Rich&Lich ~不死の王になれなかった僕は『英霊使役』と『金運』でスローライフを満喫する~

八神 凪

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第百七話 兄の思考は歪んでいる? というもの

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 お茶会は滞りなく進んでいき、僕やステラもデオドラ様と仲良くなれた……と思う。
 特に女の子同士でデオドラ様がお姉さんということもあり、ステラに格好悪いところを見せまいと頑張っていた。

「……私、お友達が居なかった、から。ステラちゃんとお友達になれてうれしい……」
「私もです。王女様」
「デオドラ、で、いいよ……?」
「ではデオドラ様で」

 顔を赤くしながら頷くデオドラ様。
 伊達にギルドマスターの娘ではないとばかりにステラは礼儀正しく対応していた。
 アニーが居たら……うん、許してはくれるだろうけど、あんまり好ましくないかも……。

「ふふ、お部屋から出てくれるようになって笑顔が増えましたわ。ステラちゃんもリンダさんの娘だけあって聡明ですわ」
「ありがとうございます」
「お母さま、二人を部屋に……あっ」
「ん?」
「こけー?」

 デオドラ様が照れて拳を振りながらエリナ様へなにかを言おうとした瞬間、さっとシルヴァの後ろに隠れた。
 何事かと思い、僕とジェニファーが視線の先を辿ると、ドヤ顔でこちらへ向かってくる男の子が見えた。

 まさか……?

「やあ、母上! お茶会、楽しんでおられますか?」
「ルースではありませんか。父上はどうしたのですか?」

 ……やはり、デオドラ様の兄のようだ。
 エリナ様が訝しんだ表情を向けて尋ねると、ルースは『ふふん』と鼻を鳴らして口を開く。

「向こうはひと段落したので今度はこちらに来ようと思いまして。可愛い妹も居ることですし」
「……ひっ」
「怖がっている」

 ステラがきっぱり呟くと、ルースは笑みを消して蔑むように僕とステラに目を向けて口を開く。

「君は誰だい? ガイアス家の子供?」
「違います。ギルドマスター、クライトがパパです」
「ふん、なんだい。田舎者じゃないか」

 尊大な感じでそんなことを言うルース王子。
 いくらなんでもと思っていると、エリナ様が立ち上がって正面に立つ。

「ルース。挨拶をなさい。それと田舎者という発言を謝罪するのです」
「しかし……」
「ルース」

 比較的温厚なエリナ様が強い口調で窘めると、しぶしぶと言った感じで僕達へ顔を向けて少しだけ頭を下げた。

「私はルース。この国の王子でそこにいるデアドラの兄にあたる。よろしくはしなくていいからな? 先ほどの田舎者は詫びよう」

 うーん、いかにもな王族って感じで態度が悪いなと思う。まあ確かにそれほど顔を合わせる機会もないだろうと僕達も挨拶を返す。

「初めましてルース様。僕はウルカティヌスと言います。五歳になります」
「ステラです。田舎者です」
「……プッ」

 いつもの真顔でそんなことを言うステラにシルヴァの陰に隠れていたデオドラ様がくすりと笑う声が聞こえてきた。
 まあこれくらいなら失礼にはならないと思うけど。

「ウルカ……君が末弟の」
「はい。兄達はどうでしたか?」
「ま、まあまあだったよ。おい、私にもお茶をくれ」

 十三歳だっけ? 体やは僕より全然大きいし言葉は尊大だけど、子供っぽいなと思ってしまう。
 前の弟も同じくらいの歳だったけど、こんなに子供っぽい態度はとっていなかったよ。
 そんなルース様がエリナ様の横へ座ると、今度は母さんに目を向けていた。

「ルース様、初めまして。ウルカや先に会った双子の母でクラウディアです」
「初めまして。どうですかこの庭は。そちらのお屋敷にはこういうのは無いでしょう」
「ええ、そうですね。立派な庭ですわ」

 母さんの答えに満足しながら頷くルース様。あくまでも自分達を上だと言いたいらしい。デオドラ様に意地悪をしていたと言われても不思議じゃないかもね。
 するとシルヴァの首を抱っこしたまま、そのデオドラ様がポツリと呟く。

「……ウルカちゃんの町にはお祭りがあるもん。大きい広場で踊りとかしてるもん……」
「なんだって?」
「ひゃ……! そ、それにお屋敷の近くには『ぷうる』や『おんせん』がある大きなお庭があるってステラちゃんが言ってた……。隠れ家もあるから負けてないもん……」
「デオドラ様ありがとう」
「ひゅーん……」
「にゃ」

 勇気を振り絞った感のデオドラ様が反論をしてくれ、僕達はほっこりする。力が入りすぎたので、勇気を出した代わりにシルヴァの首がぎゅっと絞められていた。
 後でシルヴァにはなにかあげよう。

「……デオドラが私にそんなことを言うとはね。騙されているのに……そうやって友達になると見せかけて攫われちゃうんだぞ?」
「う……」
「ルース」

 だいたいの経緯は知っているから僕と母さんは苦笑い。

【いやあ、両親が悪いな多分】
「おや」

 そして意外なことにゼオラがルースではなく国王様や王妃様を悪だと言う。その答えを知りたいけど今は様子を見守ろう。
 一瞬ひるんだデオドラ様だけど、青い顔をしながらハッキリ返す。

「……そんなことない……。ウルカちゃんもステラちゃんも優しい……。攫われてもウルカちゃんならいいもん……。兄さま、嫌い」
「な……!?」

 文字通り『ガーン』といった顔で目を見開くルース様。まさか操り人形としていた妹に反抗されるとは思わなかったようである。

「ぐぬ……。い、田舎貴族がお前を誘拐して身代金を……」
「ルース様。ウルカは五歳ですがすでに自分でお金を稼いでいます。だからそんなのは必要ないのですよ」
「なに……!?」
「まあ、ゲーミングチェアは国王様も買ってくれましたしね」

 僕がそう言うと、

「田舎貴族が少し稼いだくらいで……」
「ルース。その性根を隠さなければなにを言ってもいい、という意味ではありませんよ?」

 そこでエリナ様がルース様の横に立って厳しい表情を見せていた。それに気づいたルース様はニタリと笑って口を開く。

「父上と同じことを言うんだね、母上も。僕達は王族ですよ? 父上の平民を大事にするという考えは分からなくもないですが、田舎貴族にそこまでしてあげる必要がありますかね?」
「……本当に育て方を間違ってしまいましたわね」
【そりゃ駄目だぜ王妃様よ】

 心底がっかりだと言うエリナ様に、ゼオラが呆れた声を出す。そして次の瞬間――

「どいつもこいつも……!! なにが育て方を間違えただ! デオドラが産まれてから僕よりあいつを可愛がっていたのは誰だ!! 勉強? 教えてくれたのは先生だ!! もういい!!」
「待ちなさいルース……!!」
「うーん、これは……」

 どこかへ走り去るルース様を見て、なるほどゼオラの言っていた意味をここで理解する。僕じゃだめかもしれないけど……。

「ちょっと追いかけてくるよ母さん。エリナ様、いいですか?」
「……え、ええ……」
「行ってらっしゃいウルカちゃん。ここはママがなんとかするから」

 困惑気味のエリナ様のことだろう。
 僕はメイドさん達の間を縫って、ルース様を追うことにした。
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