98 / 245
第九十七話 報告で色々知るというもの
しおりを挟む「陛下、ご報告にあがりました」
「うむ、ご苦労。してあの町……いや、ウルカは新しいものを作っているか?」
――ここはワイゲル王国の王都。その城の謁見の間。
そこで国王フレデリックは諜報員からの報告を受けるため玉座に座っていた。隣には王妃エリナの姿もある。
「は……。あの祭り以降、目立った動きは無かったのですが厳寒の月に入ってから少し新作がありました」
「ほう……!」
「それは楽しみですわね、どんなものがあったのでしょうか?」
フレデリックとエリナは歓喜の表情を見せて少し玉座から腰を浮かす。その様子にまあまあと苦笑しながら報告を続ける諜報員。
「まずは『こたつ』というものです。これは比較的低いテーブルに布団をかけ、中に火の魔石を入れて温める道具のようです」
「ふむ? 暖炉ではいかんのか?」
「ええ、父親であるロドリス様が興奮気味に話しておられたのですが、曰く『あれはまずい。気持ち良すぎて出られなくなってしまう』と」
「寒い時期に布団から出られなくなるのと同じなのかしら?」
「布団に火の魔石が入っていたら確かに出られないかもしれん……。ううむ、見てみたい。販売はしておらんのか?」
フレデリックが尋ねると、残念そうに首を振りながら口を開く。
「はい。厳寒の月に入って少ししてから『シュウマー』と知り合いになったようなのですが、その獣人に貸し与えているものと自宅に備えているものだけですね」
「それは残念ですわ」
「ファイアリザードの魔石を使うようなので貴重と思えば仕方ありません。続けます。さらにその獣人が依頼を受ける際に手袋を作ったのですが、魔石を織り込んでおり冒険者達が絶賛。つけさせて貰たのですが、指が通常の手袋より暖かいのに稼働に余裕があるという代物でした」
この時期は冒険者も寒さで討伐依頼をしたがらないものだがそれは武器を満足に振れないからである。それが解消されれば増えやすいとされる厳寒の月の魔物を駆除できるのではと、フレデリックは顎に手を当てて肩眉を上げる。
「……高いか?」
「はい。全部で10人が手に入れましたのですが、ファイアリザードの魔石を持ってきてくれたからと破格の金貨二枚。フレイムスピナーの布を使っているので受注と素材を考えると最低でも金貨5枚」
「だろうなあ」
配るには高いかと思いつつ、いずれ考えるべきかと胸中で結論づけてからフレデリックは口を開く。
「他には?」
「後は例の池が暑い時期にプールというものに変わり、今では温泉施設になっていますね。身内のみしか入れていないので中はどうか分かりませんが、満足気に出てくるのでいいものなのでしょう」
「むう……風呂か、彼の作ったものならいいものだろうな」
「間違いありませんわね。それにしても、ウルカ君はとてつもない能力を持っていますわ。デオドラもあの動物のぬいぐるみを肌身離さず持っていますもの」
デオドラがウルカにもらったぬいぐるみを大事にしているのはフレデリックも知るところで、可愛い娘が部屋から出てぬいぐるみを見せに来るようになったことに喜んでいた。
「やはり王都へ呼び寄せるべきか?」
「どうでしょうか。近所の子供たちとの仲が深いですし、特にギルドマスターの娘さんと引き離した場合、リンダ殿が黙ってはいないかと。クラウディア様も小さい子を手放すとは思えません」
「やめとこう」
口にして『あ、こりゃ無理だな』と判断して即座に却下。
せめて子離れする年齢になるまでは無理だろう、兄のどちらかを引き入れておけばその可能性もあるか。そう考えていたところで、
「そうですわ、折角ですし彼らを王都に招いてはどうかしら? わたくしは先日のお祭りの件で急に訪問したことをお詫びしたいと思っておりましたの」
「お、おう」
あっさりと迎え入れる算段をつけるエリナにフレデリックは目を見開いて焦る。確かにこの前のお礼と言えば来てくれるかと。
「ではそのように手配いたしましょう。ギルドマスターのクライト殿は?」
「リンダさんが来てくれれば楽しいですし、お呼びしましょう」
「承知いたしました。ご家族でということで招待いたします。名目はいかがいたしましょう?」
「ま、お礼でいいんじゃないか? ゲーミングチェアを使っているところを見せてやりたい」
「デオドラにも会ってもらいたいですからね」
「かしこまりました」
諜報員の男はお辞儀をして一歩下がるとそのまま踵を返して謁見の間を出ていく。その姿を見送った後、エリナが口を開いた。
「忙しくなりますわね。ペット達も連れてきてもらえればデオドラも喜ぶし、いいことですわ」
「そうだな。……ルースにもいい影響があるといいがな」
「……」
兄、ルースのせいで怖がり引きこもりになったことに気づいた国王夫妻は息子を叱責。それから彼女を遠ざけて生活をさせている。
が、このままでは国を継ぐには危うい存在になってしまうのではというのもある。
ウルカという存在に会えばなにかが変わるかもしれない。そういう期待も少し考えている夫妻であった。
そして程なくして一家に通達が届くことになる――
◆ ◇ ◆
「王都へ、ですか?」
「ええ。陛下と王妃様がぜひに、と。先日急に訪れた際にもきちんとおもてなしをしていただいたことのお礼だそうです」
「なるほど……妻と話してからでいいでしょうか?」
「もちろんです」
諜報員の男は笑顔でロドリオに語り掛ける。
すでにギルドへは回っており、クライトは了承していることを告げた。
0
お気に入りに追加
999
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺おとば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。

転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる