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第九十一話 僕は待つしかできないからせめてというもの
しおりを挟む【そんでなにを作るんだ? 向こうの世界の道具か?】
「顔が近いよゼオラ!? わくわくするのは分かるけど。で、作るとしたらカイロかなあ。こたつの要領で魔石を暖かくすることはできるけど持っていたら熱いから工夫をね」
この寒い中チャンバラをやっているロイド兄ちゃんとオオグレさんを尻目に部屋へ戻って来た僕はどうするか魔石を前に考えていた。
こたつは魔石に威力を抑えた火を入れ、木のテーブルの裏側に金属を張りつけ、そこに熱い吊るし、さらに網目状の檻で囲うことで火傷の心配を払しょくさせている。
低温とは言っても魔力を込めて暖かい状態を直接触れば火傷をする程度には熱い。ストーブの方が実用的だけど日本人はやはりこたつに入りたいものだ。
それはともかくこの『直接触れると熱い』問題をクリアしなければカイロをつくることは難しい。『ホッ』カイロは商標名だから口にしてはいけない。
【どういうものなんだ?】
「本当なら袋に材料を入れて化学反応で熱を出すっていう物なんだけど……」
【かがくはんのう】
ゼオラが真顔で反芻してきた。知らない単語を聞いたせいだろうけどちょっと可愛い。
「化学って言葉はこっちには無かったっけ。えっとなんかいい例あるかな……。パンが膨らむのはそうかな。木に火がついて燃えるというのもそれにあたるはずだよ」
【ほうほう。自然の物がなにかと結びついて別のなにかになるって感じか】
「賢い」
さすが賢者というところだ。概ね当たりなので頷きつつ僕は魔力を抑えてから魔石に火を入れてみる。
「ぬるい……」
【これじゃ寒さはしのげないだろうな……】
その後も色々試した結果、火が弱いとぬるくて強いと布ごと燃えてしまうため加減が難しい。いっそランタンみたいに籠に入れてぶらさげるのもありか?
【耐火素材があればそれで包めばいけそうなんだがなあ。フレイムスピナーの糸とかないもんかね。親父殿なら用意できそうだけど】
「ヨーヨーみたいな名前が出てきた。聞いてみようかな。でもバスレさんをこの寒いなか連れ出す訳にもいかないし」
「呼びましたか?」
「おや!?」
扉の向こうでバスレさんの声がして飛び上がる僕。気配を殺してずっとそこに居るのだろうか……?
「い、いや、なんでもないよ?」
「そうですか? 旦那様のところへ行きたいとか思っていませんか? おや鍵がかかっていますね」
「扉をガタガタ揺らすのは止めて」
怖いから。
結局、バスレさんが扉の向こうから離れてくれなかったので事情を話して再び外へ向かうことに。
「ごめんねハリヤー」
寝ていたハリヤーを引っ張り起こす羽目になり僕が首を撫でてやると『大丈夫ですよ』と鳴いてくれた。
「私めが御者を務めましょう」
「ありがとうウオルターさん」
「すみません」
「屋敷には奥様も居るので問題はないでしょう」
この雪の中バスレさんを御者にはできないと出かける直前でウオルターさんに声をかけられかって出てくれた形だ。
馬車が庭先へ出てきたところでロイド兄ちゃんがこちらを見つけて寄って来た。
「お、またどっか行くのか?」
「ちょっと父さんのところに。トーリアさんがファイアリザードの討伐に行ってくれるんだけど、防寒グッズを作ろうかと思って材料がないかと」
「なるほどな。俺も行きてえんだよなアレ……。っと、オレも休憩がてら一緒に行くかな。ウルカがなにをするか興味あるし」
【左様か。では本日はここまでとしようでござる】
オオグレさんは相変わらずお留守番だ。頼まれて作った刀のような形をした剣を鞘に納めながら一歩下がる。
「オオグレさんも雪が積もっているから早く小屋に入ってね」
【ありがとうでござる。動物達はついていくでござるか】
「うぉふ」
【ま、戦い以外でオオグレに頼ることはあんまりないしな】
ゼオラの言葉に『平和ならそれに越したことは無いでござる』と顎をカタカタ揺らしながら笑っていた。まったくもってその通り。だからこそ危険へ身を寄せるトリーアさんには安全に帰ってきて欲しいものだ。
ともあれロイド兄ちゃんを乗せるとすぐに町へと出発する。
「ふう、寒いな。手もガッチガチだぜ。ほら」
「うわ、冷たい!? そんなので訓練になるの?」
「んー。まあ、こういう状況もあるかもしれないからな。実際、外はこんな感じだし」
「確かに……」
窓の外でちらつく雪を見ながらロイド兄ちゃんの言葉に同意する僕。
そこでバスレさんがポツリと呟く。
「こう寒いとお洗濯のようなも大変ですし、戦いともなればさらに厳しいですね。手がかじかむといつもの動きができないと思います」
「手……手袋が……いや、それもアリか?」
【ん? なにか思いついたのか?】
「うん。これなら役に立つかなって。ともかくフレイムスピナーの生地があればいけるかな?」
出発前には尋ねるよう言っていたのでなにかしら用意しておかないといけない。やがて父さんの店へ到着すると、すぐに父さんの下へ。
「父さんー」
「お? おお、ウルカか! それにロイドも! どうしたこの寒い中」
「ちょっとトリーアさんがファイアリザードの討伐依頼を受けてくれるらしいから防寒グッズを作ろうと思って。フレイムスピナーの糸でできた布ってあったりする?」
「また珍しい品を……少しならあったかな?」
「確か二十枚くらいは残っていたはずですよ旦那様」
エラさんが微笑みながら裏へ行き、薄い赤色をしたキレイな布を持って帰ってきた。
「これをどうするんだい?」
「この火属性がついた魔石を布と一緒に織り込むつもり。温かさはこれくらいで……毛糸と布を……魔石は薄い板状にして関節を避けて……」
父さんから受け取った素材を手にしてイメージを強く持って細かく考える。そして今回僕が作ったのは――
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