Rich&Lich ~不死の王になれなかった僕は『英霊使役』と『金運』でスローライフを満喫する~

八神 凪

文字の大きさ
上 下
110 / 245

第百九話 物事は速やかに解決するというもの

しおりを挟む

 遠くからこちらを眺めていたのはステラとデオドラ様だった。どうやら追いかけてきたらしい。
 僕達が気づいたことが分かったデオドラ様はタイガを顔の前に差し出してステラの後ろに隠れた。体格差があるので全然隠れられないけどね。

「二人ともこっちへおいでよ」
「うん」
「……ううう」
「デオドラ……」

 呻きながらもステラに引っ張られて僕達の下へやってくる。そこでデオドラ様の手を取って口を開く。

「聞こえていたかわからないですけど、ルース様はデオドラ様が大好きみたいですよ。心配しているのは本当です。言い方が悪いですけど」
「おい!? ……いや、まあその通りだ。五歳児に言われると……ってお前は本当に五歳児なのか?」
「間違いなく」
「そう」

 僕とステラがそう言うと口元に笑みを浮かべて髪をたくし上げた。心底面白いと言った感じだ。

「くっく……。面白いなウルカティヌス達は」
「あ、ウルカと呼んでいただいて結構ですよ! 今後はデオドラ様に変なことを言わないでくださいね」
「分かったよ。ごめんなデオドラ。僕は間違っていたらしい」
「ひっ……。兄さま? ……昔の優しい兄さまだ……」

 ルース様が頭を撫でると、デオドラ様が体を強張らせる。けど、さっきまで意地悪そうな表情から憑き物が落ちたみたいに穏やかな顔になっていた。
 デオドラ様にも伝わったようで顔が綻んでいる。

「ふう……」
【良かったな。おっと、元凶も来たようだぞ】
「エリナ様と母さん」
「仲直り、できたのですか……?」
「母上――」

 驚くエリナ様にルース様がなにか言おうとしたけど、僕が先に口を開く。

「エリナ様、僕みたいな子供が過ぎたことを言うのは失礼と存じます。だけど一つだけいいですか?」
「え、ええ、なにかしらウルカちゃん?」
「……ルース様はデオドラ様にばかり構っていてルース様を「お兄ちゃん」だからとしていませんでしたか? そう言われると色々我慢しなきゃいけなくなるんです。それとお忙しいのは承知ですが、家庭教師みたいな人にまかせっきりではありませんでしたか?」
「ウルカ……」
「それは……」

 僕の言葉の意味をすぐに察したようでエリナ様がルース様を見て悲しげな顔になった。

「そう、そうですわね……確かに男の子だから大丈夫と思っていたかもしれません……」
「それと『先生』という人は差別的思考を持っているみたいなので、すぐに辞めさせた方がいいかと」
「お母さま、あの人怖いからそれがいいと思う……」
「デオドラ、そうなの?」
「先生はある意味間違っていないけど、それをずっと言い続けていたら平民に不満が溜まりますからね。ごめんなさい、生意気なことを言って」
「いや、ウルカの言う通りだよ。母上、ごめん。寂しかったから変なことばかり言うようになった。先生にも色々言われていたのもあるけど……」

 謝罪するルース様を見て目を丸く見開いて驚くエリナ様。

「さすがはウルカちゃん……!! お兄ちゃん達に負けないくらい賢いわあ!」

 そう言って僕を抱き上げる母さんに苦笑していると、その様子を見てエリナ様が頷いてからルース様を抱きしめた。

「ごめんなさいね、ルース。生意気なことを言っていたのはわたくし達のせいだったなんて」
「いえ、僕もちゃんと言えば良かったんだ」
「兄さま……よかった……」
「めでたし、かな?」

 僕とステラで三人が涙ぐんでいるのを見てこれからは大丈夫だろう。後は先生という人物をどうするかだけど、それは国王様やエリナ様がなんとかしてくれるだろう。

「うおおお、離したまえ! 私がなにをしたというのだ!?」
「陛下の命令だ。大人しくしろ!」
「あ、先生」
「あれが!?」

 ザイードさんだっけ? 通路で前に見たことがある彼と、騎士に囲まれた先生が引きずられていくのが見えた。実はルース様を使って国を掌握しようとしていた凄い魔法使いとかじゃないのか……。

「ええい、ルース様を誑かしたと聞いている。言い訳は陛下の前でするのだな」
「馬鹿な! 証拠がないのに不当だ!」
「ザイード、先生は僕に平民は馬鹿にしていいって言っていたぞー」
「おお、王子!」
「分かりやすい手のひら返し!? そして見たことがない顔……ルース様、騙されてはいけません、そやつらは財産を狙って――」

 まだ無罪を主張する先生が僕達を見てそんなことを言う。すると抱っこされていたはずの僕はいつの間にか地面に立ち、母さんが先生のところに立っていた。

「このヴァンパイアロードのクラウディアが財産狙い? 笑わせるな人間。この国に匹敵する金はあるぞ……?」
「ヴァ……!? ひいいい……!?」
「ほ、ほら、陛下のところへ行くぞ!」
「ああああああいやだぁあぁ! 私のブルジョア生活がぁぁぁぁぁ」

 目を紅くしてニタリと笑う母さんは強者の雰囲気を醸し出していて、先生は下をなにかで濡らしていた。ザイードさん達もその迫力に押されつつもなんとかこの場を離れて行った。

「ふん。ウチが商家をしているのはパパが町の人の役に立ちたいからなのよ」
「ああ、そうなんだ。父さんって優しいからねえ」
「ねー♪」
「……凄い家だなウルカのとこ……」

 という感じで先生はその後お仕置きをくらい、城を追い出されたそうである。
 まあ、ルース様の勉強レベルは高かったので雀の涙くらいの退職金は渡したらしい。給金もそこそこ高かったみたいだし、生活苦になるようなことはなさそうだ。
 頭がいい人に限って変な思想とか持っているのってなんなんだろうね?
しおりを挟む
感想 480

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺おとば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

処理中です...