手伝いの後でそっちに行くんだからボルカノは偉いよね」
「わふ」
「クルル」
今日はシルヴァとフォルテの二頭がついてきていた。ジェニファーは小屋で寝ているしタイガはだいたい縁側で日向ぼっこをしている。
護衛としてニワトリと猫よりもフォレストウルフとカトブレパスが強いので任せたといったところである。
それはともかくキールソン侯爵へのお土産の件だ。
確かラースさんは貴族って言ってたから交流はあるかもしれない。好きなものとか無難なものの方がいいと思うし。
「ばうわう」
「あ、居たね」
ボルカノは目立つなあ。立っているだけで盗賊や魔物避けになるのは分かる気がする……。
そしてその足元にラースさんとベルナさん。それと数十人の騎士達が測量をしている様子が伺える。まあ土の状態とか距離を測っているだけみたいだけど僕にはそう見えるって感じだ。
「ラースさーん」
「ん? ああ、ウルカ君。どうしたんだい?」
「あらぁ、シルヴァとフォルテちゃんも」
【む?】
ラースさんがそこで少し待っていてくれと言い、騎士達と打ち合わせをする。今日の仕事の割り振りが終わると、僕のところへ来てくれた。
「お待たせ。なにかあったのか?」
「ううん。聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
かくかくしかじかすると、ラースさんとベルナさんがふんふんと聞いてくれた。
フォルテもよく分かっていないけどふんふんと鼻を鳴らし頭を動かす。楽しそうだ。
「キールソン侯爵かあ。あんまり話したことはないんだよな」
「ゲーミングチェアをお披露目した時に何人か呼ばれた時にはぁ?」
「行ってないんだ。悪い人じゃないけど、あれは長くなりそうだったし」
と、そんな答えが返って来た。
自分が良いと思った品はすぐに買い、なにが素晴らしいのかを語るそうだなんだけどそれが長いそうな。
「なら、お子さんが居るとか好きなものとかは?」
「子供ってほど小さくないけど学校を卒業したばかりの息子さんが居るかな」
「兄ちゃんズと一緒くらいだね」
「好きなものは新しいものってところだ。だからゲーミングチェアにすぐ手を出したし。やっぱりなにか目新しいものを作っていくのがいいんじゃないかな?」
ふうむ、やっぱりか。
こうなるとあまり考えても仕方がない。面白いもの……面白いもの……。
「スポーツとかはしないかな」
「そうだな……。例えば?」
「こういうのなんだけど」
僕はその辺にあった木をバットに変えて、軽い石を誰も居ないところへ打つ。
そう、野球だ。
あまり詳しくはないけど、グローブとセットならキャッチボールなどができるため子供が居ればそれもアリかと思ったんだよね。
「石を打つのかい?」
「本当はちゃんとしたボールがあるといいんだけど、それはブラッディリーチの表皮次第かな」
「……ふむ」
「ラース?」
ベルナさんがバットを見て唸る。ちょっと楽しそうな顔なのでもしかしたら思いっきり球を打ってみたいのかもしれない。
「ちょっと待ってて」
「ん? どこへ?」
「牧場までー」
「ばうわう」
「クルルルル」
僕は二人を残して牧場へと走る。確か羊が居たはずなので目的の素材はそこで揃うはず。
「こんにちはー」
「おや、ウルカ様じゃないですか。どうしたんです?」
柵ごしで近くにいた騎士さんへ声をかけると、笑顔で寄ってきてくれた。
とりあえず粗悪なものでいいので素材が欲しいと告げてみる。
「羊毛はもう加工するのに使ってしまったなあ。皮は持ってきたやつがあるけど」
「なら皮だけでも」
「クルルル」
羊毛はすでに布団やクッションにするらしい。とりあえず皮があれば中になんか詰めてボールができると思っていた。しかしその時フォルテが牧場に向かって鳴いた。
「どうしたんだ? おや!?」
「うお!?」
僕と騎士さんが驚いたのも無理はない。
さっきまで遠目に見えて草を食べていた羊がわらわらと近寄って来たからだ。
その内の一頭が騎士さんにお尻を向けてメェーと鳴く。
「なんだ?」
「あ、もしかしてお尻の毛を刈っていいって言っているのかも。騎士さんの握りこぶしくらいあれば……」
「お、おお……そういうことか……。いや、全然わかんないけど」
騎士さんが困惑しながら毛を刈り取るとおしりの一部分だけすっかり無くなった。
「クルル!」
「メェー」
そしてフォルテの鳴き声に呼応し、羊たちは満足気にまた散っていった。
「フォルテが声をかけてくれたのか」
「クルルルル♪」
「わふ」
よくわからないけどフォルテも牛や羊の足で偶蹄類っぽいから通じるのかなあ?
「これでいいのかい?」
「うん。ありがとう」
「まあ俺は刈っただけだけどよ」
肩を竦めながら笑う騎士さんに手を振って別れると、フォルテにラース三のところへ戻るよう示唆。その間に皮と羊毛でボールを作ることにした。
「……あれ? なんで僕はボールを作っているんだっけ?」
【いや、わからねえけど……】
ゼオラも困った顔で僕に告げた。おかしいな、キールソン侯爵様へのお土産を考えていたはずだったような……?
0
お気に入りに追加
999
あなたにおすすめの小説
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね
いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。
しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。
覚悟して下さいませ王子様!
転生者嘗めないで下さいね。
追記
すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。
モフモフも、追加させて頂きます。
よろしくお願いいたします。
カクヨム様でも連載を始めました。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる