81 / 245
第八十話 なにかの犠牲のもとに平和は保たれるというもの
しおりを挟む「流石に待ってはくれないか……! 『火の輝きよ』<ファイア>!」
「グギャ!?」
「ギャギャギャ!」
「うわ!? 一対複数じゃ無理か!?」
「グルルル……!!」
「こけっこ……!!」
「しゃー!!」
突出してきたゴブリンにファイアを放つと、一体の腰巻に火がついてのたうち回ったけど残りはお構いなしに突っ込んで来た。
そこへシルヴァがカバーしてくれゴブリンが下がる。ジェニファー達も威嚇するけど、さすがにただのニワトリと猫では効果が無い。
「じゅるり……」
「ゴクリ……」
「こ、こけー!?」
「にゃー……」
餌として認識され慌てて僕の後ろへ隠れる二匹。それにしても仲間が燃えたら少しは警戒すると思ったんだけど目論見が外れたな。
「グゴオァァァ!」
「……!!」
さらに別の個体が振り下ろしてきた棍棒を回避すると、そのゴブリンに向かって水が飛んでくる。
「<ミズデッポウ>を食らえ!」
肩で息をしながらも魔法で僕を助けてくれたのはフォルドだった。散々撃ち合いをしたのでいい命中率だ。
「ナイスだフォルド! <ファイア>もおまけにやるよ!」
「坊主たちだけにやらせちゃなんねえ、俺達も反撃だ!」
「「「グゴガガ……!」」」
村の人たちも投石を仕掛けてくれゴブリンの足が止まる。僕もミズデッポウとファイアを駆使して拮抗状態となった。
「それにしても防護柵の脆いところがよくわかったなこいつら」
【もしかすると前から狙っていた可能性もあるから考えても仕方ねえ。今からあたしが言う魔法で一気に蹴散らすぞ】
「う、うん……!」
「お、俺も!」
フォルドが冷や汗をかきながらそういうと、ゼオラは今回だけだぞと真面目な顔で告げる。
【魔力の練り方はわかるな? 今回のは自分の練った魔力を相手にぶつけて爆発させるイメージで使え。詠唱は……『我が力、敵へと向かい弾けろ』<ブラスト・ボム>!】
「「<ブラスト・ボム>!」」
詠唱中はボールを作るイメージにし、終わると僕とフォルドがほぼ同時に両手を前に突き出して発動。
「ギャ!?」
放たれた魔法はゴブリン達の中へ吸い込まれるように飛んでいき、一体のゴブリンに着弾。
するとその瞬間、そこを起点にして爆発を起こした。
「「「ギャァァァァ!?」」」
「や、やった!」
直撃した二体は胸から血を噴出してその場に倒れ、爆発した余波が残りのゴブリンを襲う。フォルドの魔力でもそこそこ威力があるあたり本気で撃ったら相手が粉々になりそうだ。 喜ぶフォルドだがゼオラが大声で叫ぶ。
【まだだ!】
「え!?」
「ギシャァァ!」
喜ぶフォルドへ傷が浅かったゴブリンがダガーを持って飛び込んで来た! 驚くフォルドだがギリギリのところでゼオラが前に立ちはだかりゴブリンをぶん殴った。
【そおい!】
「いきなり吹っ飛んだわ!? フォルド君すごい!?」
目の前でいきなり吹き飛んだゴブリンを見て踊り子ちゃんがびっくりする。そういえばゼオラは一方通行だけど相手に触ることができるんだった。
【ふう、危なかったな】
「あ、ありがとう師匠……!」
【気にするなって。……お楽しみはこれかららしいぞ】
「まいったね……」
「わ、わたし誰か呼んでくる!」
後からゴブリンが侵入してきているようで村に散っていくのが見えた。このままだとまずい。人を呼びに行ってくれたので冒険者か警護団の誰かが気づいてくれればなんとかなるかな?
「く、くそ……! ファナちゃんは絶対に俺が守る!」
「ステラとアニーも危なくなるからここで止めないとね!」
「「ゴォォォア!」」
「来るか……!」
僕とフォルドが身構えて倒すぞと、思った矢先――
「ウルカちゃぁぁぁん!」
「え!?」
「グギャ!?」
【おおー】
僕の名を呼ぶ声と共に何かが飛来し、目の前のゴブリンが消えた。……いや、正確には引き潰された、というべきか。なんかぺらっぺらになっている。
そしてそれを行ったのは――
「母さん!? それに父さんとバスレさんも!?」
「ああ、良かった無事みたいね! ママ心配して助けに来たの。ちょっと待ってて」
「ふう、相変わらず速いなママは」
「ご無事ですか?」
「あ、うん」
――まさかの母さんだった。ただ、目は紅く背中には初めて見る黒い羽があり、正直カッコいいと思ってしまう。
バスレさんが報告してくれ、助けに来てくれたらしい。
その母さんはゴブリン達に向き直り冷ややかな目を向けていた。
「「「グゲ……!?」」
【子供は見ちゃダメだぞ】
「そうみたいだ。フォルドはアニー達のところへ戻っておいて」
「お、おう……。ウルカの母ちゃん、マジで怒ってるな……」
――そこからは早かった。阿鼻叫喚という言葉が生ぬるいと言って差し支えないレベルで蹂躙が始まった。
「ウルカちゃんを攻撃した罪は重いわよ……!」
「グギャ!?」
「グェェェ!?」
「な、なんだあの女の人!? 強すぎるぞ」
村の人が言う通りちょっと腕を振るっただけでゴブリン達は木の葉のように舞い、舞った後は地上に居る母さんから放たれる魔法弾で汚い花火となって散る。
魔物とはいえ二足歩行の生き物なんだけど容赦ない……『こういう世界』なのだと改めて思い知らさせることに。
「さ、ウルカ様もこちらへ。ここはもう大丈夫でしょう」
「そ、そうだね……」
「バスレ、パパ、ウルカをよろしくね!」
「ああ、任せてくれ」
「父さん冷静だね」
「はっはっは、私は母さんと結婚した男だぞ? このくらいで驚いていたら暮らせないよ」
それは自慢することだろうか?
僕達がこの場を離れていると警護団の人たちが入れ違いに移動してきた。
「大丈夫ですか!? すみません、まさか壁が壊されているとは」
「こっちは僕の母さんが来たから大丈夫! ゴブリン達があちこちに紛れているかもしれないから気を付けてください」
「クラウディア様が……! よ、よし、急ぐぞ」
「あ、ゴブリン達って30体じゃなかったんですか?」
僕の質問に伏兵が居たと告げてくる。最初に見た数以外に別に隊を組んでいたっぽいとのこと。そういう意味では狡猾で知恵が回る個体ってことか……。
そう言って警護団が移動する中、ステラ達が待っている馬車へと戻る。
「ウルカ!」
「フォルド! 無事でよかったよ」
「いや、お前が来てくれなかったら危なかったかもしれないぜ……ありがとよ」
「あの、ありがとう!」
「いやいや、フォルドがあの場に居て良かったよ」
「あー、ウルカ君が帰ってきた!」
安堵の息を吐いて握手をする僕達にアニーが飛び込んでくる。そこでずっと口を開かないゼオラに気が付く。
【……】
「どうしたの?」
【いや、こりゃ面倒ごとかもしれねえな……。オオグレ! 入口へ行くぞ!】
【ゼオラ殿も気づいたでござるか、承知!】
「きゃあ!? う、動くスケルトン!?」
荷台から飛び出して来たオオグレさんはサッと身をかがめて滑るように走り出す。
「は、速っ!?」
【行くぞ、ウルカの母ちゃんが来たのは僥倖だったかもしれねえ】
「あ、待てよウルカ!」
よくわからないけどゼオラが真面目なときはなにかが起こっていると思っていい。シルヴァに再びまたがって僕は入り口を目指す。
2
お気に入りに追加
999
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
俺とエルフとお猫様 ~現代と異世界を行き来できる俺は、現代道具で異世界をもふもふネコと無双する!~
八神 凪
ファンタジー
義理の両親が亡くなり、財産を受け継いだ永村 住考(えいむら すみたか)
平凡な会社員だった彼は、財産を譲り受けた際にアパート経営を継ぐため会社を辞めた。
明日から自由な時間をどう過ごすか考え、犬を飼おうと考えていた矢先に、命を終えた猫と子ネコを発見する。
その日の夜、飛び起きるほどの大地震が起こるも町は平和そのものであった。
しかし、彼の家の裏庭がとんでもないことになる――
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!
八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。
補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。
しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。
そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。
「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」
ルーナの旅は始まったばかり!
第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる