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第九十九話 お土産に食べ物は基本というもの
しおりを挟む「というわけで父さん、海藻は無いかな?」
「藪から棒だなウルカ。でもこんなこともあろうかと取り寄せているものがあるぞ」
どういう想定をしていたのか不明だけどどうやら乾燥させたものがあるらしい。こっちへ、ということでついて行くと裏にある大きな倉庫へと案内された。
「最近、色々買い集めているんだけどその中にあったはずだ。ちょっと待っていなさい」
「はーい。……これは凄いな」
【親父さんの店は儲かっているみたいだな。あれは鉱石か? こっちは魔物の素材が積まれてるな】
「へえ、これは蛇革かな? 財布とかに使うんだよね」
「ひぃ……」
「あれ、バスレさんは蛇が苦手?」
「そそそそそんなことあーりません! へ、平気です」
強がっているなあ。
まあ大人の事情というやつということにして、スルーしておくに限る。そこでゼオラが蛇革を手に取り口を開く。
【ん? こいつはお前を襲った大蛇の革だぞ。解体したやつがここに保管していたのか。よく見りゃ肉以外一式が入ってるなこの箱】
「魔物の素材って売り買いするしそんなものじゃないの? 一応、僕が倒したことになるのと、ウチの敷地内みたいなものだし」
【まあな。……調査は終わったんだろうか……?】
「ん?」
【いやなんでもねえ】
「相変わらずウルカ様には見えるんですね」
「そうだね。そっちには居ないよ」
しばらくゼオラとそんなやり取りをしつつ倉庫内を物色してみる。宝石やなにかの牙、骨、革に壺やら麻袋など多岐に渡る。
野菜や肉、魚に果物はそれぞれのお店があるからウチでは扱わないらしい。
けど、珍しいものは稀に仕入れてみるとかなんとか。
「これは置物ですかね」
「こけし……、かな? オオグレさんの国にありそう……」
「おーいウルカこっちだこっち!」
「あ、はーい!」
【あったのかな? なにを作るか楽しみだな】
いっひっひとなぜか含み笑いをするゼオラはさておき、僕達は父さんの下へ。もうちょっと見てみたかったので後ろ髪惹かれる。
「これが港町でフランツが買い付けた草だ。1キロ銅貨五枚だったらしい。使い方がよくわからんが現地人は食べるそうだ」
1キロとは僕の耳に聞こえてくる単位だけど、この世界の重さの単位でキロに相当するのは『トリ』という。なぜか耳ではキロって聞こえるんだよね。
それはともかく無茶苦茶安い。現地人しか買わないし消費しないかキロ五百円で売られているのかもしれない。
「で、どうだ?」
「多分これでいいと思うんだけど、試してみないと分からないかな」
【鑑定できりゃいいんだけど、あれは錬金術の領域だからなあ】
「鑑定なんて能力があるんだ」
【スキルってやつだ。錬金術に関わる人間は最初に覚えることになるんだよ。ウルカの眷属みたいなもんだ。誰にでも出来るわけじゃねえ】
錬金術師の知り合いができるといいなと笑う。
とりあえず今をどうするか? というところだけど、これはもう実験するしかない。
「ところでこれを使ってなにを作るんだい?」
「わたしも興味がありますウルカ様」
「えっとね、これと果物の果汁を足して食べ物を作るんだ。で、その材料となるのがこの草……なんだけど、僕が思いついたもので合っているかは今から試す」
「ほう……」
父さんが顎に手を当てて唸る中、僕は銅貨を支払い、草一式を持って店へと戻る。
種類が違うのも混ざっているので仕訳をした後に果汁と草を同じボウルに入れてから魔法を使う。本当は藻なので草じゃないんだけど。
すると――
「む、液体になったぞ」
「これは……ダメだ、固まらないから違う草だね」
氷魔法で冷やしてみても固まらなかったのでハズレのようだ。その後、いくつか試してみたところ、ようやく合致するテングサを見つけた。
「……! やった、これだ!」
「おお、冷えたら固まった! これがゼリーなのかいウルカ?」
「うん、そうだよ。後はこれを切り分けてっと」
【あはは、スライムみたいだな】
そう言われると確かに。
切り分けて器に盛り、さらに冷やしてからその場にいた全員へ配る。
「これが……あの草」
「確かにスライムみたいですね……」
「それじゃ、僕からいただきますっと。……う!」
「ウルカ様!? ぺっしてくださいぺっ!」
「美味い……!」
僕がそういうとバスレさんや父さん、エラさんがずっこけた。これはオレンジの果汁を使ったものだけどほんのりある酸味と甘みが完璧だ。
「驚かさないでくれよウルカ。では私も。……ふむ、これはグレープか!」
「こっちはアップルですよ! ああ、甘いぃぃ……」
「これはベリー、でしょうか」
「そうそう。いくつか基本的な果物を使ってみたんだ。うん、これなら国王様へのプレゼントにもできそうかな?」
「むぐ……そりゃ確かにそうだな。毒見役に食べさせてからになるだろうが」
父さんに言われてそれはそうだと頷く僕。
僕が作った食べ物でも一度毒見は必須だろうなあ……でもあんまり凝ったものを持って行くと量産してくれとなりそうなので、これくらいで勘弁してほしい。
「ま、気持ちということで……。あ、これを詰める容器をオシャレにしようかな! 父さん、なにかアイデアを出してよ」
「ええ!? わ、わかった考えておくよ」
「お願い! その間にアニーのお見舞いに行ってくるよ。遠くないからシルヴァに乗っていくからバスレさんは待ってて」
「ばうわう」
僕は四種類のゼリーを蓋つきのカップに入れてからシルヴァにまたがると、そのまま通りを駆け抜けていく。
程なくしてアニーの家である酒場へ辿り着くと親父さんにゼリーを手渡す。
「これをアニーにかい? すまないねウルカ様。熱が下がらないから薬を飲めと言っているんだが聞かなくてなあ……。これなら果実を食べているみたいだから栄養はとれるか」
「アニーらしいなあ。薬をゼリーに少し混ぜてから食べさせるといいかも。飲まないよりはいいと思うし」
「お、いい案だ。さすがはウルカ様。王都への旅、気を付けて」
「ありがとう! さ、それじゃ国王様用のゼリーを生産しようか」
「うぉふ!」
◆ ◇ ◆
「アニー、ウルカ様が美味しいものを持ってきてくれたぞ」
「ごほ……ウルカ君……! どこー……」
「風邪をうつしちゃ悪いから帰ってもらったよ。食べるか?」
「食べるう」
アニーの父は早速一つゼリーを取り出して蓋を開けてやる。彼女の好物であるアップルのゼリーは宝石のように輝いていた。
「わあー! 食べていいのー? ごほっ」
「ああ、お前のために持ってきたんだから」
「いただきますっ! 甘い、おいしい!」
「そりゃ良かった」
父は言われたように薬を混ぜ込んでいた。しかしアニーの気づく様子はなく、安堵すると同時に『ウチにも卸してくれないかな』などと考えていた。
「これならお風邪もすぐ治るの。ウルカ君と遊ぶー」
「そうだな……」
嬉しそうに食べる娘に『明日から居ない』とは告げにくかった。
「(ま、まあ、大丈夫だろ。フォルドも居るし)」
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